二周目は 楽が出来ると おもってた 藤丸辞世の句   作:ナナシのG愛好家

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マスターの生まれた日

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。人理を守る駒とならん————

 

 人里離れた山奥。この山のふもとの町まで、普通の人間なら何十分、いや数時間とかかるであろう、その山の奥にある豪邸。おおよそ人間が住むような場所ではない所に場違いにも聳え立つその建物の庭にて、そう言葉を告げる男が居た。

 優美な金髪、若々しい体。日本人には見えぬ、そしてその完成された美貌は、街を歩けば10人中10人が振り返るといえるだろう、その容姿。だが、今の彼の様子、そして行っていることを見れば、10人中6人が逃げ出し、3人は逃げることも忘れ戸惑い、残りの一人、その一人がよほどの気狂いだった場合か、『その行いの意味』を知るものだったのならば、目を輝かせてその場に見入っただろう。その金髪の男が手をかざす先には八つ(・・)の魔方陣。

 

————降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ————

 

 その詠唱、その意味は『英霊の召喚』。かつて人類史において大きな転換を成したもの、偉大な王と、英雄と称えられたもの、そう言った者たちを、七つのクラス剣士(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)そして、狂戦士(バーサーカー)。その七つのクラスからいずれかのクラスとして呼び寄せる。

 本来は、この七クラスを一騎ずつ、別々の人間が召喚し、各々が願いを叶えるために戦い、争う『聖杯戦争』の為に用いられる術式だ。だが、今回はそれとは違う。

 

 ————閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度ただ、満たされる刻を破却する———

 

 この男は、七つの魔方陣を用いて七つのクラス、その全てを召喚しようというのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)。何という傲慢か。英霊、すなわちサーヴァントは、その身を現界させるだけでも多大な魔力を消費する。人一人のみで七騎維持するだけでも難行。いや、戦闘にもなればその消費量は更に跳ね上がる。到底一人が賄えるものではない。だが、この男はそれを実行する気なのだ。

 

 ———————————————Anfang(セット) 告げる———————————————

 

 詠唱が加速し、ジワリと魔力が高まっていく気配が周囲に巻かれる。本当に、この難行をこの男は成功させようとしているのだ。その吹き荒れる風が、その男の顔の横を駆け抜けていく様子に、男は笑みを浮かべる。

 

 ————告げる 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

    聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

     汝三大の言霊を纏う七天

      抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 詠唱が完了し、その魔方陣が光に包まれ、そこからサーヴァントが召喚されてくる。

 

「サーヴァント『セイバー』、召喚に応じ参上しました。貴方が、僕を呼び出したマスターですか?」

 

 素朴な衣服と軽装鎧を纏い、その分厚い皮ベルトに無骨な、しかし一目で名のある鍛冶師が剣を鍛えたと思えるような、そんな業物の西洋直剣を指した庶民然とした金髪の青年が、そう口にする。

 

「サーヴァント『ランサー』、召喚に応じて馳せ参じました貴殿が私のマスターでございますか?」

 

 細いひげを携えた、二本の槍を持つ中華風の鎧に身を包んだ武将然とした男が深々と頭を下げたままそう言い、

 

「サーヴァント『アーチャー』、まぁ呼ばれてしまったからには仕方ないな。俺は唯、命令されたことをやるまでさ。」

 

 サブマシンガンを持ち、背中に長銃身の銃器を背負った猟師然とした服装の、美貌を惜しげもなく晒した男がそうため息をつき、

 

「サーヴァント『ライダー』、アタシを呼ぶとはね。しかも他に6騎と来たものだ。一体全体何が起こるってんだか呼ばれたばっかだけど、コイツは嵐の香りがするね……」

 

 嘶きを上げる馬、その背に乗って登場した、和風の鎧を纏いその手に十文字槍を持ったサーヴァントが、この異様さを目ざとく見定めて、これから起こることに武者震いをする。

 

「サーヴァント『アサシン』にございます。問いましょう。我が主……否。ここに居る七騎その全てのマスターが……貴方だとても言うのでしょうか。」

 

 7騎が呼ばれる。その異常事態に、魔方陣の中心に置かれたその骨で出来た仮面を拾い、驚愕に包まれたその表情を覆い隠す、黒いボロボロのローブを纏った存在が、そう問いかけて

 

「サーヴァント『キャスター』。ほう、よもや吾輩を呼びつける男が居るとはのう。感謝するがよいのじゃ、吾輩自ら来てやったこと。このああ”あ”あ”!?」

 

 キャスターを名乗る、小学生並み身長と体つき、それに似合わぬ高級スーツを身に纏った少女はその尊大な物言いが何か癪に障ったのか呼びつけた金髪のアイアンクローを喰らい

 

「なるほど、そして僕が『バーサーカー』の代理、という訳だね。」

 

 最後にそう、タイミングを待っていたと言わんばかりに口にした、覆面を付けてシルクハットを被り、マントをその身に着ける男の言葉に、顔面をがっちりホールドされて動けないキャスターを覗いてそこに集まったすべての者達が男に顔を向けた。

 

「君は……? 残ったクラスはバーサーカーだけど……」

「えぇ。貴殿が狂気に囚われているようなそぶりは片時も見えませぬ。それに先ほど口にされたバーサーカーの代理(・・・・・・・・・)と言う言葉は……」

「あぁ。私のクラスはバーサーカーではない。もっと言えば、君たちが座る既存七クラスでもない。なにせ」

バーサーカーはあえて排斥した(・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

 その謎の男の言葉をさえぎって、召喚者が口を開く。

 

「此度の行い、狂気に囚われて浅慮な行動しか出来ぬバーサーカーなど足手まとい、いや、邪魔にしかならぬ。」

 

 金髪に赤い瞳を持つその男は、

 

「これまたどういうことだ? 俺が『座』から聞いた話じゃ、お前は前々回の聖杯戦争の勝者(・・・・・・・・・・・)だと聞いたぞ?」

「そんな奴が……アタシら呼びつけてどうしようってんだい? なぁ」

 

 ギルガメッシュ。アーチャーとライダーが口をそろえて、召喚者の名前を呼んだ。度々行われる聖杯戦争。無論、その勝者には求める者『聖杯』が与えられる。その聖杯を用いれば、様々な願いを叶えることができる。その中には、英霊としての肉体から、受肉を願い現世にて第二の生を謳歌する者も居る。ここにいる存在。世界初の叙事詩、『ギルガメッシュ叙事詩』の主人公にして、最強クラスの力を持つ男は、その問いかけに、ライダーとアーチャーの方へと顔を向け笑みを浮かべた

 

「貴様ら程度が(オレ)の名前を呼ぶなぞ不敬ぞ……普段ならばそう言うところだがそうもいっている場合ではない。よい、多少の不敬には目をつぶってやる。ありがたく思えよ?」

「そう言いながら手に力込めるの止めるのじゃあ”あ”あ”あ”!?」

 

 ギルガメッシュの前からそんな悲鳴が聞こえてくるのでふと目を向けてみればそこには

 

「あぁ……すまんな、矮小な存在過ぎた故忘れておったわ。許せ、雑種。」

 

 まだアイアンクローをかまされたままだったキャスターが悲鳴を上げていた。ぶっちゃけ捻じり上げてることすら忘れていたギルガメッシュは怒りを抑えるために少々力を込めてしまったらしい。故に一言詫び……にもなってないであろう言葉をかけて放り捨てる。ふぎゅっ!? という変な音を立て、そのまま地べたにボロ雑巾の様に捨てられるキャスター。召喚されたばかりだというのに既に死に体だ。

 

