【2018年1月12日 昨日はせっちゃんにだいぶ余計な話をして混乱させてしまった。指導者なんだしもっとわかりやすく説明しなくては。選択肢に関してはせっちゃんが生き残ってくれるなら正直どれでもよかった。でも指導者としての私はあの選択肢をせっちゃんに選んでほしいという下心もあったと思う。】
及川さんが提示してきた選択肢、ここ旭川でのいつ終わるかもわからない籠城生活とは違う可能性。それはとても魅力的に感じるけど私にとっては夢物語でしかなくて──
四国に合流って……。そりゃできたら嬉しいけどさ……。
「……そんなの出来るわけないじゃないですか。四国と北海道がどれだけ離れていると思ってるんですか?」
「可能ですよ。勇者の身体能力であれば1人でなら数日で踏破できる、それは勇者である秋原様が一番わかっていることかと……」
「えっ? それって……つまり……」
「あくまで私が考えた3つある内の1つの選択肢としてですが、なにも無理に私達旭川の住民を秋原様が連れて行く必要はないということです」
要するに自分達のことは見捨てて1人だけで四国に逃げろ、か。以前の及川さんなら100パー言わないセリフだ。別人だとわかっていてもどうしても疑ってしまうよ。
「……及川さん、もしかして私を試してるつもりですか? 私は本当にそういうことをしますよ? こうやって誰にも言わずに自分だけのシェルターまで作ってるんですから」
少し自嘲気味に言う自分が薄ら寒い。……そうだ私はそういう人間なんだ。
「試すだなんてそんなおこがましい……。貴女様が生き延びる可能性はこの選択肢が一番高いのです。私は貴女様がこの選択をするのはむしろ理にかなってると思いますよ」
及川さんは私に対して1ミリの軽蔑もなく切り返した。
本当に私に助かって欲しくて言ってるだけ? 前世でこの世界が滅んでいく様を知ってるなら勇者がいなくなることがどれだけの恐怖かわかってるはずなのに……。
「……一応、念のため他の選択肢も教えてほしいんだけど」
「……わかりました。まず1つはこれまで通りここ旭川での籠城です。化物達の侵攻はあと2年程耐えれば一先ずは終わるはずです。そして運が良ければ貴女はカムイか何かしらの力により300年間コールドスリープ状態に入ります。そして未来の勇者が天の神のとの戦いを終着させた後、再び目覚めることができます」
「何かしらの力でコールドスリープって……私はソコが一番気になるんですが」
「……正直、コールドスリープに関しては私達の世界のゲームの話で……沖縄の勇者が生き延びた例からの推察でしかないのでなんとも言えないのです」
うーん、似たような立場とは言えここが沖縄と同じ条件とは限らない。
それに化物の侵攻が終わるというのも、あくまで及川さんの世界での架空の物語の筋書きだ。この世界は紛れもない現実だし物語のように上手くいく保証なんて1つも無い。
ここに留まる理由としてコールドスリープのみをあてにするのはかなり危険かな?
