【2018年4月24日 歌野ちゃんと水都ちゃんに私の正体を明かした後、せっちゃんを含めて4人で今後の方針を話し合った。まだまだ詰めたいところはあるが、明日の通信で四国からいい返事が聞けることを願う。】
私、四国勇者──乃木若葉の朝は早い。
午前5時──決められた時間に起きて身支度をする。乃木家の跡取りとして身嗜みにも気を遣わなければならないが、そんなことよりも鍛錬に時間を割きたいものだ。
支度は幼馴染であるひなたが手伝ってくれている。彼女は毎朝私よりも早く起き、身を清めている。幼馴染ながら本当に感心する。
「毎朝すまない。ありがとう」
「いいんですよ。私が好きでやっていることですから。はい、終了です。今日も可愛いですよ?」
ひなたは私の髪を丁寧にほくじながら髪を結ってくれる。朝の鍛錬で崩れてしまうので適当でいいものを一切の妥協なしに行ってくれている。流石はひなただ。
午前5時半──支度が終わると寮を出て、まずはストレッチと軽いランニングから初めて身体を温める。
「ふっ……ふっ! はぁっ!!」
身体が温まったら木刀を使った素振りと型稽古を行う。元々乃木家は居合いの流派で私は祖母から嫌というほどその技術を叩き込まれたが奴らと戦うためにはそれだけでは足りない。様々な流派の書物や師匠達から手解きを受け、自分のものにしていかねばならない。
午前7時──朝の鍛錬を終えたら寮に戻り、シャワーを浴びて朝食をとる。学校もあるため、もう一度ひなたに身支度を手伝ってもらう。この時間は少しだけ慌ただしい。
午前7時半──寮から丸亀城内の教室へひなたと向う。城までの道は急な坂が続くため、これもまた足腰に良い鍛錬になる。
「若葉ちゃん、今日は朝練からいつになく気合いが入っていましたね」
「……ひなたにはなにもかもお見通しだな。今日の通信のことを思うとつい力が入ってしまってな」
定期的に行われる諏訪との勇者通信。通信相手は諏訪の勇者白鳥歌野。私達四国が2年半以上も安寧を得ている中、彼女は1人で最前線に立ち続けていてくれている。彼女に報いるためにも私は1日も早く援軍に馳せ参じたい。
そして今回、普段は私1人に任せられている諏訪との通信に大社の人間も参加するという。大社としても現在諏訪に駐留しているという北の生き残りと勇者についての詳細を把握しておきたいのだろう。
「今日は大社の神官も同席する、丁度いい機会だから勇者システムの完成についても聞きたいところだな」
「最初は勇者システム自体は1年で完成すると聞いていたのですが……。ごめんなさい、勇者付きの巫女である私でも開発関係には口を出すことができないんです」
「気にするな。ならば私が自ら大社に問いただすまでだ」
勇者システム──人類の敵であるバーテックスに対抗するために大社が開発している勇者専用の装備。私達勇者は常に持ち歩いている武具さえあればある程度は戦うことができる。私も天災の日に賜った愛刀生太刀を頼りに島根から四国まで戦端を切り開いてきた。
しかしながら勇者システムが完成すればより勇者の性能はさらに向上し、諏訪への援軍も夢ではないとの話だ。
「もう2年半以上も私達は白鳥さんに頼りきりだ。早く現状をなんとかしないとな」
「……そうですね」
午前8時──寮と教室は近いので、この時間には私とひなたは教室の清掃や黒板の準備をする。6人しかいない小さなクラスだが、暫定のリーダーとして皆が快適に過ごせるように環境作りは欠かせない。
そしてこの時間になってくるとぞろぞろと仲間達が教室に入ってくる──
「よーしっ、今日こそタマが一番乗りっ……てなんだー。若葉達もういんのかよ。相変わらず早いな」
「ふっ……土居よ、私達に勝ちたければあと30分は早く登校することだな」
最初に教室に入ってきたのは土居球子、私達の中で一番小柄だがそれを思わせない活発さでいつも私達の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカーだ。
「タマっち、別にそんなに張り合う必要ないって。あっ、若葉さん、ひなたさんおはようございます」
「ああ、おはよう伊予島」
「おはようございます杏さん」