「うごご……ひどいのじゃ……吾輩これでもキャスターなのじゃ……凄い魔術師なのじゃ……ぐすん。」

「ではまずその体系に似合わぬ言葉遣いと一人称と大仰な服を止めることだな。背伸びのし過ぎでバランスを崩して地べたに転げているではないか。」

「転げでおるのは誰のせいじゃと思うておる!?」

 

 愉快愉快と言わんばかりに、その虚空に浮かんだ黄金の波紋から、並々と酒の注がれた杯を手に取り、そんな風にじたばたと抗議をするキャスターを肴に一口煽る。それから、

 

「して、我はエクストラクラスを呼び出すきではあったわけだが、貴様のクラスはなんだ、答えよ。」

 

 そうその蛇のような瞳を向け、佇む覆面の男に問いかける。

 

「あぁ、他ならぬマスターの頼みだ。答えよう。私は役を羽織るもの(プリテンダー)。詐称者のクラスだ。」

 

 マントをはためかせ、シルクハットを取って気取った姿で優雅に一礼。笑みを浮かべた彼は、クラスをプリテンダーと言った。

 

「そうか。では、これで七つのクラスが」

「ッ!! マスター!!」

 

 その時、今まで口をつぐんでいたアサシンが声を上げた。そして、それと同時に一同が戦闘態勢に入る。

 ギルガメッシュはけん制と言わんばかりに彼の周りに黄金の波紋を二つばかり展開する。しかし、そこから覗くのは先ほどの盃のような可愛いものではない。剣と槍。武具が一本ずつ展開されているのだ。

 セイバーは油断なく鞘から剣を引き抜き両手で持って構える。ランサーは二本の槍を構えて腰を落とし、アーチャーはその手に持ったサブマシンガンを向ける。

 魔力の反応に嘶いた馬をライダーが治め、キャスターは何やらカードのような物を取り出し、アサシンはどこから出したのか、短刀を持った両腕をだらりと下げる前傾姿勢だ。

 

「これはこれは……」

 

 そして、シルクハットを片手で押さえるプリテンダーが、細く笑みを浮かべる。

 

「もう一騎召喚されるなんてね。」

 

 そう、魔方陣が光り輝いていたのだ。7騎ものサーヴァントを召喚するために利用した魔力、その一部が余ったのだろう。それによる余剰召喚だが……これは予定にない。もしこちらに害を及ぼしかねない危険なサーヴァントだとすれば……そう思った矢先、その光の中から現れたのは

 

「サーヴァント『ルーラー』招集に応じ参上を果たした。此度の聖杯戦争の裁定を……おや? なぜそのように殺気立っているのだね?それもサーヴァントが全てのクラスそろいもそろっているとは……ふむ、亜種聖杯戦争……と言う訳でもないのだな?」

 

 パリッとしたスーツを華麗に着こなして、立派な口ひげを蓄えた。『裁定者(ルーラー)』それは前述した聖杯戦争の審判役。聖杯戦争の時にのみ召喚される特殊なクラスだ。

 

「……貴様、何故勝手に呼び出された。これは聖杯戦争ではないぞ。」

 

 警戒するように口にするギルガメッシュ。だが、それにルーラーの方が首を傾げ?

 

「おや、7騎のサーヴァントが同時に召喚され、私が呼ばれるほどの魔力の溜まりがあったのでてっきり……ふむ。どうやら私の早とちりであったようだな。」

 

 この様子に、どうやら召喚されてはいけなかった雰囲気だったと察したようで、冷や汗を流しそう問いかけるルーラー。

 

「そうだ。約定者など面倒この上ない。即刻この場から」

「待って。殺さない方がいいと思うよ。」

 

 去れ、と言おうとしたところを止める男が居た。セイバーだ。

 

「ほう、セイバーよ。貴様サーヴァントの分際で、(マスター)であり、王であるこの我に意見するか。」

「……貴方がどれだけ偉大な方か、僕は知ってる。でも、僕だって王だ。使える臣下を切り捨てるなんて、愚行の極みだってことくらいは分かってるつもりだよ。」

「…………フン。我の前で王を名乗るとは不敬というものよ。ルーラー諸共罰を下してやりたいところだが、先ほども言った通り今回は事が事だ。」

 

 セイバーとギルガメッシュ。互いの言葉に、先に折れたのはギルガメッシュだった。

 

「ふむ……それでマスター殿は、何故我々を呼びつけたのです?」

 

 先ほどから『事が事』というギルガメッシュ。座によるギルガメッシュが勝者となった戦い、第四次聖杯戦争での記録から彼の人となりをある程度だが知っているランサーは疑問に思い、早速本題に入ろうと声を上げた。

 

「人類の危機に対抗するためだ。」

 

 そして、それにこたえたのはギルガメッシュではなく、館からそこに入ってきたストレートの長い黒髪にメガネをかけた男だった。

 

「これから1年も経たないうちに、人類史は存続の危機にさらされる。とのことだ。聞かされた時は私も半信半疑だったがな。」

 

 この場にいる者達はこの男がどういった存在か、その男を見るギルガメッシュ以外に知る由もない。男の名はウェイバー・ベルベット。またの名をロード・エルメロイ二世。召喚当初よりこの男、ギルガメッシュに振り回され続けた、ギルガメッシュのマスターだ。

 

「フン、説明が足りぬわ道化。まぁ、コイツにもやったように」

 

 ウェイバーの事を『道化』と形容する男、ギルガメッシュ。そう言う彼は、黄金の波紋から、なにやら地球儀にも似たアイテムを取り出す。その瞬間、一同は目を見開いた。

 

「なんと……」

「コイツは……」

 

 その瞬間、彼らの頭の中に流れてきたのは、光景だ。燃えている。地球そのものが燃えている。

 

「い、今のはなんじゃ!?」

「いろんな君主に仕えて、多くの戦場を駆けてきたけど……あんな凄惨な光景は見たことがないよ……」

 

 キャスターはそう悲鳴を上げ、ライダーは力ない声でそう言って目頭をその手で押さえた。

 

「これから起こる……いや、嘗て異なる世界で起こった悲劇よ。我には千里眼がある故な、これを見た。この魔道具は己の脳内に映る光景を他者に投影するための物よ。これらの問題ならば一人の女が解決した。だが問題はここからだ(・・・・・・・・・・)。」

 

 そう言って、再びギルガメッシュがそのアイテムに魔力を送る。

 

「ッ!?」

 

 そこから送られてきた光景に、一同は、ルーラーとプリテンダーすらも我を忘れて息をのんだ。

 

 囲まれている。阻まれている。海に並ぶのは帆ではなく、蒸気を利用した機械的な船。だがしかし、その船から放たれる砲弾を、陸の城塞が防ぎ、逆に砲弾が船を粉砕する。外から入るその全てを拒絶するような、海岸に聳え立つその壁を、

 

 石造りの美しい街並み。しかしその通りの奥は霧で見えずなにやら人……いや、人の形をした、正気を失ったナニカ(・・・)が蠢き、それを見て高笑いする者達のいる悍ましい都市を、

 

 黄金で彩られた議事堂のような場所。中央の複数の玉座に座る者達、彼らが語り合い、中央の少女がハンマーを叩く。民主制の鏡のようなその空間、だがしかし、それに拍手を送る議員たちは、みすぼらしい服に身を包み、手枷のついた手を動かして手を叩いている。その歪な空間を、

 

 荒々しい兵士たちがぶつかり合い、その武器と武器で火花を散らす。そしてその戦いの中心で、装飾を施した鎧や武器を身にまとう者達が激戦を繰り広げている。まさに神話の対戦ともいえる英雄と英雄のぶつかり合い、そしてなぜか、その場を飛ぶミサイルや銃弾。それにより焦土と化す血みどろの戦場を、

 

