北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年4月23日 この体でオールはしんどい。腕力は確かにあるけどそれ以外なにもメリットがなくて辛い。もっと農作業に精をだして鍛えよう。】



北の指導者と諏訪の王

 

「──以上が私が勇者になった日のこと、そしてみーちゃんとの馴れ初めになります」

 

 暗闇と静寂に包まれた空気、蝋燭の明かりが1つだけ灯る諏訪大社上社本宮の本堂。私と相対して正座するのは金糸梅を連想させる装束に身を包む少女、勇者──白鳥歌野。

 

 彼女が語ったのは凄惨で悲惨な思い出話だった。1人の少女が突然戦禍に巻き込まれ、両親や友人達を失った実話。とてもじゃないが、やすやすと人に話せる内容ではないだろう。それでも歌野ちゃんは話してくれた──

 

「……貴重なお話ありがとうございました」

 

 目の前の勇者に私は平伏する。怒っているわけではないが普段のフレンドリーな雰囲気とは違った歌野ちゃんに私は緊張を隠せない。

 

「1つ伺いたいのですが、なぜこの話を私だけに?」

 

「後ほど雪花にも話すつもりです。ですが──」

 

 歌野ちゃんは立ち上がると私の目の前に座り込み目と鼻の先までその顔を近づける。

 彼女の顔が良すぎておもわず中身が女の私でも取り乱しそうになる。

 

「この場に雪花がいたら余計なフォローをしかねないわ。私は本当の貴方を知りたいの。でも本当の貴方を知るにはまず私のことも知ってもらわないと」

 

「し、白鳥様……?」

 

 歌野ちゃんはそう告げると私の頬を両手でつかみ目を合わせる。絶対に逃げることは許さないと言いたげに。

 先に歌野ちゃんがトラウマとも言うべき辛い思い出を話してくれたのは誠意と覚悟のあらわれだろう。そして互いに腹を割って話そうという暗示だ。

 

「貴方は本当は何者? 私の勘がただの中年男性ではないと告げてるの」

 

「……勘ですか?」

 

「おかしな点はたくさんあったわよ。1つ1つ説明しましょうか?」

 

「いえっ……結構」

 

 我ながら腹芸が下手だと思う。歌野ちゃんは聡い子だ。動画の撮影を提案した時点で私がただの人間でないことを察して泳がせていたんだ。いや、あるいはもっと前からか。

 全ては諏訪の人々のため、私の正体を突き止めることも必要だと判断したんだろう。

 

「あまりに突飛な話ゆえ、かなりショックを受けると思います。……歌野ちゃん、君にとってはかなり酷な話もあるよ。それでも聞く?」

 

「もちろん。あと、その話し方のほうがチャーミングで良いわよ? そっちにして」

 

 ごめん、せっちゃん。せっちゃんにも辛い役回りをさせることになる。でも私は歌野ちゃんの真っ直ぐな誠意を裏切れない……。

 

「……うん。では、私はこの世界の人間ではありません。元は別世界の女子高生でした──」

 

 

────────────────────────

 

 

「はい水都、これ飲んで。だいぶ落ち着いたかな?」

 

「うん、ありがとう秋原さん」

 

 秋原さんは私に気遣いの言葉をかけながら温かいお茶を淹れてくれた。私の家なのにやらせてしまって申し訳ない。

 

「ごめんね? 私のお守りなんかさせちゃって」

 

「いいのいいの。歌野にも頼まれたけど私がそうしたいだけだから」

 

 秋原さんはまた私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。なんだか心がやすらぐ、うたのんとはまた違った不思議な雰囲気だ。

 

「ねぇ、秋原さん」

 

「ん? なんじゃい?」

 

「……やっぱり諏訪は近いうちに滅んじゃうのかな?」

 

「それは……」

 

 秋原さんは先程とはうって変わってとても苦しそうな顔をする。悪いこと聞いちゃった……。

 

「ご、ごめん! 変なこと言って。でも大丈夫だよ、 諏訪にはうたのんがいるから!」

 

「水都……」

 

 明るく振る舞う自分がしらじらしい。本当はすっごく不安だし怖いよ。私が折れないのはうたのんがいてくれるから。でも本当に諏訪が滅んでしまうならせめてうたのんだけでも──

 

『話の途中でごめんよ。雪花、伝えたいことがある』

 

「わ、コシンプちゃん!?」

 

 コシンプちゃんはいきなり家の壁を透過して現れた。びっくりした、精霊ってそんなこともできるんだ。

 

「要件は大体わかるけどなにかな?」

 

『及川が歌野に堕とされた』

 

「えっ……? 及川さんが堕ちるってなにが……」

 

 うたのんは1対1で及川さんと勇者になった時の話をするって言ってたけど一体なにをしたんだろう?

