忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

11 / 15
第二章
第九話 〜お仕事のーー〜


総員9名の傭兵団、フェンリルバイトの一日は、拠点艦『グレイプニル』に響き渡る館内アナウンスからはじまる。

 

『みんな、おっは〜! 今日もお仕事の時間だよ! 準備が終わったらブリーフィングルームにいらっしゃ〜い!』

 

「いよっしゃ! 今日はあすたんアナウンスだ!」

 

「やる気がみなぎるぜ、ヒャッホウ!」

 

傭兵団の華、アスターさんの声に釣られて、野郎どもが目を覚ます。

ゾロゾロと個室から出てきて、身支度と朝食を済ませる流れの中に俺もいた。

 

「よぅ、新入り。そういえば聞いたぞ、初陣でブルーフレームを撃破したってな」

 

食堂でズルズルと朝食のインスタントラーメンを啜っていると、隣の席に座るやたらとガタイのいい刈り上げの男が、俺の肩を叩いて声をかけてきた。

 

「あんなのまぐれだよまぐれ。トドメは完全に別口だし」

 

ケルン式単機だったことを考えると、大戦果ではあるだろうが、明確にやらかしたミスもあり、そこまで誇れる気はしなかった。

 

「運も実力のうちって言うだろ? まっ、連中に絡まれた時点でプラマイゼロかもしれんが」

 

「ゼロ通り越してマイナスだよ」

 

単機でブルーフレーム相手なぞ、本当に洒落になってない。

結局、やつに与えたダメージというダメージは、あの狙撃以外、全部エネルギーの暴発による自損だからな。

 

そう思い返しながら、箸でスープの中の残りを探っていると、おもむろに隣の男が懐から何かを取り出すのが見えた。

紙束……にしては少し一枚一枚が分厚いな。カードの束か。

 

「これは?」

 

「お前の今の運勢を占ってみようと思ってな」

 

「出た出た、ラッキーナンバーのタロット占い。当たった試しがねぇんだよなぁ」

 

他の団員がそう茶化すが、そんなもん解釈次第だ、とせっせとシャッフルする隣の席の男ーーファング7、コードネーム:アルカーナ。

シャッフルを終え、食卓にカードの束を置いたアルカーナは、そのトップをめくって置いた。

 

その表面にはーー裸の男女が左右に立ち、その間に天使かなにかか、翼を生やした人物が浮かんでいる、という構図の絵が描かれている。

 

『The Loversの正位置。恋人のカード、ね』

 

「恋人……」

 

恋人……恋人?

その言葉で真っ先に浮かんだのはあいつの顔でーー

 

ハッ、と気づいた時には、周りの野郎どもがニヤニヤしてやがった。

 

「いやぁ、若いっていいねぇ。どんな娘が好きなんだぁ?」

 

「はぁっ!? 誰があんな」

 

狂犬なんぞーーそう口にしかけて、思わず口籠もった。

思い出すのは、一つの区切りとなったあの通信から、ここ一ヶ月弱の間に、カリスニスが用意した秘匿通信で夜な夜な交わした通話の数々。

 

 

 

『やぁやぁ、惑星降下作戦のために企業が持ち込んできたトランスレイザーは見た? ちょっと派手すぎるけど、やっぱり新しい機体はいいよねー。あの機体にはどういう運用が向いてるか、考案が捗るよ〜』

 

『もしもし、今、わたしは惑星メインフレームにいるよ。からだは重いし、昼は暑いし、夜は寒いし、もう帰りたいよ〜』

 

『おいシアン! お前、おまえぇ! 昔わたしがやらかした時の話をカリスニスにしたな! あっ、おい、切るな! 逃げるな!』

 

『そっちも惑星に降下するの? じゃあ、もしかしたら会えるかもね。ーーはやく、あいたいな』

 

違う、違う。5年の間に取り繕い方を覚えただけだ。

中身は狂犬のままだ、狂犬の、はず。

 

ーーでも、可愛いんだよなぁ、あいつ。

 

 

 

「おやぁ? 俺は好みのタイプ聞いただけなんだがなぁ?」

 

「あっ……」

 

しまった!