 神々しい神仏、それが飾られた寺。そこに所属しているであろう坊主たちが念仏を唱えている。燃えながら念仏を唱えている。聞こえてくるのは念仏ではない。怨念、怨嗟、怨讐、呪詛と定義すべき様なそれを、燃える寺の中で唱え続ける寺。そしてその寺の前で高らかに笑い声をあげる、袈裟を着た男の姿を、

 

 荒々しい波の唸る海の上、そこを渡る大船の、その上で嵐に耐える者達がいる。甲板の上で、戦う者達が、指揮を飛ばす者たちがいる。海流の渦巻くその海の上で彼女たちが、人ではないナニカ、その身体を鋼で構成する、機械の兵団に襲われている。決していいとは言えぬ戦況に、苦悶の表情を浮かべる者達の顔を、

 

 聳え立つ白亜の大城、その城の下の城下町の華やかなこと。笑っている。その華やかな街の中で人々が笑っている。そしてそれを、四人の男女が中央の城のテラスから眺めている。そして、その城塞都市の塀の奥で、人々が殺されている。神々しい翼を持つのは天使か、それらと戦う者達の奮戦もむなしく、増えていく被害者たちのその亡骸を、

 

 建物が、衣服が、そして何より肉塊が焼けている。その全てが無慈悲に、一切の情け容赦なく焼けている。まるでその身にくすぶる『なにか』を叩きつけるかのように焼けている。その場所を、辛うじて残った建物から中世の物だろうとわかるその光景に、おおよそ似つかわしくない現代然とした軍服を着た者たちが行進している。それを小高い丘から見下ろす旗を持った女性と、軍服を着た男。彼らが作り出した地獄ともいえる光景を、

 

 大蛇、魔狼、人外、何とも形容しがたい悍ましい怪物、ありとあらゆる神話体系の魔獣がそこにそろっている。そろって進軍を始めている。壁に包まれた、たった一つの都市を攻めて進んでいる。恐怖におびえる人々、それを諫めているのは、他ならないギルガメッシュだ。今とは服装こそ違うものの、民に激励を飛ばし、部下に指揮を送る。彼の下に召喚されたサーヴァントであろうか、そんな武力を持った物たちも、押されつつあるその惨状。その惨劇を見て、魔獣たちのその奥で、愉快そうに踊る一人のサーヴァントを。

 

「これは……特異点? でも、さっき見たものと……」

「似通ったようでまるで違う物。あるいはかけ離れている物が見受けられたな、何よりも……数が、増えていたな。」

 

 怯むセイバーと、そう考察を述べるルーラー。だが髭をいじるルーラーの顔は、平静を装っているだけで青かった。

 

「そうだ。これが我が予知した『この世界』の未来よ。世界を滅ぼす。何やらこの世界の黒幕は、本気でそれを行うつもりのようだ。」

 

 その言葉にギルガメッシュが答える。この世界を『詰ませる』つもりのようだと。故に、

 

「我自ら、その結末を変えるために動く。慢心がどうのと言っている場合でもない故な。」

「では、我々は何をすればいいのかな?」

 

 そんなギルガメッシュの言葉に、プリテンダーがそう問いかける。その言葉にギルガメッシュは彼らを見据えて、その目線をアサシンで留めた。

 

「アサシン、貴様だけはそこな道化に命じてわざわざ聖遺物を元に召喚したわけだが、貴様の真名『潜慮(せんりょう)のハサン』に相違ないな?」

「はっ、間違いありませぬ。まさか我が身が聖遺物により呼び出されるとは思いませんでしたが……しかし、斯様な危機であれば我が身は少々役不足という物では?」

 

 アサシン。いや、『潜慮のハサン』と呼ばれた、かつてイスラームに存在したと言われる暗殺教団。そのリーダーであるハサン・サッバーハ(山の翁)。その一人である彼はギルガメッシュの言葉に頷き、頭を垂れてからそう問いかけた。しかしギルガメッシュはその言葉を鼻で笑い、

 

「戯け。貴様には貴様の役目がある。次にキャスターよ。お前にもやるべきことがある。」

「な、なんじゃ? 言うておくが、童に戦闘を期待するなよ!?」

「むしろ道具や陣地作成、魔術の知識に精通しているのであれば好都合よ。貴様にはアーチャー、プリテンダー、ルーラー、それからライダーを付ける。この6人に刻み付けられている大令呪(シリウスライト)とやらを除去せよ。それが貴様の仕事だ。」

 

 そう言うギルガメッシュが、また新たな、射影機にも似た道具を取り出し、それによって空間にホログラムの様に映像が投影される。金髪碧眼に、白を基調としたスーツにマントを身にまとう、いかにも魔術師然とした青年、銀髪に荒んだ目をした、どこかくたびれたような雰囲気を醸し出す青年、初めの男と同じ金髪だが、長髪の彼に対して短めの髪に、どこか冷徹さを感じる冷たい目をした男、一目でわかる長身瘦躯、色素の薄い肌に掘りの深い顔立ち。ライダーから、「妖怪かい?」という失礼な発言が飛び出すくらいには第一印象が強烈な男性、メガネをかけ白衣を着て、そのレンズの奥に見える目は周囲を拒絶するよう。引きこもり気味の研究者。そんな印象を受ける、ツインテールの女性、彼女とは対照的に、凛とした、あるいは研ぎ澄まされた氷の刃のような印象を見受けられる眼帯の女性。

 

大令呪(シリウスライト)?令呪とは何が違うのじゃ?」

 

 彼女たちにその大令呪という物があるのは理解したキャスターだったが、それがどんなもかを彼女は知らない。

 

「令呪と似て非なるものだ。圧倒的な力を保有する代わりに、使用者の命を奪い、世界その者を爆発させる大爆発を巻き起こす。使用者にとって害にしかならぬ。手段は問わぬ。だが下手に連中を傷つけるなよ? これらには、あの雑種の手助けとなってもらう故な。」

「それって、あの……」

 

 そのギルガメッシュの言葉に、セイバーが声を上げた。ギルガメッシュがあの雑種と呼ぶ人間の存在が誰かあたりをつけたのだ。初めに見せられた人理焼却、それにたった一人で、数多の英雄の力を借りて抵抗していた、

 

「名を藤丸立香。人理焼却の前の妨害で半死半生の身となったこやつらに代わり、たった一人で人理を救った、人類最後のマスターよ。だが、こやつ一人の力では、此度は足りぬ。」

「なるほどね……ま、そう言う事ならアタシらに任せておきなよ。主君の命に従うのは得意なのさ。」

 

 その言葉に一部混ざった感情をライダーは察した。確かに今回の特異点は、彼女一人で太刀打ちするにはあまりに強大すぎるのだろう。だが、ギルガメッシュの口にした、人類最後のマスター。その言葉に陰りを感じたのだ。何やら思うところがあるのだろう。と言う事はライダーには理解できた。なんせ生前の自分の声にそっくりだ。そう思いながら、やるだけやるさとギルガメッシュに言い、馬の手綱を引いて移動の準備を整える。

 

「では、そうと決まれば活動開始だね。」

「うむ、そうじゃnって何するのじゃ!?降ろせ、降ろさぬか!?マスター、たすけてたも!?」

 

 グッ、とシルクハットを被りなおしたプリテンダーがアーチャーにアイコンタクトをし、頷いたアーチャーがキャスターを担いで。じたばたと助けを求めるキャスターをむしろ笑み浮かべて手を振っているあたり、ギルガメッシュの暴君っぷりにルーラーも苦笑しながら、4騎は霊体化して消えていった。

 