 

「はぁーあ、そんなことだろうと思ったよ。歌野めー、私に席を外させたのはこれが狙いか」

 

「えっと……どういうこと?」

 

 秋原さんは納得した表情をしたあと軽く頭を抱えていた。

 

「ま、そうなれば私は私の役目を果たすまで……。及川さんが上社本宮に行く前にあらかじめ相談しててね。及川さんが駄目そうなら水都には私から説明するって決めてあったんだ」

 

「説明……?」

 

「そだよん。そもそもなんで私達が諏訪に寄ったのかとか動画なんて撮ってたりしてたのかも含めてね。水都、これからかなりキツい話するけどいい?」

 

「う、うん。私も知りたい! うたのんや諏訪の人達のためになるなら!」

 

 及川さんや秋原さんは私達でしか知り得ない諏訪の苦境や四国との微妙な関係も以前から知っていたように思えた。そうでなきゃ諏訪の動画を撮って四国にアピールしようなど思いつかないだろう。

 秋原さん達からならきっとこの状況を打破できるヒントを得られるかも知らない。

 

「よし、わかったよん。実はね、かくかくしかじかで──」

 

 

────────────────────────

 

 

「──そんな……そんなことって……!」

 

 秋原さんから伝えられた内容は私が想像してたよりも残酷な話だった。とてもじゃないけど信じられなくて……信じたくなくて。

 及川さんは別世界の人間で私達の世界は誰かが作った物語だったとか。その物語もこの現実と同じで、四国からの救援もなく結界の範囲も狭っくなっていって。そして諏訪とうたのんの本来の役目は……。

 

「……ふざけないでよ」

 

「っつ……!?」

 

 駄目……! 秋原さんは全く悪くない。及川さんだって私達の運命を変えるために動いてくれていたことは理解できた。……でも……でも堪えられない……!

 

「ふざけるのも大概にしてよ!! それじゃあまるでうたのんは……うたのんは架空の物語で最初から四国の捨て駒に設定されたキャラクターって言うの!? そんなの、ひどい……ひどすぎるよ!!」

 

「水都……ごめんね」

 

 自分でもびっくりするほどの勢いで怒鳴っちゃった……。それなのに秋原さんはただ悲しそうに微笑んでくれていて──

 

「私こそごめんなさい! 秋原さんは悪くないのに当たっちゃって……。私……最低だ」

 

「いんや、誰だって自分達が必死に生きてるこの世界を誰かが作った物語なんて言われたら怒るよ。私も最初はかなり困惑したしね」

 

 秋原さんは困ったように笑いながらお茶をすする。

 

「でもさ、私が困惑だけで済んだ理由。今なんとなくわかっちゃったなー」

 

「どういうこと?」

 

「水都ってば自分じゃなくて歌野のために怒ってたじゃん。歌野の頑張りや努力も誰かの筋書きだから全部無駄と言われてるみたいで嫌だったんでしょ?」

 

「うん……私は全然いいの。でも、うたのんがすごい侮辱された気分になっちゃったんだ」

 

 秋原さんの言う通りだよ。うたのんは本当に辛い目に遭い続けてきたのに、それでも私達諏訪の住民に希望を与え続けてきてくれた。作り物じゃなくて本当にすごい人間なんだ。それを否定されたみたいで……私は許せなかった。

 

「妬けるねー。そう思える人がいるって羨ましいにゃあ……。今の私にはおいっちや歌野や水都がいるから寂しくはないけどさ。昔はけっこう寒かったもんだよ」

 

『ひどいなー、雪花。ボクは昔からいたじゃないかー?』

 

「もちろんコシンプにも感謝してるよ? でもそれはそれ、これはこれなのさ」

 

 そっか……。私は自分がかなり無神経な言動をしていたことを後悔した。

 きっと秋原さんは今の及川さんと出会う前は頼れるのはコシンプちゃんだけで……。信頼できる人間なんていなかったんだ。ずっとずっと孤独に戦い続けてきたんだ。

 

「ねぇ……私もっと秋原さんの事知りたい。話してくれる?」

 

「じゃ、まずその秋原さんって他人行儀な呼び方辞めてほしいかな。だいぶ仲良くなったと思うのにちょっと距離感あるなーって」

 

「あ、ごめん。私、結構名字で呼んじゃう癖あって……。うん、よろしくね雪花ちゃん」

 

「アハ、こちらこそ改めてよろしくねん。じゃ、私の身の上話でも……と、その前においっちは大丈夫かなー? 歌野は歌野で水都のことをかなり思ってるみたいだし。半殺しとかにされてなきゃいいけど」

 

「ふふっ、大丈夫だよ。うたのんは絶対にそんなことしないから」

 

「ほう、その心は?」

 

「それはうたのんがうたのんだから──」

 

 

 

────────────────────────

 

 

「──以上が私の正体と別世界の話、そしてこの諏訪に来た理由なの」

 

 歌野ちゃんは私の話を最後まで怒らずに聞いてくれた。リアクションもときおり腕を組んで相槌を打つくらいだった。

 

「「…………………」」

 

 せっちゃんの時とはまた違う緊張感が走る──

 

「なるほどね、つまりMr.及川はMr.じゃなくてMs.だったのね……アメイジング!」

 

「ツッコむとこそこ!?」

 

 歌野ちゃんの脳天気な第一声におもわず大声を出してしまった。歌野ちゃんはいつもと同じ明るい顔になり悪戯な笑み浮かべる。

 

