北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年4月11日 本場の信州蕎麦なんて美味しいの。適当な店だけで蕎麦をわかっていたつもりの前世の自分に教えてあげたい。よし、あの子に蕎麦食べさせた時には少し塩辛いなんて言わせないために頑張るぞ。】



北の勇者と諏訪の王

 

 

 私達は早朝から秋田県北部を出発して諏訪を目指していた。海岸線に沿うように接地された日本海沿岸東北自動車道はひたすら一本道だ。

 

 途中、パーキングエリアに寄ってみたりしたけど飲み物や食糧はほとんど残っておらず、かわりに人骨の破片と星屑が出現するくらいだった。

 度々見かける人の白骨死体に星屑、極度のプレッシャーの中での長距離移動。運転手さん達は頑張ってくれているが、車内の空気はつねにピリピリして一触即発なんてこともある。その度にせっちゃんが仲裁に向かってくれている。

 

『及川さん、今日中に諏訪に行けますかね?』

 

「必ず行く! 君たちも限界だろう? でもあと少し頑張れば安全圏だ!」

 

 運転手さん達も交代要因をローテーションさせてなんとか持たせてくれているが限界が近い。結果論だけど諏訪に寄る選択をして正解だったと思う。

 

『及川さん、皆さん、松本の案内標識が見えましたよん。もうすぐで諏訪ですね』

 

 せっちゃんからの明るい無線に車内から安堵の空気が広がっているのはバイクに乗っている私からもわかる。

 あと少しで──

 

『雪花、及川、少しまずいかもしれないね。前方からかなりの数だ。あと何者かが急激なスピードで近づいて来てるね』

 

 索敵をしてくれていたコシンプがせっちゃんと私に敵襲を告げる。よく見ると確かに遠く離れた前方で白い化物達が蠢いている。

 急激に近づいてくる何者……いや、これは希望的観測だから今はおいておこう。

 

「前方に大規模な星屑の群れを確認、全車停止!」

 

『待って! 後ろからも星屑が追ってきている、止まってたらすぐ追いつかれちゃうよ』

 

 無線で停車命令を出すも、今度は後方を監視していたせっちゃんから敵襲を告げられる。

 ……ハメられた。私達は車列に対して前後からバーテックス達に挟み撃ちの構図を取られてしまった。

 マイクロバスは構造上舗装された道路を走ることしかできない。横に逸れて脱出しようにも山や障害物により車体は傷つき即廃車となるだろう。

 加えて前後で同時に攻撃されればいくらせっちゃんが瞬間移動の力を使えても、膨大な数の星屑の突貫に対応しきれずに確実に間に合わず被害を被る車両が出る。

 

「敵さん達、私に前列の2車両か後列の2車両、どちらかを捨てたさせる気だよ!」

 

 バーテックスの目標は人類の抹殺。たとえ勇者に敵わなくても避難民の半分を殺せれば奴らの戦略的勝利だ。

 

「……勇者様はまずは後列のほうを頼みます」

 

『えっ、でもそれだと前列はどうするんですか?』

 

「大丈夫! そのために私はバイクに乗ってるんですよ!」

 

 バイクを急発進させ、前方の星屑の群れにつっこむ。星屑の何匹か口開けて向かってくるが猛スピードで蛇行してなんとか回避する。

 

「ですが勇者様! あまり時間は稼げませんよ!」

 

『わかってますよ!』

 

 せっちゃんは後列の敵に最速で切り込んでいく、既に桂蔵坊を降ろしていている姿でリスクは度外視だ。

 

 私もなるべく星屑に接近し引き離すを繰り返しアピールする、お前らの目標は前列の2台のマイクロバスではなく私のバイクだと。

 けれど星屑の何匹かは私に構わずバスへの直進を始めた。さらに最悪なことに残った星屑達が進化体を形成していく──

 

「せっちゃん! 前列で進化体が形成中!」

 

『っ!? 進化体! 形成前に倒したいけど私は離れられない!』

 

 後方の星屑の対応に追われたせっちゃんは間に合わない──私の目の前には星屑を巨大化させた姿の口の中に無数の矢を仕込んだ進化体が現れた。

 

「まずい! 全員バスの床に伏せるんだ」

 

 進化体は口から大量の矢を射出する。矢は放射線状に私を飛び越えてマイクロバスの先頭2車両へ向かっていく。あんなもの刺さったらひとたまりも──

 

 

「セーーーーフ!!!」

 

 

 ──結果として矢がバスに到達することはなかった。聞き覚えのある明るい少女の声が戦場に響き渡る。

 声とともに現れたのは──黄と白を基調とした勇者服を纏う緑髪のミディアムショートの少女。彼女は目にも止まらぬ速さで鞭をふるい、バスに向かって放たれた矢を一本も残さず弾き返した。

