北の悪役指導者に転生してしまった   作:沼爪

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【2018年1月18日 今日が私の2度目の人生で一番楽しかったかもしれない。】



北の勇者に祝福を!

 

 

 おいっちが私に向けた拳銃から一発の銃声が響く──

 

「っ!?」

 

 思わず目を瞑って痛みと死に覚悟を決めるけど一向にどちらもやってこない。

 

「せっちゃん……? 目開けて」

 

 私を撃ったはずのおいっちが声をかける。おそるおそる目を開けると──

 

〚お誕生日おめでとう!〛

 

「え?」

 

 おいっちが構えた銃からは弾丸、ではなく誕生日のメッセージが書かれた旗が飛び出ていた。

 

「はい?」

 

「じゃじゃーん! せっちゃん、誕生日おめでとう! 驚いた? コレね、及川の部屋の奥にしまってあったんだー」

 

 どうやら私に向けられてたのはパーティ用のジョークグッズだったみたいだ。それは良いとして……。

 

「いやー、せっちゃんすっごいびっくりした顔してたから面白かっ……ぐぁぁぁ! 痛い! 痛いぞ! ヘッドロックして頭グリグリするのはやめてぇぇ!」

 

「本当に驚いたよ! 及川さん? おかげ様で誕生日なのに寿命が短くなりましたよ!?」

 

 くぅぅぅ! こんな安い手に引っかかるとは……この秋原雪花、一生の不覚!

 

「ぎゃぁぁぁ! ごめんごめん! けどグリグリはやめて? この身体だと冗談抜きでハゲそう! オジサンでもハゲるのだけは嫌だから!」

 

「あー、勇者様がオジサンをいじめてるー!」

 

「いけないんだー!」

 

「勇者様ー! お誕生日おめでとー」

 

「おめでとー! 勇者様! いつもありがとう!」

 

 私がおいっちに制裁を加えてるといつの間にか屋敷にいる子供達が集まっていた。みんな口々に私に祝福の言葉を言ってくれて少しむず痒い。

 

「おっ、みんなよく来てくれたね! 今日は勇者様の誕生日だがみんなの分もケーキを用意しておいた。存分に堪能してくれタマえ!」

 

「「わーい! オジサンありがとう!」」

 

 どうやらあのジョークグッズの銃声を合図に子供達が集まってくる手筈だったらしい。

 

 やれやれ、おいっちにまんまとハメられた。

 

 

──────────────────────

 

 

「いやー、この時期は寒いし雪もたくさんだから電気を使わなくても冷えていいですな。あっ、温かいのがいい子はココアもあるからね」

 

 おいっちは魔法瓶から紙コップにココアを注ぎ、保存庫からは缶ジュース数本と何やら怪しげな箱を取り出した。

 

「おいっち、そのココアとジュースは一体……」

 

「駅まで備品を集めに行ってる時にたまたま見つけられたのです。旭川駅周辺には意外と掘り出し物が眠ってますよ?」

 

 たしかに物資は不足しているとはいえ、無人の旭川駅周辺なら今でもよく探せば僅かに食糧を確保することができる。……まぁ、みんなが化物を怖がっててあまり行きたがらないのも大きいけどね。 

 

 おいっちは手馴れた様子で子供達と私に飲み物を配り、紙皿をまわす。

 

「では勇者様、箱を開けてみて下さい」

 

「あ、はい」

 

 いつの間にか及川さんモードに戻っていたおいっちに困惑しつつも箱を開ける。

 

「わー!」

 

「綺麗ー!」

 

 子供達が歓声を上げる──

 

 箱の中にはホールケーキのような形で固められたカラフルな巨大なゼリーが入っていた。その色彩はとても綺羅びやかに映えていてまるで一種の宝石のようだ。

 

「いや、すごっ!」

 

「ほんとは生クリームとかスポンジのを用意したかったのですが、申し訳ない。その辺りの材料は不足していまして……。粗末ですが粉末のゼリーキットを組み合わせて作ってみました」

 

 それにしてもすごいよ! 素はギャルっぽかったりとこの人ほんとは女子力高い? 

 私が驚いて呆けている間においっちはゼリーで出来たケーキを綺麗に切り分け、私と子供達に配膳してくれていた。

 

「オジサンの分はいいのー?」

 

「フフ、私は味見したからいいのさ。それではみんな、改めまして……せーのっ!」

 

「「勇者様! お誕生日おめでとう!」」

 

 子供達とおいっちは満面の笑みで私を祝福してくれた。

 誕生日なんて自分でも忘れてたのに……祝われるの何年ぶりだろう?

