北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年1月13日 初めてこっちの世界で目覚た時に持ってた狐ちゃんの亡骸がやっぱりなにか引っかかる。北海道だから狐はよくいる動物なのかもしれないけど。流石に墓荒らしはできないから及川が遺した資料とかからもう少し調べてみようかな。そういえば勇者であるシリーズの精霊って狐に関係する妖怪多いよね。】



北の勇者と蟹の破片

 

 

 突如出現した1枚の盾を持った巨大な星屑、それは前世の知識にもなかったけど……。間違いなく星屑達が集合してできた進化体だ。そしてあの盾は後の完成体バーテックス──キャンサー(蟹座)の物に酷似している。

 

「こいつは間違いなくヤバそうだね……」

 

 そう呟くせっちゃんは敵との間合いを見定め、私達非戦闘員をすぐに庇えるような位置取りをしてくれている。

 私も知らない敵とは……。なにも助言ができない自分が歯がゆい。

 

「勇者様! ああいう他のとは違う個体との戦闘経験は?」

 

「何回かありますよ? 直近でやり合ったのは針みたいなの飛ばしてきましたね。あれはかなり辛勝でした。被害は甚大だったし私も死にかけましたよ……」

 

 星屑は一見あまり知能が無いように見えるけど人の行動を把握し学習をする。2年半も堕とせない地域の守護者を認識すれば自ずと対抗策を打つだろう。

 確か……最初の天災の時、四国勇者のリーダーが覚醒した時も既に進化体を形成してたし、ゲームでは描写されてなかっただけで単独防衛組が進化体を相手取ることになるのは当然といえば当然だよね……。私の見通しが甘かった……!

 

「……とにかく! まずは戦ってみないとどうしよもないですよっ!」

 

 せっちゃんは地面を蹴り上げ高く跳躍し、槍を力強く構える。

 

「はぁぁぁあああ! まずはそこの盾のアンタ! 割れろぉぉぉおおおお!」

 

 せっちゃんの渾身の槍の一突きと進化体の盾が衝突し、耳をつんざく巨大な金属音が屋敷全域に鳴り響く。

 

「うっ……す、すごい音っ……!」

 

 ──けれども化物の盾にはヒビ1つ入らない。  

 やっぱりこの時代の勇者は出力が圧倒的に足りない! せっちゃん自体はとても強いけどシステムが追いついてないんだ……!

 

「かったいなー! でも……これならどうかな!?」 

 

 真正面からの勝負は分が悪いと判断したのかせっちゃんは盾のスキマから本体を狙って槍を投げつける。     

 だが進化体は即座に盾を移動させて本体を守る。

 ──結果、再び甲高い金属音と共にせっちゃんの槍は弾き返えされてしまった。

 

「デカいだけでなく……その盾そんなに速く動かせるとはやりますにゃぁ……。でも……まだこれからだよ!」

 

 諦めずにせっちゃんは槍を投げ続けるけど、進化体の盾は空中を自由に浮遊し1枚であってもせっちゃんの攻撃を確実に防いでいく。

 

「あっ!? 勇者様! 右ぃ!」

 

 私の叫びと同時に──星屑の1体がせっちゃんの隙をついて体当たりを仕掛ける。 

 

「うっ……かはっ……! ぐぅぅぅぅう……っ!」

 

 星屑から突撃をもらったせっちゃんは地面に転がりに庭の花壇まで転がっていく。

 

「っ!? 勇者様ーーーっ!?」

 

「……ぐっ……うぅ……。及川さんが叫んでくれたおかげでギリギリ受け身取れましたけど……。デカいのに気を取られるとは不覚っ……!」

 

 せっちゃんは槍を地面に突き刺して辛うじて立ち上がってはくれたけど……状況は最悪だ。

 勇者服は既にボロボロ。星屑に体当たりされたところは破れ、内出血で広範囲に青黒く変化した肌が痛々しい……。

 

 堅牢な盾を持つ進化体で引き付け、その隙を星屑が狙う。化物のくせに完璧なチームプレイでせっちゃんを確実に追い詰めていく。

 

「あの盾の隙をどうにか狙わないと勝機はないよね……冷静になれ、秋原雪花。なにか手立てを探すんだ……」

 

 せっちゃんは尚も諦めない。傷だらけになっても……私達を守るために逃げずに敵に向き合ってくれている。

 そんなせっちゃんを進化体は煽るように盾を縦横無尽に動かしてみせた。まるで勇者の攻撃は絶対に自分には届かないと嘲笑っているようだ。

 

「……勇者様、例えばコシンプ殿と融合して戦うことは可能ですか?」

 

「ハァ、ハァ……残念ながら。……コシンプも今のところは無理と言ってますね」

 

 そうだよね……。私はせっちゃんがコシンプと融合した強化状態を前世の記憶で知っている。

 ──巨大な槍を出現させて敵を蹂躙する高火力、広範囲の技── 

 でもそれは異世界の物語だから行使できた力でしかなくて……現実の世界は厳しかった。

 

