【2018年1月8日 今日から心機一転、新しい自分になったつもりで日記をつけようと思う! 怪しい儀式や呪術はもうやめた。その分これからはせっちゃんや街の人ともっと交流を深めていこう。】
「よいっしょ! よいっしょっと!」
スコップを使って穴を掘り進めていく。男の身体になったとはいえ手作業で大きな穴を掘るのはなかなか大変だ。それでも私にはこれくらいしかできないから……。
「みんなごめんね、こんなことしかできないけど安らかに眠ってね」
及川の部屋にあった呪術用のミイラ化した動物達、1匹ずつその亡骸を綺麗な布でくるんで埋葬していく。
最後の亡骸を手にするとなんだか不思議な感覚がした。……うーん、及川が最期まで持ってた狐ちゃん、この子の亡骸だけ他の子達よりも明らかに古い気がするんだよねぇ。
「……本当になにか呪術的な力があったのかな?」
まぁ、今更そんなことはどうでもいっか。とにかく今は過去の私が粗雑に扱ってしまったこの子達に祈りを捧げるだけだ。それが今の私にできる最大限の償いだから。
「及川さん、私達も共に祈るとしましょう」
「皆さん、ありがとうございます」
線香を立て花を添えていると、昨日屋敷に迎え入れたお婆さんを中心に街のご老人達や小さな子ども達が一緒に祈りを捧げに来てくれた。
「……アイヌの言い伝えでは狩猟した動物に感謝し丁重に弔うことで、再度人間界に恵みをもたらしてくれるとあります。及川さんが過去の行いを悔い改めて弔ったことで、きっとこの動物達も再びカムイとして勇者様の力になってくれるはずです」
「だと良いんですけどね……。ほんと、今更遅いけどごめんなさい」
ご老人達に頭を下げ、もう一度墓に向けて祈りを捧げた。
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屋敷に戻ると広間で及川の遺した資料も参考にしながら、ご老人達と現状の確認を行った。昨日の襲撃のショックで記憶が曖昧と説明すると快くみんな話を聞かせてくれた。
現在の北海道の生き残りの総数は110人──
7.30天災により人類の大半が星屑に喰い殺されたあの日、ここ旭川市神居町神居古潭も例外ではなく大くの住民が犠牲になった。勇者として覚醒したばかりのせっちゃんが駆けつけてくれたことでなんとか全滅は免れたとのこと。
四国や長野と違って結界も無いから安全地帯などなく、せっちゃんが周辺の星屑を全て一掃してくれるまでの数日間は常に死傷者が出続けた。ここが比較的安全になった後の数日間は犠牲者の死体の肉片を処理することに追われていたとか……。
そして及川を中心に生き残り達で行動範囲と生活範囲を決め、有事の際にはせっちゃんを無線で呼び出してその都度対応してもらう。そうすることで現在までなんとか集落を存続させている。
「情けない話ですが我々がこうして今も生きてられているのは年若い勇者様、そして生き残り達をまとめてくれた及川さんのおかげでもあるのです」
「…………」
話を聞いていると、末期は悪辣な指導者だった及川は初期は本当に有能な名士であったことを実感する。だからこそご老人達は屋敷の前での囮役なんてアイツの非道な指示にも従ってしまったんだろう……。
そしてなによりせっちゃんだ。両親を星屑に殺されたのにも関わらずよく逃げずに一人で現在まで人々を守り続けてくれたものだ。
【命を守るためなら見苦しくもなるよ。それが悪いことだとは思わない】
いつのセリフだったか彼女はそう述べていたけどせっちゃんの行動には何一つ見苦しさなんてなかった。ゲームの世界だろうと現実の世界だろうと彼女は紛れもなく勇者だ。
せっちゃんの頑張りに報いるためにもこの世界の彼女のことをもっと知らなくては──
「勇者様は普段はどのように過ごされているのでしょうか?」
「勇者様はいつもはあまり私達の前には姿を現しませんなぁ。集落の上役達の会議にはたまに出ているようですが……」
住民達の前にあまり姿を現さないか……。無理もないだろうな。指導者は悪辣だったし他の上役もまだ1人しかまともに話してないけど恐らく大半はろくでもない。恐慌状態だから仕方ないとはいえあの不誠実さならせっちゃんも心を許してはくれないだろう。現に私がこの世界で目覚めた時もせっちゃんにはかなり冷たい目で見られてたもんね。
力にはなりたいけどこのまま話しかけても適当にあしらわれるだけだろうな。なにかせっちゃんと話すきっかけがほしい……。
「そういえば……勇者様は普段私達の前にいないときは常に周辺をお1人で見回ってくれているとか。ありがたいことでございます」
ふむ……。あまり人々の前に現れず見回りでよく1人で行動しているか……。やっぱりこの世界でもアレを作っているんだろうな。あまり強請りみたいなことはしたくないけど手段の1つとして考えておこう。
「ありがとうございます。おかげでだいぶ記憶を取り戻すことができました」
けっこう話したしご老人達とお茶でも入れて一息つこうとした矢先──
『──集落東南に白い化物が一匹侵入、勇者様至急対処をお願いします』
机の上に置いていた無線機から突如凶報が発せられた。
「及川さん、集落東南はこの屋敷も含まれます!」
「なっ!? すぐに庭で遊んでいる子供達を屋敷の中に避難させないと!」
窓から外を見るとアニメやゲームでは何回も見たことがある人類の敵──バーテックスが一匹、空を漂っている。
「あれが……星屑。思ったより大きい……!」
……ビビってる場合じゃない! 早く子供達助けなきゃ!