続いて本を読みながら入ってきたのは伊予島杏、学年は私達や土居より1つ下だが、読書家のしっかり者で既に土居に勉強を教えているらしい。少し気と身体が弱いのが玉に瑕だが、いずれは克服してくれるだろう。
「コラ、杏! 挨拶する時くらい本閉じろ! あとタマも一応先輩なんだからちゃんと先輩をつけろ!」
土居と伊予島は実の姉妹のように仲が良く、いつも2人で登校している。……常々思うがタマっち呼びとタメ口はいいんだな。
「はーい、わかったよ。タマっち」
伊予島は土居の注意にも特に気をとめず本を読み続けている。それもいつものことだから私もひなたも気にしてない。
「全然わかってないじゃないか……コノ! コノ!」
「あっ、ちょっと……胸を揉むのはやめてぇー!」
土居は少し特殊なところがあり、伊予島の大きい胸をよく触る。胸なんてあっても邪魔なだけなのになぜそんなものにこだわるのだろうか。
「若葉ちゃんも……球子さんみたいに私に来てくれていいんですよ?」
ひなたはなぜか頬を赤らめて自らの胸を差し出してきてきた。うむ、相変わらず大きいな。
「ああ、うん。今度な」
「あーん、もう! 若葉ちゃんのいけずー」
……そんなこんなでもはや登校時間はこのやりとりが習慣化している。少し騒がしいが険悪な雰囲気ではないのでまぁ、いいだろう──
「──邪魔」
「あっ、ごめんなさい千景さん」
「おっ、おう。すみません千景先輩」
教室の入口で騒ぐ土居と伊予島を一瞥して赤いカーディガンを着た長い黒髪の少女はそそくさと自分の席に着く。
「おはようございます、郡さん。すみません、私が諌めるべきところでした」
「……別にいいわよ」
彼女はそれだけ告げるとイヤホンをして自分の世界に入ってしまった。
彼女は郡千景、私とひなた、土居より1つ学年が上の先輩だ。基本的に無口で常に携帯ゲームをしているため取り付く島がない。
私自身、2年半以上も一緒に過ごしているが未だに大きく距離を感じる。もっと私からも歩み寄るべきなのに口下手な自分が情けない。
午前8時半──この教室の始業時間だ。
「皆様、おはようございます。始業の伝達事項を伝えます」
時間になると大社の神官が伝達事項を伝えに来るが今のところ大した内容はない。
そして義務教育を受けているとはいえ学年もバラバラな教室ゆえ通常の授業もあまり行われない。午前中は各自課題をこなしてわからなかったらその時に教室にいる教師に聞くというスタイルだ。
もっとも午後に行われる勇者やバーテックスとの戦いに関する授業に関しては専門家や教官がついて重点的に行っている。
故に普通の学校のように担任教師がいるわけでも行事があるわけでもないが、有事だから仕方なかろう。むしろこうして学校に通えているだけ私達は幸福だ。諏訪の白鳥さんは学校がなく、そもそもそれどころではないとの話だったからな。
そういえば始業時間になったのに未だに来ていない私と同学年の仲間がいたな。そいつは──
「よし! セーーフ! 高嶋友奈、ただいま到着しました! 今日もよろしく勇者です!」
教室のドアを勢いよく開けられる──入ってきたのはいつも笑顔でとびきり明るい私達の第二のムードメーカーにして緩衝材、奈良からやって来た勇者、高嶋友奈だ。
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「はーぁ、ひどいよねー。遅刻扱いって。ギリギリ間に合ったのに」
「いや……友奈、あれは余裕で遅刻だったと思うぞ」
午後12時──私達6人は食堂で共に昼食を摂る。チームの連帯を高めるために私から提案したのだが、土居と郡さんからは重苦しいと反対されてしまった。そんな時、友奈の「みんなで食べたほうが美味しいよ」の一言で実現することができた。
「うーん、若葉ちゃんが言うならしょうがないね。明日から遅刻しないように頑張るぞ!」
「高嶋さんを遅刻扱いした神官は直ちに更迭されるべきよ。それかこの鎌で……」
「郡ちゃん!? 気持ちは嬉しいけどそれはさすがに物騒すぎるよ!」
「フフ、冗談よ高嶋さん」
やれやれ、寮と教室はさほど距離もないのにどうしてよく遅刻ギリギリなのか。
それはともかく友奈には本当にいつも助けてもらっている。友奈は常に皆の空気を読み、個性的な仲間達の間を繋ぎ止めていてくれる。普段は独りを好む郡さんも友奈がいれば皆の輪に入ってくれるし雰囲気も良い。
