北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年1月15日 せっちゃんはあの盾の進化体の戦いが終わった直後、眠るように気を失った。無理もないよね。1日に何回も出撃して極めつけには進化体の相手だったもの。精霊を使った影響が出てないか心配だ。明日せっちゃんが起きたら話を聞いてみよう。】



北の指導者とカムイの使徒

 

「昨日はせっちゃんに力を貸してくれてありがとうね、おかけで助かったよ」

 

「私からもありがとう、君の力でみんなのこと守れたよ。これからもよろしく、力を貸してね?」

 

 せっちゃんと2人で桂蔵坊達を埋葬したお墓に手を合わせる。墓前には子供達が作ってくれた動物の可愛らしい折り紙が供えてある。

 

「桂蔵坊の力……。まさか勇者様が北海道でも使うことが出来るとは予想外でした」

 

「私も唐突に瞬間移動しろって及川さんが言うから驚きましたよー」

 

「いやはや……それに関しては面目ない。とっさに考えついたものでして。それにしてもどうして勇者様が精霊の力を振るうことができたのか……」

 

 四国のような勇者システムがないのにも関わらずせっちゃんは精霊の力を使えるようになった。それ自体は大きな収穫だけれど仕組みがわからなければ今後も上手く運用はできない。それに、リスクに関しても気になる。

 

「ふふ、それはきっと及川さんが動物達をカムイ界に還したからでしょうな」

 

「「勇者さま! オジサン! こんにちはー!」」

 

「こんにちは! 皆元気だね!」

 

「オジっ……いや、それもそうか……。こんにちは!」

 

 あれこれ考えていると以前に屋敷の前で凍えていたお婆さんが子供達を伴ってお祈りに来てくれた。

 ……オジサンと呼ばれるのにはまだ慣れないな……ちょっとだけヘコむ。

 

「カムイ界ですか……」

 

「ええ、此処の古い言い伝えでは動物達はこの世界を旅立つとカムイ界に一旦戻り、再びこの世界に現れて恵みを与えてくれます。しかしながら心を込めて送り出さねば何も与えてはくれません。私は精霊や勇者様のお力に関してはよくわかりませんが、及川さんが動物の亡骸達を丁重に葬ったことで再びカムイが恵みをもたらしてくれたのでしょう」

 

 ……なるほどね、カムイの力を高めるなんて息巻いてた以前の及川の呪術がいつまで経っても成功しないわけだよ。それは彼の部屋と日記を見ればわかる。

 呪術なんていうけど死んだ動物の亡骸を弄くり回したりたり変な薬品に漬けたりと、カムイに対する侮辱行為でしかなかったもんね。

 

「では……勇者様、及川さん良い1日を」

 

「またねー、勇者様ー、オジサンー」

 

 祈りを終えると、お婆さんと子供達は屋敷へと戻っていった。昨日の襲撃のせいで周囲の建物は壊滅的な被害を受けたけど屋敷が無事で良かった。こかれからもここは住民達の拠り所として役立てそうだ。

 

「ハハっ」

 

「? どうしましたかな? 勇者様」

 

「いやー、以前に比べて及川さん、だいぶ子供達にも慕われるようになりたしたなーと思って。やっぱり中身が違うからですかね?」

 

「まだまだですよ。それにお年寄りや子供達は慕ってくれるようになりましたがそれ以外は……。特に……」

 

「集落の他の上役の人達ですね」 

 

「ええ」

 

 昨日もせっちゃんを休ませた後に散々嫌味を言われたものだ。やれ勇者様に無理をさせてるのはアンタだとか。最近化物が多くなってるのはアンタが怪しい呪術ばかり行っていたからだとか。集落の外まで備品を取りに行ってるらしいけど化物を呼寄せているんじゃないのかとか。

 ……そりゃ以前の私の行動は決して褒められたものじゃないけど、どう切り崩していけばいいのやら。

 

「まっ、成せば大抵なんとなる。私は出来ることをやって少しずつ信頼されていくしかないですな」

 

「……成せば大抵か。いい塩梅にポジティブな言葉ですね」

 

「そうでしょう? 私の好きな言葉の1つなんですよ」

 

 私の四国への脱出計画には集落全員の協力が必要だ。残された時間も少ないし、そろそろ他の上役達とも関係を良くしていかないとだけど今は──

 

「時に勇者様、精霊の力を使ってからなにか体調に違和感を感じませんでしたか?」

 

 せっちゃんのこと第一優先だ。

 

 

─────────────────────

 

 

「体調ですか?」

 

「はい、私の知識ではこの時代に精霊の力をふるうと勇者には穢と呼ばれる悪いものがたまり、精神的不調や肉体的にも大きくダメージが顕現することがあるのです」

 

 西暦勇者の切り札のデメット、それは穢の蓄積だ。最初は気づかない程の微細なものでもいずれは悲劇を生み出してしまうことがある。

 

「うーん、昨日の戦闘で心身ともに疲労困憊、擦り傷打撲だらけですけどそれはいつものことで……それ以外は特に変なところないですよ?」

 

