ざくざくアクターズ二次創作 竜宮恋憧   作:泉 とも

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その名も虎薔薇(とらばら)跳(ちょう)踊(よう)拳!

 月日が経つのは早いもので、ゼニヤッタさんとの鍛錬は、一ヶ月を迎えました。

 

 年の瀬も迫り、いよいよ寒さも厳しくなっています。でもそれが彼女には良かったようで。

 

「はあ、はあ、流石です。よもやここまでになるとは」

「レプトスさんの指導の賜物ですわ」

 

 基礎的な教えから始まり、組手も交えるようになって、ゼニヤッタさんはグングンと成長して行きました。

 

 天性の素質。踏んだ場数。彼女は竜宮振蹴拳を吸収し、独自の拳法を編み出しつつありました。

 

 私の見込んだ通り。そして私の予想を超えて。

 

「今では、試合の時間内に負けないようにするので、精一杯ですよ」

「ご謙遜を。あなたは私に気を遣ってくれています」

「それはあなたも同じでしょう」

 

 息を乱さずにいる彼女と、満身創痍の私。隠している力に差があり過ぎる。

 

 本当に素晴らしい。美しいだけでなく、こんなにも強い。

 

「そろそろ卒業かも知れませんね」

「卒業、ですか」

 

「ええ、別に拳法を継承させるとかじゃ、ありませんし」

「言われて見れば、そうでしたわね」

 

 むしろ彼女から、新たな拳法が始まっています。

 であれば。

 

「ゼニヤッタさん、これを受け取ってください」

「これは、服ですのね」

 

「少し早いですが、私からの卒業記念です。修羅の国に行って、仕立てて貰いました。きっと似合うと思います」

 

 死ぬかと思いましたが苦労の甲斐はありました。

 

「まあ、何もそこまでして頂かなくても」

「私がしたかったのです。それでですね」

 

 最近分かりましたが、この国の性格の良い人は、善意を持って頼めば押し通せることが分かりました。

 

「それを着て、最後に私と、本気の勝負をして欲しいんです。ゼニヤッタさん」

 

「レプトスさん、あなた……」

 

「初めてあなたを見たときから、綺麗な人だと思った。そして強かった。力でも、魔法でも、見慣れるどころか、憧れが強くなって、仕方がなかった」

 

 一度想いを口にすれば、もう止められなかった。

 

「あなたが舞う姿を見たい。あなたが拳法を振るう姿が見たい。この気持ちを整理するには、あなたに拳法を教え、なおかつ私があなたと、対等にならねばといけないと思った。

 

「私はあなたのことを下だと思ったことなど、ただの一度もありませんわ」

 

「敵にはどうですか。あなたはハグレ王国の敵ならば、それがどれほど強大であっても、一歩も退かず、自分が上だと立ち向かうでしょう」

 

 そしてその時にしか、見られないものがある。

 

「私はそんなあなたにこそ並び、越えたいと思っている」

 

 光を吸い込む深紅の瞳、それが研ぎ澄まされた殺意に光る、あの純粋な一瞬。

 

「お願いします。一度でいい。私を敵と思って、戦ってください。ゼニヤッタさん」

 

 頭を下げて、返事を待ちます。ここだけ見たら、恋愛小説みたいに見えたかもしれません。

 

「そこまで私を。分かりました。一度きりですよ」

「ほ、本当ですか!?」

 

「ただし、一つ条件があります」

「条件、ですか?」

 

「今練習しているこの拳に、あなたが名前を付けてください」

 

 ゼニヤッタさんは私の手を握ると、掌の上に自分の拳を置きました。

 

「あなたの名付けた拳法で、あなたを葬り去ります。不本意ですが」

 

 薄っすら開かれた瞳は、酷く苦しそうでした。

 

「それなら既に考えてあります」

「まあ、用意がよろしいのね。それで、何という名ですか」

「虎薔薇(とらばら)跳(ちょう)踊(よう)拳です」

「とらばら……?」

 

 私は説明のために用意しておいたメモを取り出して、ゼニヤッタさんに聞かせました。

 

 何気にこれはウズシオーネさんとこどらちゃんに知恵を借りて考えました。この場を借りてお礼を思い浮かべます。

 

「トラユリではないのですか」

 

「トラバラは次元の塔の第六層に自生する、バラ科の植物です。魔力を操り自らにトラの爪牙ようなトゲを生やし、身を守ったり獲物を狩るのですが、赤く大輪の花をつけるのです。獅子のたてがみのように」

 

 花言葉は『傍に佇む』と『冬の訪れ』だそうです。

 

「そして跳踊の跳は跳躍の跳で、踊は舞踊の踊です。咲き誇るという言葉に対し、敢えて飛んで跳ねるトラのイメージを優先しました」

 

「それだとトラバラより、白虎などのほうがよかったのでは」

 

「すいません、相手がゼニヤッタさんだから、花の要素も入れたくたかったんです。それでトラバラの存在を知ったら、もうどうしても頭から離れなくて」

 

 ネーミングセンスって難しく、それでいて大事です。大婆様ってその辺も優れていたのですね。

 

 確かに『白虎跳踊拳』とか『白虎跳遊拳』のほうが、それっぽかったかも。

 

「……お嫌でしたか?」

 

「いいえ、そこまで私のことを考えてくださっていたとは、でもそうですね、私にトラバラとトラを重ねて、イメージは掴めますわね」

 

「じゃあ!」

「虎薔薇跳踊拳、しかと拝命致しました」

「やったーーーー!」

 

 ゼニヤッタさんは顔を赤らめつつも、私が名付けた彼女のための拳を、受け入れてくれました。

 

 まるで自分が一人前の拳士と認められたときみたいに嬉しい!