「さらに籠城を選択した場合、ここ旭川110人全員が生き延びられる可能性はもっと低いでしょう。食料や生活用品は日々枯渇しますしカムイによるインフラもいつまで保つか……。秋原様にも更に2年以上も単独での戦いを強いてしまいます」
なる程……だいぶ詰んでますにゃぁ……。
正直ここ2年半なんとかやって来たけど……もうあと2年以上も独りで住民を守りながら戦い続けられる自信はない。
お相手する奴さん達も日々数が多くなってるし確実に強くなってますからねぇ。
「そしてもう1つはこの旭川の住民全員で四国を目指す選択肢です。曲がりなりにも私はここ旭川の指導者です。現在その方向での計画を立ててはいますが、無論勇者である秋原様の協力が必要不可欠です」
「うーん、まぁ……それでみんなが助かるなら多少は協力しますけど?」
「ありがとうございます。……ですがこの選択肢は全員が助かる可能性もあれば一瞬で全滅する可能性もある、かなり分の悪い賭けであることは伝えておきます」
110人で化物を掻い潜りながら旭川から四国へ避難、か。……正直この選択肢が一番無理そう。それに私がこの集落の人々を全滅のリスクを負ってまで救いたいかと問われると判断に迷う。
もちろん良い人もいたけど大抵はわたしを利用して権力争いをする人達だ。
私は自分の命を第一優先にしたい、それが悪いことだとは思わない。
それでも──
『おばあちゃんを助けてくれてありがとう、勇者様!』
──少し前に助けた女の子の言葉が忘れられない。
『うっ、うわぁぁぁああああ! こっちだぞぉぉぉおおお!」』
──目の前のこの人が震えて動けなもしないのに化物から子供達を守るために囮になった映像が脳裏をよぎった。
「……少し考えさせてもらってもいいですか? 正直今日及川さんと話してから色々と、いっぱいっぱいで……」
「もちろんです。こちらこそ勇者様を混乱させるようなことを言ってしまい申し訳ありません」
及川さんはこんな年下の私に対しても丁寧に紳士的なお辞儀をした。……実年齢はそんなに変わらないんだよね、少し混乱しそう。
「ああ、最後に1つだけ」
「なんですか?」
「こんなことを言うのは出過ぎた真似と重々承知です。ですが……せっちゃん、どうか独りで抱え込まないで。こうして別世界の人間同士で巡り合えたのも何かの縁……愚痴だけならいくらでも聞けますから」
「あっ……ありがとう、ございます……」
「それでは」
及川さんは言うだけ言ってシェルターから立ち去ってしまった。
「……別にもう少しゆっくりしてても良かったのに」
及川さんにせっちゃんと呼ばれることに、最初はあった嫌悪感はいつの間にか消えていた。
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シェルターから出ていく及川さんを見送った私は今後のことをコシンプに相談することにした。
(実際、及川さんの言う通りに私が北海道を離れるとカムイの力はどうなるの? ──あー、ふむふむ……なるほどね)
カムイの力は土地神の力というよりは人知が及ばない自然現象そのものの集合体。だから勇者に選ばれた私は北海道から離れた所でもその地の自然の力をカムイとして借りるから問題ないってことね。
さすがにインフラとかは旭川みたいにはならないみたいだけど。
(あと……今日話した別世界から来たっていう及川さんは嘘をついてるように見えた? ──いや、人間の内心のことはよくわからんって……精霊なんだからも少し頑張ってよ……)
まー、嘘はついてないよねぇ。あそこまでの話が全部作り話ならあの人は指導者よりも作家か詐欺師のほうが向いている。
「ハァ、四国はどんなところなのかなぁ……」
(──それも知らんって、今のは独り言ですよーだ)
……正直できることなら私は直ぐにでもこの地から離れたい。土地も人々の心も冷え切ってて寒いよ。優しくて頼りになる両親も化物に殺されて……今でも寂しさで泣きたくなるし……。
でも集落の大人達がおかしくなっちゃうのもわかるんだ……。あの人達には戦う力はないし、生きるためには私みたいな子供に媚びへつらって頼るしかないんだもの。
「安全な所まで連れていったら……みんなも温かくなってくれるかなぁ……」
及川さんか提示してきた3つの選択肢──気づけば私はあの人の話を聞いた時には一番無いと思っていた選択肢のことばかりを考えていた。
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及川さんと話してから数日──
選択肢を考えあぐねている私を嘲笑うかのように化物の攻撃は日々続き、規模も増していく──
「お次はアンタ達だよぉ!」
白い化物の群れが私の槍で次々に串刺しにされていく。今日は調子が良い。さっきなんか3体まとめて串刺しにして倒せた。
「これでラストぉ!!」
最後の1体をややオーバーキル気味に切り刻む。絶好調とはいっても流石にこれ以上は勘弁願いたい。もう今日だけで5回も出撃しているよ。
「ハァ、ハァ……疲れた……。しんどっ……。うん、今日はこれでオシマイでしょ……寝なきゃ体力がもた──」
(っ!? えっ!? コシンプ嘘でしょ? これから今の敵の3倍の量が攻めてくる!?)