「……左様ですか。ですが精霊の使用にはリスクがあること、どうか心に留めていていただきたい。昨日その力で助けてもらっておいて言うのもなんですが」

 

『雪花、精神のリスクについて詳しく知りたい。昨日はボクを媒介にして雪花に桂蔵坊の能力を与えられたけど詳しい影響とかは不明だからね』

 

「──コシンプ、わかった聞いてみるね」

 

「んんっ!? もしかして今の声はコシンプ殿ですか?」

 

 せっちゃんと2人きりのはずなのに唐突に聞いたこともない声がした。掴みどころのないその声は少年の様な少女のようなとても曖昧でこの世のものではなさそうな……。

 

『おや? 視えるだけでなく声も聞けるんだね それは話が早い。こんにちは、不思議な人っ子さん』

 

「こっ、コンニチハー……」

 

 声とともに紫色の狐のような精霊が姿を現す。北海道の代表的な精霊──コシンプだ。あまりにも唐突に現れたから動揺してしまう。

 

「……驚いたー、及川さん、コシンプの声聴けてたの?」

 

「いっ、いえ。今初めて聞くことができました。そもそもの話、私もどうしてコシンプ殿の姿や声が認識できるのかはわからないのですよ」

 

『ふむ、それはね……四国の神々風に言うならば、君は穢れた大人の男でもその中には無垢な少女の魂が宿ってるからじゃないかな?』

 

 ほほう、前世の私は無垢だったのか。イマイチぴんとこないような嬉しいような……けどそれってもしかして……!?

 

「もしかして……私も勇者として戦えたりとか!?」

 

『ごめんね、それは無理なんだ。魂は無垢でも器は穢の塊、君はせいぜいボク達カムイの化身──精霊と呼ばれる者を認識できるだけだろうね』

 

「そうですか……それは残念です」

 

 そっかー、もし私も戦えたらせっちゃんの負担を減らせたかもしれないのに……。まぁ、たしかにオジサンの勇者はないよね。

 

「いや、でもコシンプを共有できる仲間ができて嬉しいですよ私は」

 

「仲間……今、勇者様が私を仲間と……。勇者様! ありがたきお言葉です!」

 

 仲間……せっちゃんがそんな風に思ってくれてるなんて……っ! 最初の頃からは想像もつかないよっ!

 

「あー、もう。いちいち畏まらなくていいからいいから!」

 

『……話を戻して良いかな? 及川、君が知ってる限りで良いから君の世界での精霊について詳しく教えてくれるかい?』

 

「コホンッ、しっ失礼しました。精霊の影響に関しましては不確定なことも多いですが──」

 

 私は自分の知る限りの精霊に関する知識をコシンプとせっちゃんに説明した。四国勇者の戦いで描かれていた精霊の能力からそのリスクまで。

 

「──以上が私が認識している精霊の能力とリスクになります。」

 

「……いや、怖すぎるんですけど。目や全身から血を垂れ流して死にかけたり、もう1人の自分の幻覚が語りかけてくるとか絶対にヤバい力じゃないですか」

 

『ふむ、やはり敵を倒す力が強い精霊ほど穢の影響も大きいみたいだね。あとは穢による幻覚や幻聴作用に関しては精神衛生によっても影響するのかな?』

 

「はい、幸運にも今回は秋原様にはどの症状も現れなかった。秋原様は精神的にもとてもお強い。使用者の精神状態による影響で穢の蓄積量が変わると私は考えています。あとは環境や肉体的体調、精霊の種類や相性にもよると思いますけど」

 

 事実四国勇者の1人が穢による幻覚作用で凶行に及んでしまったのも、精神的に相当追い詰められていたからだ。精神的に弱るとさらに穢に付け込まれて更に精神が追い詰められる悪循環の出来上がりだ。

 

『桂蔵坊の瞬間移動は強力だけど雪花に直接的な力やスピードの向上を促したわけでもないしね。少なくとも君の語る3大妖怪なんて謂われる連中よりかは穢の影響はなさそうだね』

 

 日本3大妖怪──酒呑童子に大天狗そして設定だけ存在した幻の玉藻前、強力な能力と引き換えに勇者の肉体を無遠慮に蝕んでいく凶器だ。

 

「ところでコシンプ殿は勇者様と精霊として融合することはやはり出来ないのでしょうか?」

 

『理論上はできるよ。ただし、ボクは雪花に力を貸すカムイ達の力を集結させた存在。今のところは力が大きすぎて雪花は精神的に耐えられても肉体が持たないんだ、3大妖怪のようなものだね。ボク達の力を上手く制御できるような技術があれば良いんだけだね』

 

 うーん、そんな危険な力をせっちゃんに使わせるわけにはいかない。やっぱりこのまま1人で戦わせるのは危険だ。

 せっちゃんは優しい、普段はリスク管理も出来てるけどより強力な敵が現れたら人々を守るためにコシンプと融合する選択肢を取ってしまうかもしれない。

 どちらにせよせっちゃんの詳しい健康状態とかキチンと診てほしい。せっちゃんの選択次第だけど……本音はやっぱりせっちゃんには四国に行ってほしいな。

 

 

──────────────────────

 

 

 コシンプと精霊について話し合った後、私はせっちゃんに伴われてシェルターに来ていた。少しゆっくり話がしたいとのことで私も大歓迎だ。

 暗くてランタンの明かりが小さく灯るだけの洞窟のはずなのに、ここはとても居心地がよくて……せっちゃんが作ってくれたからかな?

