忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜   作:二次元の虫

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第七話 〜俺専用のーー〜

「動作確認でダルマになって帰ってくるとは、なんとも操縦がお荒いようで」

 

「喧嘩なら買うぞ、おい」

 

救助されてステーションに戻ってきた俺は、駆けつけてきたアスターさんに強く抱きしめられて窒息しそうになる一幕を挟みながら、精密検査と事の顛末の事情聴取を受けることになった。

 

一通りそれが済んだ後、ステーションにある企業の応接室で、薄汚れた白髪と白衣が特徴的な男ーーグリムレンと、受諾する機体について、そして戦闘の際に起きた不可解な事象について、話し合おうという流れになったのだが……。

 

その初っ端からえらい皮肉をぶち込まれた。

 

「冗談ですよ。さて、まずは不可解な事象ーー機体とのシンクロについてですが」

 

ーーあの時。

俺がミスって死を覚悟した時、まるで機体が俺の身体そのものになったかのような状態になり、命拾いした場面。

機体とシンクロする、という話そのものはそう珍しいものではない。

逸話や比喩表現でよく耳にすることはあった。

まさかそれを体験することになるとは思わなかったが。

 

その理由、外との交流も盛んという企業の技術者ならーー

 

「全く分かりませんでした」

 

えー。

 

「わかんねぇのかよ!」

 

「仕方ないでしょう。貴方がサイボーグ化するにあたって埋め込まれたであろう、青神石(せいしんせき)が原因かとも思いましたがーー」

 

青神石(せいしんせき)? なんだそりゃ」

 

素直にそう質問すると、なぜかグリムレンのやつは驚いたような表情を見せる。

 

青神石(せいしんせき)をご存じでない? あの電子生命体オルビドの根幹を担う重要資源なんですが……」

 

「あー、あの青いやつか?」

 

オルビド連中が持ち出してくるトランスレイザーには、ブルーフレームの識別名の通り、必ず青いラインが神経のように張り巡らされているが……あれか?

 

「えぇ、青神石(せいしんせき)は意思に反応してエネルギーを発生させる上、その制御も意思によって可能という、とんでもない性質を秘めた物質です」

 

なんだそのトンデモ物質。

あのやたらと万能な青白いエネルギーの正体はそれか。

そういえば……俺の身体にも青いラインが入っていた。

 

「俺の身体の青いラインも、まさか……」

 

「えぇ、青神石(せいしんせき)が用いられています。それがシンクロの原因かとも思いましたが……」

 

「俺が乗っていたのはブルーフレームじゃねぇ」

 

「そういうことです」

 

青神石(せいしんせき)がそこまでできるなら、オルビド連中が俺たちの機体を乗っ取るなりなんなりできるはずだが、そんな事例は聞いたことがない。

長年、オルビド連中と戦い続けてきた歴史の中で、そんな事例があったら真っ先に共有されているだろう。

 

「現状では不明、というのが今回判明したのを収穫として、次の話に移りましょう」

 

それでいいのか、研究者。

そう思いながらも、俺の中では1つ収穫、というより予想が立ったことがあった。

 

"感じる"能力の強化、それには確実に青神石(せいしんせき)というトンデモ物質が関係している。

グリムレンはエネルギーの発生と制御にしか言及していなかったがーー恐らく、それ以上の何かが青神石(せいしんせき)には秘められているのだろう。

 

ただまぁ、さっきその力を過信して死にかけた面もあるから、今はサイボーグになって強化された、程度の認識でいいだろう。

次の話に移ることにする。

 

「ブルーフレームを撃破したという正体不明の攻撃ですが、先ほど回収されたブルーフレームの残骸を見るに、超長距離からの実体弾による狙撃と見て間違いなさそうです。しかし、それ以上の特定は難しいでしょう」

 

「流石にか……」

 

広大な宇宙空間では、飛んできた方向は割り出せても、どこから飛んできたのかは、距離が離れれば離れるほど指数関数的に特定が難しくなる。

この謎も迷宮入りになりそうだ。

 

「最後に機体の調整ですが、ダルマにされたとはいえ、ログ自体はケルンに記録されていますので、問題なく進められるかと」

 

「そいつはよかった」

 

これでログ吹っ飛んだんでもう一度、なんてなったら取り越し苦労どころじゃねぇからな。

あとは細々とした仕様を詰めていくだけだがーーいの一番に頼むべきものがある。

軍の機体とは違う、俺だけの機体、俺専用のトランスレイザー。

ならば……

 

「機体のカラーリングなんだがーー」

 

俺の機体であることを示す、専用のカラーで染めるというロマンは外せねぇよなぁ!

 

 

 

 

数時間後、疲労困憊となった俺は、グレイプニルに戻るなり、応接間のソファに沈み込んだ。

 

「なんで色があんなにあるんだよ……」

 

最初は俺の名前であるシアン、青緑色とも呼ばれる色を希望したのだが……その色を中心に、微妙に明暗や色合いが異なるカラーが大量に掲載されたカタログを渡され、大いに迷ってしまった。

カタログを見て、立体映像によるシミュレーションを見てみると、他のカラーリングにも目移りしてしまって迷うこと迷うこと。

 

ケルン式のもう1つの欠点、それは対エネルギーコーティングを施す関係上、一度ロールアウトした時点で、ケルン部分の新たな塗装が不可能になる、ということ。

故に、色を決める、ということは一世一代の選択となる。

生半可な気持ちで決めてはならないのだ。

 

決定した頃には、目薬が欲しくなるくらいに目が乾燥していた上に、精神的にドッと疲れ、思わずソファにダイブ、というわけだ。

いつもは応接間に大体いるアスターさんの姿は今はない。

彼女は今、グレイプニルの操縦席で、傭兵団の面々を迎えにこの艦を動かしている。

今回の傭兵団の仕事は、企業の視察の護衛、ボディガードのような仕事だったため、今この艦には俺とアスターさん以外、全員出払っていた。

 

「あ゛〜……なんかようやく落ち着きたい気分だ……」

 

なんというか、久しぶりに何もしたくない、という気分だ。

あの惑星で目覚めてから、まだ約一週間弱しか経っていないが、その間、寝食と移動時間以外は、常に何かをしていた気がする。

ようやく落ち着いてーー

 

『落ち着いたら連絡お願いします、シアン・エランさん』

 

やべっ、完全に忘れてた。

ずっとポケットに入れていた紙切れを取り出し、そこに書かれた連絡先を手持ちの端末に入力する。

そして、その連絡先に通信を入れるとーー秒で反応がきた。

 

『遅い! 遅いです、遅すぎます! ふつーあんな意味深に言われたら、落ち着いてなくても即連絡するのがテンプレですよね! 本当に落ち着いてから連絡するやつがいますか! 時間経過で消失する系のフラグだったらどうするんです!』

 

「うるっせぇ、藪から棒にうるせぇ! こちとら忙しかったんだよ!」

 

というか、こいつまさか連絡先を渡してからずっと出待ちしてたんじゃなかろうな。

若干ドン引きしながらも、俺はあの女ーーカリスニス・ファリミアと通信をはじめた。

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