北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年1月10日 明日はせっちゃんと2人で話してみようと思う。たぶん正攻法で行ったらまともに取り合ってはもらえない。一応せっちゃんが食い付く話題のフックは用意できた。なんだか強請りみたいになりそうで気乗りしないけど腹を割って話をするところまで行かねばなにも進まない。】




北の勇者、世界を知る

 

「はいということで──」

 

「今度からは食糧は住民一人一人に対してより平等に分配を──」

 

「及川さん、よろしいですか? 及川さん?」

 

「……ええ、それでいいと思います。食糧を住民の皆さんに平等に分配するのは、我々集落を導く者の務めとして当然のことですよ」

 

「そっ、そうですな。では、満場一致ということで早速今週の食糧分配の時間を詰めていきましょう──」

 

 

───────────────────────

 

 

「及川さん、どうしちゃったのかしらね〜」

 

「なんか前より変になったんじゃないか?」

 

「まるで別人だぞ」

 

 普段と変わらない集落の上役達の無駄に長い会議。ようやく終わったみたいで集会所からぞろぞろと人が出てくるのが聞こえる──会議の内容は食糧を平等に分ける方向になったりで以前より少しはマシになってるみたい。

 それでもあの人達の腹の探り合いは終わらない。悲しいことに世界は滅びかけていても人間同士の争いはなくならないんだにゃぁ……。

 

「やはりこの間の化物達の襲撃が余程こたえたんじゃないかね?」

 

「単独で出掛けて死にかけたらしいじゃないか、いい気味だよ」

 

「どうやらその次の日も襲われて死にかけたとか。あの人のツキも終わりだな」

 

「勇者様もあんなろくでなし捨て置けばよかったものを」

 

「まったくだ、これだから子供は」

 

「やはり秋原様じゃ役不足なんじゃないか? うちの娘さえ勇者に覚醒してくれれば……」

 

「コレ、口が過ぎるぞ。誰が聞いてるかわからんぞ?」

 

 会議が終わる度にこうして利害が一致する人同士で固まって密談という名の悪口大会の始まり始まり。たった100人ちょっとの集落でもいくつも派閥がある。全く嫌になるね。

 

「……勇者の聴力なら離れていても全部聞こえちゃうんだけどなあ」

 

 集会所から少し離れた丘の上に私はいる。ここは人目につきづらく、盗み聞きをするなら持って来いの場所。この集落で生き残るためには地道な情報収集も大切なのさー。

 

 北海道旭川市神居古潭──古くからカムイの集落とされる聖域は誰よりも自分が生き残りたいという人々の欲望で今日も変わらず穢されている。

 

「まっ、私もその生き残りたい人間の1人なんだけどね。まったく今日も寒いねー、此処は」

 

けれど唯一つだけ変わったことがある──

 

「あっ! せっちゃん、ここにいたんだね? 探したよー!」

 

「そのせっちゃんて呼び方やめて下さい。正直言って気持ち悪いです」

 

「ごめんごめん。コホンっ、いや、申し訳ない。つい前の癖が抜けていものでして」

 

 及川さんの様子が明らかにおかしい。

 

 及川さんを屋敷で助けてから数日経った今、神居古潭はある噂で持ち切りだ。──及川さんがカムイに取り憑かれたと。

 確かに及川さんは連日の化物の襲撃以来、言動がまるで別人のように変化していた。私も何回か会話したけど以前よりも対応が柔らかいし、たまに女の子みたいな喋り方をする。それに──

 

「子供達を守るために自分から動くなんてね……」

 

「勇者様、なにか言いましたかな?」

 

「いえ、なんでも」

 

 ……さっきから私が思索にふけているとお供がちょろちょろと挑発するように動きまわっている。丁度いい、聞いてみよっか。

 

(で、実際どうなの? コシンプ)

 

 私は他の人には見えない精霊──コシンプに噂の真偽を問う。

 コシンプは私が勇者に覚醒した時に共に現れた山のカムイの遣い。カムイの力を私に流してくれるだけでなく、敵の場所や襲撃の予測も行ってくれる。しかも会話はテレパシーで普通の人間には存在を感知することができない。勇者のサポート役としてはこの上ない存在だね。あとはもう1人くらい一緒に戦える人がいれば良かったけどそれは無いものねだりかなぁ……。

 

(カムイは取り憑いてないって? うーん、じゃーやっぱりストレスとかでおかしくなっちゃっただけなのかな?)