「そーいや、若葉。今日は向こうさんとの通信、いつもより早めにやるんだってな」
「ああ、私だけ午後の訓練を抜けるが皆、頼んだぞ」
土居が鍋焼きうどんをすすりながらぶっきらぼうな調子で聞いてくる。
今日は大社の神官との兼ね合いもあり、いつもより通信の時間は早く午後の授業中だ。リーダーとして席を外すのは少しだけしのびない。
「諏訪との通信かー。諏訪の白鳥歌野さんって子、どんな子なのかな。お友達になれたらいいなー。ね、郡ちゃん」
「え……ええ、そうね高嶋さん。……なによ、1人で戦えるくらいで」
「わ、私は1人にされたらとてもじゃないけど戦える気がしないです……」
「諏訪でも四国でも杏にはタマが必ず付いてるから心配すんな。安心しタマえ。それにしてもその白鳥ってやつ、もう2年半以上もバーテックスと戦い続けてんだろ? すげー強いんだろうな」
諏訪の白鳥さんに対して各々の印象はバラバラだ。私以外は話したことすらないから仕方ないか。私も声だけで、直接顔を見たわけではないがな。いつか全員で会える日が来れば良いのだが……。
「ああ、白鳥さんはとても強くて芯のある人だ。本当はお前達にも1度くらい通信に参加してほしいんだが……すまない、大社には原則私以外は通信を行ってはいけないと言われててな」
「いーよいーよ! 若葉ちゃんの土産話楽しみにしてるね♪」
友奈は明るく応えてくれたものの、諏訪との通信は機密保持の問題とやらで私にしか許されていないのが口惜しい。きっと友奈なら真面目な白鳥さんともすぐ仲良くなれただろうに。
「──さて、そろそろお昼休みも終了ですね。私は巫女の修行に行きますので。お先に失礼しますね」
ひなただけは巫女なので午後の授業は大抵は別メニューだ。私に会えなくて心細いとかいつも言っているが、ひなたのことだからそつなくこなしているのだろう。
「あ、そこでなんですが千景さん。午後の授業は若葉ちゃんの代わりに皆のまとめ役をお願いしてもよろしいですか?」
「……なんで私が」
去り際のひなたに午後の授業のまとめ役を指名された郡さんは明らかに不機嫌そうな顔をした。
「千景さんは私達の中で一番の年長者で、誰よりも状況を冷静に見れてます。他に適役はいるでしょうか?」
「そ、そんなことは……」
「アイアイサー! 郡ちゃん臨時リーダー! よろしくお願いしますであります!」
「うっ……高嶋さんが言うなら……今回だけよ」
……やはり郡さんは友奈が絡めば対応が柔らかくなる。今度友奈にどうやったら郡さんとも仲良くなれるか秘訣を聞いてみよう。
「すみません、郡さんよろしくお願いします! では私も通信室に行きますので──」
「……フン、早く行きなさいよ」
一足先に食堂を抜けて通信室へ向う。大社の神官ともそこで落ち合う予定だ。
午後13時30分──通信室の前で大社の神官と合流した。丁度いいので勇者システムの進捗について聞いてみよう。
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「──現在勇者システムは最終調整段階に入っていると聞きます。ですが具体的な実装まではまだ時間がかかるようでして……」
「もう2年半以上も諏訪に負担を強いているんですよ? 元はといえば四国と諏訪で敵を挟撃する話ではなかったのですか?」
諏訪との通信が始まった頃、神樹の神託と大社の方針はそうだったはずである。だがいつからか、大社は静観を決めこみ挟撃の話などなかったようにすらみえる。
「そちらに関しては……如何せん私は部署が違うので分かりかねるんですよ。乃木様、申し訳ありません。近日中に関係部署に問い合わせてみましょう」
大社の神官はのらりくらりと私の質問を躱しているようにみえる。大社は本当に諏訪に援軍を出す気はあるのか? 諏訪の結界は日に日に縮小し、敵も強くなっていると聞く。ここのところ状況は悪化すれど好転は何一つとしてない、とても心配だ。
「そうですか……出来るだけ早く返答をお待ちしております」
「ええ、それはもう。なにを隠そう勇者筆頭である乃木様のご所望ですから」
勇者筆頭か……。私は大社には期待をかけられているが、7.30天災の日の初陣で島根から避難民を先導して以来、結局勇者らしい活躍をしていない。
