『コード44 排除対象2機の情報を回してくれ』
『システムより回答 企業所属 V.Ⅳラスティ。独立傭兵 識別名レイヴン。後者については、登録情報との誤差を再照合中』
『妙な組み合わせだ』
惑星封鎖機構、執行中尉がぼやく。
企業と独立傭兵。ある意味では相反する存在が手を組んで戦っている。
『企業も傭兵に頼らざるを得ないということだろう』
『敵機を解析します。封鎖機構の執行機、LC高機動型及びHC型―――……それぞれ機動力と火力が脅威です』
エアの冷静な声。
二機は、崖から降下してくる敵機に対し、同時に動いた。
「ラスティ、高機動型、私がやる」
『承知した。では私はHC型をやろう』
瞬時に分担を決め、敵に“襲い掛かる”。
まるで練習したかのような連携であるが、実際、何度も何度もシミュレータ上で“遊んで”いる。
口から内臓がはみ出るのでは、という、鋭角な、それでいて優美さを感じさせる戦闘機動は、ラスティがレイヴンの動きを模倣し、自分なりに解析した結果得られたものだ。彼は確実に強くなっていた。
故に、数的優位性がなくなった現状、一対一の戦いにおいて、ラスティは余力さえ残していた。
『この動きは……データに合致していない……』
『悪いな、執行部隊君。進化の現実ってやつを教えてやろう』
ハンドガンを速射。ランダムに機動する敵機に対し、その動きを見極めた上で、指切りで当てていく。わずかに姿勢が崩れたところで吶喊。レーザースライサーを起動し、回転切りで装甲を溶解させる。
反撃の銃撃を、バックステップで躱す。
『浅いか』
距離を取る敵に対しプラズマミサイルを起動、ロック、発射。反撃の砲撃をギリギリのところで回避、二発目。偏差射撃を、あえて何もせずやり過ごす。隙だらけに見えて、隙が無い、ブラフを織り交ぜた動き。全てレイヴンから学んだものだ。
『ここで止まるわけにはいかない。もっと高く飛んでやる!』
跳躍。軽量二脚特有の軽快な動きで、左右に不刻みに揺らめきながら肉薄、プラズマミサイルを回避して反撃に出ようとした敵機を撃ちまくる。機体負荷限界。空中で棒立ちになった敵に対し、レーザースライサーフルチャージ。
『おおおおっ!!』
回転切りから繋がるアサルトブースト、蹴り、そして武器をハンガーシフト。バーストライフルでトドメを刺す。
機体耐久限界を迎えた封鎖機構の執行機が、空中で悶えながら爆発を起こして墜落した。
『システムに……報告を……!』
「ラスティ」
『終わったか……仕事が早いな、戦友』
ラスティよりも少し早く敵機を撃墜していたらしいレイヴンのネームレスがやってくると、スティールヘイズの隣に着地する。
『システムの判断を通達します』
広域の無線と、拡声器によるアナウンス。それは敵に向けたものか、味方に向けたものか。
『コード78Eを承認』
「あらて?」
レイヴンが呟いた。承認がどうとか言っているのだ、増援の可能性が高い。二機が自然と背中と背中を合わせる姿勢を取り、油断なく周囲を警戒し始める。システム、スキャンモード。周辺情報を取得。しかし、何もかからない。
『惑星封鎖に対する脅威現出と見なし――――IA-02の起動を許可します』
『この反応は……? マーカー情報を更新。そちらの方角から、何かが……』
エアの声。レイヴンは遥か遠方へとカメラアイを向けた。
猛烈に、嫌な予感がした。
「飛んで!」
『ああ!』
レイヴンが言うや否や機体をアサルトブーストで退避させ、同時にラスティも跳躍、緊急回避した。
下方、地面を貫いて、何とも形容しがたい異形が姿を見せた。先端に掘削用ドリル。胴体はワームと聞いて想像されるそのもの。ACを遥かに超える圧倒的な物量のそれが、地面から突如として出現した。
「行くよ……う、ううっ?」
