【2018年1月17日 明日は一先ず住人達に現状と今後の方針を知ってもらう。少し強引にいかせてもらうけど。なに、難しいことじゃない。私は虎の威を借る狐に徹すれば良い。せっかくのめでたい日なんだから上手く成功させなきゃね。】
『これより住民全員に緊急招集をかけます』
小型無線機から発せられた及川さんの宣言により、集落の全住民110人が一同に会す。
無論、小さな子供達やお年寄りまで、おかげでいつもは上役達だけで寂れていた集会所も満員だ。
──及川さん、こんな時に全員を集めるなんてどうしたんですか?
──化物は人が多く集まると寄ってくるんでしょう? 危険なのではないか?
──どうせまた碌でもない生贄の話だろう。
早速、反及川派の住民達から不安の声や野次が飛ぶ。
「静粛に──」
及川さんはよく通る声で一言そう告げ、集会所を静寂に包んだ。なかなか神妙な雰囲気出すのが上手い。
「集まってもらったのは他でもない、現状を打破する妙案を思いついたので、皆さんに聞いて頂こうと思ったまで」
突然の発表に集会所が再びザワつくけど、及川さんは気にするでもなく声高々と宣言する。
「4月、雪解けを合図にしてこの集落の全住民は四国への脱出を計ります!」
──四国への脱出!?
──どういうことだ!? 聞いてないぞ!
──変な出鱈目を言って住民達を混乱させるのか!?
集会所はどよめき、さっきまでとは比べ物にならない程の大声の野次が飛ぶ。
「理由はたった一つ! 四国が此処よりも遥かに安全だからです!」
及川さんは負けじと更に一段階声を張り上げた。
「我々は今、過去最大の窮地に陷っています!!」
身振り手振りをオーバーに使いながら住民達の不安をあえて煽り注目を集めていく。さながら有名な独裁国家の総統のように。
「先日の化物共の襲撃、過去に類を見ない規模でした。終いには他の個体とは違う進化体まで攻め込んでくる始末!」
声を上げる度に住民一人一人と目を合わせていく。貴方も当事者の1人なのだと自覚させるように。
「先日は勇者様の奮闘により無事撃退することができましたが、次いつまた同じような規模の襲撃があるのかはわからない。このまま勇者様お一人では化物の物量にいつか倒れてしまうでしょう!」
──それはそうかもしれんが、何故今さら四国が安全だと言い切れるのだ!
上役の1人の意見に周りの住民達もそうだそうだと頷く。
「それに関しては勇者様からご説明がある。勇者様、よろしくお願い致します」
及川さんの目配せで私は住民の前に立つ。少し緊張するけど大丈夫、打ち合わせ通りにやるだけだ。
「はい、先日の大規模襲撃の後……私に勇者の力を与えてくれるカムイから信託がありました」
──なに!? 信託だと!? そんなもの聞いたことないですぞ! それは本当なのですか?
──いくら勇者様のお言葉でも突飛すぎやしないか?
──最近やたら及川さんとつるんでいると思っていたがもしや……。
げっ、及川さんだけじゃなくて私ですらこんなに露骨に疑うの!? ちょっとショックだなー。
「コホンっ、口が過ぎますぞ? 勇者様は今までカムイからの信託により、皆さんや化物の位置を正確に把握してこの地を守護していました。それは守られてきた貴方達が身をもって体験しているはず。これ以上の証明がどこにあるというのだ?」
──そっ、それは確かにそうか。……失礼しました。
すかさず及川さんが住民の疑念に口を挟みその場をやり過ごす。
……もちろんカムイの信託なんてものは嘘っぱちだ。私はコシンプの声は聞けるけど、四国や他の地方に安全地帯があるなんてことは知らなかった。この信託は及川さんが住民達を四国に誘導しやすくするために作ったシナリオだ。
さて、気を取り直してと。
「話を戻しますね。カムイの信託によりますと、『四国に5人の勇者と結界あり』と告げられました」
──なんと!? 勇者様が5人も……!
──結界まであるのか? ということは化物は入ってこれないのか!?
勇者が他に5人もいることと四国の結界の存在に住民達からわかりやすく安堵の空気が漂う。なんだかいい流れになりそうじゃないかな?
──しかし、カムイの信託通りだとしても実際四国を目指すなら一体どうやって?
