板橋先輩は生き抜きたい   作:キンダ三

8 / 10
やっとこさ書けた。原作でもアニメでもドラマでも、このシーン怖かったなぁ~。



アニメのOPに何度も使われていることからスタッフの絶対に忘れさせない意志を感じる。


尾ノ上貴裕は栄誉が欲しい

病室に入ると必然的に、目に飛び込んで来るのはベッド上に横たわる桜樹るい子の姿だ。医者の話によるといつ目を覚ましてもおかしくないとのことだが、一向に起きる気配はない。ベッド脇にいるおばさんが深刻な表情を浮かべているのも見慣れた光景だ。

 

おばさんは入ってきた俺達にすぐさま薄く笑みを浮かべ、もてなしてくれた。強い人だ。少なくとも俺には出来ない。人間はやっぱり、ただ年齢を重ねるだけでは駄目なのだ。

 

金田一が桜樹の寝顔に一瞬見惚れているところを七瀬さんが目敏く見つけ、無言の圧力パート2が始まった。こりゃ病院を出たら問い詰められるな。ドンマイ。

 

「ごめんなさいね。浩二君が来ているのにこの子ったら。」

 

「そんなことないです。小さい頃は逆に僕がいつも起こされていたんです。多分、もうそろそろ目覚めますよ」

 

...そうは言ってても心配だ。あまり意識的に考えないようにしていたけど、もしかするとこのまま原作通り...いやネガティブに考えるな。違うことを考えろ。それよりもやけにこの病室暑いな...

 

「フフッ。そうね。この前の女子会でもあの頃、浩司君と何度遅刻になりかけたか分からないってボヤいてたわ」

 

そういいながらおばさんは外から反射して、病室に入ってきた太陽光をカーテンを広げて遮断してくれた。その後、思い出話もそこそこに俺達はおばさんからあるものを受け取った。それは事件当時、桜樹が所持していた鞄だ。いや、目的は鞄の中に納められている少々古ぼけた薄ピンク色の冊子であった。ちょっと借りるぞ、桜樹。説教は起きた後、な。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「この冊子に七不思議について当時の調査結果が記されているんですか?」

 

病院を出て、旧校舎に戻る道すがら、金田一と[お話]を終えた七瀬さんが聞いてきた。後ろの幼なじみ君、耳を押さえてうずくまってますよ。なにしたんですか?

 

「あっ、ああ僕も途中までしか読んでないけど確かに記されてあった」

 

俺の声は震えていないだろうか。顔は引きつっていないだろうか。

 

「じゃあ、私達も読んでいいですか?色んな人で読むことで違った見方が出来るかもしれませんし。ねっ、はじめちゃん♪」

 

「...おう」

 

是非そうしてくれ。そして何か気付いてくれ頼む。

力なく頷く名探偵(高校生)に頼らざるを得ないこの状況。俺は自分の無力さを呪った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ヒヒッ、この桜樹部長のフロッピーディスク、ワープロに入ったままだったのは分からないけど先輩達が来る前に一番最初に部室に来て回収しておいて良かった。...おっ、やっぱり何か出てきた!!」

 

夜の旧校舎。先の騒動などなかったかのようにこの建物はいつものように静まり返っていた。その静寂を壊す、ワープロのタイピング音。明かりを灯さずにミステリー研究部で奏でるのは尾ノ上貴裕、その人である。

 

真壁に殴られたあの後、尾ノ上はミス研の部室に戻っていた。目的は桜樹が残したフロッピーディスクの内容確認である。おそらく、几帳面な部長は何らかの痕跡を残しているだろうと当たりをつけていたら案の定だ。

 

「なになに?❬ついに青山ちひろの亡霊が現れた。彼女は教えてくれた。七不思議の秘密を、だがこれはミステリー研究会の手に負える問題ではない。早急に警察に通報するべき案件だ。全てが解決したらみんなに報告しよう。その時は...❭、クソ!早く動け、このポンコツ!」

 

焦る気持ちを押しきれず尾ノ上はワープロを叩く。急がなければ、真壁辺りにフロッピーディスクの存在を嗅ぎ付けられてしまうかもしれない。そうなったら情報での優位性が消滅する。なんとしてでも先に見つけ出してそして...

