AnotherSEED   作:another12

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アメノミハシラ攻防戦④

アメノミハシラ

 

 

 

  “アメノミハシラ”上で暴れまわる“スネーカー”を抑えるべく、ティアの“フェンリル”が応戦する。

これ以上コイツに暴れられれば、甚大な被害が出る事になる。それだけは絶対に防がねばならない。

無関係の人々を巻き込むわけにはいかない。

しかし、“アメノミハシラ”をこれ以上傷つけるわけにもいかない為、こちらはビーム兵器を封じなければならない。

―― にも関わらず、蛇型のMAは好き放題にビームを撃ちかけてくる。早めにヤツの動きを止めなければならない。

 

「くそっ…!」

 

ティアは毒づき、蛇型のMAに向けて斬りかかる。

蛇型も尾の先から発振させたビームブレイドでティアと斬り結ぶ。人型には出来ないトリッキーな蛇型の動きは、その軌道を読むのも一苦労だ。振るわれる尾の凶刃をいなしながら、ティアはじっくりと敵機の隙を伺う。突き出された尾の一突きをシールドで防ぎ、一気に“スネーカー”への距離を詰めて懐へ飛び込んだ。

「好い加減に、しろぉっ!!」

 

“スネーカー”の頭部を苛立ちを乗せて殴り飛ばす。慣性を乗せた一撃は“スネーカー”の巨体を大きく後ろへ吹き飛ばす。

なぜ、“アメノミハシラ”を傷つける? そんなメリットが革命同盟軍にあるとは思えない。

今の一撃は自身の苛立ちを乗せたものだが、奴を止めなければならない。

しかし、ティアの焦りにも関わらず、“スネーカー”は執拗に食らいついてくる。

 

怒り狂ったように、両肩のレールガンをばらまきながら、さらに尾のビームブレイドを振るって攻め立ててくる。

 

『なんだ、お前は!? 邪魔だ、邪魔だ、邪魔だぁっっ!!』

 

周波数を合わせたのか、目前の蛇型のパイロットであろう女性の罵声がティアの耳に届く。

 

「くっ…! あんたねぇ! こんな事してただで済むと思ってるわけ!?」

 

苛立ちを込めて叫ぶ。

レールガンをかわせば、“アメノミハシラ”を傷つけてしまう為、シールドで防ぎながら敵のビームブレイドの一撃もいなさなければならない。これは守りの戦いだ。ティアは、蛇型のMAを相手に攻め手を欠いていた。

 

『ハッハッハッ! こんな人工物一つ壊した所で私の怒りは収まらないさっ!』

 

「なにをっ…!?」

 

蛇型の胸部が怪しく光る。

ぞわり。とティアの背筋を嫌な感覚が這う。

まずい、と蛇型に向けて突貫する。

『私の世界に対する怒りは、こんなもんじゃないんだからなぁっっっ!!!』

 

絶叫。

そして放たれる胸部の拡散ビーム砲が、ティアと“アメノミハシラ”上に無情にも降り注ぐ。

間に合わなかった。毒づきながら、広域に放たれるビームを出来る限りシールドで防ぐ。しかし、点ではなく面で降り注ぐビームの雨は、“アメノミハシラ”を真っ赤に燃やす。あちこちで火の手が上がり、煙が舞い上がる。

蛇型のパイロットの怒りが、ティアの胸を包む。

 

「くっ…!」

 

激しい憎悪。底知れぬ負の感情。

Superior Evolutionary Element Destined-factor=「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」

その遺伝子が次の段階へ進もうとしているティアは、無意識に人の強い感情を受信してしまう。それは不吉な予知であったり、人々の救いの声であったりと様々である。ティアにはこれが何なのか、何の為に必要な力なのかを不覚理解出来ていなかった。けれど、その力で救える命もあるかもしれない。それが「SEEDに選ばれた少女」の示した可能性でもあった。

 

「…っ、アンタがどれだけ世界を憎んでいようとも、こんな事をみすみす見逃すわけにはいかないのよっ…!」

 

いかに自分と同じようにこの世界を憎んでいようとも、管理された牢獄に苦悶していようと、関係のない人々を巻き込む事を見逃すわけにはいかない。

分かってる。彼女も、この世界の神デスティニープランに囚われた犠牲者なのだと。

SEEDの力さえ無ければ、知らずに済んだのに。相手のパイロットがどんな人であるか知ってしまえば、握りしめた刃が鈍る。

だからこそ、知りたくなどなかったのに。

 

「…くっ、こんの、止まれぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

ティアは操縦桿を握りしめる、握りしめた刃を目前の犠牲者に向けた。

 

 

 

 

 

 

『お前らっ! アメノミハシラを攻撃して、見境なしかよっ!?』

 

通信回線を通して聞こえてきたディアッカの叫びに、マユラは怒りに燃えて目前に迫る緑色のガンダムタイプを睨みつけた。

 

ーーこいつらがっ…! オーブをっ…!!