──ここは完全に孤立している。まさか泳いで行くわけではありませんな?
「それでは改めて私から……」
及川さんは集会所に設置されているホワイトボードに日本地図を貼り、ポイントを指揮棒で指し示す。
「四国までの移動は勇者様に護衛してもらいながら車で行います。先日偵察に行きましたが、幸いにも旭川駅周辺には数台マイクロバスが放置されておりました」
及川さんは備品を取りによく駅の方までウロウロしてたみたいだけど車両探しも兼ねるとは、計画を聞くまでは私も知らなかったよ。
「北海道から本州へは青函トンネルの作業坑を通っていく。本州からの経路は後日、皆の意見を募りながらさらに詰めていこうかと思う」
及川さんは地図を使いながら丁寧に本州までの順路を示していく。今までの及川さんの出した案は呪術や生贄など非現実的で馬鹿馬鹿しい物ばかりだった。
それに比べて遥かに現実味のあるプランに皆食い入るように聞き、野次ではなく計画実行のための具体的な質問も飛び交うようになる。
──そういえば中型車両の免許持ってるやついるか?
──ここ数年、普通車ですらまともに運転してないぞ。
──それに四国までの燃料も足りるのか!?
「ええ、ですから計画の実行日を今から3カ月後の4月に設定したのだ。万全の体制で四国へ向かうために」
これは方便だ。実際は雪解けまでまともに動けないから3カ月を要するのだけれど少しでも前向きな表現を使って都合良く脚色をしている。
なんだか色々と皆を騙しているようで申し訳ないけれどこれも皆のためだ。勇者としては失格なのかもしれないけど全員が生き残るためには悪いことだとは思わない。
「まずは志願者を募るが最低でも4人、予備を含めると6人は運転手がほしい。誰か中型車両の運転免許を持ってるいるものは?」
「あのっ……おれ……一応持ってますけど」
及川さんの質問に若い二十代くらいの青年がおそるおそると手を挙げた。
「では君に運転の指南役を任せたい。実際マイクロバスの運転は難しいのかい?」
「いえっ、普通に運転免許持ってる人なら少し練習すれば誰でも出来るかと」
「よし、決まりだな。補給用の燃料に関してはカムイのインフラの力を少し割いていただき少しずつ貯めてもらう。よろしいですかな? 勇者様」
「はい、カムイからも3カ月もあれば少し節制すれば可能だと信託を受けています」
崩壊しているはずの世界でも此処はカムイの力で電気ガス水道は現状なんとかなっている。コシンプに相談したらリソースを割けば車の燃料は用意できると言ってたしね。
──いける! いけるかもしれぞ!
──だが節制するにしてももうすでにギリギリだぞ。いざという時どうすれば。
「実は……私、以前から見廻りと並行して緊急用のシェルターと備品を用意しておきました。今はまだ狭いですが拡張すれば数日は全員で避難できるだけの蓄えはあるかと」
──なんと!? 勇者様はそんなものまで用意してくださったとは……!
──勇者様……なんと慈悲深い!
「いやー……アハハー……それ程でもないですよー」
言えないっ……。ほんとはシェルターは自分1人だけで使おうと思ってたことなんて。良心が痛むけど今は黙っておこう。
「皆、これも勇者様が我々住民のためにこしらえてくれたものです。勇者様の御慈悲に感謝するように。そしてシェルターの拡張工事も積極的に手伝うように!」
うわー、及川さんもノリノリだなー。まぁ……そういう狙いもあって住民全員を集めたんだけどね。
この集会には及川さんがひたすら私を持ち上げて住民達からの信望を確固たるものとする目的もある。いざ及川さんの命令を聞かない人が出てきても私の命令ならばと従わせるためにね。
いやー、恐ろしい。及川さんから教祖の片鱗が見えるのは気のせいかにゃー?
