鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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15、Beyond The Sea あの海の向こう側に

 

 バズーカを撃つ。

 大口径火器のいいところは弱点を探すまでも無くとりあえず撃ち込めることだろう。的が大きい相手なのだ、体積から考えれば数十倍は確実にある相手だ、外すはずもなく脚部に命中して爆発する。

 

『硬いですね、耐久性は想定以上のようです』

 

 しかし貫徹できなかった。脚部は硬く、関節部ですらバズーカで貫通できない。ならばと垂直ミサイルを起動、直後緊急回避しつつ発射する。

 

『あんた、まずいのに絡まれたよ。C兵器、シースパイダー型……』

「C、兵器……?」

『コーラルを武器に転用しようと考えたどこぞのバカ達がいてね。それはその産物さ。ろくでもない“技研”の遺産がこんなところに配備されていたとはね……!』

 

 妙に詳しい。だがレイヴンにそれに気が付ける機微などあるはずがなく、物知りだなぁ程度の認識でいる。

 放たれるコーラル物質のプラズマ化弾を、アサルトブーストと通常ブーストを併用したステップでかわしていく。コーラル色の弾があるなどとは、レイヴンも想像していなかった。

 

『ジェネレータからコーラル反応……確かに通常の機体ではない。レイヴン、注意を』

 

 降り注ぐ垂直ミサイル。シースパイダーが跳躍したことで数発しか刺さらない。

 跳躍後―――シースパイダーが、こっちに降ってくる。

 開口部ではないが、もしかして、下方に生えているスラスタは弱点ではないだろうか。攻撃してみることにした。

 

「ここ?」

 

 その下方部に弾をぶち込みつつ、ブースト起動、距離を取る。爆発音と共にシースパイダーがかすかにひるんだのが分かった。

 接近、ブレードで脚部関節を狙って斬り付けると、すぽんと装甲もろとも切断できた。強度は高いが、ブレードには耐えられないらしい。

 シースパイダーが跳躍すると、下方から次々弾を放つ。いずれもコーラル色をしており、弾丸の脅威度が分からない。何しろコーラル兵器なんてもの、初めて見たからである。

 

【コア損傷】

『レイヴン! 回避を!』

 

 濃密な弾幕に、被弾を許す。コアに被弾。一部が溶解し、しかし、機能としては死んでいなかった。久しく味わう命の危機に対し、レイヴンは眉一つ動かしていない。

 再び垂直ミサイルを発射。今度はほとんどが突き刺さり、シースパイダーの上部砲身が爆ぜて垂れ下がる。

 

『ビジター。そいつを作った技研はアイビスの火で滅んだが、連中は研究に取りつかれた狂人の集まりだった。油断するんじゃないよ』

 

 見ていると、急にシースパイダーが姿勢を変え始める。危機を察知して距離を取る、レイヴン。下方部からコーラルの火を噴出、踏ん張り姿勢を取ったかと思うと、肢体を翼のように、それこそ傘か何かのような恰好で飛び始めた。

 カーラが呆れ返った口調で呟いた。

 

『おいおい……飛んだよ、ビジター。あんなもの浮かべて喜ぶとは流石変態の集まりだよ、まったく』

 

 あんなもの。そのあんなものから矢継ぎ早に放たれる爆撃に対し、ならばとさらに上空に飛び上がって接近する。よたよたと逃げ回るシースパイダーの上に“着陸”。

 

「ここ?」

 

 上に弱点はないものか。という意味でバズーカを至近距離で放つ。

 

『レイヴン、どんな敵でもカーラのクリーナーのように分かりやすい弱点があるものじゃないと思いますよ』

「そうなんだ」

 

 シースパイダーからすれば、至近距離過ぎて迎撃できないのと同じである。

 ネームレス、今度は着地しようとするシースパイダーへ、ブレード一閃。出来上がった傷口にバズーカを叩きこみ、脚力を活かして離脱しつつ垂直ミサイルのフルコースをお見舞いした。

 流石に応えたか、各所からコーラル物質を燃やしながら墜落する。まるで松ぼっくりかなにかのような下腹部目掛け、バズーカを発射。貫徹できないので、接近しようとすると、脚部を振り回して暴れる。

