621の特異性
どんな装備でもすぐ順応して使えてしまうところ
『連中を叩くと金になる。そう宣伝してくれるとありがたい』
『宣伝とはな』
ウォルターが苦虫を嚙み潰したような声を上げた。
『621、お前はマスコットではない。気を引き締めてかかれ』
「うん。マスコットって、なあに?」
『マスコットというのは……まあいい、後で説明する。出撃しろ』
アーキバス系列企業シュナイダーからの任務であるが、ほとんどラスティからお願いされたと言ってもいい任務である。
シュナイダー。アーキバス系列でありながら、ルビコンに由来の深い企業であり、空力特性を活かした空戦特化フレームの製造で知られている。
機体がヘリから投下される。
中央氷原。ヨルゲン燃料基地。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
システムオールグリーン。
今回、燃料タンクの破壊と敵勢力の排除ごとに報酬が約束されていた。よって継続火力が必要と判断、要するにたくさん稼ごうと思ったのだ。脚部をタンク型に、両肩にグレネード、そして右にガトリングを、左腕部ブレードは変わらずといった構成である。脚部タンクは、空力特性を活かした流線型のパーツであった。
『621、機体構成を大きく変えたわけだが、慣らしは必要ないのか?』
「うん、別に」
『ここまで構成を変える傭兵はお前くらいなものだ、621。お前は例外的なのかもしれん。通常、強化人間でも慣らさないと動きが緩慢になりがちだ』
ウォルターが気遣うが、レイヴンは既に攻撃に移っている。タンクの積載性能を活かした重装備、重装甲パーツ構成である。無論躱すに越したことはないのだろうが、例えば――。
グレネードを発射。大爆発を起こす、敵陣地。
反撃のマシンガンを正面から突っ込みつつ受け止める。装甲が弾をはじく。
『コード15、所属不明機体と会敵した』
『弾かれる! もっと接近しろ!』
『だめだ! MTの火力では!』
『うわああああっ!?』
と言ったように、火力で押しつぶしてしまった方が楽なこともある。
グレネード、連続発射。ガトリングの弾幕を叩きつけながら、二脚型MTの群れを文字通り消し炭に変えていく。
リロード。ガトリングが過熱を起こした。浮上。タンクがふわりと浮かび上がったかと思えば、その重量のままブーストキックというよりも差し詰めブーストチャージを繰り出して、MTを押しつぶし、トドメにブレードをぶつけていく。
『道中の燃料貯蔵タンクにも追加報酬が設定されています。見つけ次第、破壊するとよいでしょう』
エアの助言通り、燃料貯蔵タンクにも弾をくれてやる。ガトリングを適当に撒くだけであっという間に爆発を起こすので、作業としては簡単そのものであった。
『せっかくです、追加報酬を稼ぎましょう』
砲台が矢継ぎ早にミサイルを発射。
アサルトブースト。ミサイルの旋回半径に入り込みつつ、勢いそのままぶつけて踏みつぶす。二台目。ガトリングを短く回転させ、誘爆を起こして破壊。さらに進んでいく。
『見えるか、621』
開けた地点に出た。ちょうど崖のようになっており、施設は、その崖沿いに建造されていることがわかる。丸い屋根の施設が鎮座しており、拡大してみると、そこに燃料プラント設備がむき出しになっていた。
『ドーム屋根が目標のプラントだ。マーカー情報を更新する。目指して進め』
「うん」
『企業が残した情報を収集しろ……解析はシステムが……』
『待て、コード15! 報告にあったACか。排除執行する』
ついでの駄賃に輸送用ヘリもガトリングを叩きこみ、ブレードで切り刻む。何せ金になるのだから。
プラズマ砲を抱えたMTがブーストを吹かして跳躍しつつ発砲してくるのを、そのまま躱しきれずに食らう。タンク型はどうしても躱しきれない瞬間というものがある。だが装甲はきっちりと持ちこたえた。
反撃。相手の着地に伴い、そのまま上昇、地面目掛けグレネードをぶち込み爆発に巻き込み撃破。
真っ黒に燃え尽きたMTを踏みにじり、先へ、先へ。