 

「僕の推理って事にして発表するんだ。もし、部長が目覚めたとしても僕がフロッピーディスクを見た証拠はない。これで僕は一躍スターでモテモテだ。散々こき使ってきたあの真壁を今度は僕が顎で使ってやるんだ。グフッグフフ」

 

栄誉を手にした妄想を捗らし尾ノ上は書き込まれた情報を、目に写す。何か、手がかりになるものはないのか?

 

「ん?何だこれ...

❬のち恋い身に暗み生き血の

血の名と血吸い貝に砂❭

....入力ミスか?」

 

最後まで読んでみたらこの始末だ。急に熱が冷めた。やっぱり秘密は部長の脳内にしかないのだろう。...いや、ちょっと待て。

 

「これ、暗号だ!!きっと解決したらみんなに出すつもりで暗号を作ったんだ。よし絶対解いてやるぞ!!」

 

熱が戻った尾ノ上は、これまでの人生で得た知識を総動員し解読を試みた。邪な目的だがその執念は侮れない。彼の栄誉に対する恋慕は本物だ。

 

「文字の上下を入れ換え...でもない。アナグラムというわけでもないのか。うん?もしかしてこれか⁉️」

 

思考の沼に沈む尾ノ上は、長い時間をかけ解法を見つけた。何だ、驚くほどシンプルだ。いや、よく気付いた。これで栄光は僕の手に!!

 

狂喜乱舞する尾ノ上。謎を解いてる最中、彼は脳内で階段をひたすら上っていた。どこまで上がればいいのか分からない、そんな階段を。だがやっと終わる。目の前に栄誉と書かれた最上段が見えたからだ。

だがあまりにも周りが見えていなかった。暗号に熱中するあまりいつの間にか自分の背後に怪人が立って縄を握りしめていることに気付かないのだから。

 

「でも、この答え...本当なのか?間違えているんじゃ...グッ!!」

 

瞬間、いきなり苦痛が首元を襲った。何だ!?何だ!?何が起こっている!?首を絞められているのか!?誰だ俺の首を絞めているのは!?犯行は外部の仕業じゃないのか!?警察は何をしている!?いやそれよりもこの体勢から抜け出さなくては!

 

「グッ!!こ、この!!」

 

とっさに出た火事場の馬鹿力でなんとか尾ノ上は首元の縄から抜け出した。良かった苦しみから解放された。助かった。

 

「アッ!!グッ、ウウ~」

 

だが脱け出した方向が悪かった。解放されたと同時に尾ノ上は壁に貼ってあった真壁のポスターに向かってしまったのだ。暗がりの中で起こったため当然、壁にぶつかり尾ノ上は転倒してしまう。そして自分を襲った下手人、いや怪人をワープロから漏れる微かな明かりを頼り、その恐ろしい仮面を目に映してしまった。

 

「うあ、ゴホッあ...止め、止めて...殺さないで...」

 

必死の懇願もむなしく放課後の魔術師は今度こそ、七不思議を調べる不届き者を地獄に落とそうと手にしたロープを尾ノ上の首に再度巻き付けた。栄誉までの階段はただの絞首刑の刑場であった。

その事に気付かない尾ノ上は最期まで自分の邪魔しかしない真壁に対して声にならない怨み言をぶつけ、その短い生涯を終えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おや板橋君じゃないか。隣の君達も、どうしたんだい?こんな夜に」

 

学校に戻った時には既に夜になっていた。剣持警部を校門で待っている間、俺は2人に冊子を見せ当時は六不思議であったことや著者の青山ちひろが消息不明なことを説明した。途中、冊子の最後の方に旧校舎が建っていた場所に以前、[高畑製薬]なる製薬会社があったと記してある箇所を七瀬さんが見つけ盛り上がっていた時、校門で立花さんと出会った。

 

聞けば生徒が二度と襲われないよう監視を徹底していると言うのだ。やっぱりこの人以下略

 

「ありがとうございます。でも僕たちはこの後、旧校舎に向かいます。ちょっと調べたいことがありましt...」

 