 

「アーンド! お返しよ!」

 

 高速の鞭により弾き返された大量の進化体の矢はバスに向かっていた星屑や進化体に刺さりダーメージを与える。星屑は崩れ去り、進化体の動きも少し鈍くなっているようだ。

 

「あなたも避難者ですね? バスの方で固まってて下さい!」

 

「はっ、はい!」

  

 少女は手早く状況を確認すると私に避難を促した。

 

『おいっち! 大丈夫!?』  

 

 後列の方で戦いながらも心配した声でせっちゃんが無線を飛ばしてくれる。

 

「勇者様! 援軍です! 諏訪の勇者様が援軍にきてくれました!」

 

「やっぱりそっちにも勇者がいるのね、ワンダフル!」

 

 明るい口調の勇者服の少女はいつの間にか私から無線機を奪い取り、スイッチをいれる。

 

「こんにちは、北から来た勇者さん。諏訪で勇者をやっている白鳥歌野です。後でいっぱいお話ししたいので引き続き後ろのほうお任せしてもよろしいですか?」

 

『こんにちは、北海道の勇者、秋原雪花です。アハハ……諏訪の勇者様は想像以上にフレンドリーですね。任せて下さいよん!』

 

 せっちゃんは力を込めて無線を締めくくる。その声はいつになく弾んでいた。 

 

「ほら、貴方も早くバスに避難して下さい。あ、無線機お借りしますね?」

 

「はっ、はい! お願いします!」

 

 私は慌ててバイクでバスの方まで避難した。

 

 あれが、諏訪の勇者──白鳥歌野……すっごい美人!

 

 

───────────────────────

 

 

 バスの車列の後方側ではせっちゃんが、前方側は援軍に来てくれた白鳥歌野ちゃんがそれぞれバーテックスと対峙している。

 

「たぁーーーっ! 貴方はいつまで耐えられるかしらねっ!?」

 

 歌野ちゃんと矢を射出する進化体の戦いを観察していると、彼女は先程弾き返した矢が刺さった部分数カ所をのみを集中的に狙って進化体に攻撃しているように見える。

 おそらく鞭一発の威力は進化体にとってはたいして高くない。それでもなぜかしつこく歌野ちゃんは矢が刺さっている場所だけを叩いて攻撃する。

 

「そろそろ限界よね? そうよね!?」

 

 何度も何度も鞭を叩きつける。すると進化体に異変が起きた。ピシっとヒビが入ったような音がしたかと思えば、進化体の一部がバラバラに崩れ去った。

 丸太や岩に小さな楔を何本か打ち込んでいきハンマーで叩いて割るという技法があるけど、歌野ちゃんは進化体の矢を楔にしてそれをやってのけたんだ!

 

「グッド、中身が見えたらあとはそこを叩くだけよ!」

 

 一部が砕け、むき出しになった進化体の内部の柔らかいところに歌野ちゃんは猛烈な鞭のラッシュを叩き込む。ついには進化体は奇妙なうめき声をあげながら滅んでいった。

 

 ……この子すごく強い。恐ろしいのは彼女の状況把握能力だ。戦闘介入早々、私達の保護と星屑の処理を同時に行いつつ一番の脅威である進化体にも楔を打ち込んでいた。瞬時に状況を理解し、全ての行動に無駄がない。

 

「ふぅー、今の進化体も含めると100くらいはデリートできたかしら。あっちの勇者もそれくらいとするとみーちゃんの神託とおりなら……」

 

 進化体を倒しても戦いは終わっていない。増援とばかりに星屑が大量に出現してきた。今度はひたすら数でゴリ押すつもりだろう。

 

「秋原さん! あと800体程倒せば終わりですよ!」

 

『うげっ、800体も!?』

 

「問題ありません! 2人でやれば1人あたりは400体です!」

 

『いや、それ大して慰めになってないから!』

 

 せっちゃんと歌野ちゃん──2人はまるでクラスメイトとライン通話をしてるかの如く愉快そうに無線機で話しながら星屑を屠っていく。戦いに集中していないわけではない。むしろ敵の位置や狙いそうなところを教え合っている。

 でもその声はとても嬉しそうで、やっと同じ遊びができる友達ができたように感じられた。

 

「フフッ、不謹慎ですけど共に戦える仲間がいるのは素晴らしいものですね」

 

『そだねん、貴女も大変だったでしょうに』

 

 もちろんせっちゃんも歌野ちゃんも孤独なわけではない。彼女達を支えてくれる者達はいるはずだ。私だってその中の1人だと自負している。

 それでも共に戦場で命を預けられる仲間ができたことはなによりも喜ばしいことなんだろう。

 

「──ありがとうございます秋原さん、諏訪に来てくれて」

 

『雪花でいいよ。こちらこそ迎えに来てくれてありがとね、歌野』

  

 2人の勇者のガールズトークに花が咲き、いつしか1000体もいたバーテックス達は全て枯れ果てた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「「「諏訪についたーーー!」」」

 

──やったぞー!