 

「うっ……ぐすっ……みんな……ありがとう……」

 

「あっ、オジサンが勇者様泣かしたー!」

 

「えぇっ!? 私のせいかね!?」

 

「「アハハハハハハ」」

 

 寂れたガレージの中はみんなの明るい笑い声で満たされていた。

 

 

──────────────────────

 

 

「いやー、久々のスイーツ美味しかったにゃぁ」

 

「それはなによりだよ。改めて誕生日おめでとう!」

 

「ハハ、ありがとうございます」

 

 子供達を屋敷に帰し、再びガレージでおいっちと2人きりになる。

 

「おいっちがスイーツも作れるなんてね。前世でも料理とか得意だったの?」  

 

「うーん、まぁ……得意というか飲食のバイトとか色々掛け持ちしててさー。オタ活にはお金がかかるのよー」

 

「へー、バイトとか自分でお金稼げて楽しそう。私は一応まだ中学生だからできないしなー」

 

 私もお小遣いの範囲で買えないような服とか被服用の生地に憧れがある。バイトも高校生になったら絶対しようと思ってたんだけどねぇ。

 

「ここだけの話……たぶん四国で勇者として働けば給料でるよ?」

 

「マジ?」

 

「まじ、まーお小遣いって名目かもしれないけどね。四国は大社っていう組織が勇者とか巫女とか管理してるんだ。まぁ……その分窮屈だったり他の面で大変な所も色々あると思うけどね」

 

「それにしてもいいなー四国。こっちなんて勇者だから食事だけは優先されてるけど……年中無休、24時間勤務、万年ワンオペ、給料はゼロだよ」

 

「ハハハ、それなのにみんなを見捨てずに守ってくれるなんてやっぱせっちゃんはすごいよー」

 

「……そんなすごくなんかないよん。私は特別な力を与えられたことに対してあぐらをかきたくなかっただけ。カムイからのバチが当たるのは嫌だからね」

 

 あの日、両親や街中の人々が無力のままに殺されていく中で私だけが生き残る力を与えてもらった。私は力を与えられた者として最低限の義務を果たしているにすぎなかった。

 

「……でもきっとこのまま義務感だけで勇者やってたらいつか折れてただろうなー」

 

「今は?」

 

「今は子供達やお年寄り達、一部だけど最近は大人達も心から私を頼って慕ってくれていることに気づけた。……利用とはまた違った意味で。そしておいっちにも出逢えた」 

 

 私も義務感じゃなくて心からみんなを守りたいと思えるようになったのかもしれない。我ながら自分の変化にびっくりだにゃあ。

 

「ふむふむ、つまりせっちゃんはもう独りじゃないから以前よりも頑張れるようになったわけですな」

 

「アハハ、なにそれ。でも、そうかもね」

 

「よーしよしよし、よ~しよしよしー。偉いぞー、せっちゃんー」

 

「ちょ、やめてってばー」

 

 おいっちは私の頭をワシャワシャと無造作に撫で回す。その手は大きくて……少しだけお父さんを思い出した。

 

「ねぇ、今度は私においっちの誕生日を祝わせてよ。旭川ラーメンと私のとっておきの一品をご馳走するよ」

 

 私のとっておきの一品……ずっと神の視点(ゲームのプレイヤー)から見ていたおいっちはもう分かってることだと思うけど別にいいんだ。私がそうしたいから。

 

「それって……うん! とっても楽しみにしてるね!」

 

 誕生日を祝ってもらえると今度は自分が祝ってくれた人達の誕生日を祝いたくなる。数年ぶりにこの感情が思い出せたのも私にとっては素敵なプレゼントだった。

 





おいっち 前世では居酒屋、ケーキ屋、結婚式場などオタ活資金のために色んな場所のバイトに手を出していた。飲食バイトが多かったため料理スキルは高い。ちなみに前世で事故死する直前に向かっていたのは居酒屋のバイト。

秋原雪花 北海道での労働体制に大きく不満を持っている。待遇面では四国勇者のほうがマシな事を知り、より四国へ行きたくなった。だが彼女はまだ知らない。四国は四国で様々な問題を抱えていることを……。

集落の子供達 良い子しかいない。せっちゃんが折れなかったのはこの子達の存在も大きい。身寄りがない子が多く、普段は集落のお年寄り達が面倒を見ている。

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 今回で北海道編が一先ず終わります。次章から脱出〜四国への道のり編(仮題)が始まります。
 いつも閲覧、お気に入り、評価、感想いただいている読者の皆様にこの場を借りて感謝を申し上げます。
 とてもモチベーションになっております! 引き続き本作をよろしくお願い致します。


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【次章予告】


2018年春 旭川より遥か遠くのとある地にて──


「それってリアリィ? みーちゃん」

「うん、北の大地からそう遠くない未来に凶か吉がやってくる。そう土地様から信託が来たの」

「凶か吉ね……。面白い! どんな敵でも味方でも構わないけど、この諏訪の勇者──白鳥歌野がパッショナリィに歓迎するわ!」

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