 

「熟思しているところ申し訳ありませんが勇者様、少し大事な話がありまして……。よろしいですかな?」

 

 さてさて、集落中で話題になっている噂の張本人が今目の前にいる。そして一向に去ってくれないわけだけど私になんの用があるのやら。適当にあしらって逃げよ。

 

「ハァ……。まー、少しくらいなら良いですけど」

 

「それは僥倖。勇者様の御慈悲に感謝致します」

 

 うーん、普通に考えれば明らかにヤバいお誘いだけど、流石の及川さんも勇者である私を襲うほど馬鹿じゃないっしょ。それ程までに勇者である私と一般人の身体能力は隔絶されている。

 

「ふむ……。うーん、なにから話したら良いやら……」

 

「あの、特になにもないなら行きますけど?」

 

 私は暇じゃない。いつ襲ってくるかもわからない化物達に対処するための見回りやいざという時のための備えの続き……生き残るためにやらなきゃならないことがたくさんあるんだ。

 

「いや失礼、勇者様にお聞きしたいことが多くてですね。ではまず1つ──」

 

 及川さんはわざとらしく人差し指を立てるとそのまま私の右肩の方を差す。えっ? この位置って──

 

「勇者様の右肩の方にいらっしゃるのは精霊のコシンプ殿でしょうか?」

 

「なっ!?」

 

「実は最近になって何故か私にも視えるようになりまして……。勇者様、これで少しは私の話にも興味を持ってもらえるでしょうか?」

 

 ……そう来たか。よりもよって一番ヤバい人にコシンプが感知されるなんてね。視えるってことは及川さんも何か力を得たんだよね? 一体どんなヤバい呪術を使ったんだか。最悪戦いになることも想定しなきゃだ。……嫌だなぁ、流石に人は殺したくないよ。

 

「勇者様、私は確かにコシンプ殿が視えますがそれ以外の力は何も持ち合わせておりません。貴女様と渡り合えるとは微塵も考えていないのでご安心を」

 

「あーそうですか。それならわざわざ周りに人がいない所で私に秘密を打ち明けた理由は? コシンプが視えることを教えたことで私に消されることとか想定してなかったんですか?」

 

 目の前の不気味な男の目的がわからない。私の秘密を暴露したいのであればさっきの会議とかでみんなの前で言えばいい。

 そもそもコシンプの存在をバラされたところで大して私の活動に支障はない。ただでさえ人間離れした勇者の私にサポート役の精霊が一体いたところで不思議じゃないじゃん。

 

「コシンプ殿が視えることなどこれから私の話す身の上話に比べれば些末なことです。ですがあまりに突飛なことゆえ、まずは少しでも私が他の人間とは違うということを念頭に置いていただきたかったのです。それに──」

 

 及川さんは私の目を真剣な眼差しで見つめる。この人がこんな誠実な表情を作れるとは思わなかった。

 

「秋原雪花様、あなたは勇者です。人を殺すことなど絶対にできません」

 

 なにそれ? 知った風な言葉に少しだけ腹が立つ。

 

「……前置きはもういいです。早く本題に入ってくださいよ」

 

「失礼、では──」

 

 気分が悪い、早く会話を終わらせよう。そして今日はさっさと帰って寝る。

 

「私はこの世界の人間ではありません。元は違う世界の日本の女子高生でした」

 

「は?」

 

 

「「…………………………」」

 

 

「……えーっと……私はこの世界の人間ではありません。元は違う世界の日本の女子高生でした」

 

「いや聞こえてますから! やっぱり及川さん連日の襲撃で疲れてるんですよ? ゆっくり寝たほうが良いですよ! それじゃっ!」

 

 うっわぁ、前々からヤバい人だとは思ってだけどここまでキてるとは……。もう会話どころじゃないね、逃げよう。

 

「待って! 順を追って説明させて……! そうだ! 貴女が今掘ってる塹壕でゆっくりとどうでしょ──」

 

「っ!? あんた! どうしてそれを!?」

 

 何故バレた!? 絶対に他の人には見つからない場所に作っていたはずなのに! アレは私が生きるための最後の拠り所だ! 誰にも知られたくなかった……!

