アベンジ・リコイル 作:鉄男社長
アベンジャーズ
目覚ましい能力を持った者達を集め、時には地球内のテロリストと、時には外宇宙からの脅威と戦い、地球の平和を守る1組のチーム。
かつて彼らが戦ったのは全宇宙の人口を半分消そうと企むヴィラン、名はサノス。
彼らは死力を尽くして戦った。だが残酷な事に力が及ぶ事なく、1度は敗北し全宇宙の半分の消滅を許してしまった。だが彼らは諦める事無く、5年後に紆余曲折の末に奪われた者達を全て取り戻し、多くの英雄たちの犠牲と引き換えにサノスへの報復を果たし、遂に勝利を治めた。
それから数か月後―――
◇
昼過ぎの平日。快晴の日差しを受けながら、俺は東京の街を散歩していた。街中を歩いていれば自分と同じくらいの年頃であろう制服を着た男子生徒達が目に留まる。自分も彼らの様に学校に通ったり、同じ位の年齢の友達を作りたいけど、ただでさえ今の待遇は破格なのだ、これ以上我が儘を言ったり、贅沢はできない。
日本に来てから数日後。俺は隠居生活を満喫していた。サノスとの戦いが終わり、全てが終わった今、フューリーに頼んで日本の国籍を用意して貰い、今はアパートで一人暮らしをしている。
だが思えばこんな生活が送れるとは夢にも思っていなかった。生まれてこの方、ずっと戦う事しか知らない俺だったが、こうして平和に日々を過ごせるのは有難い。俺の引退に協力してくれたフューリーには感謝しなくちゃな。
だがどうしても近所で学校帰りであろう同年代の人たちを見ていると、彼らの様に学校に通ったり、同年代の友達を欲しがってしまう。だが只でさえ隠居できているこの状況が有難いのだ。これ以上無い物ねだりをする訳には行かない。
だがずっとこのままって訳には行かないよな…近い内に高卒認定試験でも受けて、大学にでも進学するかな。それても適当な職場でも探すか、現役の時に稼いだ貯金は有るが、何もせず通帳の中の数字が減っていくのは精神的に宜しくないし、何かしらのやるべき事を探さないと。
だが今こうして何かに追われたり、縛られたりする事なく街を散策するのは好きだ。日本人は規範意識が高く、親切だ。町を見て見ればすぐに解る、道にはゴミ一つ落ちていないし、誰かが落とし物をすれば盗むことなく直ぐに持ち主へと返す。アメリカとは比べ物にならない治安の良さだ。俺はアメリカ育ちで、この国との関係性は殆ど無いが、こうして見ていると自然と日本生まれなのが自然と誇らしく思えてしまう。日本、やはり来てよかったな。
それに、こうして平和な街を見ていると自分が戦ってきた事が報われているような気がして、何とも感慨深い。そんな中俺は一軒の店の前で足を止めた。ここは喫茶リコリコ、俺が日本に来てからよく来ている喫茶店だ。
「いらっしゃい佐倉君。また来てくれたのか。」
店に入ってみればダンディな黒人男性が気さくに挨拶し、カウンター越しにメニューを渡してくれる。彼はここの喫茶店のマスター、ミカさんだ。
「今日もいつものかい?」
「はい、どら焼きとオリジナルブレンドコーヒーを」
注文を済ませ、テーブルに頬杖を付く。ここ喫茶リコリコと俺が出会ったのは、ほんの数週間前の話、ほんの気まぐれで来店したのだが、珈琲の味と言い、和洋折衷のメニューと言い、俺の好みに完全にドストライク。以降は毎日のように足を運んでおり、今ではすっかり常連客の仲間入りだ。
「あんた本当にどら焼き好きね。来るたび食べてるじゃない。」
「どうもミズキさん、この味が中々好きなので。」
どら焼きを一口頬張り、珈琲を飲んでいると、俺に店の奥から一人の女性が話しかけて来る。彼女は中原ミズキ、知的なイメージを思わせる眼鏡を掛けた女性であり、現在絶賛婚活中だ。だがどうにも状況は芳しくないようで、昨日も『駄目だった』と嘆きながら机に突っ伏していた事を覚えている。
「そう言えば千束はどうしたんです?」
「まだ来てないよ、そろそろシフトの時間だから来るんじゃない?」
ここの看板娘が不在であることを知り、少し残念な気持ちと共に珈琲を一口喉に流す。彼女との出会いはほんの数週間前の出来事の話だ。あの時はまだ日本へ引っ越して来たばかりで、引退生活の中で何をすればいいか漠然としたイメージも付かず、ただ何の目的も無く近所を散歩していた時、この店の看板娘と出会ったのだ。