 

オーブで生まれ、オーブで育ち、オーブの為に戦った。祖国の為にと戦って、幼い頃からの親友達は命を散らしてきた。

これ以上、オーブの国の人々を苦しめたくない。

緑色のガンダムタイプ、“フォートレス”がまっすぐにこちらに向かってくる。

「ここで、あなた達を止めるっ!!」

 

マユラもかつての愛機でもあるM1アストレイカラーに染め上げた“アストレア”を駆って緑のガンダムを目指す。

彼女がビームライフルを撃つと同時に“フォートレス”も撃ち返してくる。

光条が互いの機体をかすめ、虚空に飲み込まれていく。マユラは回避運動をしながらライフルを連射するが、やはり撃ち返してくる敵機を捉えれない。

苛立ちがつのる。

 

ーーーなんで、なんで、落とせないっ!?

 

両者の機体は交錯しながら、炎上する“アメノミハシラ”に近づいていた。

人口の塔の間を縫って飛ぶ“フォートレス”を追う。“アメノミハシラ”に降り立ったマユラは手に握ったライフルを“アメノミハシラ”に当たらぬよう細心の注意を払いながら放つ。マユラの精確な射撃から“フォートレス”は上空に逃れ、そこで両肩のバインダーを展開させる。シールド裏面に内蔵された4連装ビーム砲が迸る。

 

――これをかわせば、“アメノミハシラ”を傷つける事になるっ…!!

 

マユラは左腕のビームシールドを展開させて上空の“フォートレス”に突撃する。8本の熱線がビームシールドに飲み込まれ、マユラの機体を大きく退け反らせる。そのあまりの威力に、慣性を受け止められず手もなく眼下の“アメノミハシラ”に叩きつけられ、“アメノミハシラ”の表面に長い溝を刻んでようやく止まった。

「くっ…!!」

 

無防備に横たわるマユラに向けて、リーブが勝ち誇ったように叫ぶ。

 

「これで終わりですねっ!! ガンダムもどきっ!」

 

だがリーブがビームを撃ちかけた瞬間、“アストレア”は足を跳ね上げ、地を両手で突き上げて加速する。

回転する機体がギリギリのところでビームをシールドで防ぎ、その足裏が“フォートレス”の顔面を蹴り飛ばした。凄まじい衝撃がリーブを襲う。

「なんですってぇぇっ!?」

 

リーブは吹き飛ばされる機体を制御しながら、ビーム砲で“アストレア”を狙う。間髪を入れずにマユラが放ったビームが襲いかかってくる。熱線が“フォートレス”をかすめ、右腕をもぎ取っていく。

「なんてやつ…!!」

 

「オーブに、これ以上手を出させはしないっ!!!」

 

 

 

 

“アメノミハシラ”が燃えている。

かつてのオーブのように。

脳裏にあの日の景色がフラッシュバックしてくる。

異様な臭いをあげる炭化した人だったなにか。確かに掴んだはずの姉の腕。空を覆うMSの群れ。

「ぐっ…!」

 

失くしたはずの右腕と左脚がズキズキの痛む。

何年経とうとも消える事はない幻肢痛。まるで、あの日の悲劇を忘れてはいけないとばかりに容赦なくヒロキに痛みを与えてくる。黒く冷たい右腕を握りしめ、必死にその痛みに耐える。

脂汗が滲み続ける程の激痛に耐え、ヒロキは真っ赤な瞳で確かに“アメノミハシラ”の上で暴れまわる蛇型と、それ止めようと交戦する白いガンダムを見とめる。

 

ーーーあいつ…!

 

革命同盟軍の仲間だと思っていたが、そうでもなかったようだ。

暴れまわる蛇型を止めようと、必死になって戦っている。なら、あいつはなんだ?

いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

奴を止めなければ“アメノミハシラ”の損壊率は上がる一方だ。

不用意なビーム兵器での攻撃を封じられた白いガンダムは防戦一方だ。

 

ただのテロリストじゃないのかよっ…!?