 

──乗り越えたんだー!  

 

──ありがとう! 勇者様ー! 及川さーん!

 

 諏訪の結界内に到着するやいなや、引き連れてきた避難民達は思い思いに喜びの声をあげた。長旅の末に最後は数時間に及ぶ戦闘、戦ってはいないとはいえ避難民の解放感はすさまじいものだろう。

 

「すみません、命がけの移動だったもので少し皆浮かれてしまいまして……」

 

 私は歓喜で騒ぐ避難民達のかわりに歌野ちゃんに頭を下げる。

 

「構いませんよ? 諏訪は貴方達を歓迎します!」

 

 手を差し出してくれた歌野ちゃんと握手を交わす。

 

「っ……」

 

「どうかされました?」

 

 目の前の美少女には似つかわしくない、いくつものマメが潰れてゴツゴツした手……。せっちゃんもそうだったけど日々の努力が滲み出ている。農業とは別に相当な鍛錬を積んでいるのだろう。

 

「いえ、なんでも……申し遅れました。私は北海道旭川の指導者及川と申します。この度は皆を救って下さり大変感謝申し上げます」

 

「改めて旭川の勇者秋原雪花だよん。私からもあんがとね。これからもよろしくお願いシャス!」

 

「こちらこそ! とっても心強かったわ! こほんっ、改めまして諏訪の勇者白鳥歌野です。一応この諏訪のリーダーも兼任しています」

 

 知ってはいたこととはいえやっぱり歌野ちゃんは指導者も兼務してたんだ、すごいな本当に。

 

「いえいえ、大してすごくないですよ。いつも支えてくれる人がいますから」

 

「えっ? 声に出てました?」

 

「なんとなくそんな顔してらしたので」

 

 すごい、そんなこともこの子はわかるんだ……。

 

「あっ、またすごいって思いましたね? 恥ずかしがらずにいっぱい褒めて良いですよ?」

 

「えぇっ!?」

 

「アハハハハ。歌野ー、大人をからかっちゃダメだよん?」

 

「ソーリー雪花、この人つい面白くって」

 

 ……なんかこの2人すごく仲良くなってない? とっても微笑ましい。あ、でもこの感じは──

 

「うたのんが……うたのんが他の女の子と仲良くしてる……そうだよね私みたいな暗い女じゃなくて……どーせ私なんていなくてもうたのんには友達がいっぱいいて……」

 

 栗毛をフワフワさせたショートカットの美少女が憂いをおびた顔で私達に近づいてきた。その目は虚ろで小さな声でなにかを呟いている。しかも巫女服ってことは……。

 

「あっ、みーちゃーん! 戻ったわよー」

 

「…………ふん」

 

「えっ? みーちゃんプチアングリィ? どうしちゃったのよー?」

 

「……知らないっ!」 

 

「えー、そんなー! 機嫌直してよー、ギューっと」

 

「もう、しょうがないなー。……ギュー」

 

「あら^〜」

 

 うーん、コレコレ。この息を吸うかのようにイチャつき抱き合う様は巷で有名なうたみとというやつじゃないですかー。

 

「ヒィっ!?」

 

「及川さん及川さん、顔ヤバいって。オジサンでその顔はほんとにヤバいですよ。巫女服の子すごく恐がってるから」

 

 しまった! せっちゃんがツッコんでくれなければ捕まるところだった。あまりにも生のうたみとの尊さが激しくてつい顔が……! キリッとしないとね。

 

「コホンっ、失礼した。私は旭川の指導者及川と申します」

 

「旭川から来た勇者、秋原雪花だよん。よろしくね」

 

「わっ、私は諏訪の巫女で藤森水都と言います。今日はうたの……白鳥を助けて下さりありがとうございました! お二人とも、うちの白鳥がご迷惑おかけしてませんでしたか?」

 

 うちの白鳥……可愛い牽制だな〜もう! いけない、また顔が歪んで……。

 

「……及川さん?」

 

「ひえっ……! すみません、秋原様」

 

 せっちゃん今度は本気で怒ってる、気を引き締めなければ。

 

「オッホン。藤森様、迷惑どころか白鳥様には窮地を救っていただけました。感謝してもしきれない所存でございます」

 