「ではアサシン、貴様に対する命令がまだであったな。先の記憶を抽出し、藤丸立夏に与える魔術薬を作れ。それが貴様への命令だ。」

「霊薬……ですか。不可能ではありませんが……やはり強力な薬剤には素材が必要という物です。」

「ほう、なんだ?申してみよ。金で買える物なら」

「私に買わせる、とは言わないでくれよ。幻獣種の毛皮などを申し付けられれば不可能だぞ。」

 

 ギルガメッシュの言葉を、慌てて止めるエルメロイ二世。チッ、とギルガメッシュは舌打ちするも

 

「否、現代の品で十分に代用は可能でしょう。しかし、調合には時間がかかりまする。そのお時間は頂きたく。」

「良い。一朝一夕で出来上がるとは思っておらぬ。ランサー、セイバーは藤丸立香を守れ。それが貴様らにくだす命令よ。」

「分かった。護衛が得意って言う訳じゃないけれど、頑張るよ。」

「承りました。必ずや果たして見せましょう。」

 

 ランサーとセイバーに対してはそう命令し、彼らは一礼してから、霊体化して消えていった。

 

「さて、アサシンよ、ことは一刻を争う。しかと務めを果たすがよい。」

「御意。では、早速取り掛からせていただきます。魔術師殿、工房をお借りしたく。」

「あぁ。分かった、こっちだ。付いてきてくれ。」

 

 ハサンもギルガメッシュへと頭を下げ、エルメロイの道案内に従った。

 

「まったく、厄介なことになったものよ。」

 

 ギルガメッシュが見た過去の世界。そこでは、彼は第四次聖杯戦争にて、ウェイバー・ベルベットという木っ端の魔術師ではなく、御三家と呼ばれる魔術家計の一つ、遠坂の家の主に呼ばれるていた。ずれている。この世界は、様々なずれが生じている。

 

「さて、(オレ)も動くとするか。」

 

 不敵な笑みを浮かべた英雄王は、総笑みを浮かべて歩み始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【数日後 南極大陸】

 

「ぐっ……」

「おい……どうなってんだよ……」

 

 眼鏡をかけた黒髪の男、ベリル・ガットは、耐寒装備となる魔術礼装をその左手で守りながら、普段浮かべている人を食ったような笑みを顔から消し、顔を真っ青に青ざめさせていた。

 

「なにがどうなったら……デイビットがこんなに簡単に倒れてんだよ!?」

 

 暗殺のエキスパートである彼がそのような表情になる理由、それは、そのそばで倒れ伏す金髪の男が原因だった。デイビット・セム・ヴォイド。伝承科と呼ばれる時計塔の魔術科を追放された異端児にして、この南極にある場所、人類保証機関カルデアに拾われた、人類を救うためのマスター候補の中でも一際優秀なAチームの者達、そのリーダーであるキリシュタリア・ヴォ―ダイムにも匹敵する天才だ。そんな男が敗れ、さらにそんな男を破った存在、ひげを蓄えたコート姿の英霊、ギルガメッシュの召喚したルーラーは、傷1つないまま平然としていた。

 

「……ふむ、君の物言いの通りだというのならば、彼はやはり、強大な魔術師なのだろうね……とはいえ、相手が私というのが不味かった。あまりに相性が悪かったと言えるな。私も、この宝具を振るうのはあまり好みではない。これ一回きりであることを望むよ……」

「何を……何を言ってやがる!? 宝具だ? 一体全体どんな宝具なら、デイビットを一撃で叩きのめせるってんだよ!?」

 

 そう叫ぶベリルに、いつもの冷静さはない。飄々として他人をからかう男で、自分に彼に対する仲間意識もあるとはかけらも思ってはいないが、この現代的な衣服に身を包んだ英霊がデイビットを叩きのめした事実に、そんなことも頭から吹っ飛んでいた。

 

「こうなったら……!!」

 

 『奥の手』を使うときかと、メガネに手をかける。がその時だった。ベリルの真横を光線が飛び、とっさに動いたルーラーの頬をかすめ、血を流したのだ。

 

「すまないベリル、待たせてしまったね。」

「キリシュタリア……お前がここに居るってことはあの女武者のサーヴァントは……」

 

 白を基調とした衣服を身に纏い、杖を片手に持つ優美な金髪の男、Aチームのリーダー、キリシュタリア・ヴォ―ダイムが駆けつけたのだ。女武者のサーヴァント、とはデイビットが倒される数刻前、立ちふさがってきたライダーのことだろう。倒せたのか?というベリルの言葉にキリシュタリアは苦笑して

 

「いや、恥ずかしい話だがヒナコとカドックが隙を作ってくれた間に、目くらましをして逃げて来たんだ。しかし、随分と苦戦しているようだね……」

 

 芥ヒナコとカドック・ゼムルプス。キリシュタリア達と同じAチームのメンバーで、植物魔術と対獣魔術のエキスパートだ。馬に乗るライダーには相性の悪い相手ともいえる。その二人に任せてきたという事は

 

「やっぱり切羽詰まってるか。」

「当然だよ。一刻も早くオフェリアを取り返さなくては。彼女が居なくなってしまうのは、私もいやだ。」

 

 オフェリア・ファムルソローネ。現代の戦乙女とも称されるAチームの一員で、「宝石」クラスの強力な魔眼を持つ少女。そんな彼女が、突如としてカルデアからさらわれた。それが今回のことの発端だ。そしてそれを追いかけたわけだが……

 

「しかし先が思いやられるね。サーヴァントはまだいないとはいえ、世界を救うAチームのメンバーが総出で、このザマとは……」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。キリシュタリア、デイビットが負けたのはあのサーヴァントの宝具だ。攻撃を仕掛けてこねぇことを見るとカウンター系宝具か、あるいは宝具の発動には条件があるのか……」

 

 仲間がいる、というのは彼にも案外心強いものなのか、頭に昇っていた血がス―ッと体を流れていくような感覚と共に、ベリルは冷静さを取り戻していた。そしてキリシュタリアにその情報を伝えると、キリシュタリアは一言、『分かった』とだけ答え、手をまっすぐ上に掲げた。ピクリ、とルーラーの眉が動き

 

「お、おい、何をするつもりだ?」

「なに、簡単な事さベリル。」

 

 冷や汗をかくベリルに、キリシュタリアはにっこりと笑みを浮かべる。のちのベリルとルーラーははこの時のことを聞かれた時まったくおんなじ言葉を話した。

 曰く、———あれはブチギレた笑みだった———とのこと。

 

「反射や何かが出来ない程に、絶大な一撃を与えればいい。」

「お、おまちょまてってばばばっばばば」

星の形(スターズ)宙の形(コスモス)神の形(ゴッズ)我の形(アニムス)天体は空洞なり(アントルム)空洞は虚空なり(アンバース)。」

「じょ、冗談じゃねぇ……」

 

 開始された詠唱分、そして魔方陣が描かれていくのは、天空。複数の魔方陣が天空に描かれ、そこに魔力が流れ込む、キリシュタリアの全身の魔術回路が駆動し、相手を滅ぼす天空の雷を放とうとする。

 天文科の天才、所属していなければ、新たな科目すら作ったかもしれないという絶対の天才、キリシュタリア・ヴォ―ダイム。そんな彼が放つ最高峰の魔法、メテオ魔法。要は、でっかい隕石を落とす魔法である。

 

「おいキリシュタリア今すぐ止めろ!?冗談じゃねぇぞオレは特大のフレンドリーファイアで死ぬなんて御免だからな!?こんなところで撃ったらカルデアにも被害が……というかオフェリアが無事に助かるかもわからねぇぞ!?」

 

 慌てて声を上げるベリルだったがもう遅い、あらかた詠唱が完了しているしどうやら仲間を二人もひどい目にあわされて激おこファイナリティックマジ切れムカチャッカファイヤー☆プンプンドリーム状態のキリシュタリアには届いておらず、天が揺るぎ音を立てて震え、魔力で構成された隕石が降り注ごうとする。あとは詠唱さえ完了させればそれで終わる。