それからしばらく経っても住民達の質問は絶えなかったが及川さんと私は難なく応答することができた。
昨日、及川さんと住民達からの質疑応答をシミュレーションしといて良かった。面白いほど予想通りの質問が飛ぶ。
「……少しよろしいかな?」
「? なんでしょう?」
1人の上役の男性が私と及川さんを見定めるかのように眺めている。私を養子にして自分の権力を強めようとしている人だ。
「勇者様を疑うわけではないのですが……もし仮に四国へ辿り着けたとして、そこが全く安全でなかった場合は及川さんはどのように責任を取るおつもりで?」
この人、この期に及んでも権力争いの続きをやる気なの!? 少しは空気を読みなさいよね……。
「あー……いえいえ、もちろん勇者様は良いのです。もし当てが外れたとしても引き続き私達を守ってくださればいいのですから。ですが及川さん、この集落全員を動かしてやっぱりなにもありませんでしたじゃあ、皆納得いきませんよ?」
「ちょっと──」
「彼の言うこともごもっともですよ、勇者様」
及川さん主導の計画だからって納得してないのはあんた達一部の上役だけでしょーがっ! 思わず叫びなくなったが及川さんは私を手で制する。
「くく、そうですね……もし四国が安全でなかったら、勇者様の手で私を四国のゴールドタワーのてっぺんにでも括り付けてもらおうか。少しは化物達からの囮として機能するかもしれません」
「ぐ……左様ですか……。今の言葉お忘れなく」
及川さんは一片の迷いもなく、不気味な笑顔で言い放つ。その姿勢には上役の1人も流石にたじろいだ。いや、及川さんどこまで本気なの? 私は嫌ですからね? フラグっぽくなっちゃったけどほんとに四国は安全でいてくださいよ?
「──では、質問も尽きたということで本日の集会は終了とします。反対意見がある場合は2日以内により具体的な代替案を持ってくるように。以上」
及川さんは最後に事実上計画の実行に有無を言わせないという念を押して集会はお開きになった。
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集会が終われば住民達は皆それぞれの持ち場に戻っていく。私も後でシェルターの拡張を手伝ってくれる人達への指示とか考えないとなー。
む、なんだか及川さんの周りが騒がしい。
「いやー、及川さん! 素晴らしい計画でした! 以前から及川さんを支持していてよかったです!」
「なっ……貴様っ!? 及川さん! 私も当然、貴方に着いていくつもりでございましたよー?」
「いやはや及川くん! 私はいつか君が勇者様と上手く心を通わせてくれると思ったよー!」
うげぇっ……嫌なもん見ちゃったよ。
少し離れたところで様子を伺ってると、集会が終わっても及川さんはしばらく大人達に囲まれていた。大人達は旗色が変わったのを感じて我先にと半及川派から鞍替えしようと及川さんに群がっていく。
「ハハハ! これからも君達の協力が必要不可欠だ! よろしく頼むよ?」
及川さんは群がる下心を拒絶することなく機嫌が良さそうに笑顔で対応していく。
うーん、如何にも大人の駆け引きって感じだ。ほんとに中身女子高生?
まっ、これで脱出途中に変な騒ぎを起こすような人が出なければ万々歳なんだけどね……。
──及川め……一体どうやって勇者様を取り込んだの
だ。
──とりあえずは様子を見よう。少しでもボロを出せば計画毎乗っ取ってしまえばいい。
勇者の力で聞き耳を立ててると──まだまだ野心に燃える方々もいるみたいですな。全くそのエネルギーをもっと他のことに使えないのかにゃぁ。
「あの、及川さん……」
「おや、ご老人方どうかしましたかな?」
しばらく経つと及川さんは今度は集落のお年寄り達に囲まれていた。
「私達は此処に残ろうかと思うのです」
「……何故そのようなことを?」
「勇者様や及川さんにはもう充分お世話になりました」
「私達は見ての通り素早く動くことができません……。いざという時に足を引っ張ってしまいます」
及川さんは顎に手を当て少しだけ考える素振りを見せると、お年寄りの1人の手を取り語る。
「それはなりません。皆様にも役目があります。子供達を見守り、我々若輩者に経験と知恵を伝えていく役目が。それに勇者様は思いやりが深い方です──」
及川さんは極めて優しい口調でお年寄り達を諭す。