 

ヒロキの描いていたテロリストとは違う。

あのガンダムは、確かに“アメノミハシラ”に住まう人々を救おうと蛇型と戦っている。

テロリストのはずなのに、何故? 無関係の人々を救うために必死になる必要がある?

ただのテロリストじゃなかったのか?

そんな事は今はどうでもいい。またあの日のような悲劇を、繰り返すわけにはいかない。

 

「くそっ…!」

 

ヒロキは白いガンダムの蛮勇に怒りを覚えながら、機体を“アメノミハシラ”に向けた。

「なにやってるんだよっ!」

 

遠慮会釈もなく、白いガンダムのパイロットに投げつける。

 

「アンタは俺たちの敵じゃなかったのかっ!? なのに、なんで“アメノミハシラ”をっ…!」

 

『アンタ、いちいちそんな事言うために来たの? この状況を見れば分かるでしょうっ!? 分かったらアンタも早く人命救助しなさいよ、軍人なんでしょっ!?』

 

蛇型の猛攻を巧みに防ぎながら、白いガンダムのパイロットが叫ぶ。

一瞬返ってきた声が女の声である事にたじろぐも、負けじと叫び返す。

 

「て、敵のアンタに言われなくても、分かってるさっ!」

 

『だったら、とっとと手伝いなさいよっグズッ! のろまっ!』

 

プチン。とヒロキの中でなにかが切れた。

なんでさっきまで命のやり取りをしていた相手にここまで言われなければならないのだろうか。

苛立ちを込めて白いガンダムを睨みつける。

ーーーモビルスーツの操縦は確かに凄いかもしれないが、コイツは馬鹿だ。

 

こんなふうに言われて自分だけなにもしないわけにはいくかっ…!!

“フォルテ”が大型のビームサーベルを抜き放ち、白いガンダムを襲うテイルブレイドの一撃を受け止める。

割って入ってきた“フォルテ”を見とめ、白いガンダムが一瞬驚いたように動きを止めた。

ヒロキは蛇型のMAの猛攻を受け流しながら、低く吐き捨てる。

 

「人命救助の為だっ…! 今回だけだからなっ!!」

 

ただ無関係の人々の命を奪うだけのテロリストだと思っていた。だが自分の命も顧みずに他人を救おうとしている少女の姿を見て、傍観しねいる事も出来なかった。

白いガンダムのパイロットへの怒りが増すとともに、疑問が生まれる。なぜ人を救えるだけの腕を持ちながらZEUSに敵対する道を選んだのだ? それだけの腕があれば、もっとたくさんの人々を救う事も出来たはずなのに。

すでに、幻肢痛による枷は消えていた。

 

『なんだ、なんだお前はああああああ! お前も邪魔をするのかっ! 黒いのぉおぉっ!!』

 

度重なる妨害に、“スネーカー”のパイロット、アマンダが激昂する。

両手に握ったビームライフルを幾度となく二機に撃ちかけてくる。“フォルテ”が反撃とばかりに光条の合間を縫って斬りかかるも、突如として見えない何かに、ビームサーベルが防がれる。

 

「なんだっ!?」

 

『無駄、無駄ぁぁぁっ!!!』

 

見えない壁に遮られた“フォルテ”に向けて“スネーカー”が再びライフルを乱射してくる。たまらず、ヒロキは後退してシールドで熱線を防ぐ。

 

『ビームシールドの類いだわっ! しかもかなりの広範囲のっ!』

 

「そんな広域に展開するビームシールドの技術なんか、存在したのかよっ!!」

 

苛立ちを白いガンダムのパイロットに投げかける。

 

『もう10年も前に連合のMAがリフレクターを積んでいたというのは聞いた事があるわっ! けど、ここまでシールドを展開させるのにラグが無いのは私も初耳よっ!!』

 

10年前、前の大戦時に地球連合が力を入れていたMA開発。そのMAが蛇型に似た陽電子リフレクターを積んでいたと聞いた事があった。ビーム兵器に対してなら鉄壁の防御を誇り、陽電子砲すらも防いでみせたという。

しかし、ここまでのスピードでこの蛇型の巨体を覆うほどに展開できる技術だとは聞いていない。

 

ーー革命同盟軍…! やっぱり、こいつらは危険だわっ…!

