アメノミハシラ攻防戦
「くっそぉぉぉ!!」
ヒロキとチヅルはなかなか態勢をたて直せず、白いガンダムの砲撃をかわすのに手一杯だった。突然の奇襲により心的優位に立たれた事も大きい。
ーー“ボギーワン”はどこだ!?
敵の旗艦の位置が気になるものの、MA形態からMS形態に変形した白いガンダムが手にしたビームマシンガンと、ドラグーン二基を同時に放った。ビームの雨がヒロキに迫る。
『ヒロキ!ーーくそっ!』
チヅルが悔しげに声を上げる。ビームの雨をシールドと回避行動でかわしながら、ヒロキは手元に送られてきた電文に目を疑った。
電文には敵艦の奇襲を受けた“みあ”が、艦の防衛を促すものだった。
『まずいぞっ! ヒロキ!』
チヅルも電文を見て驚愕の声を上げる。
背後に目をやれば、遠くで“ミレニアム”がアメノミハシラの方へと艦を向けていた。
『まんまとハメられたってわけか!』
「そうみたいだな…!」
目前に迫る白いガンダムのビームサーベルを自身もビームサーベルで応戦し、斬り結ぶ。自分達は敵の罠に嵌ったのか?
やはりこの目の前のガンダムも、革命同盟軍という事なのか!
次々と浴びせられるビームをかわしながら、ヒロキは叫んだ。
「チヅル! 艦に戻れっ!」
『っ! しかしっ!』
「こいつは俺を狙ってる! 俺が抑えるっ! チヅルは艦を!」
焦る気持ちが先走るものの、この圧倒的不利な状況ではどうしようもない。
もし、この白いガンダムも革命同盟軍なのだとしたら、自分達は四機のガンダムを相手にしなければならないという事になる。
チヅル一人で三機を抑えるのは厳しいだろうが、この目の前のガンダムをなんとかして自分もすぐに迎う事が出来れば…!
『…分かった! 死んだら私も追いかけるからなっ!!』
チヅルが機体の機首を返して、艦に戻っていく。
「おいおい、……あの世まで付いてくるってのかよ……! それは笑えないぞ…!」
「粘りますな」
バズは、いちおう評価するという具合に呟いた。
モニターには地球から伸びる人工の塔に回り込もうとしている敵艦が映っている。
その後を高速で追いすがる三機のガンダム。
アメノミハシラ付近は偶発的なものとはいえ、レーザー兵器を阻害する特殊なフィールドが存在する。そうなればこちらも迂闊に攻撃出来なくなる。諸刃の剣ではあるが、効果的な手段といえるだろう。
「だが、阻害されない機体が存在するとしたらどうする?」
レンはせせら笑うように応じ、鋭く命令を飛ばす。
「アイツを出せ! ここで厄介な艦を沈める!」
バズはしずかにうなずく。
指示を下したレンは不敵に笑う。
しかし、その時不穏な報告がレーダー担当から飛んできた。
「“バヨネット”、“クラッシュ”、“フォートレス”に迫る機影アリ! 所属不明のモビルスーツです!」
「なんだと……!?」
バズが慌てた様子で聞き返す。
レンは眉を顰めて前方の戦場を睨みつけた。
「行くぞ! アイツに手柄を全部横取りされる前にな!」
ジェイムはリーブとウェインの二人に声をかけ、“バヨネット”を駆って先頭に立つ。
眼前には巨大な人工の塔と、世界的にも有名なアスカ隊の艦が迫ってくる。
ーーこんな上物を横取りされてたまるものか。
久方ぶりの上物に心踊らさせる。
『お先にいくぜぇっ!!』
バーニアを全開にした“クラッシュ”が一歩躍りでる。
『あぁ!? 抜け駆けをっ!』
リーブも慌てて“フォートレス”のフットペダルを踏み込んで、“クラッシュ”の後を追いすがる。全く血気盛んな連中だとため息をついたそのとき、緊急アラート音が聞こえて、先行する二人目掛けてなにかが襲った。
それがビームだと気付いた時にはアラート音に驚異的な反応を見せた“クラッシュ”、“フォートレス”がシールドを展させていた。
「なんだっ!?」
自身に襲いかかったビームの矢から飛びすかりながら毒づく。
『奇襲!?』
コックピットにアラート音が鳴り響き、ジェイム達は周囲を見渡す。
すると、高速で迫る二機のMSを見とめた。ガンダムタイプに似た容姿を持つも、見た事もないタイプの機体だ。
二機のアンノウンがビームを連射しながら飛び込んでくる。
ーーー敵襲!? ZEUSの援軍か!?
