【新着メッセージ2件】
【RaDのチャティ・スティックだ 花火会場では世話になったな。
ボスはお前とつるんでると楽しそうだ。これからも相手をしてやってくれ。
要件はそれだけだ。じゃあな】
【よう、ラミーだ。
やっぱりお前おかしいぜ。封鎖機構のフネの艦橋を拳で潰すとかネジ飛んでるんじゃねぇか。弾がないからって殴り倒すのはおかしいだろがよ。
まぁ、その、また助けて貰ってマジで感謝してるんだぜ? お前本当に強いよな………。】
封鎖機構の軍門に下ったドーザーを“花火”で盛大に歓迎してやった翌日、メッセージが届いた。
ガトリングを持って出撃。弾が切れたので仕方がなく封鎖機構の強襲艦の艦橋を拳でしばき倒したのが余程印象的だったのか、ラミーからそんなメッセージが届いたのであった。
『ラミー、元気そうですね』
「うん」
メールはさておきとして、立ち上がる練習だ。
全身の神経あるいは脳がおかしくなっているのが最大の原因でもあるが、他にも三半規管がおかしいとか、そもそも筋肉が足りな過ぎて立てないとかも考えられる。度重なる再調整とリハビリのお陰か、少なくとも手は動くようになったし、寝返りくらいは打てる。
あとは、立てればいいのだが。
『頑張ってください、レイヴン』
「うん……よいしょ……よいしょ」
銀色の髪の毛を後ろで結んだレイヴンが、自室のベッドに腰かけている。白いシャツと、薄手のショートパンツを身に着けており、年相応の娘にしか見えない。これが大陸で現在最も有名な傭兵であるなどとは誰も想像できまい。
なんとか立ち上がろうとして、壁に設置された手すりを掴む。
「うーん、うーん………」
細い足がプルプルとしている。息が切れてしまい、一度断念する。
『もう一息ですよ!』
「うん……よいしょ………うーん、うーん」
立ち上がろうとして、しりもちをついてしまう。ぺたんと床におしりがくっついた。
痛かったのか、涙目になっていた。
「痛い……」
『難しいですね、やはり………しかし、最初は喋ることもできなかったのでしょう? 私は、いつか立ち上がれるようになると信じています、レイヴン』
「うん、がんばる」
拳を固めて胸元に持ってくる。
といったところで神経接続で通信の呼び出しがあった。仕事の時間になるかもしれないと、世話係のアンドロイドを呼び出した。
「座らせて」
『承知シマシタ』
人型のアンドロイドの手助けを得て、車椅子に腰かける。
通信を繋ぐ。
『やあ、君の戦友。ラスティだ。通信はできるかな?』
「ラスティ!」
表情に乏しい彼女であるが、嬉しい時や悲しい時は表情が分かりやすく変化する。と言っても、口角が多少持ち上がった程度であるが。
『この前送った本はどうだったかな?』
「たのしかった。でも、わからないことがある」
『どんなことだろうか。私に答えられる質問だと嬉しい』
「どうすれば、人と、仲良く……どうすれば、愛おしいって、一緒に思えるようになるの?」
それは純粋過ぎる疑問であった。
本では確かに書いてあったが、曖昧過ぎた。具体的にどうすればいいのか、彼女にはわからない。
ラスティが通信越しに唸るのが聞こえた。
『難しい質問だなぁ………愛はお互いを見つめ合うことではなく、ともに同じ方向を見つめることである。そんな言葉が返事になればと思うよ』
「同じ方向を………」
『難しいかな。いずれ分かるようになると思う。さて、戦友。実は仕事に関する話があるんだ』
『同じ方向を、ですか……』
ぽつんとエアが呟いた。
『アーキバスから君に依頼が出ている。この作戦は腕利きじゃないと務まらないとね。内情を明かすと、手が足りていないんだ。作戦立案者でもある私の上官からの“お言葉”がある……まぁ、聞いてみてくれ』
ラスティの声が途切れると、違う声が聞こえてきた。
『ヴェスパー第二隊長、スネイルです。これより作戦内容を伝達します』
「………」
『私の直属で作戦行動に臨めること、光栄に思いなさい』
『レイヴン。なんだか、高圧的な人ですね……』
高圧的な人間と接した記憶のない彼女からすれば、スネイルの態度は偉そうだなということくらいしかくみ取れないらしい。エアが補足して、やっとそうなのかと理解する程だ。
要するに、二か所を同時に襲撃する作戦らしい。ラスティが通信基地を潰し、撹乱する。レイヴンが宇宙港を襲撃し、停泊中の艦隊を潰す。という段取りらしいが。
『この作戦には穴がある。通信網の混乱は一時的なものになるはずだ』
「うん」
通信基地を破壊したからと言っても、すぐダメになるわけではない。衛星を使うなりすれば、すぐ通信は復旧するはずだからである。
応援が押し寄せて来るであろう。そうなったとき、対応できるかは不透明だ。
何せ敵の拠点に攻め込もうとしているのだ、レイヴンとて持たないかもしれない。
『こちらの仕事が片付いたら、救援に向かおう』
「ありがとう。船を、全部壊せばいいの?」
『そういうことになる。頼まれてくれるかい?』
「いいよ」
即答であった。
「ラスティ、一緒に戦えるの、とても嬉しい」
『俺もだ、戦友。じゃあまた、ああいや……別のデータも送っておいたから後で確認しておいてくれ』
データが送信されてくる。解凍してみると、これまた本であった。
絵本もあれば、中には資料本もある。
「……本?」
『本、好きなんだろ? 私も本が好きでね。主に絵本だが楽しんでもらえると嬉しい。それじゃあ戦友。戦場でまた会おう』
通信が切れた。
暫くレイヴンはぼんやりとしていたが、ややあって、車椅子から立ち上がろうとし始めたのであった。
「あうっ」
ぺたん。
結局、また転んでしまったが。何度でも、何度でも、立ち上がろうと必死になって練習を続けた。