「マジか……」
四国への脱出どころではない。その前に私が過労死するわ。
「あーー! もうやめた! 今日は寝る!」
私だって勇者である前に1人の人間で……これ以上戦うのはとてもじゃないけど……。
シェルターに戻った私は仰向けに横たわり暗い天井をただ見つめる。
「……ごめんねみんな。私は生き延びたいわけで……。第4の選択肢、秋原雪花は事態収束まで一人でこのシェルターに引きこもります!」
誰に聞かせるわけでもないのに無駄に大声を出す。言い訳がましい自分の声が反響して耳障りなだけだった。
「………………く」
『おばあちゃんを助けてくれてありがとう、勇者様!』
「……あの子は今日もお婆さんと一緒にいるのかなぁ。勇者がいなきゃ心細いよね」
『……せっちゃん、どうか独りで抱え込まないで』
……私には独りで抱え込むなと言いながら、及川さんは最近何やら一人で備蓄品を化物がいない隙を伺って集落の外まで取りにいってるみたい。流石に今日はちゃんと避難してるよね?
「…………ん……あーーーもう!! ちくしょう!」
──槍を手にし、せめてもの休息として非常食の乾パンを1つ口に放り込む。
「なんで私は外に出ちゃうんだよ! あそこにいれば安全だったのに!」
(──それは秋原雪花は勇者であるからだって? やかましいわい!)
愉快そうに語りかけるお供のナビに従って結局私は化物共の群れまで跳躍していく──
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小賢しいことに化物達は数を分散させて多方面に攻撃をしかけてきた。おかげさまで疲労困憊なのに東西南北と動き回るハメに。
しかも一匹でも討ち漏らしたら私は良くても住民は喰い殺されてしまう。
「まったく……四国や長野には多少の結界があるみたいだけど羨ましいよねぇ……」
誰に話すわけでもないぼやきを言いつつコシンプがナビする最後の戦地へ到着した。
「及川さんの屋敷周辺か……」
「勇者様! 無事ですかね!?」
初見ではなかなか威圧的に感じるであろう声がよく響く。どうやら及川さんも健在みたい。
「過労死しそうですがなんとか無事ですよー! 住民の皆さんは!?」
「周辺の人は皆屋敷の中に避難させました。屋敷は広いし頑丈なので少しくらいの攻撃なら耐えられるはずです!」
“こっち”の及川さんになってから以前よりは住民がひとまとまりに避難してくれてるようで助かるよ。
逃げ足の遅いお年寄りや幼い子供達を及川さんが屋敷に置いてくれたおかげかな?
「っ!? 勇者様気をつけて! アレは私の記憶にもない!」
突如──及川さんが私の後方を指差す。同時にコシンプからも気をつけろとテレパシーが下る。
「……うわぁ、アレは確かに骨が折れそうだにゃぁ」
いつもの白い化物達に囲まれてひと回り大きな化物が向かってくる。他の個体との決定的な差は大きさではない。
「なんなのさ……あの盾は……!?」
──その化物は槍の穂を薄く伸ばしたような形の巨大な盾を身の回りに浮かしていた。
及川(JK) 集落のお年寄りや小さな子供達を集めて自分の屋敷に住まわせたことで間接的にだが化物の襲撃時にせっちゃんが守るべき要所を減らすことができた。四国への脱出のために日々の執務の合間にせこせこと備品を集めている。
秋原雪花 やはり秋原雪花は勇者である。自分が生き残ることが第一優先と言いながらも住民を見捨てられないお人好し。バラバラに逃げる人々を星屑から守るために日々シャトルラン状態であるため、及川(JK)から四国と長野の防衛体制の話を聞いてからせめて旭川にも結界をくれと心から渇望している。
巨大な盾のようなものを持つもの 本作オリジナルの進化体。勇者に対抗するため星屑達は集合し1つの進化体を形成することがある。見てくれはキャンサーバーテックスの反射板を1枚装備しただけの巨大な星屑だがこの時代の勇者にとってはかなりの強敵。