 

冠位指て(グランドオー)

 

 

 が、それはおこらなかった。突如乾いた銃声が響き、魔方陣が砕け散ったのだ。

 

「なっ!?」

「何がッづあ!?」

 

 さらにもう一発。銃声が響き、ベリルが衝撃の後、糸の切れた操り人形のように倒れる。

 

「がっ……あ……狙撃?」

 

 そして、瞬時に自分を貫いたものの正体を見抜く。狙撃銃による狙撃だ。それにより、ベリルの肩と、キリシュタリアの魔方陣の中核となる部分を撃ち抜いたのだ。

 

「(嘘だろ……どんだけ距離が離れてると思ってやがる!?)」

 

 荒い呼吸の中、ベリルは戦慄する。何も遮蔽物の無い場所だ。だが視界が悪い。吹雪の渦巻くこの環境下で狙撃してくるなど、何より天空にある超遠距離の魔方陣、その中核など数ミリ程度の大きさしかない。それを的確に撃ち抜くだなんて人間業ではないのは確かだ。

 

「ベリルッ!? がっ!?」

「スィ、君たちを傷つけるのは私の信条に反するが……眠らされるくらいには、目を瞑ってもらうよ。」

 

 さらに、倒れこんだベリルに気を取られたキリシュタリアは、背後に迫っていた人影に気が付かなかった。首筋に一撃を加え、キリシュタリアを昏倒させたシルクハットにマント姿の男、プリテンダーだったということだ。

 

「悪いが一緒に来てもらう。かのキャスターが貴様らに何を施すかは保障してやれんが、何、悪いようにはならんであろう。」

 

 そんなルーラーの言葉を聞き、初めから、オフェリアをさらったのは、ベリル達(Aチーム)の回収が目的だったのかと、悟ってからはめられたことに気が付いたベリルだったが、もう遅い。痛みからか、血を失いすぎたせいか、ゆっくりと気を失っていくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「対象の回収を確認。」

 

 気絶したベリルとキリシュタリアをプリテンダーが抱えるさまを遠方から眺めていたアーチャーは、その手に持ったボルトアクションライフルのと回して立ち上がる。

 

「しかし流石だな。キャスター。」

 

 冷え切った眼で、アーチャーは呟く。やけに切羽詰まった声だったが、命じられた命令を、

 

「あの一瞬で、術式の中核を見抜くとは。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「う…………」

 

 そして、倒れていくキリシュタリア、ベリルとは対照的に、目を覚ます人物がいた。攫われていたAチームの囚われの姫、オフェリアだ。

 自分は何をしていた?覚醒していく精神が、眠りに落ちる前の事を思い出す。確か自分はキリシュタリアに呼ばれたのだ。それは覚えている。そして、そのキリシュタリアが、自分の頸を後ろから締め上げ、眠らせたことを思い出した。

 

「ッ!?」

 

 慌てて起き上がろうとして、自分の身体が動かないことに気が付いた。歯医者の椅子のような場所に寝かされ、拘束用のベルトでがっちりと体を拘束されている。逃げないように。

 

「フン。当然であろ。」

 

 そして、聞こえてきた声に気が付いた。声のする方向を見れば扉がある。どうやら、何者かが誰かと会話をしているように聞こえるが……

 

「凄まじい術式であればあるほど魔力の流れとは濃ゆいものよ。あの程度、吾輩であれば見破るのは容易い。……む、目覚めておったか。これから取り掛かる。切るぞ。」

 

 入ってきたのはオーダーメイドであろう高級スーツを身にまとう、そのスーツよりも天真爛漫な短パンTシャツにランドセルが似合いそうな体つきの少女、キャスターだった。そう言っ、彼女のわきに浮遊していた魔法陣を消した彼女は、オフェリアのほうに顔を向け。

 

「昏倒の術をかけておいたはずじゃがの……優秀というのも考え物よな。」

「昏倒の……魔術……? あなたは一体……」

 

 困惑するように言うオフェリアに、キャスターはため息をつく。

 

「答えるはずがないであろ。貴様にこのようなことをしでかしているのだ。吾輩がどのような存在か、わからぬほど鈍感でもあるまい。」

「ッ!! なぜあなたのような子供が……!!」

「たわけ。見た目と(よわい)なぞ、魔術師として同じである方が珍しいであろ。オマケにこの身を見て何かを思わんの……否、そういえばそうであったな。吾輩の写真は、ニコライと入れ替わっているのであったか。」

 

 と、オフェリアからすればなにやら良くわからないことを言ってため息をつくキャスター

 

「何を言って……」

「悪いようにはせぬ。大人しくしておれ。まぁお主は、少々他の物とは違う故な。」

 

 そう言いながら、彼女はオフェリアが顔に付けていた眼帯を取り払った。オフェリアの赤色の、強力な魔眼が露わになる。その力を使い、キャスターへ攻撃しようとするオフェリアだったが、いくら魔眼で見てもキャスターには何の効果も表れない。

 

「なっ」

「吾輩自ら取り払ったというのに何の対策もしてない訳がないであろ。」

 

 そう言う彼女の側には一枚のカードがあった。骸骨にローブ、そして手に持った大鎌。その姿は間違いなく、『死神』だろう。

 

「なっ、それは……!!」

「どうやら吾輩の正体に合点がいったようじゃのう。じゃが、もう遅い。マスターには悪戯に傷付けるなとは言われているが、大令呪の除去となれば一筋縄ではいかぬ。一番魔術回路が濃い場所から入れ込むのが最も良い。故に少々眼が痛むかもしれぬが……」

「やめろ……」

 

 そう言いながら、トレーの上に置かれていた注射器のような物をを手に取り、近づいてくるキャスターに、オフェリアは恐怖する。拘束することも忘れてもがこうとする彼女の目に、その注射器が迫った。

 

「壊れてくれるなよ? 魔術師。」

「やめろおぉぉぉっ!!」

 

 ずぶり、という音と激痛と共に、オフェリアの悲鳴がその場に響き渡った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《一方そのころ、東京》

 

「ふぅ~、遅くなっちゃった。」

 

 私、藤丸立香、都内の高校に通う17歳!! 今は友達と遊んで、すっかり暗くなった道を帰ってるところなの!! なんでこんな唐突な自分語りをしちゃうかって言うと、それくらい上機嫌だから。

 

「ふんふんふふ~ん。」

 

 いつも帰る時に使う道を、鼻歌とスキップ交じりに歩いてく。なんてったって私は今日から17歳。今日が17歳の誕生日!! これでようやく、誕生日が速い同学年の友達に年下って言われる日々からおさらばなの!! まぁまた半月もすれば、年下~って呼ばれるようになるんだろうけどね。

 

「いえ~い、るんたった~♪」

 

 マンションのエントランスを鍵で開けて、エレベーターで私達の家まで向かう。きっとお母さんがごちそう作って待ってくれてるんだろうな~。お父さんもお仕事早くに終わらせるって息巻いてたし、もしかしたら弟の立花もクラッカーとか用意して待ってるかも。去年の誕生日みたいに、扉開けた瞬間鳴らされちゃったりして。

 

「たっだいま~!!」

 

 勢いよく、元気に扉を開けてそう言う。帰ってきたのは、静寂だった。暗い廊下。奥のリビングのある方の扉に、明かりがともってる。

 

「あれ?立花~?」

 

 私より3つ年下の立花。私と一緒でちょっとわんぱくで、悪戯が好きな立花は、いつも誕生日の時にはクラッカーを鳴らして来た。ベットの部屋に隠れてるのかな?去年はいきなりだったけど、今年は隠れて奇襲?いつ来るのかな?

