忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第十二話 〜俺とあいつのーー〜

「挨拶代わりだ、受け取れ!」

 

目の前を浮かんでいるやつに向かって、本日一発目のグレネードランチャーをぶち込む。

安易に避けられるーーはずだが、左肩のマニピュレーターを展開したのが見えた瞬間に、発射した榴弾が着弾し、やつの姿が爆風と砂煙に包まれた。

シールドかバリアかなんかであえて守ったか。

 

「まずはお披露目ってか! いちいち癪に触るんだよ!」

 

敵の様子を確認する間もなく、俺は全力でバック走を開始した。

距離を離しながら、グレネードランチャーのトリガーを引き、今まで撃てなかった分まで盛大にぶちかます。

引き撃ちの形、爆音が鳴り響き、砂煙が巻き上がる中ーー青い光がチラついた。

 

「残念賞だ!」

 

掲げた盾に命中ーーさらに連続でエネルギーの塊が突き刺さる。

ビームマシンガン、のようなものか。

この程度なら盾が多少赤熱するくらいで済む。

何もなければ、このまま引き撃ちの形を保つつもりだが……地面を走るしかない俺の機体と、浮かべるやつの機動力の差は明らかだ。

いつ距離を詰めてきてもおかしくない。

 

だが、近づいてきた時こそ、残り少ない肩部ミサイルごとグレランの一斉射をぶち込んでやるチャンスだ。

 

「さぁ来い……!」

 

それが思い込みだったことに気づいたのは、一際大きな青い光が閃きーー

 

『話を聞かんか、馬鹿者!』

 

聞き慣れた、狂犬の鳴き声を聞いた瞬間だった。

 

そこでようやく俺は我に帰り、目の前に一際大きな青い光が閃くのを見て失策を悟った。

右肩にあったエネルギーキャノンまでは防げない!

 

ーー危機が迫り、体感時間が遅くなった。

 

『避けてぇ!』

 

アスターさんの悲鳴のような警告が、ゆっくりと聞こえる。

迫る光の奔流。それを回避するには……。

 

跳ぶ!

 

俺の身体とトランスレイザーが一体となり、バック走の体勢から思いきり右に跳んだ。

その横を青白い光の奔流が通り過ぎていく。

回避はできた、が、強引な跳び方でバランスを崩し、灰色の砂地に身体を強打した。

 

「かはっ……!」

 

衝撃で思わず息が漏れるが、ここで止まったら意味がねぇ!

生身の要領で上手く身体を転がし、一回転。

 

ーー時間の流れが元に戻る。

 

伏せるような体勢のまま、やつがいた方向を見上げると、右肩に青白いエネルギーの光を再び収束させた、ブルーフレームの姿が見えた。

もう一度! そう身体を動かそうとしてーー操縦桿をあらぬ方向に動かす。

 

シンクロが解けている……!? 

 

「まずっ……!」

 

『撃て撃て撃て! 突出しやがった新入りに近づけるな!』

 

『目標、ブルーフレーム、撃て(ファイア)!』

 

やつにミサイルと弾丸が雨霰と殺到し、爆風と砂煙に包まれた。

 

『応答しろ、シアン! 返事の仕方も忘れたか!』

 

昂って完全に以前のテンションに戻っているニュアの通信が聞こえる。

 

「悪ぃ、助かった」

 

完全にブチ切れてたな……。

操縦桿から手を離し、立ち上がる動作を姿勢制御システムに任せる。

その間に一息ついて、クールダウン。

怒りに我を忘れるなんて、はじめての経験だった。

それでらしくないことをしたら、この状況か。

 

俺の機体が立ち上がっている間に、落ち着いて通信に耳を傾け、現在の状況を確認した。

 

『効いてんのかこれ!』

 

『弱音を吐くな、釘付けにはできている』

 

『バリアを張ってる間は攻撃できないみたい! ファング8が後退するまで、攻撃を切らさないで!』

 

『各員、ブルーフレームに撃ち込み続けてください! たいちょは少し落ち着いて! 実名出てます出てます!』

 

傭兵団と軍がそれぞれ、ミサイルと弾丸の集中砲火をブルーフレームに浴びせ、その場に釘付けにしている。

バリアのせいで効いてはなさそうだが、ここまで撃ち込めば動きは止められるか。

 

その時間稼ぎのおかげで、機体は完全に立ち上がり、俺は操縦桿を握りなおして、機体を後退させていった。

 

そこでニュアから通信が入る。

 

