板橋先輩は生き抜きたい 作:キンダ三
それに加えてつじつま合わせで無理があるかもです。
「あ...あの仮面だ!間違いない。板橋君達を襲っていたのはアイツだ!放課後の魔術師だ!!」
「キャアアアアアアー!!」
「うぎゃあオオオオー!?」
止まっていた時間を動かしたのは不動高校警備員である立花良造であった。その言葉でハッと我に返ったのは我らが金田一 一、続けて七瀬美雪が甲高い悲鳴を上げ、その声に驚いた剣持勇がトイレの中で叫びだすといったまさしく阿鼻叫喚の地獄絵図といった言葉がふさわしい状況である。そんな中、1人だけ反応を示さなかった板橋浩二はというと...
「...........................」バタン!
「先輩!?...はじめちゃん大変!板橋先輩が!」
「先輩!おい先輩!」
「なんだ。何が起こったんだ!?おい、金田一!!みんな!!」
放課後の魔術師の姿を見た瞬間に倒れてしまった。夜の新校舎に悲鳴以外の大きな音が響く。先の夜に襲われた際は辺りが暗く、懐中電灯で照らされてもはっきりとした顔が見えなかったためなんとか動くことが出来た。だが今回は訳が違う。
「...........................」
仮面を見た瞬間、前世のトラウマとその情景、つまり桜樹が首を吊られての死の儀式が脳裏にうかんでしまったのだ。瞬間、板橋の意識は飛んだ。脳が勝手にセーフティを掛けたのだ。コンピューターで表すなら強制シャットダウンだ。だが、人間にも機械にも再起動という機能がある。
「おい!!おい!!起きろよ先輩!!」
「板橋先輩、目を覚まして!!」
「大丈夫か!?板橋君!!」
「............................................................ハッ!」
揺さぶられたり、叩かれたりされたお陰か板橋浩二はすぐに意識を覚醒した。気絶している時間からすると精々、30秒くらいだろう。だが、その30秒のうちに事態はどんどん進行している。その最たる物が......
「えっ!放課後の魔術師が...消えた!?まさかここに!!」
「違う美雪!扉の向こう側だ。奴が閉めるのが一瞬見えた!奴め...とことんこっちを、バカにして!!」
「いや、そんなはずがない。あの生物室は鍵がかかっていて...」
「そんなの後でいい!今、ヤツを追うのが先だ!!...美雪と立花さんはここに居てくれ。オッサン!!早く!」
慌ててトイレから飛び出てきた剣持に詳細を伝え、金田一は共に生物室に向かう。全力で走っても数分はかかる距離だ。着いたとたんに2人は息を合わせ鍵の掛かった生物室の扉を蹴破った。しかしそこには......
「ハァ、ハァ、...いない、ロウソクもない...クソッ逃げられた!」
息を切らして突入した部屋には文字通りなにもなかった。あの恐ろしい怪人も姿を照らしていたロウソクもなにもかも。しかも窓には内鍵が掛けられており、扉が蹴破られるまで、この部屋は密室であったといえる。放課後の魔術師はどこに消えたのか、真相は一体?
この時、金田一はある勘違いをしていた。それは魔術師の姿を見た直後、板橋が倒れた方に注目してしまったことにある。なんてことはない。彼の善性が恐怖心に打ち勝っただけである。その事は尊ぶ行為である。素晴らしいことだ。だがその結果...
「金田一、お前は魔術師の他になにか見たのか?」
状況を把握していない剣持に対して金田一は一言。
「いや、魔術師だけだよ。他はなにも見えなかった。」
逃がした獲物を悔やみ、獲物が咥えていた生け贄を見逃してしまうという痛恨のミスを犯してしまった。
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なん足るザマだ。調べて突き止めてやると息巻いていた男の姿かこれが...結局俺は何がしたかったんだ。ただみんなの足を引っ張っただけじゃないか。俺なんかがなにか出来る訳がなかったんだ。ただのでしゃばり、木偶の坊、おおうつけ、愚か者、ボンクラ、マヌケ、腑抜けもの。それが今の俺だ。
「先輩。大丈夫ですか?」
「...ああ、大丈夫だ七瀬さん。ごめんね心配掛けちゃって。立花さんもすみません」
「いや、いいんだ。襲われた相手を見たんだ気にすることはない。それはそれとして彼らの安否が気になる」
目を覚ました頃には事態は動いていた。金田一達は生物室に駆けていったみたいだし、七瀬さん達は俺が心配で残ってくれた。今は壁を背にして座っているところだ...そうだ、大事なことを聞きそびれていた。
「あの、2人とも...魔術師が見えたとき...その他に何か見えなかった?......人とか」
俺は恐る恐る聞いてみた。もしここで誰か吊るされていたとしたら...それがもし桜樹だとしたら...
一瞬の間、それは板橋にとって気の遠くなるような時間であった。その質問を受けた2人は顔を見合わせ...