 

「ではその日までに、しかと磨いて仕上げねばいけませんわね」

 

「ええ、でも焦らないで。日時はゼニヤッタさんのご都合が良い日で構わないので」

 

「そうですか。ではそう、一週間後に」

「では一週間後ってええ!?」

 

 まさかたったそれだけで、その拳法を極めるとでも。いや、彼女なら或いは。

 

「次元の塔や修羅の国ならば、それでも一ヶ月くらいには引き延ばせますし、実戦にも事欠きませんから」

 

 それでも、いや止そう。彼女なら出来る。そう信じよう。

 

「分かりました。では私も同行する準備を」

 

「いえ、一度自分を見つめ直す時間が欲しいので、レプトスさんはスパーリングの相手をして欲しいときにお呼びしますから」

 

「あっはい」

 

 かくして私と彼女の決戦は一週間後に決まり、彼女は修行の短期旅行に出掛けました。

 

 私も彼女に負けないよう、更に研鑽を積まなければ。

 

 

 ――そしてレプトス対ゼニヤッタの話は他の人の耳にも入っていたことによってあっという間に国中に広まって行った!

 

 

「大変だぞメニャーニャ! 決闘だ決闘!」

「決闘ぅー?またそんな時代錯誤な真似を」

「言ってる場合か、竜と虎の大激突だぞ!」

 

「エステル先輩、デーリッチちゃんとうちのネテンダーなら、この前もケンカしてたでしょ」

 

 王国会議に使われる広間に、実験機材を持ち込んでいたメニャーニャは、魔法使いのくせにやたら元気なピンク色を見た。

 

 王国屈指の召喚士、白衣を着た少女は、同じく王国出身の召喚士、赤毛のエステルへと振り向いた。

 

「ちっげーし! レプトスとゼニヤッタだよ!」

「ああ、最近拳法の練習をしてましたね」

 

「それが年末のてこてこ山の山頂で、真夜中に、やるんだってさ!」

 

「はあ、それはまたどうして」

 

 持ち込んだ素材と薬品の反応を観察しながら、メニャーニャは言う。こういう地味な研究が彼女の憩いの時間だった。

 

「わかんね。仲悪いとは思ってないんだけど、ただ」

 

「ただ?」

 

「ヤエちゃんが、複雑な片思いの行方よねって」

「ほお、ヤエさんが、ですか。ふむ」

 

 メニャーニャは考える。この王国には惚けた様子でその実、油断のならない人物が何人かいる。

 

 腹の立つ青い女侍もそうだが、ヤエと言われた女性は違う。彼女は優れた超能力者であり、また観察眼に長けた人物でもある。

 

 孤独に耐えかねた友人に付き添い、励まし続けたことが却って説得となり、王国メンバーの離反を土壇場で食い止めた至誠の人である。

 

 ※本人たち以外にはそう思われている。

 

 その彼女が言うのだから、そう外れているとは考え難い。

 

「うちにもカップルやそれに近い人はいますからね」

「ああ、マッスルとハピコみたいな」

「ぶふっ!」

「な、なんだよメニャーニャ、急に噴出して」

 

 エステルは突然噎せた後輩の背中を擦ると、ハンカチを差し出してやった。

 

「す、すいません先輩、先輩がそういう機微を察せる人だとは」

 

「どういう意味よー? 私だってそれくらい分かるっつーの」

 

「そ、そうですか」

 

 意外な一面の発見委戸惑ったメニャーニャだったが、彼女は一度咳ばらいをして息を整えると、話を戻すことにした。

 

「ともあれ、その決闘ですか。どうするんです」

「決まってるだろ、私たちも見に行こう!」

 

「私たち『も』ですか?」

「おう、他の皆も興味深々。それに危ないじゃん」

 

 面白半分ではあるが、仲間の無事が考えているのが、この人らしいなと、彼女は思った。

 

「まあ、お互い達人ですからね。『はずみ』一つが命取りになりかねません」

 

「な、一人でも咄嗟に止めに、入れる奴がいないとでしょ。たぶんうちの王国以外じゃ無理だし」

 

 メニャーニャは即座に頭の中で、様々な大怪我への対処を考慮し始めた。当然実験と並行して。

 

「仕方ないですねえ。分かりましたよ」

「おっしゃ、感謝するぜメニャーニャ!」

 

「しかしこれ、たぶん大事になる気がしますよ」

「暗くならなきゃそれでいいだろ」

 

 エステルは快活な笑みを見せると、他の者にも声をかけに行った。

 

「全く、他人のことには気が利くんですから」

 

 その背中を見送りながら、メニャーニャは鈍感な先輩に、苦笑するのであった。

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