閲覧ありがとうございます。沼爪と申します。オリ主物は初めて書きますが楽しいです。読者の皆様にも読んで楽しんで頂ければ幸いです。
プロローグ
窮屈な通学電車に退屈な授業、クラスメイトとの他愛のない会話。高校生なら全員が触れる当たり前の日常はどれもそこまで嫌なわけじゃない。けど私を充実させることはなかった。今の私を充実させてくれるのは──
「おいっちー、今日クラスのみんなでカラオケ行くんだけどどう?」
クラスメイトで仲良しの北上さんが話しかけてきた。彼女は如何にもなギャルの雰囲気だけどオタク趣味な私にも分け隔てなく接してくれる。
「ごめーん、今日もバイトなんだー」
「えー、おいっちそれこないだも言ってたじゃーん!」
「ほんとごめん! 目標額まであと少しだからさ! そしたら私から誘うから!」
「はぁーあ、まーいいケドさー」
なんとか納得してもらえたようだ。友達からの誘いを断るのは申し訳ないし、私も北上さん達と遊びたいけど……。これも目標のためなら仕方ない犠牲だ。
「まっ、どーせおいっちは相も変わらず女子中学生のおしり追いかけてんでしょ?」
「ちょっと! 誤解のある言い方やめてよね? それに中学生以外もいるから!」
「はいはい、わかったわかった。じゃ、また明日ねー」
「うん、また明日ー」
北上さんと別れやや小走り気味にバイトへ急ぐ。本当ならこんなに稼ぐ必要はなかった。でも仕方ないじゃない……。
ゆゆゆいのCS版が83,600円もするんだもの!
勇者であるシリーズ。私が一番好きなコンテンツでその作品展開はアニメのみならず書籍、ゲーム、ドラマCD、ラジオ等多岐にわたる。
中でも去年までサービスしていたゲームアプリ花結いのきらめき、通称ゆゆゆいは私が一番時間とお金をかけたと言ってもいい作品だ。……正直タワーディフェンスは苦手だったけど、それを上回る豊富なシナリオと可愛いイラストが全部フルボイスで楽しめるのだ。
各世代、各地方の勇者や巫女達の掛け合いにいつも胸が踊っていた。できれば私は彼女達が集まる部室の観葉植物として間近に繰り広げられる彼女達のチョメチョメを観察していたいと夢見ていた。
……残念なことに去年サ終しちゃったけどね。けど今度は家庭用ゲームとして永久に保存されることになったんだ! だから私は今日も稼ぐ! バイトなんてゆゆゆいを手に入れるためなら苦でもなんでもない!
信号も青になったしバ先へ急ぐぞー!
意気込んで走り出したは良いけどなにか猛烈に嫌な予感がする。
……ん? なんで青になったのに横から車が向かってくるの? あれ? なんかどんどん近づいてない?
──聞いたこともない程に大きなブレーキ音と共に私の体が浮いた気がした──
……? なにこの生温かいの……。
「……私の血?」
なにが起こったのかわからないしなにも聞こえないし見えない。でも……1つわかったことがある。
「……私、死ぬ?」
うーん、車に轢かれて死ぬのって宝くじ当たるのとどっちが確率高いんだろ? 風先輩みたいに精霊がいたら少しはマシだったのかな? これから死ぬのになに馬鹿なことを考えてんだろ……。
「……いやだ……死にたく──」
……これはどうやってもダメそうだ。僅かに残った感覚だけでもわかる。想像以上の痛み、泣きたくても叫びたくてもなにもできない。これは人が死ぬ時の痛みだ。
嗚呼、異世界転生の神様……。もし本当にいるならどうか次は私の大好きな勇者達の世界に──
「次に生まれたらあの世界に行けたら良いな……」
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「……ここは?」
なにか聞こえる。男の人の怒鳴り声と工事現場のような轟音、周りのものがどんどん壊されていくような。
『勇者様! まだか!? なぜ指導者の私の命を最優先にしないのか!?』
『やっ、やめろぉぉぉお! こっちにくるなぁぁ!』
『ぐ、ぐおっ、も、もう無理だ! 勇者様っ!勇者さまぁぁぁああ!』
──気づいたら私の目の前には巨大な白い化け物の歯が迫っていて──
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「うっ……うう」
見覚えのない天井に嗅ぎ覚えのない匂い。家でも保健室でもない、どこかの部屋のベッドに私は寝ている。
「かっ……体が……重いっ」
今イチ体が重くて起き上がりずらい……。それになんか声も異様に低い気がするし、すごく寒い。
「私ってどうしたんだっけ……?」
たしか車に轢かれたような気がするけど、結局助かったのかな?