「皆さんをこの地に捨て置いてしまったという罪悪感が最も勇者様の足を引っ張ってしまいます。私はいいのです、ですが勇者様に少しでも恩を感じているのならそんな悲しいことはもう言わないで下さい」
はぁ、それはズルいよね。お年寄り達は深々と頷き去っていった。
「やれやれ、生粋の人たらしなのか単に口が上手いだけの詐欺師なのか。貴方はどっちなんですかねぇ?」
「おや、これは勇者様。聞いておられましたか」
及川さんは大して悪びれもせず愉快そうな顔をする。
「ま、確かに全員で四国に行けるのが一番後味良いですけどねん」
「あー……。そのことなんですが勇者様、ちょっと場所を変えられないですかな?」
「? いいですけど?」
2人だけで話がしたいと言う及川さんは少しだけバツが悪そうな顔になる。一体何の話なんだろう。
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「ハァ、ハァ……あー! しんどっ! ほんとにしんどかったー……。みんなすごい詰め寄ってくるんだもん! まいっちゃうよね?」
よほど皆の前で指導者として振る舞うのが疲れたのか及川さんは屋敷に併設されたガレージの床にへたり込む。
ガレージは立派な作りの小屋で少し肌寒いけど外よりはだいぶ温かい。やっぱ名士ってお金持ちなんだなー。
「せっちゃんもありがとね? 皆の前で聞いたこともない信託の話とかさせて本当にごめんね」
「あれくらいお安い御用ですよん。皆で生き残るのが大事なんですから。あと及川さん、素が出てますよ?」
及川さんは相当疲れてるのかいつものような仰々しい話し方はすっかり鳴りを潜めていた。
「あ……コホンッ、これは失礼しました。勇者様お疲れ様でした。ご協力誠に感謝の極みでございます」
「うーん、思ったんだけど2人でいる時はもっと気軽に本来の感じで話しません?」
「へ?」
だいたい及川さんと2人でいる時ってほぼ他の人に聞かれちゃマズい話ばっかりしてんだから今更素を隠されててもね。それに──
「いえ、及川さんは及川さんであってもやっぱり前世の貴女としての存在もあるわけですし……それをずっと誰にも見せないのって窮屈じゃないですか?」
及川さんは外見は完全にオジサンだけど中身は私とそんなに歳が変わらない女の子。それをずっと抑えてるのって少し辛そうで、そんな提案をした。
「本当に良いのですか?」
「ええ、もちろん」
「…………」
少しの間があくと、及川さんは無邪気な満面の笑みを浮かべる。……その悪そうな顔でその表情はギャップがすごい。
「わーい! やったねー! せっちゃんありがとう! これからもよろしくね?」
「いや切り替え早っ! そして軽っ!?」
せっちゃんかー、そういや及川さんと出会って間もない頃ひどいこと言っちゃったけなー。
「あー……あの、及川さん。前はせっちゃんとか呼ぶの気持ち悪いとか言ってすみませんでした。ごめんして?」
「あー、いいよいいよそんなの。忘れてたしー」
なんか口調と一緒に性格も軽くなってない? これが本来の及川さんなんだろうか、ちょっとギャルっぽい。
「うーん、でも私だけせっちゃんって愛称で呼ぶのもな~。そうだ! せっちゃんもなんか私にあだ名つけてよ?」
「えぇっ!?」
あだ名? 急に難しいこと言ってくるなーこの人。以前の及川さんなら生贄狐とか、性悪術師とか悪役指導者とかポンポン浮かんでくるけれど……。
「あー、そうですねー。及川……おいかわ……おいかわっち……おいっち?」
「……おいっち……?」
及川さんは一瞬表情を暗くし、何かを思い出したような顔をした。
「あ、あの……嫌でした? ごめんなさい私センスなくて……」
「ううん! おいっち! とっても良いよ! これしかないよ!」
暗くなった及川さんの表情は嘘みたいに一瞬で明るくなり私の命名を全力で肯定してきた。
「そっ、そう……なら良いんですけど」
……まぁ、喜んでくれたならいっか。
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話があると屋敷のガレージに連れられたけど思わぬ方向に話が逸れてしまった。
「で、おいっち。話しってなんなのさ」
「おいっち……!」
「いちいち喜ばんでいいです」
ガレージに置いてある高級車のボンネットに2人で腰を掛ける。ここには誰もいないし話の内容を聞かれることはないだろう。
「……実はね、せっちゃんにもまだ言ってなかったんだけど四国へ行く途中で寄りたいところがあるんだ」