出会ったきっかけは単純、彼女の落とし物の探しを手伝ってやった事だ。あの時彼女は何やら財布を落としてしまったらしく道端であたふたしており、そこを見掛けた俺が一緒に探す事を提案し、それを快諾した彼女との数分間の共闘の末無事に彼女の財布を見つけたのだ。その後は特に考える事は無く、そのまま家に帰ろうとした、だが彼女は『お礼がしたい』と言い、この店に連れて行ったのだ。それがこの店喫茶リコリコとの、そしてこの店の看板娘との出会いだった。
今思い返してみれば随分と奇想天外な出会い方だと思う、だが彼女との出会いが無ければ自分はこの店とも背会えていなかったし、日本の生活も今よりも味気ない物になっていただろう。
「なに? 佐倉君。千束ちゃん居ないのが寂しいの?やっぱりあの子の事、気になっている感じ?」
「いや、なんでそうなるんですか。 それより締め切り近いんでしょ? ホラ、俺にかまけていないで書いた書いた!」
俺と同じく常連であろう漫画家の女性の絡みを何とかかわしながら、再び珈琲を口に運ぶ。
「珈琲何か苦いな…もう少し砂糖入れよ。」
そりゃ正直に答えると、彼女が居ない事は寂しい。でも気になっているとか、そう言った恋愛感情的な物はないと思う。ただ気の合う人間が居ない事に寂しさを感じているだけだ。それに俺は恋愛なんてガラでもない、だって俺の経歴はちょっとした訳アリで、元テロリストなのだから。キャプテンは『そんな事ない』って否定してくれたけど、俺の人生にラブストーリーは―――
「千束が来ましたー!」
だが声が聞こえた瞬間、体が反射的に彼女が居るであろうドアへと振り返った。快活な声が聞こえる、どうやら彼女が来た様だ。
「あ、浅野さんいらっしゃいませー! それに阿部さんもいらっしゃーい!」
その声の主は色白い肌に少し黄みがかった白髪をしており、ルビーを彷彿とさせる瞳と合わされば、まるで兎の様な可憐さを感じさせ、思わず目を奪われてしまう。
彼女の名前は錦木千束。俺がここ喫茶リコリコを知るきっかけとなった人物であり、日本に来て初めてできた俺の友人だ。
「お! 佐倉君じゃん! 来てくれたんだね!」
「うん、邪魔しているよ。」
俺を見つけるや此方に駆け寄り、挨拶してくる千束。俺はそれに軽く手を挙げて応える。すると千束は何かを感じ取ったのか俺のテーブルの上の品を見てきた。
「相変わらず今日もどら焼きと珈琲とは‥‥今日こそ千束スペシャルを―――」
「流石にあの量は無理だよ。これだけで十分。」
「むー! また振られちゃったー! あれ滅茶苦茶美味しいって評判なのに、何でだよー!」
隣のカウンターのテーブルに寄り掛かり、手をバタバタと振って駄々をこねる千束を尻目に珈琲をもう一度口に運ぶ。その姿を思わず可愛らしいと思い。心臓が跳ね上がる。思えば彼女と出会ってから彼是2週間、毎日彼女の所作や仕草に思わずドキッとしてしまう自分が居る。
やばい、滅茶苦茶距離近い。
これでも俺は現役の頃チームで戦う事も有り、女性のヒーローとも接する事は多かった。だがそれは皆全員俺よりも年上の存在、ナターシャさんやワンダさん、ドーラミラージュのお姉さんたちも俺にとっては姉の様な存在であり、こんな気分になる事は無かった。
だが彼女は、錦木千束は違う。彼女は日本に来てから出会った初めての女性で、年齢17らしく俺と殆ど同年代だ。思えば生まれてこの方、現役の頃を通して一度も同じ年代の女性と話した事が無かった。だからきっと体に耐性が無いのだろう。
「こら千束、佐倉君が困っているだろ。早く着替えて来なさい。」
「あ、先生。はいはーい、それじゃあゆっくりしていってねー。」
鼻歌交じりに店の奥へと向かっていく千束、俺はそれを見送りながら珈琲をもう一杯口へ流す。だがそこにミズキさんが忌々しい物を見るような目線で話し掛けてきた。
「アンタ千束が好きなの?」
「ぐぶっぅ! え? 何で?」
思わず口に含んだ珈琲を吹き出しそうになる。この人はいったい急に何を言っているのだろうか。好き?乗れが? 千束を? 違う違う、俺はただ同年代の女子に慣れていないだけであって、俺に恋愛なんて‥‥
「正直毎回目の前でラブコメされてると腹立つのよ、まどろっこしい真似しないでさっさと付き合えっての。」
「そんな、ホントそういうのじゃないですから!」
「うっさい! その顔がすべてを語っとんじゃー! ちくしょー、何で私に白羽の矢が立たないのよ‥‥」
何かを愚痴りながらぐったりと浮項垂れるミズキさん。まったく何で人間と言う生物は何でもかんでも恋愛に結び付けて考えるのだろうか。だが今度はミズキさんだけでなく、先程の話を聞いただろう周りの客たちが騒ぎ始めた。
「なになに? やっぱり佐倉君、千束ちゃんの事好きだった訳?」
「なるほど、喫茶店の看板娘と常連の恋‥‥しかもお互い無自覚ね…何かのネタになるかしら。」
