忘記却憶 〜忘れた者に忘れ物、忘れぬ者に忘却を〜 作:二次元の虫
『まぁ、間に合ったのでよしとしましょう。それで、貴方は5年前にたいちょを助けていなくなった、シアン・エランご本人で間違いありませんよね?』
「あぁ、間違いねぇよ」
『あー、よかったです! これで他人の空似だったらどうしようかと』
「おい、今なんつった」
なんか確証あって連絡先渡してきたんじゃねぇのか!?
『世界には同じ顔の人間が3人はいるっていうじゃないですか。つまり、当たる確率は3分の1ってことです。外れてもうちがイタい女って思われるだけで、当選商品は時を超えた大ロマンスを目の前で! なーんて、分が良すぎる宝くじだと思いませんか?』
こ、こいつ……いや、だめだ。
こいつのペースを乗せられたら、聞きたいことも聞けなくなる!
「で、お前は結局何者で、ニュアのやつとはどういう関係なんだ?」
『うちにもご興味ありありで? いやん、欲張りさんなんだかーー「御託はいいから答えろ」ーーマジなやつですね、わかりましたよ』
なんとか軌道修正しつつ、カリスからニュアの現状と関係を聞き出した。
それによると、ニュアが隊長をしている独立部隊があり、カリスはその部隊に所属する隊長補佐とのこと。
こいつ自身は自分のことをただの行き遅れの軍属と言っているが……どうも胡散臭い。
言動もそうだが、警備隊に啖呵を切ったニュアを止めた時の、あの能面のように取り繕った表情。
それがどうも、強く印象に残っていた。
こいつの本質は、なんだ?
『とーこーろーでー、うちさっきから答えてばっかなんですけど、そろそろターン回してもらっていいですかね?』
「あぁ、悪ぃ。こっちの事情も……そういや、この通信はどこのを使ってんだ? コロニーに聞かれると面倒なとこもあるんだが……」
『もちのロン、専用の秘匿回線ですよ。やっぱロマンじゃないですか、秘密の通信手段って。渡すべき相手がいたらいつでも渡せるように、連絡先を書いた紙切れは常備してるんですよ! あ、今の連絡先はもうシアンさん専用なので安心してください。いやん、男の人専用だなんて、なんだか興奮しません?』
「うるっせぇ! 話題がとっ散らかっててうるせぇ! 今から話すから、黙って聞いてろよ!」
本当になんなんだ、この女!
で、俺が惑星で目覚めてからの出来事をかいつまんで話したところーー
『主人公かなにかで?』
「ぶち殺すぞ、
主役補正マシマシのサイボーグパワーで捻り潰してやろうか。
『だってだって、そうじゃないですか! 相方救って敵の惑星に墜落してー、敵にサイボーグにされてー、命からがら脱出してー、サイボーグニンジャとして悪に天誅を下しながら、変わり果てたかつての相方を探してるなんて、かんっぜんに主人公じゃないですか!』
「肝心なとこ端折った上に、存在しない記憶を混ぜるなテメェ!」
ええい、話を脱線させないと気が済まないのかこの女。
『しかし、それではコロニーに戻ってくることはできなさそうですねぇ』
「あぁ、しかも総力戦体制だろ? 軍属のお前らと会うことも厳しくなりそうだ」
『そうですねぇ……うーん、困った困った……ってことではい!』
そう言って遠ざかる声とは別に、どこか慌てるような別の女性の声が聞こえた。
ーーまさか?
「ニュア……か?」
『ぅ……うん、わたしだよ。シアン、本当にシアンなんだよね?』
「あ、あぁ」
ーー会話が止まる。
どう話していいのかが、まるで分からない。
いつものように憎まれ口を叩くには、あまりにも今のこいつが弱々しくて。
そういえば、目覚めてこの方、こういう言葉に困るシチュが多いなと思い返してーー
『自分を正直に出せばいいんだよ。それで、間違ってたらごめんなさい、で改めればだいじょーぶ!』
「生きててよかった」
ポツリ、と口からこぼれたのは、そんなありきたりな言葉で。
それに、通信越しの声は、少し嗚咽を漏らしながら答えた。
『こっちのセリフだ、ばか』
かつての面影を残した部分に、あの出来事と5年の月日を経て変わってしまった部分。
その2つが混じり合った、その言葉に、俺は思わず涙を流した。
ただ、ただ変化が悲しいだけの涙じゃない。
だが、変わってないところが嬉しいだけの涙でもない。
俺も嗚咽を漏らしそうになりーーそこで思い出した。
一番最初の目的、生き残ったらやりたいと思っていたこと。
「なぁ」
『なに?』
「今度会った時、デートしようぜ」
『ふふっ、なんだそれ……1回命救ったくらいで、随分調子に乗ってるな?』
「こちとら命懸けで助けた大恩人だぞ。1回くらいいいだろ」
『そして地味にみみっちい』
「……んだと、こら」
『1回だけなんて言わずに、さ。何回でも付き合ってあげるから……っ。だからっ!』
ーー絶対に会おうね!
総力戦体制への移行から一週間後、コロニー軍は企業の協力を得て、惑星メインフレームの第六資源採掘拠点、通称エントランスへ友好を装って突入し、制圧を開始。
抵抗らしい抵抗もなく、拍子抜けするほどあっさりと制圧は成功し、即座に拠点化が開始されることとなる。
一旦の区切りを迎えた彼の物語が再び動き出すのは、その一ヶ月後。
拠点化がひと段落し、ついに惑星メインフレームの他地域へと、軍が目を向けはじめた頃だった。