『……こほん、ファング8。あのブルーフレームについて心当たりがあるのか?』

 

咳払いをして少し取り繕いながら、俺に問いかける。

 

「あぁ、やつは一ヶ月以上前に、機体テスト中に襲ってきたやつと同じやつだ。間違いない」

 

『あの時のかー。じゃあ、リベンジマッチってことなのかな?』

 

アスターさんの言葉に俺は頷いた。

 

「そうだろうな。やたらと俺を狙ってくるってことは間違いねぇ」

 

そう話していると、ふむ……とニュアが考え込むような声を漏らす。

 

『クソッ、反則だろあのバリア、ゴリ押しは無理か!』

 

団長が思わずそうぼやく。

今も前方では多数の機体で包囲し、ブルーフレームへ絶え間ない集中砲火を浴びせているが、一向にバリアが破れる気配がない。

その分、こちらの損害もないが……弾切れか何かで攻勢を止めた瞬間に、蹂躙される未来が目に見えていた。

 

ーーそこで。

 

『シアン、頭は冷えたな?』

 

自信に満ちたあいつの声が聞こえた。

 

「肝と一緒に冷やしたよ。キンキンにな」

 

この、冗談を混えたやりとりも久しぶりだな。

 

『ならばよし! やつを母艦から引き離し、そこから1分弱、行けるな?』

 

なんだ、そんなことか。

援護あり、機体も武装も以前とは比較にもならず、やつの行動原理も割れている。

 

「オーライ。朝飯前だ」

 

ここまでの好条件で、できない理由を探す方が難しかった。

 

『ちょちょちょ、なに2人で通じ合ってるんですか!?』

 

『囮になるってこと? 大丈夫なの!?』

 

部下とオペレーターから声が挙がる。

それに対して自信に満ちた声でニュアが言った。

 

『問題はない。お前がヘマをしなければな』

 

「言ってくれる。あの頃ーーあの時とは何もかも違うんだ。新手でも来なけりゃ、ヘマしようがねぇよ」

 

あの頃とは環境が、機体が、武装が、そしてあいつと俺の経験、何もかも違う。

手札と選択肢の幅が広がればーートランスレイザーの運用を考えるのが趣味のあいつの思考が冴え渡る。

あとはそれを実行するだけだ。

俺がエース、なんて自惚れるつもりはないが……しぶとさには自信がある。

 

『いいだろう、まずは引き離せ! カリスエス、マーキングランチャーを持ってこい!』

 

その言葉に背中を叩かれ、俺は全力で機体を走らせた。

まずは引き離さないと話にならない。

 

『そういうことですか、了解です!』

 

『無事に帰ってきてよ! ーーそっち行った!』

 

早いな、もう食いついてきたか。

全力で疾走する俺に対して、やつは軍と傭兵の弾幕を強引にバリアで突破しながら、回り込むような軌道で近づいてきた。

弾幕を振り切るとバリアを解除し、2丁のライフルでエネルギーの弾幕をばら撒いてくるが、雑な照準の上で連射モード程度の威力なら、多少の被弾は耐えらえる!

 

『総員、適宜援護射撃! だが一斉射1回分は残しておけ!』

 

『りょーかい。それにしても、可愛い隊長としか思ってなかったが、案外……』

 

そんな通信を聞きながら、全速力で機体を走らせーーしばらくして足を止める。

既に目の前には、回り込んで見せつけるように滞空するブルーフレームがいた。

グレイプニルとの距離は……十分か。

 

さて、ここから1分弱、オーダー通りに凌がなければならないわけだが……。

 

俺の機体状況を確認してみる。

右肩ミサイルランチャー先ほど地面に転がった際に強くぶつけて機能不全(Error)

左肩ミサイルランチャー、同じくぶつけたが、まだ生きている。

右腕にはグレネードランチャー、先ほど盛大に弾を使い、残弾は2マガジンほど。

左腕には盾、多少コーティングは剥げていそうだが、まだ耐えらえる。

 

戦場は地上、灰色の砂の荒野。

 

さっきは怒りに身を任せるなんて、らしくないことしたが……。

やつらを相手にするんなら、いつものように冷静に、やつの動きを見て対応して(遊んで)やればいい。

 

「遊びに付き合ってやるよ、オルビド野郎」

 

赤い光に貫かれ、ゆっくりと灰色の地平線の向こうへ墜ちていく鉄傘の群れを背景に、砂の荒野で俺とやつが対峙した。

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