忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第十一話 〜本気と遊びのーー〜

『なーーんだ、あれは! あんなもの浮かべて何の意味が……』

 

俺と同じく呆然とした様子のニュアを尻目に、悠々と空へ浮かび上がっていく鋼鉄の傘を見上げーー

 

『こいつぁ、ヤベェかもしれん。お前ら、撃ち落とせ!』

 

団長がどこか焦った様子で指示を出した。

それに即座に反応し、傭兵団の面々が次々とミサイルや弾丸を鉄傘に向かって放つ。

 

『ありゃ、惑星を守る傘だ! 外で似たようなのを見たことがある。いま撃ち落とさねぇと確実に面倒が増えるぞ!』

 

『わかった! 各員、仮称『鉄傘』に火力を一点集中!』

 

遅れてニュアの隊がいる方向からも、弾丸とミサイルが雨霰と飛んできた。

ミサイルと弾丸の嵐が鋼鉄の傘を巻き込み、爆風と共に巻き上がった砂煙が傘の姿を隠す。

 

『やったか!』

 

合わせたチャンネルからあの傘のデータを確認ーー健在(Alive)だ。

 

「いや、まだだ!」

 

『うん、まだ目標は健在だよ!』

 

チャンネルを切り替えたことで、あの鉄傘を視界ではなくデータで把握できるようになっていた俺には、衝撃で盛大に傾きながらも、まだ鋼鉄の傘が機能しているのが見えた。

6本の骨部分に搭載されたスラスターで、必死に姿勢制御をしながらーー下先端の青い結晶が閃く。

 

「くるぞ!」

 

『上に避けて!』

 

俺とアスターさんが警告すると同時に、青白いエネルギーのレーザーが傘の下先端から放たれ、砂の荒野を薙ぎ払った。

地面に沿って照射されるレーザーに、予兆を見ていた俺は機体をジャンプさせて回避したが……。

 

『うわうわうわ、なんですあの露骨なロー狙いの薙ぎ払いビーム! 縄跳びし損ねて脚逝きそうなんですが!』

 

『脚部損傷、まだ動けるが……流れが悪いか?』

 

傭兵団とニュアが隊長を務める第2独立特務部隊それぞれに、回避し損ねたメンツからの被害報告が挙がる。

 

『ファング7は少し下がれ。他は撃ちまくって二発目を撃たせんな!』

 

『カリス大尉、動けるうちに母艦に戻って! 近くの隊員は大尉を守るようにシールドで護衛しつつ、射撃は継続せよ(ファイア、ファイア)!』

 

しかし、それに怯まず団長とニュアが通信越しに命令を叫んだ。

爆風とジェット噴射から生じる風圧で砂嵐じみた砂煙が巻き上がる視界不良の中、ミサイルが乱舞し、弾丸がその隙間を埋めている。

そこにグレイプニルや軍の母艦による援護も加われば、撃墜までそう時間は掛からなかった。

 

二発目のレーザーを放つ暇もなく、スラスター部分に障害が発生し、姿勢制御すらできなくなった鉄傘が墜落していく。

 

『撃墜確認!』

 

『なんとかなった……かな? カリス大尉は?』

 

『大丈夫、なんとか戻れそうです。ええい、あの傭兵団、よく見たら脚部装甲盛り盛りのマシマシじゃないですか! こちとらたいちょ以外、初期機体(カーゴルツ)なんですよ! なんですか、うちは主人公を引き立てるための敵を引き立てるためのやられ役だっていうんですか! そこんとこどう思います主人公のファング8さん!?』

 

「うるっせぇ! もうやられてんのにうるせぇ! なんでいちいち俺にーー」

 

ーー再度警告?

