忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜 作:二次元の虫
マシンガンの有効射程ギリギリの中距離帯で、ブルーフレームα型と対面している状況。
いつも通りなら、様子見で弾をばら撒いて牽制するんだが……。
それが分かっているだろう相手は、突っ込んできそうな気配を感じる。
それならーーあえて突っ込む!
「シールドの位置をマーキングしておいてくれ!」
アスターさんに頼み事をしながら、左手のシールドを放り投げる。
空いた左手で左肩のアサルトライフルを掴み、マシンガンとアサルトライフルの二丁持ちになった俺は、銃口を奴に向けながら突っ込んだ。
『りょうかーい!』
アスターさんの返事を聞いて間もなく、マシンガンの有効射程にやつが入ったのを確認して、二丁のトリガーを引く!
それを見た相手が回避行動をとるのが見えるが、突っ込む気満々だったならーー前のめりだった分、その勢いが回避運動に混じる。
敵は俺から見て上方向に向かって、前進の勢いを残しながら機動したことで、弾幕の一部が機体の下部分に当たった。
まぁそれでダメージになるなら苦労はしない。
弾幕を青いラインの入った装甲で弾きながら、俺の上をすれ違おうとする瞬間ーーあらかじめ指を添えていた、もう1つのトリガーを引いた。
その結果はーー
『吹き飛んだ!』
「大当たり!」
衝撃で吹き飛んだ青白い光を尻目に、砲撃の反動でくるりと逆さまになった俺は、上下反転したやつの姿に向けて、追撃の弾幕をばら撒いた。
引いたのは肩部キャノンのトリガー。
あらかじめ、肩部キャノンの照準を上方向に向けておくというヤマを張り、すれ違いざまに至近距離でぶち込めば、いくら演習用の弾でも怯むかそれ以上の効果は出る。
まずすれ違うかどうかで二択、上下左右どの方向にすれ違うかで四択という、当たれば御の字の程度の作戦だったがーー運がいいのか、勘が冴えてるのか、両方か。
ーー攻撃の気配を感じて、操縦桿を動かし、回避行動を取った。
『エネルギーを貯めてる、連射くるよーーってもう避けてる!?』
先程までいた空間に、青白い閃光が奔った。
続いて、俺を追尾するように両掌から交互に連続でエネルギー砲を放ってくる。
動きを止めず、敵に回り込む軌道で回避すれば、簡単に対処できる程度の狙いの甘い連射。
「いきなりやけになったかーーっ!?」
強く狙われている嫌な感覚。咄嗟に移動方向をずらして切り返した。
そのタイミングドンピシャで、ピンポイントな偏差撃ちが飛んでくる。
「嫌らしいことをっ!」
切り返さなかったら被弾してたな。
狙いの甘い連射を見せ札に、的確な偏差撃ちを混ぜるテクニックか。
そうしてくる、と分かっていれば対処できるかもしれないがーーやっぱ、気のせいじゃないな。
ーー"感じる"能力が強くなっている。
『すごいすごい! 全部避けれてる!』
青白い光がモニタに焼きつきそうなほど、雨霰と放たれるエネルギー砲。
俺はそれに掠りもしていなかった。
やつが意固地になって同じ狙い方をしてくるのもある。
この手のテクニックはやってくる、と分かっていれば、格段に対処がしやすくなるものだ。
それに加えて、"感じる"能力で偏差撃ちを混ぜてくるタイミングが分かってしまえば……。
『艦隊到着まであと2分!』
アスターさんからのアナウンスーー接敵から1分弱、といったところか。
そこでようやく、やつがエネルギー砲の連射を止め、仕切り直しの形となった。
向かい合い、互いに近〜中距離の間合いを行ったり来たりを繰り返し、牽制も交えながら様子を見る。
やつは大分イラついてるな……オルビド連中の感情自体は、動きにハッキリ出るのもあるが、不思議と感じ取れるってやつもコロニーでは多かった。
今はさらにハッキリと感じられる。
イラついてはいるが、それはゲームが上手くいかないことへの苛立ちに過ぎない。
「こっちは命懸けだぞ、クソッタレ」
戦いが楽しいのは否定しねぇがーーっ!
