621と呼ばれる人物が唯一所有していたもの。
情報が削れて読み取ることができない。
かつて人物が兵士だったことを意味している。
ルビコンに火種は多く、いまだに燻っている。
1、Towards Zero ゼロ時間へ
とある星系。
人類史、その片隅にて。
正のエネルギー。
成長と野心と、新しい戦争の時代において。
「また来たのか」
技術者は言った。
対する男は述懐する。何度試したことだろうか。役割を。使命を。その為に、一体何人を犠牲にしてきたのだろうか。
「よくもまあ飽きないことだ」
技術者からすればどうでもいいことであろう。そう、それは彼にとって、些細なことなのだ。タブレット端末を弄りながら、今しがた入って来た杖を突いた男をちらりと一瞥しただけであった。
積み重ねられているのは、有象無象の強化人間それの成れの果て。
コーラル技術。人類が地球を脱出して以降、計画に基づき入植が行われた、小さな、地球によく似た星で発見された新資源。エネルギーであり、物体であり、薬物や食物にも転用可能なそれは、数世代時間を経過してもなお安定駆動する夢の新エネルギーであった。
人類の歴史はエネルギーの歴史だ。蒸気、原子力、核融合、そしてコーラル。
エネルギーはたちまちのうちに争いを呼んだ。入植者と、非入植者。企業、そして傭兵。
それを利用した技術は、人道を無視し、人権を踏みにじり、人をもののように扱うことによって、ようやく安定化の兆しを得た。
“これ”はその第四世代、膨大に積み重ねられてきた、産物だ。
刻まれた刻印名は『C4-621』。拘束具を付けられ、そしてプラスチックで幾重にもミイラのように梱包された、物体だ。
アーマード・コア。コア理論に基づき開発されたそれは、比較的小型軽量な兵器であり、元をたどれば、宇宙開発の為に生まれたマッスル・トレーサーの技術を元に、1G下での運用を想定され誕生した、コアを起点に各所と装備を切り替えられるマルチロール・ファイターであった。
それの、最も普及した形式の機体が、静かに研究施設に佇んでいた。各所からはコードが伸び、機器に接続され、そして、“それ”に繋がっている。
一ツ目のサイクロプス。不気味な、鈍色の機体は静かに俯いて静止している。
「617達はその後どうだ」
「ハンドラー・ウォルター」
それは果たして名前であっただろうか。称号であっただろうか。男もついには忘れてしまった。
「まあいい」
技術者はため息を吐くと、男に向かって言葉を吐く。
「在庫処分の手間が省ける」
在庫。“それ”はものであった。人権など存在しない、尊厳無き、名前すらない影法師。
ウォルターがやってこなければとうの昔に焼却処分されていた売り物に過ぎなかった。
何人を犠牲にしてきただろうか。
何人を。
何人を積み重ねてきたのだろうか。
敵基地の襲撃に向かった3名の強化人間は、その敵の重厚な守りに阻まれ、生還することはなかった。最後の一人がかろうじて基地を破壊することに成功したが、ジェネレーターが自壊を起こし、生体反応ロストの信号が最後の連絡となった。
彼らの怨嗟の声が、ちらりと脳裏をよぎる。あるいは、それは感謝の言葉だっただろうか。
我々に理由をくれてありがとうと、感謝していたのだろうか。
「機能以外は死んでいるものと……」
技術者が言うと、ウォルターはぴしゃりと言い放った。
暗い室内。カツカツという杖を突く音だけが響く。
「御託はいい、起動しろ」
ヒトとしての機能はほとんど失われ、できることは極めて限られている。すなわち、機体を動かすことだ。強化人間が生まれた経緯であり、最大の理由だ。
パルスシステムが作動し、脳が機能を復活する。インプラント。神経の置き換え。脳細胞の一部機械化。コーラル物質の注入。ありとあらゆる非人道的処置を受けたそれが、目覚めに歓喜のパルスをセンサーに送った。
システムが正常作動を確認すると、生命維持システムを作動させていく。心臓が脈を打ち、しかし、それは生身のものとは限らなかった。機械によって、代替されているかもしれなかった。
「621……」
「お前に
「仕事の時間だ」
『強化人間 C4-621』
『戦闘システムアップデート完了』
『起動準備……完了』
『メインシステム、通常モード、起動します』
サイクロプスの瞳に光が戻った。
結局おっさんなのか幼女なのかでかい胸の女なのか
好きなのを選んでね