 

 ──気づけば私は手にした槍の穂を及川さんの喉元に向けていた。

 

「大丈夫、そんなに怖がらないで? 絶対に貴女の不利益になるようなことはしないと約束するから」

 

 及川さんは柔らかい表情で私の槍の穂を掴み、自らの胸の位置に当てる。穂は及川さんの胸の位置でプルプルと震えていた。

 

「ハっ! すっ、すみません!」

 

 急いで槍を下げる。だけど及川さんは素手で穂を掴んでいたせいで手を切ってしまったみたいだ。地面に積もった雪に赤い雫が垂れる。

 

「こんな傷……貴女がいつも負っているものに比べれば大したものではありませんよ。私は心から貴女のことを尊敬しています」

 

 及川さんは背広の懐からハンカチを取り出すと、丁寧に傷口を覆い止血した。

 

「……話を聞いてくれますか?」

 

「…………」

 

 ここまでの覚悟を見せられたら流石に邪険には扱えないじゃん。ひたすら真っすぐな及川さんの眼差しに私は頷くことしかできなかった。

 

 

───────────────────────

 

 

 非常用のランタン20セット。電池は軽く見積もって3年分。火起こし用のライターに、どーしても寒さが我慢出来ない時用に電気がなくても動くストーブと灯油。そして大量の暖かい毛布。数年分の非常食と飲料と薬とサプリ。ティッシュや包帯などの衛生用品や生理用品。どれも化物達のせいで無人になったスーパーやコンビニから少しずつかき集めてきたものだ。一番奥には外に続く小さな空気口と、トイレ用に川に直接つながる穴も掘ってある。

 ここは私だけの秘密のシェルター。化物達の襲撃に耐えられなくなってしまった時のための。この保険があるからこそ私は今日まで1人で戦い続けることができたんだ。

 我ながら素晴らしい完成度だけど誰にも存在は明かしていなかった。ここに避難する人が多ければ多いほど物資は減るし、化物が寄ってきて私の生存率が下がるから。

 

 それなのに今ここには本来一番いてほしくなかった人がいた。

 

「いやはや、素晴らしい。実物を見るのは初めてですがまさかこれ程のものをたった1人で作り上げるとは」

 

「ハァ……。バレちゃったら仕方ない。集落の人達にも教えてあげてくださいよ。私は他所に自分用の物を作り直しますから」

 

「いえいえ、ここは貴女の努力の結晶。そしてその努力の報いは貴女1人が享受するべきです。私は誰にも話すつもりはありませんよ」

 

 及川さんな私の作った要塞を終始感心した目で眺めていた。この人もこういうの好きなのかな? まぁ、どーでもいいけど。

 

「……どーしてこのシェルターの存在を知ってたんですか? もしかして付けてたりしてました?」

 

「いえいえ、ここで見つけたと言うよりは……遥か前から知っていたといったところでしょうか。それも含めて話に戻りましょうか」

 

 2人で腰を下ろし真ん中にランタンを置く。真っ暗な洞窟にオレンジ色の光は少しだけ幻想的だけど今はロマンチックになってる場合じゃない。この男の本性を見極めなくては──

 

「──ということで厳密に言えばこの世界での及川は既に死んでいます。本来はあの時の襲撃で化物に喰われるはずでしたから」

 

「その予定だったのに……えーっと、別の世界の日本からやってきた名字が同じなだけの赤の他人、女子高生の及川さんの魂が憑依して一応は生き残ったと?」

 

「ええ、そのとおりでございます。私のことは及川の別人格とでも思っていただければと。では、ここからは私の元いた世界と現在貴女様達と共にいる世界の関係について説明します──」

 

 ──勇者という超常的な力を有しておいてなんだけど及川さんの話はあまりにも現実離れしていた。

 

 別世界の及川さんの魂がこの及川さんに憑依したというのはまだ理解できる。私だってカムイや精霊などの霊的なものの力を借りているから。そういった類のこともないとは言い切れない。

 

 問題は女子高生の及川さんが元いた世界の話だ。あまりにも突飛な話しすぎて終始開いた口が塞がらなかったよ。

 

 及川さんのいた世界では2015年7月のあの最悪な天災が起きていない。それどころか私を含めた化物と戦う勇者達は架空の物語の登場人物で、その活躍は彼女がいた世界では1つの作品群としてコンテンツ展開していたとか。