「ダメだ!もうこれ以上、七不思議に首を突っ込むのは止めなさい!何かあってからじゃ遅い。警察や大人に任せるべきだ!」

 

言葉をさえ切る憤怒の声が響き渡った。隣にいる金田一達も一瞬驚いていたがすぐに真剣な顔をした。確かに立花さんの言うことは正しい。もし俺がこの事件と何も関わりがなければスルーしていただろう。だけどこっちにも退けない理由がある。

 

「確かにそうかもしれません。ですが僕は桜樹を襲った放課後の魔術師を許さない!そいつを捕まえるためならなんでもする!そのためのカギがあの部室に有るかもしれないんです!!」

 

食い下がると立花さんは何かを感じたのか、俯いたまま動かない。

 

「.......それでも君達はまだ子供だ。危険なことをさせられない」

 

「それなら立花さんもついてきてくれませんか?丁度、剣持のオッサ...警部が一緒に来てくれるのでその案内のために...」

 

このまま平行線を辿るのかと思っていたがナイスだ。金田一!よくやった。

 

なんとか立花さんを納得させ、やってきた剣持警部と共に俺達は旧校舎に入った。そういえばミス研のメンバーは全員帰ったのかな?真壁とか特に心配だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

やってしまった...やってしまった..やってしまった.やってしまった,やってしまった,やってしまった,やってしまった。悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない。コイツが悪い。コイツが悪い。コイツが悪い。そうだこっちは被害者なんだ。正当防衛だ。コイツの自業自得なんだ。こっちは調べるなと警告したんだからな。

 

暗い廊下を2人...いや、1人と〝1人だったもの〞が徘徊する。足取りは肩に背負ったモノの影響で重く、只でさえ古い旧校舎をギシッギシッと大きな音を立てて放課後の魔術師は進む。仮面を装着しているため表情は分からないが、怪人はどうやら自分にとって都合のいい言い訳をしているようだ。

あの2人もそうだ。下手に謎を解こうとするから悪いんだ。

.... それよりも❬コ レ❭どうする?このまま見つかれば学校に残っていた自分に疑いがか..か..る? そそそうだ!...アレを使おう!!そうすれば疑いの目は引き続き外部に向く!丁度、あの警備員が見回るといっていた時間も近い。そいつを目撃者にすれば万事解決だ!後はコイツを...

 

放課後の魔術師は忠告を無視した生け贄を犠牲に、死の儀式の準備を進めた。完璧な計画に基づいて...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あっ!はじめちゃん冊子落としたよ。それ桜樹先輩の私物なんだから大事に扱わないと。もぉ、そんなところで転ぶなんておっちょこちょいな所は昔から変わらないんだから」

 

旧校舎内を歩く5つの影。先頭は懐中電灯を持った立花だ。もう二度とこの学校に事件を起こさせないように鋭く目を光らせている。その横には警視庁捜査一課の剣持勇。歩きながら金田一と内部の者の仕業じゃないかと説明したが懐疑的だ。

その後ろを行くのは俺、金田一、七瀬さんを合わせた我らがズッコケ三人組である。今、ズッコケたのは金田一だけなんだが。

 

「母ちゃんかよお前は。いてて、なんかにつま付いたみたいだ。冊子~冊子っと。あっ立花さんここら辺、照らして下さい」

 

「大丈夫か?昔からおっちょこちょいなはじめちゃ~ん?」

 

「からかうなよオッサン。オッサンも探してくれ」

 

「気を付けてくれ。この辺りはこの前の地震の片付けが終わっていないんだ」

 

立花さんが振り向いて懐中電灯の明かりで照らしてくれる。この光に助けられたんだよな、あの夜は。

鑑賞に浸っているとどうやら金田一が冊子を見つけてようだ。だが冊子を拾った瞬間、何かがポロッと抜け出た。何なんだ一体?

 

「これ紙か。2枚も?冊子に挟まっていたのか?...なんか書いてある。立花さん、もうちょっと近くでお願いします」

 

うん?なんだ?

❬のち恋い身に暗み生き血の

血の名と血吸い貝に砂❭

...ってこれ!

