ざくざくアクターズ二次創作 竜宮恋憧   作:泉 とも

2 / 7
麗しの氷魔令嬢

 ハグレ王国には道場があります。大きくて頑丈で個性的な見かけの場所で、老若男女種族を問わず、毎日大勢の人が、時間を見つけて体を鍛えに来るのです。

 

 私もまた、ここで日々の鍛錬に励んでいます。

 

「ダダダダダダダダダダダダッ!」

「あと十秒!」

「うおおおおおおおおおおーー!!」

 

 私の全力のラッシュを受けるのは、王国の二枚盾の一人、牛獣人のボディビルダーこと、ニワカマッスルさんです。

 

 圧倒的なボリュームと密度を誇る筋肉で、数々の攻撃を受け止めて来た歴戦の戦士です。

 

 自分の攻撃を受け止めて欲しい場合などは引っ張りダコで、私が全力を遠慮なくぶつけられる相手は、彼以外にはもう一人しかいません。

 

「三、二、一、そこまで!」

「っしい!」

 

 全身から滝のような汗が流れ落ちて行くのを感じます。分厚い筋肉の鎧に打ち込み続けた手足が悲鳴を上げています。

 

 一方でマッスルさんも息を切らせています。よし、私の拳法は通じている。

 

「チャクラでトレーニングは終了、チャクラ始め」

「はい」

 

 私たちは二人でチャクラを練り、体の傷と疲労を癒しました。

 この瞬間が悔しくもあり、愛おしくもあります。

 

「マッスルさん、今日もありがとうございました」

「お役に立てて何よりですぜ、レプトスさん」

 

 私たちの全力を受けとめられる人は限られています。倒せないことはショックですが、攻撃を受け止められることは、甘えられているような、安心感もあって、複雑です。

 

「マッスルさんはこの後筋トレですか」

「ええ、今度新しい筋肉の付け方を試そうと思いまして」

「新しい筋肉、の付け方?」

 

 マッスルさんは道場の片隅にあった王国バッグの中から、沢山の本を取り出しました。

 

「えっえっ、それは本、ですか」

「写真集ですよ。ビルダー用のね」

 

 そう言って彼が見せてくれたそれは、同じような牛獣人の写真集でした。

 

 全てのページが写真であり、パラパラ漫画のように、ページを捲ると筋トレの動きが理解できるようになっていました。

 

「あっすごい!わかりやすい!」

「これならオレみたいなのでも理解できますよ」

 

 見れば他の本も全て同じような物でした。

 

 動きだけじゃなく、その筋トレを始めて何日という経過、また止めた後の筋肉の衰え方などが載っていました。

 

「この人はね、わざわざ自分の筋肉を落とすことをメインに研究してて、鍛え上げた奴からしたら、怖くて仕方ないことを、あえてやってるんです。尊敬しますよ」

 

 マッスルさんは熱っぽく語りながら、写真集を見ています。

 

「これもある意味、自分を盾にしてるんですね」

 

「ええ、だからこそオレは、より立派な筋肉の増改築に挑めるんです」

 

「そっかあ。筋トレ、頑張ってくださいね」

「おう、ありがとよ。じゃあな!」

 

 彼はそう言って白い歯を見せて笑うと、筋トレをしに行きました。余りに重い物を持つと床が抜けるため、グラウンドに向かうのだそうです。

 

 あの大きな背中を見ていると、彼がこの国で大勢の、特に男性から好かれる理由が分かる気がします。

 

「私も少し休んだら、鍛錬を再開しないと」

 

 道場の中では皆、自分の持ち味を伸ばし、或いは短所を補うべく、思い思いの鍛え方をしています。

 

 それさえ他人には真似できないものばかり。なるほど初歩を教えられることが、重宝される訳です。

 

「今日はどっちが勝つかな」

 

 そんな声に振り向くと、金髪の素敵な男性がいました。

 

 この国で数少ない堅気の常識人、アルフレッドさんでした。

 

 鍛冶屋のジーナさんの弟さんであり、唯一アンデッド戦に特化した剣士です。

 

「どっちがって」

「ほら、あそこ」

 

 言われて見れば、そこには模擬線で切り結ぶ二人の男女がいました。

 

 片方はダイミョーと言われる剣士の柚葉さん。

 

 長髪の女性で紺色の和服に身に纏い、刀と呼ばれる重い剣を高速で振るう、独特の剣術の使い手です。

 

「昨日はマーロウさんが勝ったけど」

 

 もう片方は狼の獣人のマーロウさんです。私をこの道場に誘ってくれた方で、こちらは速さに加え、力もあります。

 

どちらも凄腕の剣士であり、ハグレ王国の選手層の厚さには舌を巻きます。

 

「『居合の間合いと速さに躊躇った瞬間、既に切られている』って言って、押しに押したのが昨日の試合だった。でも今日は」

 

 アルフレッドさんの言葉に答えるように、柚葉さんが動きます。マーロウさんの動きを真似て。

 

「速さなら彼女が上です。敢えてマーロウさんの動きを真似することで、隙を見出そうとしてる?」

 