顔が熱くなるのを感じる。

おい、気持ち悪いニヤケ顔やめろ、歯茎出してるやつもいるぞ、めんどくせぇ!

 

「占いはここからの解釈が大事なんだが……そういう反応されると、俺も気になってくるぞ」

 

「まさかあすたんか!? あすたんは渡さんぞ!」

 

「いや違うし、お前のものじゃねぇだろ」

 

その問題発言にはマジで突っ込む。

確かにアスターさんは、普段から距離感近いせいで、未だにドギマギさせられる時もあるが。

 

「なんだと貴様、あすたんが好きじゃないと申すか!」

 

「めんどくせぇな、おい!」

 

この面倒なやり取りは、団長が〆てくれるまで続いた。

 

 

 

 

「お前らなぁ……久々の新入りで盛り上がるのは分かるが、下手すっと新人いびりにしかならんぞ。いい加減学べや」

 

やれやれ、といった感じで、腰あたりで束ねた灰色の長髪を揺らしながら先頭を歩く団長に、俺はついていく。

その後ろには、口枷と手錠で繋がれた野郎ども(団員たち)がずらりと行列を組んで、廊下を歩いていた。

 

「悪いな、ヴァッハ。面倒だろ、こいつら?」

 

振り向いた団長が、そんな言葉とは裏腹に嬉しそうに声を掛けてくる。

まぁ、マジで面倒で鬱陶しいわ暑苦しいわでうんざりする時もあるがーー

 

「不思議と悪くないんだよな。ほどほどにはしてほしいが」

 

「そうか、そいつはよかった」

 

そんなやり取りを交わしていると、

 

「遅いぞ! 一体いつまで……うわっ」

 

見慣れた赤い色と見慣れないロングヘアが、目的地の扉からひょこっと現れた。

よりによって、野郎どもが口枷と手錠で繋がれ、俺と団長を先頭に連行されている場面で。

 

「おい、なんだその、シアン……この傭兵団、本当に大丈夫なのだろうな……?」

 

ドン引きして、思わず素が出てしまっている赤髪の小さな女ーーニュア・キノクスに、俺は頭を掻きながら答える。

 

「あー、確かにめんどくせぇけど、悪いやつじゃねぇ……から?」

 

俺とニュアのやり取りで、さっきの話題と合わせて余計なことを考えたのか、後ろでガチャガチャと口枷と手錠を鳴らす野郎ども。

その存在自体を無視することにして、俺はあのテロ騒ぎの時ぶりにニュアの姿を見た。

 

コロニー軍の制服である、ビシッとした雰囲気を持つ黒のスーツ。

それを彼女はネクタイを抜き、上着のボタンを全て外すという形で着崩して、白いワイシャツが丸見えになっている。

そこまで上着の前が開いてると、だらしない雰囲気が先行してしまいそうだが……。

 

それよりも何よりもーーその可愛いらしさに目を奪われてしまった。

 

「あー、色々悪いな、可愛らしい軍属さんよ。こいつらは無視していいからな。さっさとブリーフィングはじめっぞ」

 

「色んな意味で酷すぎて無視できるか! ……こほん、まぁ、なにはともあれ」

 

ふわり、と穏やかな表情で、彼女は俺に微笑んだ。

 

「やっと会えたね」

 

「別に、ずっと通話はしてただろ」

 

俺は思わずそっぽを向いて、心にもない言葉を口にしてしまった。

なんなんだよ、こいつ。なんでこんな……。

 

「今回はお仕事だけどさ、合間に話すくらいはできたらいいね〜」

 

一緒にお仕事がんばろ〜、と口にして微笑む彼女はーー

 

言葉では言い表せないほどに綺麗で可愛らしかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。