子供達は庭の花壇のかげに伏せて隠れている。泣くのは必死に我慢しているけどいつ決壊するかわからない。……たしか星屑は人が多い所を狙う習性があったはず! このままじゃまずい……!
「うっ、うわぁぁぁああああ! こっちだぞぉぉぉおおお!」
私は注意を引き付けるために窓から外に出て大声で星屑に向かって叫ぶ。大丈夫、奴と私は距離がある。急いで走って違う建物に隠れたらなんとかなるハズだ!
私の声に反応して星屑はゆっくりと振り返る──なんてことはなく想像以上のスピードで即座に接近してきた。
あれ? どうして? 足が動かない。そうだ、私バーテックスを直接見るの初めてだ。
怖い……! 駄目だ!
星屑が巨大な歯で私を噛み砕こうと口を開く──
「やらせないよ!」
少女の声とともに空から槍が降ってきた──そしてそのまま星屑を貫いた。
「大丈夫ですか!?」
心配の声をかけながらも、星屑を貫いた槍を抜き即座にとどめの斬撃を加える。私が恐怖で動けなくなった化物を遥かに年下の女の子があっという間に滅ぼした。
その動きは洗練されていてつい見惚れてしまった。
「は……い。ありがとうございます」
「及川さん。……私、昨日大人しくしててって言ったばかりですよね?」
せっちゃんは厳しい表情で私に詰め寄る。いくら美少女でも本気で怒っている顔は恐い。そして何より自分が心底情けない……!
「はい……。申し訳ありませんでした……」
……なにも出来なかった。散々偉そうなこと考えといて、結局足が動かなかった。せっちゃんの力になるどころか足を引っ張るようなことをしてしまった──
「お姉ちゃん! 違うの! オジサンは私達を助けてくれたの!」
「そうなのそうなのー!」
「え?」
「勇者様、子供達の言う通りでございます。及川さんは化物から子供達を守るために自ら囮になってくれました。図々しいお願いなのは承知のうえですが今回は何卒御容赦を……!」
子供達が私をかばうとご老人達もせっちゃんに平伏して赦しを請う。
「み、みんな……」
「あーちょっと! 皆さん、頭を上げて下さい!」
思わぬ助け舟に私が驚いていると、せっちゃんはすっかり毒気が抜けてしまっていた様だった。
「……そうだったんですね。ごめんなさい、及川さん。責めるようなことを言っちゃって……」
「いっ、いえ! 勇者様の足を引っ張ってしまったのは事実! 大変申し訳ございませんでした!」
「……じゃ、私もう行きますね。一応全体の見回りもしておきたいので」
せっちゃんはバツが悪そうな顔をしていると紫色の狐のような生物が愉快そうにせっちゃんの周りを漂っていた。あの子って確か……。気になるけどそれより今は──
「せっちゃん!」
「……せっちゃん? 私のこと?」
「本当にありがとう!」
私がお礼を告げたのと同時にせっちゃんは跳躍して何処かへ消えてしまった。
及川(JK) まずは集落のお年寄りと小さな子どもたちから交流を深めた。身体は偉そうなオジサンだが中身は普通の女の子なので当然星屑の前ではなにも出来ることなどなかった。なぜか精霊が視える?
秋原雪花 連日の及川さんの奇行に流石に激怒寸前になるが子供達とお年寄りの話を聞いて考えを改める。彼女と及川が心を通わせるにはまだ少しだけ時間がかかりそう。誰に習ったわけでもないのに槍の扱いがお上手。
星屑 無数に漂う天の神の尖兵。歯で噛み砕いて殺すという極めてシンプルで残虐な手法で人類の大半を死滅させた。車と同じくらい速くて大きい。人が多いところや音に反応するみたいだが、ある程度の知能もありその生態は謎が多い。