 おまけに私はそのコンテンツの中にあるスマホゲームのオリジナルキャラという立場。……うーん、それは喜んでいいの? かなりマニアックなキャラな気がするけど。

 勇者は私以外にも存在していて、人類の生き残りは四国が最大勢力であとは私のいる旭川と長野と沖縄のみ。私以外にも勇者がいたのは素直に嬉しいけど……。

 最終的には四国と沖縄以外はほぼほぼ滅ぶ筋書きだそうだ。私の生きる現実がどれだけ及川さんの話す物語と一致してるかはまだわからないけど、まさかここまで世界が滅んでいるとはねぇ。

 

「なんか……毎度歴史ファンタジーではお馴染みの未来人に遭遇する信長の気分ですにゃあ……。それで? ゲームの世界の私と旭川は結局どうなったんですか?」

 

「……野暮な話ですが、私の知る限りでは貴女は結局はこのシェルターに住民の人々を迎い入れ、最後まで化物達とこの地で戦い続けます。そして生き残ったのか、死んでしまったのか……貴女が最終的にどうなったのかは私にもわかりません。……その……ゲームはサ終しちゃいまして……」

 

 はあ!? おのれゲームのシナリオライター! なんでほぼ同じ立場の沖縄の生き残りの方は生存確定演出させといて私の方は曖昧にしたのさ!? どーせサ終するなら私も生かしといてよ!

 

「うーん、ちょっとタンマ。めっ、目眩がしてきた」

 

 未来予知にしてもあまりに意味不明な話すぎるよ。それなのに内容はやけに具体的で作り話にしても出来すぎているときた。

 しかも話の途中で信憑性を上げるために及川さんは私だけが知っているようなこともいくつか確認してきた。私が城郭好きとか実は裁縫が趣味なこととか。……思い出の料理のことも。まさしくゲームのプレイヤーという神の視点からでないと把握できない内容だ。

 

「……ここまでが西暦の勇者の話です。それでは次に勇者様が未来の四国の異世界に行ったときの話を──」

 

 まだあるの!? 今タンマって言ったよね!? 流石に勘弁してほしい!

 

「ストップ! ストーーップ! ちょっと及川さん……! これ以上はキャパオーバーです……」

 

「──ハッ! 混乱させてしまって申し訳ありません!」

 

 及川さんは如何にもやらしかしという顔で平伏する。いや、土下座まではしなくていいよ。

 

「……とりあえずは及川さんの話してることは理解しました。怪しい所も多々あるけど話の筋は通ってますし。でも全てを信じるには唐突すぎて……どうしてそんな話を私にしたんですか?」

 

 及川さんは頭を上げ私の手を握るとさっきみたいな真っ直ぐな眼を向ける。

 

「貴女に生き延びてほしいからです……!」

 

「私が生き延びるため……」

 

「先程申し上げたとおり貴女の結末はゲームのシナリオですら曖昧で、更にこの現実世界では私というイレギュラー(別世界の人間)な存在まで介入してしまいました。私が別世界で持っていた知識を伝えることで、勇者様が生き残るための選択肢を増やしてほしかったのです」

 

「選択肢って一体?」

 

「1つは別世界でのシナリオ通り最後までこの北海道で戦い抜くこと、もう1つは……四国に合流することです」

 

 それは現在の及川さんに出逢わなければ絶対にあり得なかった選択肢だった。

 

 





及川(JK) なんとか指導者らしく偉そうな話し方を心がけているが今イチ上手くいってない。話し方がコロコロ変わるため住民達からはカムイが憑いたと気味悪がられている。話を聞いてもらうためには雪花が秘匿していたシェルターの存在で強請るなど小賢しい面もあり、相手が雪花じゃなかったらその身がどうなってたかわからない。

秋原雪花 及川(JK)の意味不明な話をキレずにちゃんと聞いてくれる天使。だが流石に中年男が女子高生を自称したのには引いた。勇者の自分に槍を向けられたのに一歩も引かない及川の覚悟を認めて話を聞くことに。及川の話は理解したが完全に信じ切るほどチョロくはない。ただ自分以外にも化物と戦う勇者が存在していたことには素直に喜んでいる。
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