忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第四話 〜俺の機体のーー〜

「マッチポンプだよなぁ……」

 

応接間のソファに沈み込みながら、情報端末をいじり、コロニー政府からの声明に関するページを見て思わずそうぼやいた。

明らかに不自然なテロ地点、そして発生から1日も経たないうちの声明発表。

ーーコロニー政府のマッチポンプ、そうとしか思えなかった。

 

「あっははー、事件の詳細調査のために数日間、入港禁止だって〜。露骨すぎ!」

 

ケラケラと、向かいのソファに寝転んで情報端末をいじっていたアスターさんが笑う。

応接間にいると、大抵、アスターさんがいる上に、色々と無防備だからその、教育に悪い。

あと数日もすれば俺の個室が割り当てられるから、それまでの辛抱……いや、だがそれはそれでアスターさんの無防備な姿を見れなくなるのはーー

 

閑話休題

 

「しっかし、なんの意味があるんだよ、こんな雑なマッチポンプ」

 

雑なのもそうだが、目的も見えてこない。

普通に宣戦布告すれば、コロニーの住民なら普通についてくるはずだ。

コロニー愛とオルビドへの敵愾心は、ほとんどの住民に根付いているからこそ、俺はノリきれず、ニュア以外に親しいと言えるやつがいなかったのだから。

 

ーーそういえば、と目の前で笑う度に揺れる部分から目を逸らしつつ、アスターさんを見つめると、どうしたのー? と見つめかえしてきた。

反応が早い。少し目を逸らしながら、浮かんだ疑問を口にする。

 

「アスターさんは大丈夫なのか? 全面戦争に……」

 

「自業自得だよー。ボクたちはやりすぎた。その報いが早いか遅いか、それだけだよ」

 

ーーそれに、ボクはもう"ここにいる"から。

 

そう口にするアスターさんの表情はとても綺麗で。

思わず目を惹かれてしまった。

 

「だからもう関係ないんだよね〜! といっても……ここは傭兵団だからね」

 

そういえばそうだ。

戦争がはじまれば、傭兵団がやることは1つ。

 

『野郎ども、仕事の時間だ!』

 

我らが傭兵団の団長が、館内アナウンスでそう言ったーーが、

 

「えー、アナウンス団長かよ」

「あすたんの声ないとやる気でねー」

「あすたんをどこにやった! 言え!」

 

艦内からどこか不満気の声が聞こえる。

あすたんって……アスターさんのことか?

 

「アスターは新入りの案内だ。つべこべ言わずに、ブリーフィングルームに来いよ!」

 

新入りーー俺?

ふと見上げると、アスターさんが目の前で屈んで……ちょっ、でかっ……。

 

「今日はキミの機体の調整をするからね。一緒に行こ!」

 

満面の笑みを浮かべて、こちらに手を差し伸べてきた。

本当に距離感が近い。そりゃ傭兵団の男たちにはたまらないだろうな。

かくゆう俺も、露骨な視線を向けないので精一杯だ。

 

「は、はい……」

 

手を取って、柔らかい感触に心を奪われながらも、ふと思った。

 

俺の機体か……どういう色にしようか。

 

 

 

「はーい。こちら、ウィード社系列企業、オキザリス社のトランスレイザー用ガレージでーす!」

 

そんな観光案内のような言葉とともに、案内されたのは様々なトランスレイザーが立ち並ぶガレージ。

ケルン式が大半だが、一部、外の機体も見える。

 

「んーっ! この鉄臭さ、錆臭さ、油臭さ! たまんないねー!」

 

コロニーのガレージと比べると薄汚く、臭いもキツイ場所に俺は顔を顰めてしまったが、アスターさんはまるで美味しい大気を吸っているかのように、伸び伸びとしている。

 

「ともすれば失礼な物言いですが、まぁいいでしょう。知らぬ仲でもありませんし」

 

そんな俺たちに声を掛けてきたのは、神経質そうなメガネの男。

中肉中背の白髪混じりで薄汚れた白衣を着た男は、俺の方を見て、ふむ、と呟いた。

 

「それで、そちらの方が新入りのヴァッハフント氏ですか」

 

「うんうん、寝坊助な新入りくん!」

 

「ど、どうも」

 

思わずどもってしまう。

考えてみれば、コロニーでは目上かそうでないかでしか態度を変えてこなかったし、それで問題はなかった。

しかし、今は傭兵団の一員、そして相手は俺の機体を用意してくれるであろう、企業の一員。

どういう態度が正解なのかがわからない。

 

「どう接すればいいか、わかんない?」

 

まるで心を読まれたかのように、アスターさんが俺を覗き込んできた。

 

「おわっ、なんで……」

 

分かったのか、と驚いていると、なんてことないよ〜、とアスターさんがニッコリと俺に笑いかける。

 

「自分を正直に出せばいいんだよ。それで、間違ってたらごめんなさい、で改めればだいじょーぶ!」

 

私だってそうだったから! とやっぱり近い距離感で言ってくれるが、それができたら苦労しねぇ!