 

「お母さ~ん?」

 

 お母さん。大好きなお母さん。私を生んで、育ててくれたお母さん。いつもなら、ただいまって言えば、お帰りって帰ってくるはずなのに、今日はその声が返ってこない。サプライズなのかな?

 

「お父さ~ん?」

 

 お父さん、あんまり家に帰ってこないお父さん。子供の時は何度も文句を言ったけど、それでも大好きだったお父さん。無理してるのは知ってるけど、それでも私の為に、頑張って誕生日の日はいつも早くに帰ってきてくれた。だったらなんでみんな返事がないんだろう?嫌な汗が流れる。大丈夫。サプライズだ。隠れてるんだ。だって今日は良い日だから。私の誕生日なんだから。

 

「みん……な?」

 

 そう言い聞かせて、扉を開けた。その瞬間、私は固まってしまった。……本当は分かってたんだ。寒気がした。いつからだっただろう。帰り道を歩いているときから?友達と遊んでいるときから?行ってきますを言って、家を出る前?それとももっと、ずっと前からだろうか。今日、何か、猛烈に悪いことが起きる(・・・・・・・・)それだけを、私の頭は理解していた。そんなはずないと言い聞かせて、誕生日だからと明るくふるまって、覚悟を先延ばしにしていた。

 いや、どうだろう、もし、『何か起こる』と覚悟してても、こんなことが起こるだなんて、夢にも思ってなかったかもしれない。だって、こんな、

 

「ん?あ、もしかして君が『立香』ちゃん?やぁ、お帰り。待ってたよ。彼らと一緒にさ。」

 

 こんなことになってるだなんて、そんなのわかるわけがなかった。死んでいる。立花が死んでいる。そのお腹を裂かれて死んでいる。助けを求めたのかな、その瞳から涙を流して、苦しそうな表情(かお)をして死んでいた。死んでいる。お母さんが死んでいる。その表情は何かをお願いしていたようで、自分の痛みをこらえていたようで、自分の痛みよりも、もっと痛い何かに苦しんでいたような表情(かお)をして死んでいた。死んでいる。お父さんが死んでいる。抵抗しようとしたのだろうか。お母さんと立花よりも、傷が多かったし、なによりその表情(かお)も、二人とは違って怒りに滲んで……死んでいた。そして、そんな三人が死んでることなんて何にも関係ないように、まるで———実際受けたことはないけれど———ナンパみたいに軽い調子で声をかけてくる人がいた。

 オレンジ色の髪の毛に紫の衣服。片手はギプスで覆われている。もう片方の手に持ってるのは……ドラマとかでしか今まで見たことのなかった医療用か何かのメス。机の上にはイトノコなんかも置いてある。それで……それでこの男が皆をこんな風にしたのは、分かる。放心が解けてきて、段々と、今目の前で何が起こっているのかを分かるようになってきた。でも理解できるだけだ。受け入れられない。何よりも

 

「何で……」

「ん?どうかしたの?立香ちゃん、」

「どうして……」

 

 理解できない。この状況で、お母さんが用意してくれたであろうご馳走も、立花が頑張って作ったのだろう飾りつけも、お父さんが買ってくれてたのだろうプレゼントの包みも、全部をぶち壊しにする血なまぐさい部屋で、

 

「どうして……笑ってるの?」

 

 どうして彼は、平然としていられるのだろう。

 

「どうして……どうしてか……。うん、どうしてだろうね?」

「え?」

 

 そしてその答えに、私は唖然とした。どうしてだろうね?それはどういうこと?自分でも分からない?自分でも分からないのに……こんなことをしているの?

 

「俺はいろんなものに興味がないんだよ。他の奴が楽しいって言ってることもそこまでかな?って感じるし、そんなんだから人と話すってのもあんまり好きじゃなくてさ。前はCOOLに感じてたコレ(・・)も、随分とモチベが下がってきちまった。」

 

 そう、ぽつりぽつりと語り出す。

 

「そんな時に旦那と出会って、いろいろ学べて、『死』の意味も理解できた。いまこんなことをやって理由は何だろうね?ただ、言われてるのは、」

 

 そう言って、こっちに近づいてくる。その手に持ってるのは、メス。わかる。直感で分かる。私はこの人に敵わない。片手にギプスをして、けがをしてるように見えるけど、彼は私を、殺すことができるんだと、何でだか分からないけど分かってしまった。

 

「いやっ!?」

「君は絶対に殺せってことだ。」

 

 メスが迫る。とっさに目をつぶってお腹に力を入れて、無駄だとわかっても、くる痛みに対抗するように構える……だけれども、その痛みは来なかった。

 

「え?」

 

 いつの間にか、その男と私の間に、一人の青年が割って入っていた。素朴な意匠のマントに、軽装鎧姿の金髪の青年。まるでファンタジーから飛び出して来たみたいな恰好をした人が、彼のメスを、その手に持った剣で受け止めていた。

 

「ウソだろ!? まだマスターになってないんじゃなかったのかよ!?」

「あぁ、僕のマスターは彼女じゃない。でも、王だなんだとかそれ以前に、僕は一人の男として、このような場面を見過ごすわけにはいかない!!」

 

 内容の半分も良く分からない様な会話をして、驚愕する男の人を、青年がその膂力で吹っ飛ばした。

 

「ハアアァァッ!!」

「ちょっ、タンmふぐぼあっ!?」

 

 さらに青年は突っ込んで剣を振るう。金属音が何回か響いて、何か言おうとした男の人をもう一度、机の上の物を散乱させながら壁まで吹っ飛ばした。

 

「ふぅ、大丈夫?」

 

 そして、剣を振るって、こっちに振り返ってきた青年に、そう声を掛けられる。

 

「え、えっと……」

「……そっか。こんな光景見たら、それは混乱するよね。アサシン!!」

「出番ですかな?セイバー殿。」

 

 後ろからそんな声が聞こえてきて、慌てて振り返れば、そこには……

 

「お、オバケ!?」

 

 黒い布で全身を包んで髑髏の仮面をした亡霊が居た。もしかしてこの状況……私、『見える体質』になっちゃったとかじゃないよね!?

 

「お、おばっ……」

「ハハッ!!おばけ、オバケかぁ。確かにあながち間違ってないね。」

「「「ッ!!」」」

 

 そんな笑い声に、私含めて、二人も目を向ける。あの男の人が、立ち上がっていた。しかもその直後、凄まじい音を立てて壁がぶち破られる。なんか私にオバケって言われていたことにアサシンって呼ばれてたこのオバケがショックウケてるけど今はそんな事どうでもいい。

 

「今度は何!?」

「けほっ……なんとすさまじい膂力……」

「なんだよ、もうおっぱじめてたのか。まぁいいや。やっちまえ、バーサーカーの旦那!!」

 

 私が悲鳴を上げれば、壁をぶち破り突っ込んで来た人が立ち上がった。戦国武将が来ているような全身鎧に身を包んだ人で、両手に一本ずつ槍を持ってる。更に、そう男の人が声を挙げれば、さらに巨大な、筋肉の塊ともいえるような大柄な男の人が、その輝く長い金髪をなびかせて突っ込んで来た。もう壁どころか床まで突き抜けてしまっている。下の人はどうなったのか、考えるのも怖い。

 

「なになになに!?いったい何が起こってるの!?」

 

 私はもう耐えきれずに叫んだ。お母さんもお父さんも立花も皆死んでるし、次から次へと変なのは来るし、そんな状況に耐えかねて悲鳴を上げれば、それを見かねた様にさっきの青年が、

 