 

「ハァ、新しい力を手に入れたと思ったら穢とかいうとんでもリスクのせいで正直テンションだだ下がりですよ私は」

 

「申し訳ございません。ですが勇者様には知っておいてほしかったのです。知らずに取り返しのつかない時になってから気づくことほど残酷なことはありませんから……」

 

「いや、及川さんは悪くないですよ? むしろ教えてくれて感謝してますよ。今後の戦い方の参考にもなりましたし。でも私は及川さんやコシンプが見立ててるほどの精神力があるわけではないので……。昨日も一回は戦いから逃げ出してしまいましたし……。私、そんなに強くないんですよ?」

 

 せっちゃんは少しだけ泣きそうな顔で語る。まるで懺悔するかのように、一度敵から逃げようとしたことを強く後悔しているようだった。

 

「それでも貴女は私達のために戻って来てくれました。一度嫌になったことにもう一度立ち向かって頑張れるのは勇者様の偉大な強さですよ」

 

 どんなにつらい目にあっても人はまた立ち上がれる──とある勇者の言葉がよぎったけどせっちゃんはまさしくそれを体現していた。

 

「……そうですかねー」

 

「そうですよ」

 

「ハハ、なんかちょっとだけ元気でました」

 

 せっちゃんの乾いた笑い声にちょっとだけ切なさを感じる。

 

「それはなによりです。以前にも言いましたが溜め込まずにすぐに遠慮なく私に吐き出して下さい。精神の安定に意外と効果があります。穢の影響も軽減できるでしょうし」

 

「ほんとですね。ハァ……まったく及川さんはなんでそんなにいつもポジティブにいられるんですか?」

 

「それは華の女子高生だったのにいきなり事故死して悪役中年男に転生したからかな? ここまで落ちたらあとは上がっていくだけですよ?」

 

「フフフ、違いないですね」

 

 戯けたように振る舞うとせっちゃんはやっと笑顔を見せてくれた。うん、やっぱりせっちゃんは笑ってるほうがよく似合う。

 

「……ところで及川さん、」

 

「なんでしょうか?」

 

 無邪気な笑顔からせっちゃんは真剣な表情に戻る。只ならぬ雰囲気だし私もしっかり受け止めなくちゃ。

 

「この前の及川さんが出してきた選択肢について、一晩ぐっすり寝て考えてみたんです」

 

 互いに一息つく、せっちゃんから並々ならぬ覚悟と緊張を感じる。

 

「私は……この集落のみんなで四国に行きたいです!」

 

 せっちゃんは凛々しくも美しい勇者の顔で私に宣言した。

 

「……私は勇者様がどんな結論を出そうと尊重する心積もりでした。ですがそうですか……皆を四国に連れて行ってくれるのですか」

 

「はい、集落の人達は……今はまだ寒い心の人が多いです。でも及川さんや小さい子供達やお年寄りと接しているとなんだか温かい気持ちになれるんですよ。他のみんなも此処より安全な所に連れってたら温かくなってくれるかなって」

 

 人の心は複雑で必ずしもせっちゃんの言う通りになるとは限らない。けれども心を作るのは環境が大きく作用することを私は知っている。あの世界(ゆゆゆい空間)もそうだったもんね。

 きっと四国に辿り着けたとしても私とせっちゃん、集落の人達の受難は続く──だとしても。

 

「行きましょう! みんなで四国に! 不肖ながらそのための計画を考えておりました!」

 

「はい! 及川さん!」

 

 私が右手を差し出すとせっちゃんは両手で固く握り返してくれた。私達の誓いの握手だ。

 

「……ちょっと照れ臭いですね」

 

「ですが良いものですよ、勇者様」

 

 洞窟内を照らすランタンの光が前に来たときよりも温かく感じた。

 

 





及川(JK) コシンプに無垢な少女認定されて内心かなり喜んでいる。同時に現在の自分の姿にも絶望した。

秋原雪花 精霊のリスクのことは怖いけどそれでも住民達を四国へ導こうと決意する。リスクについて濁さずちゃんと説明する及川(JK)にだいぶ信頼を寄せるようになった。

コシンプ 実質勇者システム。雪花はコシンプに念じることで勇者に変身できる。四国では神樹のデータベースから精霊の力を引き出したが、北海道ではコシンプがカムイ界から精霊の力を呼び出して雪花に与えている。

カムイ界 人以外の生き物や自然事象は全てカムイであり一度役目を果たすとカムイ界に戻るが、人々が敬い感謝することで再び恵みをもたらしてくれる北海道の先住民独自の概念。
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