 

「桜樹の文字だ!あいつ、手書きでなにか残してたんだ!!」

 

冊子に挟まっていた1枚目の紙には謎の言葉が羅列してあった。一見、訳の分からない文章かも知れないが桜樹はそんな意味のないことはしない。きっと何かを伝えようとしているはずだ。もう1枚には七不思議の謎を、青山ちひろが教えてくれたことが書いてある...結構長いな。立花さんの持つ懐中電灯の光が震えている。もう少しだけお願いします。

...ってか印刷すればいいのに何で手書き?

 

「それよりも重要な問題がある」

 

言葉の意味を考えていると不意に剣持警部が話し始めた。振り向くと懐中電灯に照らされた警部の顔色が悪い。どうしたんだ?ここに来る途中に話した犯人は内部の線が濃厚って件か?

 

「オッサン何だよ重要な問題って」

 

金田一に問われ剣持警部は神妙な面持ちで言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんみんな...漏れそうだ。ここら辺に用を足せる場所はあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の旧校舎で警部を除いた4人がズッコケたのは言うまでもない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「オッサ~ン!、1人で大丈夫か~。便器の中から放課後の魔術師が手を伸ばして来るかもよ~」

 

「バッ、バカなことを言うな金田一!!と、というかお前達本当に近くにいるのか!?戻った時に1人とか嫌だぞ。俺は!」

 

多分、金田一はさっき馬鹿にされた復讐をしているのだろう。スゴく楽しそうだ。2人のやり取りに七瀬さんと立花さんは呆れてる。あっ七瀬さんが立花さんに謝っている。やっぱり幼なじみじゃなくて親子みたいな関係だな。

 

「板橋先輩もごめんなさい。早く調べたいのにこんな下らないことに付き合ってもらっちゃって」

 

「いや、大丈夫だよ。気にしないで。剣持警部がいない方が怖いからね。トイレが新校舎しか使えないのは驚いたけど」

 

そうなのだ。先の地震の影響で旧校舎のトイレは使用不能になっていた。立花さんから新校舎のトイレしか使えない事を聞いた警部の顔は正にこの世の終わりを物語っていた。なので俺達は今、新校舎にいる。ここも暗いな。

 

「ああ~スッキリした。こっちも気がスッとしたぜっと、どうした美雪?」

 

トイレの本来の使用目的ではない使用でスッキリした金田一を見て七瀬さんが冷たい視線を向ける。あっ、これ桜樹がたまに俺に向ける目だ。思い出すと鳥肌が立ってきた。ブルブル

 

 

 

 

 

 

 

「...ん?なんだアレは?」

 

 

 

 

 

 

 

急に立花さんが懐中電灯を旧校舎側に照らした。それにつられて俺達も旧校舎を見る。...なにかが背中を向けて蠢いている。懐中電灯にプラスして微かなロウソクの明かりがその者のマントに覆われた背中を、雄弁に語っている。それに確かあの場所は...

 

「あそこは開かずの生物室...カギが掛かっていて誰も入れない場所だ...」

 

そう立花さんが口に出すが俺は聞き取れなかった。声量が小さかった訳ではない。前世のトラウマがフィードバックしていたからだ。

そんな、有り得ない。桜樹は救ったはずだ。アイツは今は病院にいる。なんでこれが起こる!?止めろこっちを向くな。止めてくれ、止めてくれ。止めてくれ。

 

 

 

 

 

 

ある男の声にならない必死の懇願もむなしく微かなロウソクの明かりに照らされて、振り向いた放課後の魔術師はその場にいた者達に対して死の儀式と恐ろしい仮面を見せることにより七不思議を調べる罪人の末路をまざまざと脳裏に焼き付かせたのだった。

 




ここで死ぬことでみんなの記憶に残るし、新聞にも掲載されるから、これも一種の栄誉だな ヨシ!

調べて見たら何で金田一と美雪は同学年の尾ノ上のことをさん付けで読んでたんだろう?謎だ。

放課後の魔術師の振り向きが気になる人は自分で調べて下さい。とっても可愛いよ。


桜樹さんと尾ノ上君は名誉のため公言しないがアレが倍近く違うと思われるから、魔術師さん原作より儀式の用意が大変だったろうな。...とことん苦しめ。
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