「アサシン、説明している時間はない。ここは僕とランサーで耐えしのぐ。その間に彼女を!!」

「承知ッ!!」

「えっ、ちょっと、きゃっ!?」

 

 そう言うや否や、私はオバケに担がれた。

 

「おっと、逃がしゃしない!!」

「それはこちらの台詞!!」

 

 それを見た男の人が私に向かってくるけど、それを甲冑姿の、ランサーって呼ばれてた人が防いだ。その間に、オバケが壁に手を触れる。何をしてるんだろう、こんな壁際に逃げ場なんて……

 

「我が名は潜慮(せんりょう)のハサン。闇に沈むように、思考の海へと沈むように、我が術は肉体を『潜航させる』宝具解放。」

 

 ずっ、と音を立てて、そうぼやいたオバケ……もといハサンと名乗ったその人が、そしてその人に捕まれていた私の身体が、壁をすり抜けた(・・・・・・・)。いや、というのも違う、まるで一瞬だけ体の一部が水に浸かっていたような……そんな変な感覚が……って言うよりも

 

「私攫われてるーっ!?」

「今更ですかな!?」

 

 そんな私の悲鳴に、ハサンさん?はツッコミを上げる。挙げながらも、私はジェットコースターもかくやというスピードで、家から離れていくことになった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side Saber&Lancer》

 

「とは言ったものの……」

 

 アサシン、もといハサンと、藤丸の去って言ったことを確認しながら、セイバーがぼやいた。

 

「恥ずかしいことに、僕は格上、特に規格外のパワーを持つ相手と戦う時は、逃げるか隠れるか、あるいは策を巡らせてばかりだったんだよね。」

「なんの、であれば私が前衛を務めます。ランサーの膂力であれば、あのバーサーカーとも渡り合う程度の事は出来るでしょう。」

 

 苦笑するセイバーに対し、クルクルと槍を回してランサーは答える。

 

「あ~も~、ホントに聞いてないぜ。こんな事。予定外だ。」

 

 そう苛立たし気に、男、敵側のサーヴァントが吐き捨てる。

 

「あの大男は間違いなくバーサーカー。セイバー殿、もう一人と戦った感想は?」

「膂力はそこまでじゃない。十中八九アサシンだ。」

「ええ。私もそう思います。この大男の覇気に紛れて、気配遮断などを使われてはッ!!」

「■■■■■■!!」

 

 話している最中など関係ない。そう言わんばかりに、その手に持った棍棒を振るってきた。とっさにセイバーとランサーは二人がかりでこれを受ける。が、

 

「ぐううぅぅぅっ!!」

「私とセイバーの膂力をもってして……これほどのっ!!」

「■■■■■■■!!」

 

 バーサーカーの剛腕が振り抜かれ、二人は壁を突き破る。マンションから地面へと、戦場はシフトする。

 

「■■■■■■!!」

 

 さらに急襲するバーサーカー。しかし、勢いを乗せて振り下ろされた棍棒を、ランサーが往なして見せた。

 

「凄まじい膂力。しかし、馬鹿力の相手は慣れているのでね!!」

「凄いなランサー、はああぁッ!!」

 

 笑みを浮かべるランサーに礼を言いつつ、セイバーがバーサーカーに向け斬りかかる。しかし、振るわれた剣は、バーサーカーが何かするでもなく、ただ、その肉体によって弾かれてしまった。

 

「なっ!?」

「■■■■■!!」

「しまっ、ぐあっ!?」

 

 とっさに剣で防ぐセイバーだが、大きく吹っ飛ばされ、別の建物を突き破ることになった。

 

「けほっ、けほっ、剣が通じない相手だったり不死身の魔獣を相手にしたことはあったけど……というよりも剣で戦える、剣が通用する相手の方が少なかったけど……あんなにも無防備な体に剣が突き刺さらなかったのは初めてだな……」

 

 瓦礫の中から身を起こし、周囲を見て幸いにも無人、というよりも、鳴り響く警報と付いていない明かりから、閉店後の店だったことを確認して安堵しながら、そう呟く。が、安堵の時間はそう長く続かず、

 

「■■■■■■■!!」

「ちょっ!?」

 

 波猛る長髪を靡かせながら、さらに建物に突っ込んでくるバーサーカーに、慌ててセイバーはそのビルから飛び出した。

 

「大丈夫ですか?セイバー。」

「うん……ほとんどのダメージは壁にたたきつけられたことだから。それに、死にかけるのは慣れてる。盤面として見てみれば、もっと窮地だったこともあったよ。」

「一体どんな経験をしてきたのです、貴方の生前は……」

 

 そんな彼の自虐に、苦笑をするランサー。そして、雄たけびを上げるバーサーカー。

 

「しかし、私の生前でも、あのレベルのパワーを持つ存在は居ませんでしたね。技量という面で見ればいささか拙いが、あの破格の力、恐らく神代の加護でしょう。」

「神代……つまり神の加護か……。あの無敵っぷりを考えると、ギリシャの英雄アキレウス……とか?」

「否、彼の獲物は槍であったはず。棍棒を振るったという供述は無かったと思いますが……」

「なら、ヘラクレス?」

「それも……先ほど言った通り彼の武芸はかつての我が主君やかの宿敵と比べると拙いように感じます。万夫不当の大英雄である彼の武術がその程度とは……」

 

 迫り来るバーサーカー。その攻撃を時にいなし、時に躱し、市街地を滅茶苦茶にしながらも、空いた時間でこのような会話を繰り返す。そうしながら戦っていると、遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。

 

「お~い、バーサーカーの旦那!!」

「「ッ!!」」

 

 そのサイレンの音を皮切りに、ビルの上から先ほどの男、敵側のアサシンが声を上げる。

 

警察はマズイ(・・・・・・)!!引き上げだ!!」

「…………」

「頼むよ旦那!!流石に潮時だって!!」

 

 アサシンがそう言えば、バーサーカーは以外にも従順に、その場から跳びあがってアサシンに付いていく。

 

「悪いが今回は引き上げだ。また会おうぜ。」

 

 そう言って、アサシンはバーサーカーと共に去って行く。

 

「……我々も、一度退散いたしましょうか。」

「そうだね。サイレンの音も近くなってきた。」

 

 魔術の掟である神秘の秘匿……を気にする気は彼らのマスターにはさらさらないが、逮捕、あるいは報道なんてされてはとてもじゃないが『秘密裏に』など活動できない。一般人からは見えないよう、霊体化を行い、彼らはその場から去って行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side Rituka Huzimaru》

 

「ここまで来れば、追っても来ますまい。」

 

 連れられてきたのは、ウチからかなり離れたところにある廃ビル。おんなじ町だけど。こんなところに無人のビルがあったんだと、今初めて知った。

 

「……あなた達は……何?どうして私の名前を知っているの……?」

 

 お母さんたちを殺したあの男の人も、この人も、ウチに乱入して来た人たちも、みんな違った。直感で分かった。この人たちは、私達(人間)とはまた別の何か(怪物)だってことが。それに何より、

 

「どうしてお母さんたちは……殺されたの?」

「……今、御身に言えることはございませぬ。しかし立香殿」

 

 私の質問に、あの人は首を横に振ってこたえられないと言った。そして、そう言いながら取り出したのは、時代劇とかで見そうな……丸薬

 

「これは……?」

「これを飲めば、貴方は全てを思い出しまする。」

「思い出す……て?」

「……否、思い出す、という言葉には少々語弊があるかもしれませぬ。いわば貴方様の『前世』ともいうべき記憶を蘇らせるための物。貴方様の人格を、記憶により上書きしてしまう事も……」

「わかった。」

 

 そう言うアサシンの言葉をさえぎって、私は丸薬を手に取った。そのまま口に放り込もうとして、アサシンの腕が伸びて私の手を握って止めた。

 