「それだけじゃない。相手の構えや攻撃を、居合の動きに落とし込めないかを探してるんだ」

 

 それは正に、技を盗むというべき行為。

 

 刃を潰した剣とはいえ、不利で承知で戦う彼女は、何度も打たれ危うい場面を晒しました。

 

 しかし。

 

「ここからが彼女の怖い所だよ」

 

 追い詰められた柚葉さんの動きは、マーロウさんと同じでありながら、徐々に相手よりも早くなって行きました。

 

 まるで順番が逆転したように。

 

「どっちが獣か分からないよね」

 

 手負いの彼女こそが本当の姿なんだと思います。

 

それほどに技が冴え、闘志が張り詰め、息を飲むような鋭さを見せる。

 

 二人の獣が最後に交錯した瞬間、マーロウさんの剣が空に飛びました。

 

「勝負あり、だね」

 

 柚葉さんの剣は、渾身の勢いで振り降ろされた剣を斬り飛ばしていたのです。

 

「すごい……」

「本当に。自分が追い付けるのか、たまに不安になるよ」

 

「アルフレッドさんが、ですか」

「そうさ。皆強いから」

 

 この人も相当に強いのですが、いつか手合わせ願いたいです。

 

 私はその前に男性を見ると赤面するのを、克服するが先ですけど。

 

「…………」

「おっと、休憩の邪魔しちゃったかな。ごめんね」

「いえ、またお話しましょう」

 

 アルフレッドさんは、軽く手を振って去って行きました。

 

 皆さんの鍛錬の仕方は本当に様々です。模擬線、筋トレ、私は拳法の型稽古。

 

 道場の中は見ているだけも勉強になる光景に溢れています。他にも。

 

「ハーイワントゥースリィーフォー!ワントゥースリィーフォー!」

「あらあらまあまああらあらまあまあ」

 

 社交ダンスを踊る人たちもいます。

 

 二人の悪魔、ゼニヤッタさんとイリスさんです。

 

イリスさんは銀髪の女性で、大魔王の娘さんだそうです。

怖いくらい綺麗な人で、よく従者の方と一緒にいます。

 

 イリスさんの手拍子と掛け声と足の動きは全部バラバラで、合わせる気が微塵もありません。

 

 だけどゼニヤッタさんも楽しそうにステップを踏んでは、その周りを軽やかに舞い踊ります。

 

「ゼニヤッタ、ペース上げるか、それともオトス?」

「イリスさんのご自由になさってくださいまし」

「ジャーこうダ」

 

 イリスさんはゼニヤッタさんの手を取ると、足を絡ませてその、セクシーダンスを踊り始めました。

 

 ランバダっていうのかな。

 

 でもそれはただのランバダじゃなくて。

 

「HAHAHA!! 足を踏まれずに踊れるカ!?」

「まあイリスさんったら」

 

 足がタップダンスのように軽快に跳ね、ゼニヤッタさんの足の周りを打ち鳴らします。一歩間違えば何度も踏まれてしまうでしょう。

 

 しかし。

 

「いけませんわね」

 

 足をスーッと滑らせてこれを避けながら、足の絡みを解き、バレエに移ろうとするのです。

 

 二人のダンサーは、お互いに自分の踊りを押し付け合おうとしているのです。

 

 それは滑稽でもあり、美しくもありました。誰も付け入ることのできない、二人の時間。

 

 道場の端でウズシオーネさんが担架で運び出されていくのが見えます。

 

「ふう、今日も譲ってはくれませんのね」

「good job。最近ゴブサタだったが、楽しかったナ」

 

 終わって見れば、フォークダンスの形に着地し、イリスさんがリードする形で、幕を下ろしたのです。

 

 ゼニヤッタさんは少し息が上がっているのに対し、イリスさんは涼しい顔で道場を後にしました。

 

 あの方の才能は底知れないものがあります。

 

(そうだ、話しかけるなら今しかない)

 

 私は慌てて立ち上がると、咄嗟に予備のタオルとスポドリを持って、彼女の元へ駆け寄りました。

 

 未だ乱れた呼吸、僅かに上気した肌、雪解け水みたいな汗。

 

 何度見ても、いえ、見れば見るほどに、この気持ちが強くなるのが分かります。

 

「あの、ゼニヤッタさん!」

「あら? レプトスさん、こんにちは」

 

「こんにちは。これどうぞ」

「あら、わざわざどうもありがとうございます」

 

 彼女は私のタオルを受け取ると、快く使ってくれます。

 言わなきゃ、でも焦ったらダメ。

 

「今のダンス、見てました。とっても素敵でしたよ」

 

「あらお恥ずかしい、私ではまだ、イリスさんをリードし切れなくて」

 

 ちょっと言ってる意味が分かりませんが、この人ならできそうという気がしてなりません。

 

「そうですか、あの、それでですね、あの、あなたを見ていて、言おうと思ってたことが」

 

「私に、ですか」

「はい。実は、前からずっと」

「まあ、何でしょうか」

 

 自分でも性急だとは思いましたが、言いそびれるよりマシです。

 

「あの、良ければ私と」

 

 ええいままよ!

 

「私と竜宮振蹴拳、やりませんか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。