レイヴンが、弱点であろう頭部に、アサルトブーストでぴったりと追従して、実弾オービットを起動、ライフルをねじ込み、レーザースライサーの連撃を叩きこむ。まともな兵器ならこれで致命傷であろうが、あろうことか弾かれる。
ブースト点火。不明兵器が頭を擡げたかと思えば、つい今しがたレイヴンがいた空中を殴打する。回避していなければ即死していたであろう、巨大な質量。
『なんだ、この化け物は……!?』
ラスティの困惑した声も理解できるようものか。通常の兵器ではない。何か、強烈な力場が展開されているらしく、レイヴンの連携攻撃に傷一つついていない。
試しにラスティもライフルを撃ち込んでみたが、表皮で赤い発光を起こすだけで貫徹できない。レーザースライサーでもダメなら、あとは近接戦しかないが―――。
『ちっ! これも封鎖機構の兵器なのか!? パターンが読めん……引くべきか!?』
ラスティは、勘に従うことにした。撤退だ。現在保有する兵器で装甲を抜けない以上、まともにやり合うには分が悪い。この質量だ、まさか飛ぶことはできまい。撒くことは容易そうに思える。ただ、レイヴンが気がかりだ。戦うつもりならば、付き合うつもりでいた。
一方レイヴンは、空中になるべく長くいられるような、小刻みなブースト使いで回避に専念していた。合間に弾を撃ち込んではいるのだが、表面装甲に展開する謎の力場にことごとく弾かれてしまっている。
『このコーラル反応、有人ではありえません……恐らくは自律型のC兵器……!』
「無人?」
『ええ、恐らくは……レイヴン、回避を!』
巨大兵器は、ただ動き回っているだけだ。しかしその質量はそれだけで凶器であり、接触しようものならスクラップになってしまうであろう。
『今は生き残ることだけを考えろ、621』
「うん!」
攻撃の手を止めると、とにかくかわすことに意識を集中する。攻撃が通らない敵がいる等、想像もしていなかった。
『■■■■■■』
急に、その巨大兵器が動きを止めた。
『待て、何か様子がおかしい』
ウォルターの声。見れば、急にその頭部を全くの別方向に向け始めたではないか。そして、まるでレイヴンとラスティがそこにいないかのように、明後日の方角へと進出を始めた。
遠ざかっていく姿に、二機は最初と同じように隣り合わせの位置に着地した。
『行動パターンの変化を感じます。より、優先の指令……? 集積コーラルの防衛……?』
エアの要領を得ない言葉。
レイヴンはほっと溜息を漏らすと、体の力を抜いた。
『封鎖機構が技研の遺産を抱えていたとはな』
ウォルターが静かに言った。
『621、戻って休め』
「うん」
『俺は、あれを片付ける算段を立てる』
「また、生き残ったな、戦友」
「うん」
二人は、機体を並べていた。ラスティがコアに腰かけ、ヘルメットを取ったレイヴンを覗き込むような形になっている。
「ラスティ」
「ああ」
「んしょ、んしょ……」
ゆっくりと、操縦席からレイヴンが立ち上がって見せる。足は震え、腕も生まれたての小鹿のようであった。操縦席の縁に掴まっているとはいえ、彼女は自力で立ち上がったのだ。
「褒めて!」
「はははっ、いや流石だ戦友。よくできました。おっと!」
ふらつき、頭部を強打しかけたところでラスティが間に入る。丁度抱きかかえるような恰好となった。
レイヴンはその胸板に顔を埋めると、ぐりぐりと押し付けた。
「あんしんする」
「そうか。そう言ってくれるのは嬉しいな、私としても。……迎えが来たようだ」
迎えのヘリがやってきた。ローターを響かせながらやってきたそれは、丁度隣に着陸する。
「帰る時間だ、戦友」
「………」
「だんまりはよくないぞ。さあ、帰るんだ」
「わかった」
こうして、二人は別れたのだった。