『何ですかっ! あれは!?』
リーブが声を上げる。
二機とも同タイプだが、緑色のカラーリングの機体と白と紅色を基調としたオーブの旧M1アストレイに似たカラーリングの機体の二機だ。
以前データで見た事のある“アストレイ”というシリーズに似ている。
そのうちの白と紅色のカラーリングの機体がビームライフルを撃ちかけ、緑の機体が身の丈ほどの巨大な砲身から凄まじいエネルギーを迸らせた。
「くっ! ウェイン、リーブ、応戦しろっ!!」
ジェイムはビームライフルで応戦しながら、二人に呼びかけた。
『くそがっ! ふざけやがって!』
『獲物が増えたわけだからいいじゃありませんか!』
すぐに応戦態勢になった二機が動きを見せる。
『そいつらはZEUSとは別部隊の可能性が高い! 狙いはお前らの機体だっ!』
異変に気付いたレンが、母艦からノイズ混じりに叫ぶ。
「この新型が狙いか…」
しかし、ZEUSとは別の部隊? 何者だ?
なぜ自分達の邪魔をする?
『ウェイン、お前の機体ならアメノミハシラ付近でも交戦可能だ! 旗艦を落としてこい!』
レンの声が響き、ウェインはニヤリと口元を緩めた。
「了解だ。」
リーブとジェイムが所属不明の二機と交戦に入ったのを確認し、自身はその先で逃げすさる“ミレニアム”へと機体を向けた。
「所属不明機が“フォートレス”、“クラッシュ”と交戦に入りました!」
「なんだって!?」
レーダー担当が声を上げ、シンは声を上げた。
ここに来てまた介入してきた者がいるというのか?
味方か? いや、ヒロキを狙っているあの白いガンダムと同様の勢力だとすれば…もしかして、敵の狙いは新型のガンダム4機か……?
「以前として“バヨネット”はこちらに接近しています!」
「ええいっ! 後ろを取られたままでは反撃も出来ん! なんとか回り込めないのか!?」
アーサーが苛立ちをあらわにしてたずねるが操舵士は首を左右に振る。
「無理です! 回避だけで今のままでは……!」
「チヅルの“ゲルググ”がコチラに戻って来ています!」
エリーが喜びの声を上げる。どうやらヒロキが敵の足を止め、チヅルをこちらに返してくれたらしい。しかし、以前として状況が不利なのに変わりはない。
迫るのは格闘戦に優れた“バヨネット”だ。レーザー兵器に頼らなくとも継戦が可能。いかにチヅルといえど、苦戦を強いられる事になるかもしれない。
「ミサイル接近!」
索敵担当が声を上げ、すかさず「迎撃しろっ!」とアーサーは声を飛ばした。
このままではジリ貧だ。いずれ艦に穴を開けられかねない。グラディス艦長ならどうする? いや、グラディス艦長は今はいない。今は自分が艦長なのだ。
「……アメノミハシラの影響を受ければ、レーザー通信や、レーダーも使い物にならん。アメノミハシラを一周して敵の正面へ出る!」
しかし、シンはその背後で違和感を感じていた。
敵艦は一定の距離を保ったまま近づいてこない。何故だ?