「私も歌野がいなかったら正直みんなを守れなかったと思う。ほんとにありがとね」

 

「ふっふーん! 雪花にMr.及川、私はみーちゃんの神託があったからこそ急行できたんですよ? つまり一番すごいのはみーちゃんなのです!」

 

「わっ、わたしは土地神様の声を聞いてるだけですからっ……」

 

 謙遜する水都ちゃんに対してもっと褒めろと言わんばかりに胸を張る歌野ちゃん。2人はまったく真逆の性格なのに見ていてとても心地が良い。

 

「さ、立ち話もなんですし食事でもしながら今後についてゆっくり話し合いましょう! 麺類至高の信州蕎麦をご馳走しますよ!」

 

「……蕎麦が麺類……至高?」

 

 ラーメン好きのせっちゃんから若干ピリついた空気が流れてるけど歌野ちゃんはやっぱり蕎麦が大好きなんだね。

 

「ごめんなさい、白鳥は四国の勇者と蕎麦とうどんどちらが優れているかいつも張り合っているので……」

 

 申し訳なさそうに水都ちゃんは言うけど私は他のことが気になった。

 

「四国にも勇者様がおられるんですか?」

 

「はい、といっても無線の通信で連絡を取るだけで……バーテックスのせいでそれ以外の交流はできてないんですけどね」

 

「ふぃー、とりあず及川さんをゴールドタワーに括り付けるハメにならなくて良かったにやぁ……」

 

 せっちゃんが心底安心したようにつぶやく。

 

「ついでに言うと私が諏訪湖に沈むこともなくなりましたな」

 

「ワッツ!? 2人とも何言ってるの!?」

 

 もし四国と諏訪に安全地帯がなかったときの住民達に掲げた公約だけど、たしかになにも知らない歌野ちゃん達には意味不明だろう。

 

「あー……実はかくかくしかじかでして──」

 

 私は北海道から諏訪に来た経緯を歌野ちゃん達に説明した。もちろん私の正体や勇者であるシリーズのことは隠しながら。

 

「──アイシー、つまり貴方達北海道の皆さんの最終目標は四国であると?」  

 

「ええ、その途中で諏訪にも安全圏があることを知り、避難させてもらったのです」

 

「もちろんタダでは居座るつもりはないよ? 滞在している間は私が用心棒として化物退治するし、避難民達にも働いてもらうから」

 

「あーそれは全然、いくらでもいてくれて構わないわよ?」

 

 歌野ちゃんはあっけらかんと私達の滞在を許可してくれた。やっぱり器が大きい子だ。よしっ……まずは軽くジャブを打とう。

 

「そこで……なんですが白鳥様に藤森様」

 

「なんです?」

 

「なっ、なんでしょう?」

 

「貴女達お2人も我々と四国へ避難してもらえないで

しょうか?」

 

「お断りします」

 

 歌野ちゃんは寸分の迷いもなく私の申し出を断った。そりゃそうだよね……。

 

「わっ、わたしもうたのんが行かないなら行きません!」  

 

 水都ちゃんも強い意志を秘めた眼で断りの宣言をした。

 

「……無粋ですが、一応理由を伺っても?」

 

「もちろんMr.及川の申し出は嬉しいわよ? この諏訪にいるのが私とみーちゃんだけなら喜んで乗ったでしょう」

 

 わざとらしいお辞儀をした後に、歌野ちゃんは今日出会って初めて厳しい顔をする。

 

「私には1万と281人の守るべき民がいます。私が彼らを見捨てることは決してありません! あっ、もちろん貴方達北海道からの避難民も数に入ってますからね? 安心してね?」

 

 目の前の少女は最後に少しだけ茶目っ気を出して明るい笑顔に戻る。

 

 ちくしょう……最高に格好いいけどどうしよっか。

 

 

 





おいっち 遂に百合好きという設定が活かされたがはたから見るとただの気持ち悪いオジサンでしかない。百合好きオタクが行き過ぎてるのでうたみとを2人だけの愛称であるうたのんとみーちゃんで呼ぶことはない。

秋原雪花 同じ境遇のうたのんと出会えてテンション爆上がり中。しれっと1人で星屑500体くらいを屠っている。ツッコミ型勇者の片鱗を見せ始めている。

白鳥歌野 普段は変な話し方だが、電話や手紙だと何故かきれいな丁寧語になる。勇者+指導者+農業=王

藤森水都 うたのんが心配で結界まで迎えに行ってみれば知らない女の子と仲良さげで脳が破壊された。

矢を射出する進化体 乃木若葉は勇者であるの序盤の方に出現した星屑を巨大化させて口から大量の矢を放つ進化体。完成体バーテックス──サジタリウスの祖先?

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