忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第十話 〜巨大な鋼鉄のーー〜

「目標座標まで10km……なにもないな」

 

俺は、あたり一面に広がる灰色の砂の荒野を、脚周りの装甲が強化されている俺の機体ーー青緑色のカエスゴアルツーーで歩いていた。

周りには、フェンリルバイト傭兵団のメンツが、それぞれカラーリングだけ違う同じ仕様の機体で、低空飛行をしている拠点艦グレイプニルを囲むような陣形で歩いている。

 

『周辺に警戒網らしきものもなし。ここまで静かだと逆に怖いよねぇ』

 

少し離れた場所で、同じように軍の母艦の直掩として歩いているニュアが、無線通信越しにそうぼやいた。

軍としては、流石にエントランスを潰せば、少しは警戒するだろうというのは当然の考えなのだろうが……。

 

『ほーんと、よくわかんないですよね、オルビドのやることって。エントランス制圧する時はほぼ無抵抗だったくせに、最近になって今更襲ってくるし』

 

カリスの愚痴の通り、一週間ほど前に惑星における侵攻拠点であるエントランスは襲撃を受けた。

この依頼が回ってきたのも、それが発端だ。

 

 

 

 

今より12時間ほど前、グレイプニルのブリーフィングルームで。

 

「今回の依頼内容は、ここより北西方向に存在が確認されている、仮称『第五資源採掘拠点』への威力偵察です」

 

胸元から下のボタンはつけている事以外、ニュアとほぼ同じように軍服を着崩しているカリスニス・ファリミアが、真面目な表情を能面のように張り付けて、今回の依頼内容を話していた。

 

「本来なら、本作戦は第3偵察隊が担当する予定でしたが、先日のオルビドによるエントランス襲撃により、防衛設備及び各種兵器が損耗、その戦力を防衛に回さざるを得ないのが現状です」

 

その時、俺はまだ惑星に降下していなかったため、居合わせてはいないがーーブルーフレーム3機による襲撃だったという。

拠点攻略という観点から見ればふざけた編成だが……その理不尽さを知っている身からすれば、たまったもんじゃない。

 

「そこで、貴方がたフェンリルバイト傭兵団には、我々第2独立特務部隊と合同で、威力偵察を実行していただきたいのです」

 

なにか質問はございますか、と問いかけるカリスニスに、俺は我慢できず手を挙げた。

 

「なんか悪いもんでも食ったのか?」

 

その言葉に、カリスは能面のように張り付けていた表情を、少しだけ心外そうに崩した。

 

「失礼ですね、公私はしっかり分けるタイプなのです。ただ、公だけでは疲れるので、怒られない程度に私の割合を増やしていくのが、お仕事を長く続けるコツですよ。具体的には10(じゅう)0(ぜろ)で、当然私が10側です」

 

相変わらず、喋らせるとうるさい上にトンチンカンな事を垂れ流す女だ。

……が、こうまじまじと見ると、やかましさの割にクール系の綺麗な顔立ちしてるんだよな。

目にクマがついてるのがマイナスだが。

 

「公の割合死んでるじゃねぇか、お前それでよく公私を分けるタイプなんて言えるな」

 

「うるさいですね、バレなければ問題ないんです。それよりそろそろ再起動してくださいよ隊長。女の魅力は身体だけで決まるものではないですから、ねっ?」

 

そう言って部屋の片隅に視線を向けた先にはーーアスターさんに介抱されている、虚な目をしたニュアの姿が。

 

「ごめん、ごめんね! 抱きつく力が強すぎたかな!?」

 

「おおきい……でか……柔らか……」

 

赤い頭頂部がアスターさんの胸元に届くか届かないかという圧倒的なまでの身長差。

そして、自身とは比べるまでもないほどに、肉感的で柔らかな身体つきの暴力。

彼女はそれを、アスターさんにかわいー! と思いきり抱きつかれた際に感じて衝撃を受けたのか、抱擁から解放された頃にはもうこの状態になっていた。

 

 

 

 

あの状態は、しばらくあいつをからかうネタになりそうだし、何より可愛かったな、とブリーフィングの一場面を思い返していると、

 

『どういう思考してんですかねー、あいつら。そこんとこどう思います? 主人公さん』

 

カリスのやつ、こっちに振ってきやがった。

 

「誰が主人公だ。ってか、まだ言ってんのかそれ」

 

それにしても、オルビドの思考、か。

オルビドの実態を知っている俺からすれば、大体の想像が付く。

 

エントランスへのブルーフレーム3機による襲撃。

あれすらもただの遊びだ。

拠点攻略という高難易度ミッションを仲間と組んで挑戦したんだろう。

 

吐き気がする。

 

襲撃で少なからず死傷者も出ているのを見ていると、本当に笑えない。

こんなもん、コロニーの住民であるカリスやニュアには言えたもんじゃねぇな。

思わず深いため息をつきながら、灰色の砂の荒野を、眩しくもどこか鈍い色合いをした日差しの下で機体を歩かせていたのだがーー

 

『待って!』

 

アスターさんの声。

それと同時に、マーカーが更新され、俺たちが向かっていた目標地点に警告のマーキングが付けられていた。

 

『どうしたアスター。なにが"見えた"?』

 

団長の問いかけに、俺は少し引っ掛かりを覚えた。

見えた? ってことは、アスターさんにしか見えないもの……いや、もしかしたら今の俺にも見えるか?

アスターさんから教わったスイッチを切り替えるイメージで、チャンネルを切り替えてみるとーー

 

『管理人からの警告!? なにか大きなのが出てくるよ!』

 

目標がある方向の地平線から上空に向かって天を貫くように、デカデカと"浮上中につき注意"、という縦書きの警告表示が見えた。

浮上……なにをしてくる気だ!?

 

『ほらぁ、やっぱり主人公じゃないですか! 主人公は不測の事態を引き寄せる定めなんですよ! しかもヒロインのたいちょとお仕事後にデートできるかもしれないシチュ。作者視点で障害出さない理由ありませんよね、そうですよね!』

 

「うるっせぇ! 微妙にメタくてうるせぇ! いい加減、その発想から離れろ!」

 

『言い争ってる場合か! 総員、警戒態勢!』

 

『野郎ども構えろ!』

 

ニュアと団長の号令を受け、俺もいつものように左手に盾と、右手に持ってきた手持ちのグレネードランチャーを構える。

肩部には左右ともにミサイルランチャーを搭載し、拠点へ被害を与えやすい、爆発物中心の武装構成をしてきたが……高機動のブルーフレームだったら少し分が悪いぞ?

そう思っていると、ジェット噴射の轟音と共に、その正体が判明した。

 

ーー最初に見えたのは、浮かび上がるために搭載されたスラスターを吹かす、青白いラインが入った6本の鋼鉄の脚。

いつかのような蜘蛛脚かとも思ったが、遅れて姿を現す、一番下の先端に青い結晶のようなものがついた、一本の太い鋼鉄の棒を見て、表現がそもそも間違っていたと改める。

 

こいつを例えるなら、骨組み部分だけのーー艦船と同じ大きさをした鋼鉄の傘だ。

 

地平線から浮かび上がってくる、この距離でもハッキリと傘の骨組みような形状が分かるほど巨大なシルエットに、俺は一瞬だけ呆然としてしまう。

 

どうやらこの仕事、一波乱どころの騒ぎじゃなくなりそうだ。

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