忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第六話 〜超高速のーー〜

『ーーーグ8! ーーーンくん! ーーーきて! ーーーアンくん!』

 

ーーノイズ混じりで聞こえてくるアスターさんの声で、気がついた。

どうやらさっきの衝撃で一瞬だけ気を失っていたらしい。

それにしてもやたらと熱い……こういう時は……。

コロニーで散々訓練させられ、完全に手に染みついた動作で強制排熱モードを起動した。

 

生存性に特化しているだけあって、ケルン式のトランスレイザーには、様々なシチュエーションに対応するための機構が存在する。

強制排熱モードは、何らかの要因で機体内部がパイロットスーツの生命維持装置でも対応できないほどの高温になった時、様々な方法で排熱を試みる機構だ。

 

それによって、少しずつ熱さがマシになっていき、まだ少しだけぼんやりとしていた意識もハッキリしてきた。

この熱はーーあのエネルギーの暴発が原因か。

障害が発生しているのか、メインモニタがノイズまみれ、アスターさんからの通信もノイズ混じりで聞こえづらい。

 

「こちらファング8! 無事だが、今どうなってる!」

 

一応、応答はしたが、どこまで届いているのか。

アスターさんからの通信は、変わらずこちらへの呼びかけを繰り返していた。

こっちも応答を繰り返しながら、状況の把握を進める。

機体状況は……右アーム部分の状態が把握できないーーロスト状態だ。

他の部分は不具合こそあれ、それを把握できるということはまだ無事か。

最新型とはいえ、ケルン式の弱点である部位破損のしやすさは相変わらずだな。

 

メインモニタを見ると、ノイズが徐々に薄れていき、少し青白い光が焼き付きながらもその機能を取り戻していた。

そして、そこに映ったのはーー俺と同じく右腕を失いながらも、残った左腕の掌に青白い光を収束させながら、こちらに突っ込んでくるブルーフレームの姿。

 

『ーーーて! 逃げて!』

 

言われなくとも、と操縦桿を動かしーー動かない。

いや、残ってる腕と脚は動いているが……肝心のスラスタがイカれてやがる!

やつも何らかの不具合を起こしてるのか、普段よりエネルギーの収束と機動スピードが遅いが、流石にスラスター抜きで攻撃を避けられるとは思えない。

 

こうなると最悪の二択だ。相手の不調とスラスターの復帰に期待しつつ、このまま足掻くかーー脱出機構を作動させるか。

タイミングを見て残った手脚をパージし、ケルンーーコックピットのある胴体部と頭部のことーーに備わった非常用のスラスターで離脱すれば、この一撃は確実に回避できるだろう。

非常用のスラスターは、普段使いするスラスターとは別種で独立している。

機能しないという心配はほぼないがーーあくまで非常用の推力。

もし次の攻撃があれば絶対に避けられない。

 

『ーーーと、ーーーじゅうーーー秒! 逃げきって!』

 

そこで最も欲しい情報が耳に入ってきてくれた。

 

「最高だぜ、あすたん!」

 

タイムオーバーまで残り十数秒。

腹は決まった。あとはタイミングだ。

近づいてくる青白い光を睨みーー3、2、いや収束が早い、今!

 

固いレバーを思いきり引き、脱出機構を作動させた。

手脚がパージされ、ダルマーーコア部分であるケルンのみとなった機体が、非常用のスラスラーを吹かせてその場から離脱していく。

それに遅れて、やつが溜めていたエネルギー砲が放たれた。

その青白い閃光はパージされたパーツに直撃・貫通して赤熱した穴を開ける。

 

全力でスラスターを吹かし、ロケットのように離脱する俺の機体に気づいたブルーフレームは、少し姿勢制御にもたつきながらも向きを修正して、再びエネルギー砲を数発ほど放ってきた。

だが、出力や収束が甘いエネルギー砲数発程度、コーティングも施されている堅牢なケルンなら耐えられる!