 

自分達の予想を上回る技術と、練度を誇る兵を有している。

この世界の神に挑むと、啖呵を切っただけの事はある。ティアの頭にカッと血が上る。

下手をすれば、AIGISにとって最大の障害になりかねない。また無関係な人々を巻き込んで大きな戦乱になるかもしれない。

ビームサーベルを両の手に握りしめ、“スネーカー”に向かっていく。やはりライフル兵装を封じられたヒロキもまた、ビームサーベルを掲げてユイに続く。

 

しかし、なおも見えない壁が二人の振り下ろした刃を防いで見せた。

戦闘に入った二人の耳に、“スネーカー”のパイロットの怨嗟の声が飛び込んできた。

 

『ーー娘の為にも、地球に突き立てられたこの憎々しい墓、落としてやるんだぁぁっ! 邪魔をするなあっ!!』

 

「娘…っ!?」

 

『っ…!』

 

“スネーカー”の振るわれたテイルブレイドをかわしながら、ヒロキは蛇型のパイロットから発せられた言葉に唖然として呟き返す。白いガンダムのパイロットもその通信を聞いていたに違いない。蛇型のMAが尾の先端から放った極太のテイルビーム砲をシールドで受け止め、大きく態勢を崩す。

なおも、女の声が叩きつけられる。

 

『十年前、オーブで死んだ人々の怒りや悲しみを忘れて、撃った奴らとなんで偽りの世界で笑っていられるんだっ!! お前らはぁっ!?』

 

その糾弾は、ヒロキの胸に突き刺さった。

 

『ーーーデュランダルが提示した神のシステム、デスティニープラン…っ!! あんなものに騙されて、世界は変わってしまったっ…!』

“スネーカー”のパイロットはなおも恨みの言葉を吐き出す。

ヒロキは攻撃することも忘れ、呆然と彼女の言葉を聞いた。

 

…こいつ…オーブの…?

 

なぜこんな馬鹿なことを、なぜこんな酷いことを?ーーーとずっと敵に憤りと疑問を抱いていた。いま、ヒロキは悟る。

ーーー彼女には、“アメノミハシラ”を憎むだけの理由があったのだ…。

 

ティアは哀れみの視線を、蛇型のパイロットへと向ける。

機体を通して届いてくる彼女の心の声が、ティアにははっきりと聞き取れていた。

十年前のあの日、オーブはデュランダル議長とそれに賛同する世界同盟軍に焼かれた。オーブだけじゃない。反抗しようとした勢力は悉くだ。あれあら、もう十年経った。でも、まだ十年しか経っていない。

人々の心に深く深く突き立てられた傷という牙は、なおも人々の心を蝕んでいる。

いま向き合っている彼女は、いわば自分達ーーAIGISの分身のようなものだ。

 

「…だけどね…」

 

静かに、ティアが呟く。

彼女の思いが、頭に、心に流れ込んでくる。

 

『リリっ! リリぃぃぃぃっ! 嫌ぁぁあっ!』

『リリを返して…私の娘を…たった1人の娘を…』

『私、お母さんが居てくれればそれだけで幸せだよ? お金がなくても、お父さんがいなくても、私はすっごく幸せなのっ!』

『娘を…リリを奪った世界を…赦さないっ…絶対に…っっ!!』

 

「だからってね…」

 

『もう女性として生きてはいけないぞ?』

『構わない。娘が死んだあの日から、私はもう女ではなくなった。だから私にもっと力を頂戴。』

ーーー世界を滅ぼすほどの力を。

 

「貴女の行為を、見逃すわけにはいかないのよっ…!」

 

心に突き立てられた刃が、キリキリと音を立てて悲鳴を上げる。

肉体的ではない、精神的な苦痛。大粒の涙が、ティアの頬を伝う。

この“アメノミハシラ”が落ちれば、あの日オーブで失われた命と同様か、それ以上の命が失われる事になる。

そんな悲しみを繰り返すだけの事を、させるわけにはいかない。

ティアは断固としてアマンダの怨嗟の一撃を受け止める。

 

『なぜ分からないっ!?』

 

アマンダが、しゃにむに打ち込みながら叫ぶ。

 

『ーー私達オーブ国民にとって、カガリ・ユラ・アスハの示そうとした道こそが唯一正しきものだとっ!』

「っ!?」

 

頭をガンと殴られたような感覚を、ヒロキが襲う。

一瞬ガラ空きになったヒロキの右方に、アマンダのテイルブレイドがきらめく。

鋭い尾から伸びた刃が、“フォルテ”の左腕を叩き斬った。我に返ったようにティアはこちらへ飛び出そうとする。

しかし、アマンダはティアに向けて両手に握ったビームライフルを乱射した。それでもなお迫ろうとするユイに向け、三たび胸部の拡散ビーム砲が放たれた。

 