「……よろしいのですかな?」

「いいわけない!!」

 

 覚悟を決めるのか?ドクロの仮面で表情はよくわからないけど、そんな声色で聞いてくるあの人にとっさに吼える。そうだ。良いわけがない。死にたくない。怖い。落下死とか、事故死とか、そんな死に方でも死ぬ瞬間の想像なんてできないのに、人格を塗り替えられるなんて、そんな死に方は……いったいどれだけ、怖いのだろう。

 

「でも……お母さんが殺された。お父さんも殺された。立花だって殺された!!」

 

 まだ殺されてから時間もそんなに立ってないのだろうけど、一瞬も、一瞬たりともあの光景が頭から離れない。瞼の裏に焼き付いてる。

 

「あの男の人は……『君を殺せと言われてる』そう言ってた!!」

 

 お母さんたちを殺せと命令されたとか、そんなことは一言も行ってなかった。

 

「あの男の人は……私を狙ってた。私だけが、標的(ターゲット)だった。」

 

 あそこに居なかったら、ううん、どこか街中で狙われてたら、休日のお昼、お母さんが仕事で居無くなる時間帯だったら、立花が部活で遅くなる日だったら、今日が誕生日じゃなかったら(お父さんが早く帰って来なかったら)、皆は、誰か一人でも死んでいなかった。

 

「みんなは、オマケで殺された!!」

 

 それが何よりも悔しくて、それが何よりも許せない。

 

「私が特別?私だけ?なんで私だけ狙われてるの?ねぇなんで!?」

 

 アサシンさんに聞くのはお門違いだ。犯人じゃない。むしろ私を助けてくれた。だけど……この人は真実を知っている。

 

「その答えは……ここにあるんでしょ?」

「……然り。」

 

 この質問には、答えてくれた。

 

「だったら私は、この薬を飲まないわけにはいかない。」

 

 憎い、あの男の人を、この手で殺したいと、そう思えるほどに、本気であの人が憎い。だからこそ、私は知らなきゃならない。なんでみんなが殺されたのか、これから何が起こるのか、そんな事に、いちいち躊躇していられない。

 

「はぐっ!!……うっ!?」

 

 だから、私は、その丸薬を口に放り込んだ。直後、その凄まじい味に吐き気を感じる。不味い。とてつもなく……美味しくない。苦いのと、酸っぱいのと、臭いのと、とにかく『これが不味い』と感じるありとあらゆる原因を凝縮したような、そんな味が私を襲う。吐き出せ。やめろ。これはダメな物だ。体がそう訴える。でもだめだ。吐き出しちゃだめだ。飲み込め!!

 

「……んぐ。」

 

 強引に、その物体を飲み込んだ。

 

「あっ」

 

 直後、身体が……いや、頭が熱くなる。まるで何かを脳に直接刻まれていくような、痛い、痛い、いったい何が……そう思った直後、様々な光景が頭を流れていく。

 

『さぁ起きて、顔を上げて、マスター』

 

 そう呼びかけてくる、金髪の女性。大人びてるけど実は私と同い年くらいで、その年齢で勇気をもって、旗を振って戦場に立った聖女は、あの神殿で、心が折れかけた私を真っ先に支えてくれた

 

『いつまで余を待たせるのだ?起きよ、マスター!』

 

 そう呼びかけてくる、赤いドレスの皇帝陛下。時々トンチキなイベントを持ってきてくれた彼女の笑顔は、太陽みたいにカルデアを明るく照らしてくれていた。

 

『さ、寝てる時間は終わりだよ。マスター』

 

 そう呼びかけてくる、キャプテンハットの女の人。不可能すらも笑って挑んで、いつだって奇跡を起こして、その生きざまは、私に踏み出し、挑む勇気を与えてくれた。

 

『起きろマスター、仕事の時間だぜ。』

 

 そう呼びかけてくる、野性的な女騎士。女扱いすると怒って、男扱いすると怒った困った人だったけど、叛逆の騎士と言われたあの人の精神が、私の中に運命に抗う強さを生んだ。

 

『司令官、私は眠りすぎという堕落(病気)を許した覚えはありません。』

 

 そう呼びかけてくる、軍服を着た女性。殺してでも患者を治療する。その狂気的な信念は、私に理想を追うことの大切さと現実の実態の厳しさを刻み付けてくれた。

 

『目覚めの時間ですよ、マスター』

 

 そう呼びかけてくる、銀髪の騎士。あまりにも長い年月の贖罪の旅路。それを歩み続けたあの人の忠義は私の胸に焼き付いて、ボロボロになってもそれでも進む一歩になった

 

(オレ)を待たせるとはいい度胸だ。いつまで寝ている?藤丸立香』

 

 そう呼びかけてくる、黄金の王様。傲慢で、それが人を惹き付けた。あの人みたいに輝くことは、私にはできなかったけれども、その高潔さで、私を導くことはしてくれた。

 

『さぁ、悪夢から覚める時だ、我が共犯者よ。』

 

 そう呼びかけてくる、帽子にコートの男の人。夢の中で出会って、ピンチの私を助けに来た復讐者(アヴェンジャー)。笑い声が特徴的な彼の手助けには、彼の暖かさを感じられた。

 

『目が覚めたかねマスター君、よろしい、では始めようか。』

 

 そう呼びかけてくる、初老の教授、悪の親玉で、腰痛持ちで、事件の犯人(くろまく)だったけれども、頼れる味方で、優しい教授で、どうしようもなく、正義の味方だった。

 

『ハッハァ!!目が覚めたかマスタァ!!新しい冒険の始まりだぜ?』

 

 そう呼びかけてくる、ひげの船長。性格ははっきり言ってド畜生だったけど、何があっても、最後の瞬間まであきらめないその姿勢はほんのちょっぴり尊敬してた。

 

『起きたね藤丸君!!それじゃあ行こっか。』

 

 そう呼びかけてくる、和服の女性。ふらっと表れてふらっと消える。そんな不思議な彼女の二刀は、閉じかけた私の道を何度も切り開いてくれた。

 

『まったく寝坊助さんなんですから。さ、行きましょう、先輩♡』

 

 そう呼びかけてくる、蠱惑的な女の子。電脳世界で出会った、ラスボス系後輩を名乗る彼女は、私の為に、ひと夏の夢を用意してくれた、以外にも優しい女の子だった。

 

 他にも読んでくる、マスター、マスターって呼んでくる。思い出す、一人一人と過ごした時間を、あの壮大で、苦しくて、それでもなお、楽しかったあの冒険を。

 

 呼んでくる。銃を持ち、吼え、雪原を駆ける人狼が、花園に佇む一人の少女が、自分の三分の一くらいの身長しかない青年の頭の上に手を置いた、筋骨隆々の大男が、小さくなった幸せをかみしめて家族と一緒に笑う女の子が、明日を求めた、不死身の姉妹が、一緒に國を回って、壮大な冒険をした予言の少女が、私達に語って、私達と戦って、私達に託して散った、賢いディノスが、私の事を呼んでくる。

 

 ———あぁ、思い出した。

 

「私は、藤丸立香。人類最後の……マスターだ。」

 

 でも、覚えてる。お父さんのことも、お母さんのことも。大丈夫。私は、変わってない。あの時も、今も、全然、変わってない。

 そう自分に言い聞かせるように考える。でも、問題なのは、

 

「聞いてない……」

 

 人理焼却で、確かにみんな死ぬことになった。でも、その前に、

 

「こんなことが起こるなんて……知らない。」

 

 余計にわからなくなった。この世界で……いったい何が起こってるの?




 書きたいこと書いてたら二万字超えちゃったよ。第一話の分量じゃねぇ
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