あー、なんだそんなことか。もっとヤバい話かと思ったけどそうでもなさそうだね。
「本当は……みんなを四国に送り届けるなら余計な寄り道をしないほうが良いんだけどさ、此処と四国の──」
「間にある諏訪に寄って、あわよくばそこの勇者と巫女も仲間に引き入れたいんでしょ?」
「えっ、ナンデソレヲ……」
おいっちは驚いて声が裏返ってるけど少し考えればわかることだよ。
「いや、普通に考えてなんだっけ? 勇者であるシリーズとかいう物語のオタクであるおいっちならそう言うって予測つくし、それにさ──」
「このままだと死んじゃうんでしょ? その子達」
「……うん」
おいっちが最初に元いた世界の物語の説明をしたとき、四国と沖縄以外はほぼほぼ滅ぶ筋書きと語っていた。
ほぼほぼというのは此処北海道というか私が主人公の物語が曖昧な描写で終わってしまったから。そしてそのほぼほぼを除くと滅ぶのは長野県の諏訪ということになるよね。
「おいっち、1つ聞かせて」
「うん、なーに?」
「私は諏訪の子達とはなんだっけ……未来の四国の異世界とやらでは仲良しだったのかな?」
私の記憶には全くないけど、おいっちが語るには全国全世代の勇者や巫女が仲間になって戦う夢のような空間があったらしい。もし、本当にそんな心強い空間があったら私は永遠に居たがってたかもね。
「うん、一緒に農作業したりお洒落に目覚めさせたりするくらいには」
「だったら……力にならないとね! ま、別に仲良しじゃなくても行く気だったけどね」
諏訪で私と同じくたった1人で勇者として戦っている子──私はその子にシンパシーを感じずにはいられない。個人的にも、すごく会ってみたい! 巫女さんも私にはいなかったから興味があるし。
「ふぅ、よかったー。あと……住民達への説明なんだけど……」
「カムイの信託で諏訪にも勇者と安全な場所があるのがわかったので道中で休息していきましょうって言えばいいのかな?」
「助かります!」
『やれやれ、ボク達カムイを随分都合好く使うじゃないか』
「わっ、コシンプ!?」
「コシンプ殿! もっ、申し訳ありません!」
私の右肩からコシンプが現れ、文句を言いに来た。声のトーンはいつもと変わらず淡白なのでさほど怒っている様子はない。
『君達がカムイの言葉を利用するのは構わないけど、尊厳や名誉を蔑ろにするようなことはしないでね? カムイ界は寛容だけど礼儀は大事にするんだ』
「はいはい、わかってますよん」
『ということで雪花、明日中にネズミを10匹ほど供えといてくれないかい?』
「げっ……ネズミですか?」
まぁ、寒いこの時期ならネズミちゃん達は大体家の天井裏とかに潜んでるからわけないけど。
『こないだ君に力を貸した桂蔵坊が求めているんだ。随分好物だったらしい』
「かつて桂蔵坊はネズミの蒲焼きに釣られて罠に掛かって死んだというけど……まさか自分の死因になってからも好きとはねー」
おいっちは感心した顔をしながら頷く。それにしても随分詳しい、まるで妖怪博士だね。
『話は以上だよ。……雪花、おめでとう。良い1日をね』
「? あんがと」
コシンプはしたこともない別れの挨拶をするとまた何処かへ消えてしまった。
「ま、コシンプも良いって言ったし諏訪に寄る件はこれにて解決ですかにゃぁ?」
「うん、ありがとう。よーっし! とりあず今後の方針が決まったし堅苦しい話はおしまい! ということで──」
おいっちは元気な声を出しながらなにやら着ている背広の懐をまさぐる。一体どうしたんだろう?
「くくく、北の勇者様も案外甘いところがあるんですな」
「えっ!?」
──そう呟くおいっちは懐から拳銃を取り出して私に向けていた。
えっっ!? なんで銃なんか持ってんの!? てか私に向けてるってヤバっ……
──私が反応するより先に一発の大きな破裂音がガレージ内に響き渡った。
及川(JK) おいっち。オタク趣味ではあるが、ギャルの同級生に影響されて自身も素はわりと軽い話し方をする。自覚はない。
秋原雪花 やっぱ女子高生ってお姉さんだなーと思ってる。四国への道中で諏訪に寄るのは大賛成。諏訪の勇者達の詳しいことは知らないが同じく1人で化物と戦う者として力になりたい。
集落の上役達 以前は生贄生贄連呼していた及川が急にまともな計画を発表するものだから面食らっている。しかも勇者と親しげなためいち早くおこぼれに預かろうと及川に擦り寄る者まで出始めた。