 

「生存性特化は伊達じゃねぇ!」

 

照射されるエネルギーの熱量を感じながら、俺は全力でスラスターを吹かし続けていた。

エネルギーによる射撃なら耐えられるが、近づかれて捕まればもうどうしようもない。

今のうちにできるだけの距離をーー!

メインモニタに映る、時間と共に小さくなっていく青い機影が、こちらに向かおうと姿勢を整えるのが見えーー

 

 

 

ーー超高速の曳光弾に貫かれた。

 

 

 

俺が撃っていた肩部キャノン砲とは比較する気も起きないほどの高威力。

それに直撃した青い機影は、一瞬でモニタ外まで吹き飛んでいった。

 

「タイムオーバーだ、この野郎」

 

これでようやく一息つける。

俺は思わず大きなため息を漏らし、吹き飛んでいった方向へカメラを向けるとーー星々の光に混じって見えるほど遠くまで飛ばされた青白い光が、次の瞬間には爆発するかのように拡散していくのが見えた。

撃墜を確認、ざまぁないぜ。

 

しかし、想定よりもかなり早く来てくれて助かったな……。

そう思っていると、モニタにマーキングの通知がきた。

マーキング名は『警備艦隊』。

 

『警備隊のワープアウトを確認したよ! あれっ!? 敵どこ!?』

 

ようやくノイズが収まり、アスターさんからの通信がはっきりと聞こえるようになった。

警備艦隊の位置を知らせるマーキング……ということは、さっきのは先行していた機体か艦がやってくれたのか?

 

「こちらファング8、先行していたやつの援護のおかげでなんとか無事だ」

 

『そんなのいたら、シアンくんはこんなボロボロになってないよ! ほんっとーに無事でよかったぁぁ!』

 

感極まりコードネーム呼びも忘れて泣きそうになっているアスターさんの声を聞きながら、俺は思考に没頭していた。

警備艦隊では、ない?

曳光弾が飛んできた方向的に、ステーションからの援護でもないし、周囲を確認してみても、それらしい機影はない。

 

じゃあ、あの一撃は誰が?

 

ふと、曳光弾が飛んできた方向にカメラを向けると、遥か遠くに灰色の惑星とその近くに浮かぶシリンダー型のコロニーが望めた。

惑星メインフレームと、俺の生まれ故郷、メメントコロニーだ。

 

そして、そのコロニーから少し離れた位置にもう一つ、コロニーとよく似た大きさと形状をした建造物が見える。

あれが宣戦布告の演説で言及していた、切り札の衛生砲か。

衛星軌道上から地上を超高出力のレーザー砲で焼き払う、死を忘れた者へ死を思い出させるための戦略兵器ーー『メメント・モリ』

 

そこまで思い出していると、ふと、あの一撃に関する妄想じみた予想が脳裏に浮かんだ。

 

ーー超長距離からの、狙撃?

 

『ヴァッハフント氏、応答してください。こちら、ウィード社系列PMC、オキザリス社の第三警備艦隊です』

 

っと、そろそろ救助してもらわないとな。

 

「こちら、ヴァッハフントだ。悪い、考え事をしてた。救助を頼む」

 

『了解いたしました。すぐに救助を送ります。ご無事で何よりです』

 

傭兵団の一員となってからの、とんだ初陣だったが……今は生き残れたことを喜ぶとするか。

 


 

「対象への命中を確認……流石は外の最新兵器、とんでもない威力だ。これを並べて運用しないといけない相手なんて、想像したくもないね」

 

「にーしーてーもー、どういう星の元に生まれてんですかね、あの人。やっぱどう見ても主人公ですよね、あれは」

 

「5年の時を超え、大人になって再会した少年少女が、それぞれ違う立場で泥沼の戦争で生き延びていく戦記ものーーうわぁ、ベッタベタ。手垢がつきすぎて、むしろ一次選考だけは通りそう」

 

「でもそういうの、大好きなんですよね。ハッピーエンドならなおさら。なんで、絶対に生き延びてくださいよ」

 

ーーこんなくだらない戦争(茶番)で死ぬなんて、笑えないですから

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