さっきの化け物と男の人が叫ぶ夢ははなんだったんだろう? まぁ、それはどうでもいいか。
……とりあえず大した怪我はないみたいだし顔でも洗おう。
部屋にあった洗面台で水を流して顔を洗う。なんだが手が大きくなった気がする。こんなにゴツかったけ?
鏡もあるし顔色でも確認して──
「……………………………え?」
──ふと見た鏡には見覚えのない男性の顔がうつっていた。
「なんだこのおっさん!?」
……いやいやいやいや、ないないないない。これもさっきのような夢でしょ! そうに違いない!
頭痛がひどく、直前の記憶で思い出せないことも多いけど……少なくとも私は女性だったハズだ!
けど鏡にうつるのはやや吊り目でいかにも狡猾で悪そうな中年の男だ。いくらなんでもありえない!
「……目が覚めましたか」
鏡を見て仰天する私の声に反応したのか、部屋に眼鏡をかけた黒を基調とした変わった服装の少女が入ってきた。……この女の子何処かで見た覚えがあるような……?
「わっ、私は一体どうしちゃったの!?」
「あー、まださっきの奴さん達の襲撃のショックが収まってないようですね? 安心して下さい、ここは診療所の部屋ですよ。ほんと、ギリギリ間に合って良かったですよー」
少女は呆れ気味に私?の顔を覗き込むと心にもなさそうに安堵の言葉を投げかけた。
「はぁ……?」
「……今日のところはもう大人しくしててくださいよ? また変なことされたら次は守れないかもしれないですから」
眼鏡の少女は厳しい眼差しで私に忠告をした。記憶はないけど、どうやら私はなにかやらかしてしまったようだ。
……それにしても綺麗な娘。まるで私が大好きだったあの作品の登場人物のように顔立ちが整っている。
「じゃ、私は見回りがあるので──」
「待って! お願い教えて! あなたと……私は一体誰なの!?」
「ハァ!? さっきの襲撃がよっぽどこたえたのかな? 私は秋原雪花、ここ旭川の勇者ですよ」
秋原雪花……!? それに勇者ってまさか……!
「それじゃ! お大事に、“及川さん”」
少しうんざりした顔で自身を勇者と名乗った少女は、秋原雪花さんは部屋を去っていった。
「……嘘でしょ?」
私は思い出した。生前最期の願いを──
『次に生まれたらあの世界に行けたら良いな』
──それは最悪な形で叶えられた。
及川(JK) 勇者であるシリーズにどハマリしていた女子高生。名字は及川でクラスメイトからのあだ名はおいっち。バイト代のほぼ全てを勇者であるシリーズのゲーム課金やグッズ、イベントに費やしていた。百合好きでどちらかというと西暦時代の勇者達が好み。元の世界ではバイトに向かう途中で事故に遭い死亡、勇者達が実在する世界で性別も年齢も大きく異なる及川さんに憑依してしまった。
及川(オジサン) 北海道旭川の指導者。元は旭川を代表する温厚な名士だったが、天災後は徐々に狂気に染まり冷酷無慈悲な性格へ変貌してしまった。本来は勝手な行動をした末に星屑に喰われて死亡するはずだったが、及川(JK)の魂が憑依し乗っ取られるという形で肉体は生き永らえた。
バーテックス 勇者であるシリーズに共通して登場する敵の総称。星屑と呼ばれる白い化物の形をとるものが多く、その巨大な歯で人間を喰らって殺戮していく。通常の兵器は一切効かず、バーテックス達を倒せるのは勇者に覚醒した僅かな少女達だけである。
秋原雪花 旭川の勇者。武器は投槍。趣味の史跡調査をしていた所で天災に遭い、勇者へ覚醒した。戦闘では近中遠全ての射程に対応可能であり、冷静でクレバーに立ち回る万能勇者。狂気に染まる及川さんのことは好きではなかったが、どんなに非道な人間だろうと見捨てず救おうとしてしまう優しい少女。両親はバーテックスに既に殺され共に戦う仲間もおらず、生き残った周囲の人間達からは常に下心を感じている。そのため心を許せる者が居なく常に孤独感に苛まれている。
コシンプ 雪花の精霊であり、彼女が勇者に覚醒したのと同時に顕現した。勇者を支える巫女のような役割を果たし、雪花にはテレパシーで敵の出現等を伝えるほか彼女の数少ない話し相手となっている。