俺が圧倒されていると、コホン、と白衣の男が咳払いをした。

 

「貴女ほど簡単に割り切れる人は少数派ですよ。本題に入りましょう」

 

はーい、とアスターさんが離れ、俺も少し緊張を抜いて男の話を聞くことにした。

 

「ヴァッハフント氏、貴方にはまず、標準的な機体で動作確認をしてもらいます」

 

標準的な機体……えぇ……。

俺が思い浮かべたのは、うんざりするほど乗った、変わり映えのしない機体。

 

「カーゴルツかよ」

 

「未だにコロニーの老害どもが拘っている、古臭く前時代的なポンコツの話はやめてもらいましょうか」

 

ピクピクとこめかみを動かしながら、男が静かな怒気を放った。

やべっ、地雷踏んだか。

愚痴の嵐が吐き出されそうになったところを、アスターさんが、まぁまぁ、と落ち着かせ、とりなしてくれたおかげで助かった。

次からはこの話をするのはやめておくか。

 

「コホン、失礼。コロニー内ではともかく、その外でケルン式の標準的な機体といえば、当然、KS5-L2、通称カエスゴルツです」

 

男が手に持ったデバイスからホログラムとして投影されたのは、ずんぐりむっくりとした胴体部・頭部に、両腕には予備武装や肩部武装を搭載できる肩部があるタイプの5本指アーム。

脚部はスタンダードな二脚、よりは少し装甲が厚いな。

 

「そしてこちらは、脚部に増設装甲を施したKS5-AL2、通称カエスゴアルツです。ケルン式の最も優れた点は、生存性の保証と互換性の高さです。搭載可能なショルダー付きアームパーツは、それを最も生かせます」

 

「脚の装甲を増やしたのはなんでだ?」

 

「互換性は多少損ないますが、傭兵に求められるのは最悪、単機になっても生存できる能力です。また、戦争がはじまった以上、地上での活動も想定する必要があります。そこで脚部が多少の被弾で破損するようでは、お話にならないでしょう」

 

中々に考えられている。

というより、コロニーだと選択の余地もないから、こういう話は貴重だ。

その後も、細々とした詳細を聞いていきーー

 

 

 

『システム、オールグリーン! いつでも行っちゃって!』

 

オペレーターとなっているアスターさんの声が、操縦席の中で一際大きく聞こえる。

なるほど、これはアガるな。

いつもは傭兵団のオペレーターをしているであろう、アスターさんを独占していることに、若干の申し訳なさと、僅かな優越感を感じながら、パイロットスーツに身を包んだ俺は操縦桿を握った。

 

「ファング8、ヴァッハフント、カエスゴアルツ、行くぞ!」

 

そう言い切ると同時に、カタパルトから射出され、その勢いで発生するGを久しぶりに感じた。

この感覚が大好きだ。この乗っている、という感じはいつ感じても楽しいな。

 

『はいはーい、こちらアスター。ナビゲートするよ! 行き先は、ウィード社系列企業共用の宙域訓練場! マーキングもしておくね!』

 

「ファング8了解、案内通りに向かう!」

 

ある程度、出撃した場所から離れた後、ナビゲートに従ってスラスタを吹かせて移動をはじめる。

体感としては一週間ぶりに操縦したが……動かしやすい。

これが最新型というやつか、確かにこれに比べればカーゴルツなんて、という白衣の男の言葉もわかる気がした。

 

しばらく移動していると、大きなステーションの周囲を囲むように、一定間隔で大量のビーコンが浮かんでいる場所が見えてきた。

マーキングもされている、あれが訓練場か。

 

「ファング8、指定の場所に到着したぞ」

 

『さっすが、トランスレイザーの操縦には慣れっこだね! 次は射撃訓練だよ!』

 

浮かんでいるビーコンのうちの1つが、ターゲットとしてマーキングされる。

これを撃て、ということだ。ここら辺はコロニーでの操縦訓練と変わらないな。

今の武装は、左手にシールド、右手にマシンガン。

これは以前と変わらない。

違うのは、そこに肩部武装が使えるということ。

今回は爆発物と一定以上の威力を持つ武装が禁止なため、左肩に手持ち武装のアサルトライフルを、右肩に演習用の一定時間で自壊する弾を装填した肩部キャノンを搭載してある。

実戦で制限されていただけで、一通りの火器の扱いは訓練を受けているから、手こずることはないと思っていたが……。

 

『ピピー! ミッションコンプリート! 命中率7割越え、すごいすごい!」

 

射撃訓練は滞りなく、しかし、今までより遥かに良い命中率を叩き出せた。

狙いやすいというかなんというか……戦闘用のインターフェース自体はカーゴルツとさほど変わっていないはずだが、やはり最新型として細かいところで調整がされているのか。

 

『次は……ん?』

 

アスターさんの言葉が止まると同時に、俺は何かに見られている、と感じた。

 

『もー、こんな時に! お客さんだよ、狙いは多分……』

 

「俺だろう、なっ!」

 

露骨に狙われている感覚。

その直感に従ってブーストでその場を離脱すると、青いエネルギーの奔流が先程までいた位置を貫いた。

青いエネルギー砲は、オルビド連中が駆る機体の標準装備、つまり。

 

「オルビドめ! 最新型に釣られてやってきたってか!」

 

『機影確認。照合するねーー出た! ブルーフレームα型、遠近両用の汎用機だよ!』

 

ブルーフレーム、その呼び名通り、青いラインが神経のように張り巡らされた曲線的な人型のトランスレイザー。

その中でも、α型は一見すると武装を持っていないが、掌から放たれるエネルギーを射撃用と近接用に随時切り替えて運用できる、とんでも機体だ。

 

『逃げ……たらもっと酷いことになるよね。企業さんが艦隊呼んでるから、到着するまでなんとか耐えて!』

 

オルビド相手に付き合わない、という選択肢は悪手だ。

構ってもらえるまで、どんなことをやらかすのか分かったものじゃない。

それはコロニーが今まで積み上げてきた犠牲者の数が証明している。

付き合えば高確率で死ぬが、付き合わなければ確実に大勢死ぬ。

それでも、俺はぼやかずにはいられなかった。

 

「無理難題をおっしゃる!」

 

いくら最新型とはいえ、ケルン式はそもそも単機で戦えるようにはできてねぇ!

だが、やるしかないか。

幸い、今までとは何もかもが違う。調子も良い。

 

「来いよ、オルビド。俺の機体の初陣祝いにな!」

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