こちらを沈める絶好のチャンスだというのに。
ふと、艦橋のガラス張りの窓の外に迫るアメノミハシラを見つめた。
ーーー何かが、ゆらりと動いた。
「ーーまずいっ!」
シンは席から思わず立ち上がり、叫んだ。
「艦をアメノミハシラから離せっ! 」
「えぇっ!?」
アーサーが振り返る。しかし、もう遅いーーー!!
「レーダーに熱源反応! アメノミハシラ上に何かいますっ!!」
突如として飛んできた報告と共に、艦体が大きくシェイクされる。
アメノミハシラに居た何かが放った攻撃が、艦の強固な装甲に突き刺さる。
「右舷に被弾っ!!」
「反応確認ーーーーこれは……巨大なMA!?」
索敵担当が信じられないものを見たかのように愕然とした。
艦橋の窓には、巨大な蛇のような下半身を持ち、人型のガンダムのような機体が上半身には構えていた。その姿はまるで、ギリシャ神話に登場する半人半蛇の怪物、ラミアのようだった。
「なんでアメノミハシラの上にっ!?」
アーサーが驚愕の声を上げる。
しかし、それを遮るように轟音に掻き消されそうになりながらシンが厳しい声を上げた。
「あんなのに取り付かれたらひとたまりもないぞっ! 離脱させろっ!!!」
「っ! 離脱だっ! 上げ舵二十!」
アーサーの命令が飛び終わる前に、索敵担当が叫ぶ。
「さらに第二波来ますっ!!」
「回避させろっ!!!」
アーサーが命じるも回避出来る距離ではなく、敵の放ったビームが装甲を灼き、穴を開けた。なんとかシートから飛ばされないようにしがみつき、艦を襲う衝撃に耐えるしかない。
「四番、六番スラスター破損! 第二ブロックで火災発生!」
「ダメージコントロール班を急がせろっ! 消化急げっ!」
アーサーが焦りをにじませながら叫ぶ。
敵の攻撃により、右舷のスラスターがやられたらしい。敵はこちらの足を止めるのが目的か。
「アメノミハシラから距離を取れっ! “ボギーワン”はっ!?」
「ブルー22デルタ、距離1100!」
そこへエリーの声が届く。
「アメノミハシラ上のモビルアーマー接近っ! “バヨネット”も来ますっ!」
エリーの声に、一同は暗澹たる気持ちになる。
敵はこちらに確実にトドメを刺すために、誘導していたのだ。
何故、あのMAがレーザー兵器の阻害を受けないのかは分からない。だが、アメノミハシラ上にいる以上はコチラから反撃も出来ない。あそこには大勢の民間人もいる。
「アイツら、目的の為なら手段を選ばないっていうのか…!!」
シンが憎々しげに唸る。
ーーこのままではやられる!
なのに、自分はここでただ座り、隊員達が手を打つのを待つしかない。
アーサーがエリーに鋭い声を投げる。
「ヒロキとチヅルは!?」
エリーは余裕を崩した声で答えた。
「“フォルテ”は以前“羽根付き”と交戦中です! “ザク”はすぐそこまでっ!」
チヅルに頼るしかない。
ヒロキはあの羽根つきの相手で手一杯だろう。仮にチヅルが来たとしても、あの巨大なMAと“バヨネット”相手に堕とされないように戦い続けるのは困難だろう。
「…これはっ!」
一人の隊員が声を上げた。
アーサーがうんざりしながら尋ねる。
「一体なんだっ!」
「あ、アメノミハシラ付近のレーダー阻害領域が消えてますっ!!」
「馬鹿なっ!?」
もう何度目かになるかも分からない声をアーサーは上げた。
そんな馬鹿な事がありえるというのだろうか。敵の奇襲に合わせて特殊なフィールドが消えるなんて事が…?
いや、敵にはそれが出来るというのか?
シンは憎々しげにオーブの所持する人工の塔を睨み拳を握りしめた。
オーブのせいで、また……!!
せめて、どんなものでも機体があれば自分も出撃するというのに……っ!!