まったく、本当にそんなんじゃないのに。なんでそんな目で見て来るのだろうか。周りの噂と言う弾丸から逃れる様に俺はカウンターのテーブルを見る。するとミカさんが微笑みながらお代わりの珈琲を入れていた。
「あの‥‥」
「店からのサービスだ。色々大変そうだしな。」
「すいません、ありがとうございます。」
有難くサービスとして提供された珈琲を飲む。だが周りの事も有ってか味とかよく解らない。全く俺の何を言っても別に気にしないけど、少しは俺を気遣って欲しいものだ。内心不満を抱えながら珈琲を喉に流し込んでいると、ミカさんは何処か楽しそうに話してきた。
「最近、キミと千束の仲について結構話題になっているんだ。色々気まずいと思うが、耐えてくれ。」
「ははは、まだ出会って2週間ちょいですよ。それなのに好きとか‥‥ミズキさんも皆もホントにもう……」
「だが千束も君と出会ってから少し変わった様な気がするよ。良い意味でね。」
「そうですか? 何時もとそう変わらない様な気がしますけど。」
「そうだとも、同年代の友達が出来たのが嬉しいってのもあるんだろう。」
珈琲を飲みながら緩む口元をどうにか誤魔化す。でもミカさんの話だと千束って余り年が近い友達とかって居なかったのかな? あのコミュニケーション能力がカンストしている様な千束が? まぁあの子にも色々事情があるのだろう。藪蛇なのは間違いない、深く踏み込むのは止めておこう。
「それじゃ、そろそろ失礼します。会計お願いできますか?」
「ん? もう良いのか? そろそろ千束の着替えが終わる頃だと思うが……」
「いえ、この後ちょっと用事があるので。」
ミカさんに礼を言って、席から立ち上がる。用事と言っても大した事ではない。この後家近くのスーパーが今日タイムセールを行うらしく、カップ麺や惣菜などの食料品を補充する為に買い物をするだけだ。
「おっまたせー! さーて! 今日もバリバリ頑張っちゃいますよー!」
だがそのまま会計を済ませようとした瞬間、店の奥の扉が開かれ、赤い着物に身を包んだ千束が飛び出してきた。
……やっぱりもう一品どら焼き食っていくか。
◇
「あーもう、結局タイムセール間に合わなかったよ……」
喫茶店の持つ魔力がここまで恐ろしいとは思わなかった。結局あの後俺はもう一度どら焼きを食べてしまった。それに千束と話して自然となんだか楽しくなってしまい、気が付けば本来帰る時間より2時間ほど遅れて店を出る羽目になった。
でもやっぱり同じ年頃の人間と話した事なんて余り機会が無かったから、こうして千束と話しているのは楽しい。こっち側の一方通行的な感情かと思っていたけど、今日のミカさんの話聞くとやっぱり千束も俺と同じ気持ちなのかな? そうだったら‥‥やっぱり嬉しいかも。
鍵を開けて、日本での俺の住み家であるマンションのドアを開く。ここは俺が引退する時にフューリーが手を回してくれた所らしい。
「ただいま。スタークさん、ナターシャさん。」
部屋に入ると玄関の入り口に立っている一枚の写真立に向き直る。それはかつて俺とチームの皆が一緒に撮った写真。ソコヴィアでウルトロン達から市民を守る為に戦った数週間後に撮った写真だ。セピア越しにはスタークさん、ソー、ナターシャさん、キャプテン、バートンさん、ワンダさん、サムさんが笑顔で写っている。
「スタークさん……ナターシャさん……」
写真に名前を呼んでも当然返事は返ってこない。もし今の俺を二人が見たら、何て言うかな‥‥スタークさんは皮肉交じりのジョークを交えて色々言ってきそうだけど‥‥引退した事を悪い様に言わなそう。ナターシャさんもきっと今の俺を見たら納得してくれると良いけど‥‥
「‥‥会いたいよ。」
小さくこぼした俺の願望は残酷な事に叶う事は無い。もう二人ともこの世に居ないのだから。あの人たちは俺にとって親同然に思っていた二人だった。家族の様に思っていた。だが俺が消えている中にサノスとの戦いで俺はその二人を一斉に失った。嘆いても、後悔しても二人は戻ってこない。チームももう解散し、今では皆それぞれ自分の道を歩いている。俺にはもう家族はいない。
「隠居生活‥‥ね‥‥」
無理矢理写真から目を離し、小さくそう呟く。そんな俺に孤独と言う現実を教える様に、窓から差し込む月の光が、誰も居ないマンションの一室を照らしていた。
更新は遅めになるかも。ご感想お待ちしています。
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