 

『また警告!? もう1つくるよ!』

 

灰色の地平線の先へと墜落していく鋼鉄の傘。

それと入れ替わるように、再び同じ形のシルエットが地平線から姿を現した。

 

『2機目!?』

 

『この手のは惑星を覆うためにデカくするか、数を用意するかが鉄板だ。が、出オチさせりゃ関係ねぇ、撃ち落とせ!』

 

2機目の鉄傘に、先ほどと同じように集中砲火してーー

 

『3つ目も出てくるよ!』

 

アスターさんからの通信からまもなく、今度は間隔を置かずに3つ目の鉄傘が浮上してきた。

2機目を落とした頃には、さらに4機目の姿、5機目の影。

 

『洒落になってませんよ! 何機いるんですかこれぇ!』

 

次々と地平線から浮かび上がってくる鋼鉄の傘の様子に、カリスが弱音を漏らす。

とにかくありったけのミサイルを打ち込んでいるが……距離が遠くて手持ちのグレネードランチャーが腐ってるのが痛い。

このペースだとそろそろーー肩部ミサイルの残弾が尽きる。

 

『こいつは……ちと判断ミスったな。ずらかるぞ!』

 

『なっ!? だがこれを堕とさねばならんと言ったのは……』

 

撤退を促す団長に、ニュアが思わず素で問いかける。

確かに団長はそう言った。が、それは全部撃墜できるならの話だ。

 

『あの勢いじゃ二桁まで用意してるだろ、全部落とすには、どう考えても弾が足りねぇ! それより今退かねぇと上からの鶴瓶撃ちで全滅すっぞ!』

 

『っ、わかった! 総員、撃ち方やめ、撤退するよ!』

 

それぞれが撃ち方をやめ、撤退準備をはじめたその時。

 

『9時方向からブルーフレーム! よりによってこんな時に!』

 

アスターさんが悲鳴のような報告をあげる。

その方向を見れば、砂煙に紛れて微かに青白い光がチラついていた。

 

『冗談ではない! ふざけーーなに? 通信?』

 

激昂して叫ぼうとしたニュアの言葉が止まる。

何かの通信を聞いている様子でーー聞き終えた彼女が、無言で通信データを送ってきた。

 

『こちら、第1独立特務部隊隊長、オルドエナ・ハイクラウンです。現在、観測されている全ての敵拠点より、仮称『鉄傘』が次々と展開されています』

 

映像通信……映っているのは、黒い軍服を着崩さずに身に纏い、金髪をオールバックにした優男、といった風貌の男。

っていうか、あの鉄傘、他のところからも出てきてんのか!?

 

『それを撃墜するため、衛星砲『メメント・モリ』の使用がつい先ほど決定されました。撤退支援も兼ね、そちらの指定した座標に優先して照射しますので、座標またはマーカーの設定をお願いします』

 

『まずは第五資源採掘拠点の座標を指定した! 鉄傘は任せていい、あとはーー』

 

砂煙を突き破って姿を見せた、青白いラインを神経のように張り巡らせた人型機体ーートランスレイザー。

 

「こいつを凌げばいいわけか」

 

『照合完了! ブルーフレームγ型、特殊な機能はない代わり、安定したエネルギー供給を生かす武装を持ってるタイプだよ!』

 

γ型、以前遭遇したα型との大きな違いは、武装をしていること。

やけにスタイリッシュなデザインの青いライフルを2丁持ちして、肩には右にキャノン砲のような砲門が、左に……。

なんだこりゃ? 左肩には、細長いアームに4本指のクロー型マニピュレーター、その指の先端にそれぞれ青い結晶が付いているという、奇妙な機構が取り付けられていた。

 

重力を感じさせない動きで、俺たちの目の前まで来て、見せつけるように滞空しーー俺を見ている?

 

ーーリベンジマッチだーー

 

ふと、そんな意思を感じ、ブルーフレームが持つ武装構成を見返して……

 

「ふざけんじゃねぇぞ……」

 

間違いねぇ、こいつはあの時、宙域訓練場で襲ってきたやつだ。

2丁の連射も効くライフルに右肩のキャノン、左肩のはたぶんシールドかバリアかなんかーー細いとこは違うが、あの時の俺の武装構成を真似してやがる。

 

何がリベンジだ、どこまでも遊び感覚で来やがって……!

 

「上等じゃねぇか! 本気の俺とテメェのお遊び、その決定的な違いってやつを思い知らせてやるよ!」

 

俺の叫びと同時に、天から赤い光が降り注ぎ、空に浮かぶ鉄傘を貫いた。

それはまるで俺の怒りを代弁するかのようでーー

 

そう、俺はかつてないほどに、ブチ切れていた。

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