「くそっ…!!」

 

そのビームを受け止める衝撃で大きくティアの機体が吹き飛ばされ、宙を舞う。

 

「白いのっ…!!」

 

ヒロキはとっさに白いガンダムに視線を移す。そのとき、蛇型が放った拡散ビームの幾度とない猛攻に耐えきれず、ついに地球へと伸びる輸送エレベーター。その軌道上で輸送エレベーターから切り離されそうになっていたコンテナを繋ぎ止めていたアームが、千切れた。コンテナは大きく揺さぶられながら虚空へと投げ出される。

 

ーーーしまった…!?

 

軌道エレベーターから離れてしまったコンテナは宇宙に漂う大きなゴミだ。このままいけば地球の引力に引かれて地球へと落ちていく。そうなれば、コンテナの中に居るであろう人々がどうなる事か想像に容易い。じりじりと地球へと向けて落ちていく。すでにその下端は灼熱し始めていた。

 

「くそっ!! 助けなきゃっ!」

 

ヒロキが助けに向かおうと機体を向けたその時、だしぬけに上がった雄叫びのような声に振り返る。

 

『リリぃの恨み、今度こそこの世界中の豚共にぃぃぃ!』

 

ヒロキは飛び上がってかわそうとしたが、“スネーカー”の尾が“フォルテ”の足に巻き付いた。

機体がぐんと引きずられる。まるで過去の怨嗟にしがみつかれたような気がして、ヒロキは腹の底が冷たくなるような戦慄を覚えた。

最後に見た姉の優しい眼差し、手足をもがれた激痛と、姉だったものの動かなくなった腕。その全てが脳裏に浮かぶ。

 

ーーー俺は結局、あの日から逃げられはしないのか…?

 

次の瞬間、飛来した“フェンリル”の光刃がその重みからヒロキを解放する。

“フォルテ”を絡みとる邪魔ったらしい尾を、切り裂いたのだ。間髪いれずに“フォルテ”の手をとり、バーニアを全開にして上昇する。ヒロキも我に返ってバーニアを吹かした。

 

「お前っ…なんでっ!」

 

『あんたも…同じなんでしょ…?』

 

助けたんだ。と続けようとしたヒロキの声は、少女の悲しげな声に抑制された。

 

『あの日、立ち止まってしまったまま…何か大事なものを忘れてきちゃったんでしょ…!』

 

何故、彼女が悲しんでいるのか分からなかった。

敵なのに助けて、敵なのに哀れんで、本当によく分からないヤツだ…

ヒロキは一瞬瞑目する。

 

ーーー俺は、強くなるって決めたんだ。もう、なにも救えないのは嫌だっ…!

 

「おい白いのっ!」

 

『なによっ!』

 

「あのコンテナを任せれるかっ!?」

 

敵に何を任せているんだとアスカ隊長に怒られるかもしれない。

後でアーサー艦長にどやされるかもしれない。けれど、もう失うのは嫌だった。

 

「俺があの蛇女の相手をするっ…! お前は、あのコンテナにいる人々を救ってくれ…頼むっ…!」

 

なにを都合の良い事をと笑われるかもしれない。

けれど、自分は自分の正義に従う。誰かを救えるのならプライドなんて、いくらでも捨ててやる。

 

『……望む所よっ! あんたも、それだけ啖呵を切ったんだから彼女を止めて来なさいっ! これ以上暴れられたらもう“アメノミハシラ”は持たないわよっ!』

 

白いガンダムから発せられた少女の言葉に、ヒロキは不敵に笑ってみせる。

「言われなくても、分かってるさっ…!」

 

自身を掴む白いガンダムの手を振り払い、バーニアを全開に吹かせて尾を切られた事で激昂して“アメノミハシラ”上からこちらを付けねらう蛇型MAの前に対峙する。

アンタもあの日、オーブに置いてきたままなんだな…

大切な…人を…。

 

だからって、こんな事をしてもなにも戻らない。

止めてやらなきゃならない。同じ思いを胸に抱く者として。

 

従来のビームサーベルよりも大きいビームサーベルを片腕で振りかぶり、悲しみを込めてヒロキは叫ぶ。

 

「自分の怒りの止め方が分からないのなら、止めてやるよ…! 俺がっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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