『ブレード形成、来るよ!』
アスターさんの警告と同時に、青白い光の刃を手にしたやつが、シンプルに距離を詰めて切りかかってくる。
難なく回避してみせたがーー次の瞬間には、1回転して再び刃を振るう姿勢になっているやつが見えた。
回転の勢いで連続攻撃する気かよ!
回転しながら振り回してくるやつの攻撃自体は軌道を読みやすく、難なく回避したが……これだけってことはないだろ。
隙を見て肩部キャノンをぶち込むこともできるだろうが……狙いはそれか?
それならーーシールドはあそこか。
独楽のように回転するブルーフレーム。
1回転するたびに、角度を変えて振るわれる光の刃を回避しながら、シールドがある位置へと近づいていき……
薙ぎ払い、切り上げ、また薙ぎ払いーーここだ!
次に振るわれる斬撃の軌道が、動かずとも当たらないと分かる、明らかな隙。
それを見逃す理由はない。肩部キャノンの照準をやつに定めた瞬間ーー閃光。
『あぶなーー』
ーー危機が迫り、体感時間が遅くなった。
アスターさんの警告がやけにゆっくりに聞こえる。
やつが狙ったのは、あえて大ぶりの攻撃で作った隙に、こっちが反撃しようとした瞬間、ブレードを握っていない手からエネルギー砲を放つ不意打ち。
ブレードにもレーザーにもできる、手を起点としてエネルギーを変幻自在に扱える機体だからこその奇襲。
だが、予想通りだ。
そのためにシールドを捨てた座標に回避しながら近づいている。
「そうくるだろうなっーー!?」
既に手の届く範囲にあるシールドで防ごうと、マシンガンを捨てて動かした右腕のマニピュレーターが空を切った。
オペレーターのマーキングは本来、大まかな目的地や警戒すべき方面を示すものであり、ピンポイトに正確な座標を指せるようにはできていない。
マーキングの座標と実際にシールドが存在する位置にズレが生じるのは当然の事。
マーキングと自分の強化された感覚を過信せず、カメラを向けていれば防げた、完全な俺のケアレスミスだ。
調子に乗り過ぎたか。
そう、諦めが脳裏をよぎった時ーー
『行ってこい。わたしを悲しせたまま、死ぬことは許さん』
不敵な笑みを浮かべて発破をかけてきたあいつと
『わたしがニュア・キノクスだよ』
かつての狂犬ぶりが嘘のように穏やかにーーどこか弱々しく感じるほどになった、あいつの顔が浮かんだ。
「ぉ、ぉぉぉおおおおおおおお!」
その一瞬、俺のトランスレイザーが俺の身体になった。
僅かな時間で動かせる限界まで顔を動かし、視界の片隅にシールドを視認。
即座に、空を切った右手を再び動かしてシールドを握り、迫る閃光へと向けた。
シールドに衝撃、そして持っている右手に火傷しそうなほどの熱を感じた。
シールドにはコーティングが施されている。
それがエネルギーを拡散して威力を殺してくれた。
ーー時間の流れが元に戻る。
「ぁつっ……俺は!?」
突然、宇宙空間から操縦席に引き戻されたような錯覚。
一瞬だけ混乱したが、モニタいっぱいに映る、エネルギーブレードを形成したまま盛大な隙を晒すブルーフレームの姿を確認した瞬間、やるべきことを思い出した。
火傷したかのようにヒリヒリする右手をどうにか動かし、肩部キャノン砲のトリガーをーー引く。
それによって発射された高速の弾丸が、やつの身体を弾き飛ばしーー本来ならそれで終わっていた。
エネルギーを収束して形成したブレードなんてものを、持ったままでなければ。
強烈な衝撃によって収束が乱れ、収束されていたエネルギーが爆発するかのように拡散。
それによって発生した力が、俺の機体とブルーフレームを盛大に吹き飛ばした。