「えっと、ごめんなさい。私、放課後の魔術師しか見てなくて...すぐに目を伏せちゃったんです」
「私も板橋君が倒れた方向に向いてしまったため魔術師しか見ていない。だが、断言する」
そういうと立花さんは俺の目線に合うように屈んで一言紡いだ。
「あそこには放課後の魔術師しかいなかった。君の心配は無用だ」
その言葉は俺の心を救済し、また、自分の罪を心に焼き印のごとく押し付けたのだ。
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手掛かりがなく戻ってきた金田一達に謝罪した。そして俺達は警部から帰宅命令の指示を受けた。理由は放課後の魔術師が出現したためこれから外部に網を張るからである。それに加えてここで見たことは捜査のため他言無用だとも言われた。
...正直安心した。一刻も早くこの学校から脱出したかったのだ。調査はまた明日、日の明るい時にと話している金田一を尻目に俺は自分の不甲斐なさを呪っていた。
今なら分かる。俺には緊張感や現実感がなかった。いや、桜樹を助けた夜の出来事は本気だった。だが、それ以降はどうだ?桜樹が死ななかったことに安堵して他が疎かになっていたのではないか?相手は原作で桜樹を殺していた怪人なのだ。それに対する心構えが不十分だった。口では絶対に許せないと語っておきながらどこか他人事だった。そんな自分が分かってしまった。
剣持警部が呼んでくれたパトカーで家に帰った。途中に桜樹は病院でまだ寝ている事を聞き安堵し少し泣いた、その姿を隣の警官に見られたようだ。下りる時励ましてくれたしな。家に着くと両親は温かく帰りを迎えてくれた。そんな両親に俺は1人になりたいと伝え自分の部屋に行き寝具に顔を埋めた。
今回はたまたま誰も死ななかった。だが、次は分からない。...これは神がくれたチャンスかもしれない。「無能はさっさと手を引け」と言っているようにしか聞こえない。...覚悟を決めたのはなんだったのだろう。やはり明日、金田一達に調査中止を進言......いや
「ここで止めたらアイツの思うつぼだ」
おそらく謎を解くピースは集まっているはずだ。後は点と点を繋げて1つの線にするだけなはず。そうなれば...
「アイツを、取っ捕まえる。誰1人殺させない。『俺』がこの手で...必ず」
それは本当に周囲のためなのか、自分への勝手な怒りを押し付けているだけじゃないのか。そんなことなど頭に浮かばず板橋は深い眠りについた。明朝、怪人の悪夢で飛び起きるまでは。
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「ふぁぁ~あぁ。寝みぃ~」
「私も眠いよ。放課後の魔術師が夢に出て全然眠れなかったのよ」
金田一と七瀬は共に登校していた。幼なじみ特権というやつである。そんな中、話題に上がるのは勿論昨夜の出来事な訳で...
「あの後、どうだったのはじめちゃん。放課後の魔術師見つかったの?」
「オッサン曰く前と同じで付近からなにも見つからなかったてよ。昨日オッサンにあれだけ言ってもまだ上層部は外部の線にこだわってるって話だそうだ」
朝の通学路で他の生徒もいるなか、機密情報を特に隠さず話す金田一に自分で聞いておきながら七瀬は頭を抱え、2人は学校までの道のりを急ぐ。
校舎についた途端2人はある異常に気づく。
「あれ?何で旧校舎にあんなに人が集まっているんだ?」
「ほんと。何かあったのかしら?」
首をかしげる2人。そんな2人にある一団が迫る。その一団は隣にいた金田一を押し退け、七瀬に向けて話し出した。
「ねぇ~!美雪大変よ!」
「旧校舎で死体が発見されたんですって!!」
「しかもあの、開かずの生物室でよ!」
「この学校やっぱり呪われているのよ。怖~い!」
その言葉にいち早く動いたのは押し退けられた金田一であった。あの夜、生物室には何もなかったはずなのだ。一体全体どう言うことなのだ。そもそも誰の死体なんだ!?
疑問ばかりが頭に浮かぶ。それを振り切り金田一は旧校舎に集まった野次馬を、今度は自分が押し退け一歩一歩前進する。群衆の一番前に来た途端、目に黄色いテープが映る。その場面だけ、現実感がなく異質であった。普段ならばここで止まるのだろう。だが、彼は違った。
「...あっ!コラ!君!!」
背後から聞こえてくる警官からの怒号を無視し、金田一はとうとう昨夜自分が蹴破った生物室に足を踏み入れた。そしてそこに『吊るされている』ある者の姿を目に焼き付けた。
「お、尾ノ上さ、ん............」
思わず呆気に取られる金田一、頭の中に困惑、疑問、喪失感といった様々な感情が浮かぶ。そこへ...
「何...で、何で尾ノ上が...首つって...死んで...」
おそらく同じルートで後から来たのであろう。板橋が膝をついて項垂れていた。この時、金田一は一度も聞いたことがないのにも関わらず放課後の魔術師の狂った笑い声が聞こえた気がした。
ポキッと折ってペタッと修復。そしてバリッと剥がす。