『621、補給シェルパを手配している。使え』
「わかった」
道中、補給シェルパの補給を受ける。まだまだ稼がねばならないからだ。
先に進むと、タンクや精製施設の並ぶエリアに出た。垂直ミサイル砲台や、MTが見える。
『目標のプラントを確認した。621、仕掛けるぞ』
「うん」
垂直ミサイル砲台にガトリング斉射。引き金を作動させたまま射線を次の砲台に。ドラゴンの唸り声を髣髴とさせる鳴き声を上げつつ放たれる弾列が、砲台を穴だらけに変えていく。
MTも同様にガトリングをただ撃ち込んで、沈める。
『コード5、敵ACを捕捉した』
『システムに増援を要請、コード78』
あらかた敵を片付けたので、続いて本命に移る。垂直カタパルトで離陸。空中でブーストを吹かしつつ静止すると、グレネードをぶち込んでプラントを粉々に変える。
真っ黒い煙に覆われたそこから脱したところで、エアが声を上げた。
『レイヴン、遠方上空に機体反応。高速で接近しています!』
「!」
咄嗟に、グレネードを起動、上空から接近する影に発射。ひらりと、その影が二手に分かれると、離れた地点に着地した。
『コード23、現着』
『ウォッチポイントからの報告通りだな』
『識別名“レイヴン”……リスト上位、優先排除対象だ』
流線型を多用した形状。二脚型。しかしACではない、コアと頭部が合体したような敵機が出現した。一機は砲を抱え、一機はランス型ブレードを装備している。
ウォルターが唸る。
『この識別反応……封鎖機構の特務機体か! 撒ける相手ではない。排除しろ、621。特務機体、“エクドロモイ”。特定目標の排除を任務とする高機動機だ。パイロットの練度も並みではない』
「わかった」
既に動いている。一機は距離を取り、一機は接近戦を仕掛けてくる。特化型AC並みの高運動性。空中を蹴るように機動するそれは、狙いにくいことこの上ない。
『相性が悪い。やれるか、621』
「うん」
ガトリングとブレードは相手の動きに対応できるが、グレネードは少々厳しい。のはずがおもむろに発射。わずかに機体を浮かせ、その反動で敵機の砲撃を回避。続いてブースト。接近戦を仕掛けにやって来た一機のランス・チャージを紙一重で回避。
離脱にかかる敵の脚部を、ブレード一閃。続く二発目は躱される。
ガトリングを、移動先にばらまく。推進系に被弾したか、エクドロモイが墜落する。
『この動き………!?』
『損傷を知らせろ!』
『メインブースタがイカれた……! 飛べん……ッ!』
漆黒のタンクが、メインカメラをぎらつかせながら迫って来る。必死で左腕のマシンガンを撃つが装甲を抜けない。ノイズの走った画面の中、最期に見たのは漆黒の機体であった。
『やはり、ただの独立傭兵では………!?』
ブーストキック。機体を突進で潰し、転がっていくそれにグレネードを叩きこんで粉々に。
あっさり前衛が食われてしまい、やむを得ず砲撃型エクドロモイが前に出てきた。
ネームレスのメインカメラが赤く輝いている。
『コード31C、少尉が撃破されました……了解続行します……しかしこれは………』
砲撃装備のエクドロモイがプラズマ砲を発射するも、射線を見切られ回避される。
ネームレス、機体をかすかに浮かすと、着地と同時にドリフトターン。グレネードランチャーを発射。回避されることを見越しコンマ数秒のラグを置く。
『エクドロモイに付いてくる……だと……!?』
それを辛うじて回避した先に既にガトリング弾を置いている。三段構えの攻撃を前になすすべもなく、エクドロモイが被弾する。砲撃装備が爆発を起こし、墜落した。
『消せ、621』
「うん」
反撃せんと必死で姿勢を起こそうとするエクドロモイに対し、アサルトブースト。横を通り過ぎる間際にブレードをぶつけて、溶断した。
『アーキバスめ……この展開も織り込み済みか……連中にとってはいい宣材だ。帰還しろ、621』
「うん」
ネームレスは、黒い塊と化した特務機体だったものを一瞥すると、巡航モードのアサルトブーストで戦場を離脱した。