避難民を導けたのも巫女のひなたの尽力であり、初陣にしても他には奈良から避難民を導いた友奈や星屑相手に白星をあげた土居だっている。
そして遥か遠くの諏訪にはたった1人で敵と戦いながら1万を超える民を率いる白鳥さん。さらにその白鳥さん曰く遠くの北の大地からは避難民達を率いるとても英明で勇猛な勇者がいるらしい。
私は勇者としてもリーダーとしてもまだまだ未熟者だ。井の中の蛙大海を知らずというがまさに四国はその井ではないかと最近は思う。
だが任せられたからには立派に役目を果たさなければ。仲間を率いて、私の友人達や多くの人々を殺した化物共には必ず報いを受けさせる。それが乃木の女としての矜持だ。
午後14時──諏訪との勇者通信が始まる。
『諏訪より白鳥歌野です。乃木さん、聞こえていますか?』
「四国より乃木若葉だ。聞こえているぞ。本日もよろしく頼む」
『ええ、こちらこそよろしくお願いします。では以前伝えた通り、まずは北からの食客を紹介しますね。遥か遠くの北海道の勇者、秋原雪花さんです』
『どもっ、北海道は旭川で勇者をやっていた秋原雪花です。乃木さん、よろしくお願いシャス!』
通信機からは聞き覚えのない明るい少女の声が聞こえてきた。
「ああ、こちらこそ! よろしく頼む! 白鳥さんの他にも実戦経験豊富な勇者がいたとはな……とても心強いぞ」
『おっ、歌野の言う通り、四国の勇者はカッコいい話し方ですな』
「あ、すまみません。幼い頃からの話し方が抜けていないものでして……」
しまった……。初対面というのについいつもの話し方になってしまった。偉そうだと思われていないだろうか?
『ううん、いいのいいの。嫌味で言ったわけじゃないから。お互い勇者同士気楽にいきましょうよ』
「フッ、そうか。ならこのままでよろしく頼む」
『うんうん、そうこなくっちゃ。……まぁ、どっかの誰かさんは通信では相当猫被った話し方してるみたいだけどねん』
『? 一体誰のことなんでしょうね。さて、秋原さんの次は北の避難民達のまとめ役である及川さんに挨拶してもらいましょうか。及川さん、お願いします』
秋原雪花と名乗る勇者はやや軽薄そうな印象だが、気さくで話しやすい人だ。それに白鳥さんが勇者として認めている以上間違いなく実力はあるのだろう。
そして今日はあちら側からもう一人通信に参加するという。その人は──
『僭越ながら白鳥様からご紹介にあずかりました。北の指導者、及川です。四国の勇者様と言葉を交えることができるとは、とても光栄に感じております。以後、お見知りおきを』
「ええ、こちらこそ光栄です。よろしくお願いします……」
秋原さんとは打って変わって如何にも権力者という低い男性の声が通信機から響き渡る。
何故かはわからない、だが私はこの男からは得体のしれない不気味さを感じていた──
乃木若葉 勇者であるシリーズ3作目である乃木若葉は勇者であるの主人公。戦闘スタイルは刀を用いた近距離型で四国勇者の中でも随一の実力を誇る。責任感がとてつもなく高く、それが原因で自分を苦しめてしまう面もある。乃木家の家訓である「何事にも報いを」の教えを徹底している。
上里ひなた 勇者乃木若葉を見出した巫女であり、若葉の幼馴染で彼女を公私ともに支える。長い黒髪に身につけた赤いリボンと右目の涙黒子が特徴。四国の神樹には一番気に入られている巫女らしくその実力も高い。胸が大きい。
土居球子 ボーイッシュで活発な勇者。旋刃盤というワイヤー付きの盾のような特殊な武具を扱う中〜遠距離型の技巧派。やや粗暴な印象もあるが、のわゆ原作の序盤では先輩である千景に対してはちゃんと敬語で話す。
伊予島杏 フィジカルは弱いが頭脳に優れた軍師型勇者。クロスボウを用いた遠距離攻撃を担当する。シリーズでも屈指の正統派美少女で胸が大きい。
郡千景 基本的にもの静かで何処か影のある勇者。鎌を用いた近〜中距離の戦闘を担う。ゲームが大好きで常に持ち歩いている。普段は無愛想だが高嶋が絡むとなぜか対応が柔らかくなる。
高嶋友奈 勇者であるシリーズの代表的主人公である結城友奈に姿型がほぼ同じの不思議な勇者。天然気味で抜けてる面もあるが、空気を読むことに長けており自然と仲間内の雰囲気を良くする。武器は手甲で最も敵に接近して戦うインファイター。