「なんの!」
『おおーっとレプトス渾身の飛び蹴り! しかし、おおっと!? ゼニヤッタこれを空中で避けた!まるで猫のような身のこなし!』
「しっしまった!」
「並みの相手なら、これで決着でしたわね」
『むしろレプちんは無防備な背中を晒すことになったでち!』
迎撃を失敗したレプトスの着地を、虎悪魔が狙う!
繁殖するトラバラの森、隆起する根、足場を見出しつつ、ホワイトローズで追撃する。
徹底した地上戦での猛攻!
「波、そうだっ!」
『レプトスも負けじと水龍を呼び寄せるが、ああっと凍り付いていくー!』
『ゼニヤッタちゃんの冷気に負けてしまったんでち、でもこれでいい!これがいい!』
滝の動きを逆再生したかのように、昇竜は凍てつき彫像と化す。
「ハイィィィィヤッ!!」
その彫像を足場に蹴り、先ほどよりも遥かに威力を増した飛び蹴り、ドラゴントレインが放たれる。
樹氷をバラバラに蹴散らし、駆け寄るゼニヤッタに突き進む。
「っ!」
ゼニヤッタの表情が曇る。眉根を寄せ、その顔面に爪先が触れる瞬間。
彼女は開眼した。
『うおっ』
上体を低く沈ませ、足を大きく開く。
長椅子の下を潜るかのような、曲芸染みた前進。
額の端が切れ、髪の毛が切り裂かれる。
正に間一髪。
『避け切った!まさかの回避!』
「まずっ」
「ご無礼」
背後からの追撃に備え、全身の力を集中させたレプトスの背中に、ゼニヤッタの爪が食い込む。
「ぐっああああああーーーー!」
『ゼニヤッタのタイガーソード炸裂ゥ! そしてこれは!』
『ヅッチーのプラズマクローでち!』
本家が電撃を拳に纏わせるのに対し、こちらは氷の爪で拳を覆っていた。
『ニクイことしてくれるぜ、そしてこれは』
『クラマくんの連続ステップでち』
――決まったナ。ゼニヤッタのご無礼が出た。あとは一方的な棒攻めあるのみだ。
イリスの言葉を裏付けるように、ゼニヤッタの攻撃は苛烈を極めた。
「ぐっあぐ、くううう!」
見る間にレプトスの体は血に染まり、虎を相手にした者の末路を見る者に思わせた。
『攻撃が途切れない!レプトス踏ん張って耐えるしかない!遂に試合が大きく動いたが、これは勝負あったかー!?』
『ああ、まさか、まさかあの技は!』
それまでが爪による攻撃ならば、これこそが牙、大いなる顎。
「国王様、これが私の修行の成果です」
ゼニヤッタが腰だめに両手を構えると、圧倒的な闘気が高まっていく。
『デーリッチ覇王砲!』
本家を上回る虎の気が、竜の背を討ち、夜を照らす。
(まだだ、まだ耐えるんだ……。まだ私は、あの人に触れてさえいない。まだ)
「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!」
『耐えた!?レプトス未だ倒れない!』
ゼニヤッタの攻撃が途切れ、レプトスが振り返る。自分を仕留めるために費やした力は嘘ではない。
そして、その隙も。
(だからこそ、彼女に応えなくてはならない!)
『行ったー!残り体力も僅かだが、だからこそ行く!』
『今しかないからでちね!』
全身を捧げた必殺の肉薄、ゼニヤッタの捌きも搔い潜り、顔と顔が迫り、吐息が重なるほどの距離。
「おおおおおおおおおおおおーーーーーー!!」
殿下の宝刀が抜かれ、臥せた竜が目を覚ます!
「くっごふ、かは!」
『決めたー!レプトス必殺のウェイクアップリューオー!いや!?』
「ああああああーーーー!」
『止まらない、止まらない、止まらない!これはアリウープの技、四連三連三連、難蛇龍王烈波!どこまで続くんだー!』
レプトス自身は無意識で行っていた。その身に宿る水龍は、二つ!
一つは再び繰り出した青き龍、そしてもう一つは、己が流した血が形作る、赤き龍!
追い詰められた彼女が、生命の危機に陥り、生存への本能と、強敵(とも)に報いたいという愛が、秘められた力を爆発させたのだ!
荒れ狂う二色の大波が、渦潮となってリングを飲み込んでいく。
「ほん、とうに、お強いですのね」
「ゼニヤッタさん……ぐっ」
語り掛ける悪魔は、天使のように微笑んでいた。
無我のままに繰り出されたコオリナックルが、レプトスの心の臓に突き刺さる。
最後の抵抗であった。
連撃が止まり、二人の視線が重なる。
『と、とまった……?』
深紅の瞳の中に、自らの姿を認めると、レプトスはゼニヤッタを抱いた。
――えっこれまさか、まさかなの!
――えっちなやつ!? えっちなやつじゃん!?
『あっやば、レフェリーそろそろ止め』
そして、二色の龍と共に天高く飛び上がると。
『そうだ、まだこの技があった!』
二人はてこてこ山の山頂から、静かに落ちて行った。
『あ、き、救助―!』