「私のことはともかく歌野ちゃん達に関してはひどいこと言っちゃったんだけど……」

 

「まぁ確かに、別世界じゃ私達がやっぱり囮で全滅したのはかなりショックよ? 薄々分かっていた事とは言え、四国からの救援は信じたかったし」

 

「う、うん……」

 

「でもそのおかげで四国は戦う準備ができて最終的に遠い未来の世界は平和になったんでしょ?」

 

「いや、そうだけど……」

 

「グッジョブ! 別世界の私!」

 

 歌野ちゃんは勢いよく立ち上がると、天井をあおぎながら親指を立てていた。

 

「ま、別世界は別世界でここはここよ。別世界ではMs.及川なんて存在もなく、雪花が北海道を出るなんてシナリオはなかったんでしょ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「ということはもう貴女の話す物語は破綻してるのよ。グレートなことじゃない、きっとこの世界の私達の結末も変わるわ」

 

 歌野ちゃんはニカッと笑いながら無邪気に私の背中をバシバシと叩く。

 

「はぁ、歌野ちゃんにはかないませんな……」

 

 本当に大きい子だ。諏訪に来てからというものの、つくづく歌野ちゃんとの指導者としてのレベルの差を見せ続けられている気がする。

 

「ふふふ、それ程でもありますよ。でもまぁ……ね」

 

 歌野ちゃんの両腕が私の背に回り彼女の香りと体温を感じる。自分より遥かに体格の小さい少女に私は抱きしめられていた──

 

「ちょっ……歌野ちゃん?」

 

 どうしていいかわからない。けどこうして触れ合ってみると、器が大きくてもまだ子供なんだ。

 こんな儚い少女が色んなものを失いながらも1万人以上の命を背負ってるなんて……この世界は本当に残酷だと思う。

 

「話してくれてありがとう、そして私達のために色々と動いてくれてありがとう。本当に嬉しかったわ。これで私も踏ん切りがつく」

 

「……踏ん切りとは?」

 

 歌野ちゃんは私から離れると再び姿勢を正して対面に座る。

 

「今度の勇者通信は乃木さんだけでなく大社の人にも参加してもらう。そこで四国に正式な救助要請を行います。そしてMs.及川、その通信には貴女にもぜひ参加してほしいの」

 

「私からお願いしようとしていたことですが……ほんと、歌野ちゃんの前では格好がつかないね。ぜひよろしくお願い致します」

 

 四国との勇者通信、この世界の大社や神樹の真意を知るためにも絶対に参加したかった。その通信で私達や歌野ちゃん達の運命が変わるといっても過言ではない。

 

「──ちょいちょいお二人さん、私はまたハブですかな?」

 

「せっちゃん!? いつの間に!」

 

「私でも気づかないとは……雪花、やるわね」

 

 上社本宮の本堂の外にはいつの間にかせっちゃんが立っていた。そして──

 

「うたのんが男の人とハグしてた。うたのんが男の人とハグしてた。うたのんが男の人とハグしてた」

 

 目からハイライトが消えた水都ちゃんが後ろに控えていた。

 

「水都落ち着いて。アレは外見はオッサンだけど中身は女子高生だからセーフだよん。たぶん」

 

「は、そうだった! 女の子同士なら別に……いや良くないよ!」

 

 キレキレのノリッコミをする水都ちゃんからは若干憎しみを込められた目を向けられてるけど……。どうやらせっちゃんが色々と説明してくれたみたいだね。

 

「せっちゃん……辛い役割ありがとね?」

 

「お安い御用だよんそれくらい。おいっちもお疲れ様」

 

 せっちゃんと互いに拳を出して突き合わせる。ほんと、丸く収まってよかった。

 

「雪花、仲間はずれにしちゃってごめんなさいね? 貴女にもちゃんと話すわ。そうだ! 今日は私の家に泊まってちょうだい。夜通しガールズトークよ!」

 

「お、いーねー! おいっちも泊まるでしょ?」

 

「え、いや私は……」 

 

 さすがにこの美少女パラダイスの中に外見は完全にオジサンの私が入り込むのは気が引ける。せっちゃんには悪いけど遠慮しよう。

 

「……及川さん、私もあなたとは色々とお話したいので遠慮なさらず。うたのんのことどう思っているとかね。有無は言わせませんよ?」

 

「ア、ハイ」

 

「それじゃ! 私達の家までレッツらゴー!」

 

 白鳥歌野、藤森水都、秋原雪花、そして私及川──本来の物語では出会うはずがなかった私達4人の不思議な女子会は朝まで続いた。

 

 





及川(JK) 歌野の激しすぎるスキンシップに自分の中身が女で本当によかったと思っている。

秋原雪花 みーちゃんに感情をぶつけられて実はけっこう嬉しい。より友情を深めることができた。

白鳥歌野 平和な世界なら多くの男の子を勘違いさせるムーブをしていた。

藤森水都 今度は及川に脳破壊させられた。ツッコミ型巫女としての素質がある。
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