 

「これで、終わり」

 

 けれどそれだけだった。トドメの一発を叩きこむと、痙攣して動かなくなってしまった。

 

『コーラルを、動力に使うなんて……』

「だめなの?」

『…………コーラルは……生きています。だから、余りいい気持ちはしません』

 

 悲痛さを滲ませるエアに対し、レイヴンは無邪気に尋ねる。だが質問したところ謎が増えてしまった。疑問符を浮かべつつも、ハッと要件を思い出した。

 

『面白いものを見せてもらったよ、ビジター。さて、本来の目的に戻ろうか。さっさとコンテナに乗り込みな。操作はこっちでやる』

 

「エア、行ってくるね」

『はい、レイヴン。引き続きサポートします』

 

 漆黒の機体、ネームレスがカーゴランチャーのカーゴに乗り込む。内部は狭く、ACが身動きすることもままならなかった。ロック閉鎖。手持ちの武器をパージして床に置くと、そのまま壁面をアームで押して踏ん張る。

 

『ところでビジター、あのウォルターに飼われてるんだって言ってたね』

「うん」

『主人を選べる犬はいないが―――それにしたってあんたは運がない。全く同情するよ』

「でも、優しい人だよ」

『そうさ。優しい男だよ、やつは。だからこそ運がないとも言えるのさ』

「?????」

 

 カーゴが所定に位置に移動。エレベーターで内部へと運搬され、固定される。

 

「え、えあ…………なんだか、こわいね」

『ええ……頑張ってください、レイヴン』

 

 不安を覚えたレイヴンが僅かに声色を変えた。エアが、人の姿でそこにいたのであればガッツポーズでもしていたであろう声をかける。

 カーゴランチャーの巨大な砲身が、目標の中央氷原方面へとレールを滑っていくと、固定された。

 カーラがおまけかなにかのように付け加えてくる。

 

『ああそれからもう一つ』

「うん」

『こいつはあくまで物資輸送用のための代物だ』

「…………?」

『有人で打ち出されるのは、あんたが初めてになるだろうね』

 

『……あっ』

 

 エアが、とてつもなくマヌケな声を上げた。

 レイヴンがプルプルしながら、彼女にできる精一杯の怒りを表現する。

 

「エア」

『はい』

「ごめんなさいって、言って?」

『ごめんなさい』

 

 この計画の発案者はほとんどエアのようなもので。エアを信頼しているレイヴンはカーゴランチャーがどんなものかも想像していなかった。

 

『その、ウォルターも特に反対はしていませんでしたので………』

「そうだね………」

 

 言われてみればそれもそうである。強化人間の耐G性能を知っているからだろうか。

 カーゴ、ドッキング。バーニア予備点火。

 電磁カタパルト作動。

 

「ふぐッ……」

 

 レイヴンは、声にならない悲鳴を上げた。文字通り内臓がシェイクされかねない強烈なGに、意識が半分程吹っ飛ばされる。あろうことか一瞬だけではなくカーゴに備え付けられたバーニアによって、ますます加速していくのだ。強化人間とて、これは地獄の苦しみである。

 

『不幸なあんたの幸運を祈るよ』

 

 カーゴ、母機分離。カーゴの背面部ブースターユニットが作動し、巡航速度へ。

 

「はっ……うううううっ……」

 

 七転八倒して耐える。遠くなりかける意識の中、声を聞いた。声を、見た。

 星を、空を、対流する膨大なコーラルたち。それは星の表面を血管のように走っており、高速で突き進むカーゴのなかでさえ、見ることができた。

 カーゴは、コーラルの流れの中を進んでいた。

 

 

 

『レイヴン? ああ、あなたには見えているのですね』

「……」

 

 

 

 返事をする余力がなかった。こくんと首を動かすだけだ。

 

 

 

 

『このルビコンを対流する……コーラルたちの声が』

 

 

 

 

 

 暗転。

 

 レイヴンは、その赤い、コーラルと同じ色をした瞳を瞼で覆い隠した。




絶対発案者エアでしょこのカーゴランチャー使おうとかいう計画はって思いながらプレイしてました

チャプター2クリア

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