「何か打開策は……今のせっちゃんはコシンプとの融合は使えない。他の精霊やカムイの力は……」

 

 どうにかしろ……私。ここでせっちゃんの力になれなかったらこの先も生き延びて人々を導くなんて到底無理だ。

 

「──ん? あれって……」

 

 せっちゃんが転がっていた花壇の少し先──以前に狐ちゃん達の亡骸を埋めた墓の方が光って見える。

 よく見ると墓石の周囲一体が不思議な光を放っている。奇妙な光景だけど私にはまるで誰かが呼んでいるような気がしてならない。

 

「もしかして、こないだの狐ちゃんが呼んでいる……?」

 

 ──ふと他の子達は違って不自然に古かった狐ちゃんの亡骸の状態を思い出す。そういえば及川が最期に呪術で使おうとして持っていたのもあの子だ。

 やはりあの亡骸には何かがあったのかもしれない!

 

「……うん、わかったよ。……行かなくちゃっ!」

 

 覚悟を決めろ。大丈夫、この身体なら女だった時よりも速く走れる……! 前は星屑にビビって動けなかったけど……今度こそっ!

 

「あっ!? ちょっと! 及川さん!?」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!」

 

 せっちゃんは化物達を釘付けにしてくれている。その隙にっ……!

 

「私じゃ……当然! 役不足! だからお願い!」

 

 叫びながら全力で駆ける!

 

「せっちゃんに……!」

 

 星屑の一匹が私に気づいた! 振り返らずとも気配で追ってくるのがわかる。それでも私は止まらい、止まるわけにはいかないんだ!

 

「力を貸してぇーーー!」

 

 墓石に手を触れると──光はさらに輝きを増し、私を追っていた星屑の動きをも鈍らせる。

 

「……うわっ! 眩しっ……!」

 

 眩しくも暖かさを感じる光に包まれ、ナニカが私を高速で通り過ぎていったのを感じた。

 

 ──光がおさまった……! なんともない……? しまった!? 追ってきた星屑がっ!

 

 強い光から体制を立て直した星屑が私を喰らおうと大口を開けて迫り──

 

「だーかーらー! やらせないって!」

 

 私を追ってきた星屑にせっちゃんは一瞬で追いつき串刺しにする。

 

「全く! 無茶しないでくださいよ!」

 

「すみません、勇者様。ですがこんなに早く動けるとは流石です!」

 

「いや、私もなんとなく一瞬で動けそうな気がして、そしたら……ってなにこの格好!?」

 

「格好……んんっ!? ……勇者様の服が変化している!?」

 

 ボロボロだったはずの勇者服はキレイに修繕され、せっちゃんは時代劇に出てくるようなマントと浪人笠、脇差しを身につけていた。

 

「これって……」

 

 せっちゃんの時代劇の旅人のような姿、何処かで見覚えのある格好だ。そうだ、確かゆゆゆいの、しかもせっちゃんに実装されていた精霊の……。名前は確か──

 

桂蔵坊(けいぞうぼう)だ!!」

 

「けーぞーぼー?」

 

「ええ! 鳥取県に伝わる妖怪の一種です! 格好が変わったということは……勇者様はおそらく今、その妖怪の力を得ている状態です」 

 

 西暦時代の勇者の切り札は妖怪を自身に取り込むこと、取り込む妖怪によって姿も能力も大きく変わる──

 きっとあの狐ちゃんの亡骸は桂蔵坊だったんだ! たしか……桂蔵坊は優れた移動能力を誇り、江戸までの伝令役として鳥取の殿様に気に入られた狐の妖怪……能力は一体なに?

 

「及川さん! 私が妖怪の力を得たって……いきなりそんなことを言われてもあまり実感が──」

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁああああ!」」

 

「建物の方からっ!?」

 

 私達からは少し離れた屋敷の入口から子供達の叫び声が響く──

 

「勇者様ーー! こっちに化物が! 助けてーーっ!」

 

 私達が庭の墓にいた隙に星屑達が屋内に避難した人達を攻撃しようとして向かっているんだ! 早く助けないとヤバい!

