AnotherSEED   作:another12

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語らいは夕暮れのテラスにてーー2

 

 

 

 

『ちゃんとご飯は食べれてる?』

 

「一応、艦内食堂でちゃんと食べてるよ。」

 

 映し出された液晶の向こう、心配そうに声をかけてきた妻――旧姓ルナマリア・ホークにシンは苦笑いして返した。

 こうして彼女と結婚して、もう5年になる。

 交際自体は戦時中――10年前からあったものの、戦後のゴタゴタに右往左往し、さらにお互い軍人だった事もあり終戦後は会えない日々が続き、年数だけが過ぎてしまった。

 煮え切らない自分の態度に怒髪天を超えたルナマリアからプロポーズも同然の言葉を投げかけられ、気づけば婚姻を結んでいた。

 

『ちゃんと野菜も食べてる?』

 

「……食べてるって。」

 

 こうしていまだに自分らしく居られる場所を作ってくれた彼女には、感謝しかない。

 言いながら、シンはそわそわと画面の向こう側を覗こうと頭を振った。

 

『誰に似たんだが、お転婆で今日も一日中遊びっぱなしの大怪獣ならもう寝たわよ。』

 

 小さく嘆息しながら、ルナマリアが言った。

 シン自身はルナマリアに似たんだと思っているのだが、それは口に出さない方がいいという事をこの10年で学んだ。

 シンとルナマリアの間に生まれた小さな命――ヒスイ・アスカは、いまだ戦場にいるシンに安らぎを与えてくれた存在だ。自分が父親になり、家族を持った事がいかにシン・アスカを救ってくれていたか、それはシン自身が一番理解していた。

 

「そっか……今度は起きてる時間に連絡するよ。」

 

『こんな情勢だからね。こうしてこまめに連絡くれるだけ昔と変わったって思えるから、いい。』

 

「……プラントは? 混乱してない?」

 

『そりゃあんな電波ジャックの放送見たら多少の変化はあるけど……基本変わらないわ。相変わらず、平和ボケっていうか、対岸の明かりっていうか。』

 

 呆れながら言うルナマリアに、シンは唸る。

 プラントに住む人々にとって見れば、10年間ずっと激動なのは地球に住む人々だ。ZEUSの管理下にあり、デスティニープランの施行率も90%を超えている本国の住民からすれば争い事などは他人事も同然だ。10年、それでもまだ10年しか、あの大戦から離れていないというのに。

 

 

『……そう言えば、またヒスイにデスティニープランを受けさせるかの通達書が届いたわ。』

 

「……そっか。」

 

 またか、とシンは思う。

 子どもが生まれてすぐデスティニープランを受けさせていない場合、1年ごとに受けさせるよう通達が届く。明確に拒否の意思を示せばその通達も止まるのだが、シンとルナマリアは迷っていた。

 果たして、デスティニープランをヒスイに受けさせるのが良いのかと。

 

『答え、出そう?』

 

「……ごめん。」

 

 顔を伏せ、シンは黙る。ヒスイが生まれてから、この話しになるとシンは無口になる。元々饒舌なタイプではないが、その差は明らかだった。

 この話題自体を酷く嫌がるように。

 

『ごめんって……そうじゃなくてさ、ちゃんと考えてよ。ヒスイの事なんだしさ、これからあの子が大きくなってデスティニープランを受けているかいないかで――「わかってるよ。」

 

 ピシャリ、と遮るようなシンの言葉に、ルナマリアはムッとした表情を浮かべた。

 

『もうヒスイは3歳よ? 私達には、あの子の未来をキチンと考える責任がある。だって私達はあの子の親なんだから。だから逃げずに考えよ? 一人で考えろなんて言わないからさ。』

 

「……うん。そうだよな。」

 

 歯切れの悪い返事に、ルナマリアはまたか。と言った表情で言葉を途切れさせた。その様子をシンは直視できなかった。

 ルナマリアには悪いと思っている。しかし、ヒスイが生まれてからずっと考えていた。

 

 ――デスティニープランは、正しいのか……?

 

 デスティニープランの守護者として、プランに強く反発する者、拒絶し、デスティニープランで守られた社会を崩壊させようとする敵と戦い続けてきた。

 しかし、一方でプラン適応外とされた人々が、プランを受けなかった人がどのような扱いを受けてきたのかも目の当たりにしていた。

 サン・フェリクス島に入港し、“RAVEN”と触れ合い、そして思い知らされた。

 自分が意図せず彼らを見下していた事に。

 プランを受け入れない異端者、そう思っていた彼らの姿は、昔の10年前の自分達を思い起こさせる。

 

 揺らいではいけない。

 自分はZEUSの英雄で、デスティニープランの守護者だ。

 

 そう言い聞かせるも、シンの心は消えそうな松明のようにぼんやりと揺れ始めていた。

 

 

『……辛いなら、もう戦いから離れてもいいのよ?』

 

 優しい言葉が降り注ぐ。

 自分はただ必死だっただけだ。

 

 ZEUSの英雄だなんだと持て囃され、戦い続けて、戦争が終わっても、完全な平和は訪れなかった。

 だから、今もシン・アスカは10年前に居る。

 時間と年齢だけが過ぎ、いまだ抜け出せぬままこうして戦場に身を置いている。

 

 

 

 妻と話しながら、握りしめていたピンク色の携帯はその色味をかつてより薄れさせていた。

 

 

 

 

 

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