 

「さっき、せっちゃんが一瞬でこっちに来れた理由は……桂蔵坊は移動の妖怪……そうか! 勇者様、おそらく桂蔵坊の能力は瞬間移動です! 屋敷の入口まで念じて瞬間移動してみてくださいっ!」

 

「はっ? そんな無茶苦茶な……」

 

「今はせっちゃんだけが頼りなのっ! お願いしますっ!!」

 

「あーーっもう! わかりましたよ……! みんな! 今助けに行くからね! 屋敷の入口まで向かえっ──」

 

 せっちゃんが念じると一瞬で私の目の前から姿を消した。そして──

 

「──うわっ! 嘘っ!? ほんとにできた! ……じゃあ、くたばれぇぇぇええ!」

 

 せっちゃんは瞬時に屋敷へ向かう星屑達の前に一瞬で現れ、その身を一刀両断して滅ぼし尽くした。

 

「これで残すはアンタだけだね!」

 

 槍の穂を盾の進化体に向け啖呵を切る。

 進化体はお付の星屑達がやられても引く様子も見せず盾を前にしてせっちゃんに突進していく──

 

「盾を構えながら突進!? 当たったら痛いけど……桂蔵坊! もう1度お願い!」

 

 せっちゃんは一瞬で突進する進化体の後方に瞬間移動して槍を突き刺すが──

 

「ぐっ……! 弾かれた!? 盾ほどじゃないけど……本体も硬いのねっ! でもこのままゆっくり削っての長期戦はマズそうだね……」

 

 既に屋敷以外の周囲の建物は進化体達の攻撃により崩壊している。せっちゃんの言う通り、このまま長期戦になれば奴が屋敷にまで突進して中の住民達にも被害が及ぶかもしれない。

 けれどせっちゃんには焦る様子がない。むしろ不敵な笑みを浮かべ、如何にも策を思いついたという顔をしてた。

 

「……勇者様?」

 

「ふふ、みんな大丈夫ですよ! さてさて盾だけじゃなくて、本体も硬い強敵さん。このクレバーな雪花さん、アンタを倒す方法をぴっかーんと閃いちゃいましたよー」

 

 どっかで聞いたことがあるセリフを述べるとせっちゃんはいつの間にか進化体の本体と盾の中間地点に瞬間移動していた。

 急に目の前に現れたせっちゃんを喰らおうと進化体は盾を動かすのではなく、反射的に通常の星屑よりも大きなその口を開けた。いや、開けてしまった。

 

「口が大きくて助かるよ! 歯が当たらなくて済むからねぇ!」

 

 せっちゃんは後方に位置する進化体の盾の裏面を踏み台にし、そのまま真っ直ぐに口の中に突っ込む──

 

「うぁぁぁああああ! 貫けぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」

 

 勇者の脚力によりブーストされた高速の槍の一突きは進化体の体内を全て貫き破壊し──ついには化物の尾側まで貫き通した。

 

「プハァッ……! 化物の身体に入るなんてもう二度とごめんだよ!」

 

 口から後ろまで一直線に貫かれた進化体はその姿を崩し、やがて奇妙なうめき声をあげながら消滅していった。

 対してせっちゃんは華麗に着地を決める……ことはできず、地面に倒れ込んでしまった。

 

「勇者様! 大丈夫ですか!?」

 

「ハァ……ハァ……。なんとか大丈夫ですよ……。アハッ、アハハハハハ! やったよ……! やりましたよ! 及川さん! みんな!」

 

「本当に……ぐすっ……お疲れ様でした……」

 

 力を使い果たしたせっちゃんは雪の上で大の字になって寝転び、笑いながら叫ぶ。その姿があまりにも眩しくて思わず涙ぐんでしまう。

 

「アハハハ……。なに泣いてんですか及川さん! 喜んで下さいよー! アハハハハハ」

 

 せっちゃんは朗らかに笑い続けた。得体の知れない化物の体液に塗れながらもその笑顔は誰のものよりも美しかった。

 





及川(JK) 前世では勇者であるシリーズ好きがこうじて、一時期日本各地の妖怪や神話について調べていたことがある。そのため人よりかはそのあたりの話題に明るい。勇者であるシリーズには七人に分身する等のユニークな能力持ちもいたため比較的容易に桂蔵坊の能力を推測することができた。

秋原雪花 一時は戦いから目を背けようとしたが、勇者の性からは逃れられず戦線復帰を果たす。極度の疲労、強敵との死闘の勝利、新たな力の覚醒を経て若干ハイになっている。仲間も切り札もない状態で人々を守りつつ数年戦い続けたため純粋な戦闘能力で言えば全歴代勇者の中でも上位に食込む。適応能力も高く、突如与えられた桂蔵坊の力をなんなく使いこなせた。

桂蔵坊 元は鳥取県の長坂神社に祀られていた狐の妖怪。古く昔、鳥取の池田の殿様に仕えて江戸までの伝令役として重宝されていたという。若い浪人の姿に変化し、鳥取から江戸までわずか3日で往復することができる。ある時、ネズミの蒲焼きに釣られて罠にかかり死亡。池田の殿様は桂蔵坊の死をたいそう悲しみ、丁重にその亡骸を祀ったとされる。祀られていた亡骸がなぜ鳥取から旭川に遷されていたのか、真相は定かではないがゆゆゆいでは秋原雪花に最初に与えられた精霊であり、世界は違えど再び邂逅する運命だったのかもしれない。精霊として与えられる能力は瞬間移動のみ。
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