鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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24、What are you fighting for? あなたは何のために戦うのですか?

 

『AC単機で全てを片付けたというのか』

 

 ウォルターの言葉に、しかし応じている余裕がない。

 交錯、すかさずターンして射撃戦闘に持ち込んでいく。垂直ミサイル起動。全弾発射。まずは様子を見る。この相手、妙なプレッシャーを感じるのだ。違和感とでもいうべきものがビリビリと伝わってくる。

 ナイトフォールはそれをあっさりアサルトブーストで回避すれば、アサルトライフルを向ける。主兵装の射程はほぼ一緒。レーザースライサーか、パイルバンカーかの差はあれど、近接の間合いもほぼ一緒。

 高熱源反応。緊急回避。ステップを踏んだ途端に飛んでくるグレネード。硬直の隙を狙い、一発アサルトライフルを叩きこむ。有効打にはなったが致命傷ではなく、装甲で防がれてしまっている。

 

『なるほど、ハウンズですね』

 

 何がなるほどなのか、何か納得したような、相手のオペレーター。

 

『お前のライセンスの本来の持ち主か。621、言葉に耳を貸すな。集中しろ』

「うん、ううっ!?」

 

 アサルトライフルのリロードタイムを縫うように、ファーロン・ダイナミクス製のデュアルミサイルが速射される。挟み込むような軌道は、対AC戦闘を考慮した装備であることを意味している。

 アサルトブースト。推力を横に偏向しつつ、その場でターンしてミサイルをやり過ごす。

 移動先を狙って、ナイトフォールが二連装グレネードランチャーを、上空から発射。

 レイヴンは、アサルトブーストを短く吹かした。榴弾が地面にクレーターを穿つ。

 

『強化人間C4-621………“レイヴン”の名を返せとは言いません』

「………?」

『ただ、あなたにその資格があるか見極めさせてもらいます』

 

 ナイトフォール、グレネードが当たらないと踏んだか、パージ。速力が向上し、その向上した結果として機体がブレる。事前に放っておいた垂直ミサイルが命中せずに終わる。

 

『考えてください、なんのために戦うのか』

「なんの、ために……?」

 

 あなたは、なんのために戦うのか?(What are you fighting for?)

 問いかけられ、かすかに動揺する、621。ウォルターのためだろうか。エアのためだろうか。戦いが楽しいからだろうか? ラスティに喜んで欲しいからだろうか。

 空っぽの伽藍洞。過去も、記憶もなかった彼女に残されたのがたった一つだけ、戦いであった。その為に改造を受けた。その為に……。

 戦いの為に生きている。戦う為だけに生きている。では、何の為に戦っているのか。

 被弾。言葉によって動揺したせいか、アサルトライフルが脚部を擦り、スラスタが潰れる。

 

『存外そんなものですか。あるいは……』

 

「ううううっ!」

 

 湧き上がってきた感情、それは闘争心であった。

 

「……自分のため……自分のため、戦っている……自分のため………自分のため……?」

『621……』

 

 人生を、取り戻す。全てを清算する為だ。その為に戦う。しかし、口に出した途端に不安に襲われる。

 ……本当にそうか?

 

「!」

 

 全く同じタイミングで近接攻撃に移行。

 レーザースライサー起動、振り回しつつ接近すれば、相手もパイルバンカーを振りかぶっている。やられる。射程はともかく威力はパイルバンカーの方が高い。直撃を貰えば損傷では済まない。

 

【アサルトアーマー、起動します】

 

 しかしそれも同じタイミングであった。パルスの炸裂が、打ち消し合ってしまう。

 真っ白に染め上げられた視界の中、突き出されるパイルバンカーを、右腕を突き出すことで庇った。

 衝撃。バスンという轟音と共にパイルが炸裂し、ネームレスの右腕が関節部から消し飛ぶ。

 次の瞬間、フルチャージのレーザースライサーが振りかぶられるや、ナイトフォールのコア、頭部を溶解させ、衝撃でノックバックさせた。

 

『企業の走狗か、ハンドラーの猟犬か―――“レイヴン”とは意志の表象。相応しいのは、選び戦う者だけです』

『戦いに集中しろ、621』

 

 息を吸い、吐き出す。

 右腕が潰れた。レーザースライサーは冷却中だ。攻撃手段の一つを喪失した状態で、この強敵に勝てるか。

 

『ええ、レイヴン。私も感じてるわ。この傭兵には、可能性がある』

 

 右腕はどうせ使えない。盾代わりに残った根元を突き出しつつ、アサルトブースト。飛び蹴りを見舞い、ナイトフォールを追撃する。

 

『選び戦う……意志……』

 

 エアの声が聞こえる。なにか、思うところがあるようだ。

 ナイトフォール、ミサイルを起動。挟み込むような軌道で敵機に迫る、ミサイル弾頭。

 

【パージします】

 

 垂直ミサイルをパージ、熱源に惹かれたミサイルが、垂直ミサイルポッドへと殺到し、爆発する。軽くなった機体を疾駆させれば、冷却の完了したレーザースライサーに青白い光を灯す。

 接近戦。突き出されるパイル持ちの腕を、脚部踏み込みからの回し蹴りで弾き飛ばす。

 

「終わらせる」

 

 ナイトフォールのがら空きになったコア目掛け、青い刃が回転しながらその装甲を削り取る。くるりと身をひるがえしながら、ラスティがそうするように、刃を走らせた。

 

『………………』

 

 無言で、ナイトフォールが倒れ込む。ジェネレータが破壊されたか、内部からコーラル物質が噴出すると、頭部がはじけ飛び、そして、紅蓮の火炎に包まれた。

 

『レイヴン、反撃を……! ………そう、見届けようと言うのね』

 

 敵のオペレーターが、撃破されたことが信じられないと言った様子を一瞬みせるも、すぐに口調を改めた。

 

『この翼が……彼らをどこに運ぶのかを』

 

 通信が途切れた。

 後に残されたのは、炎上するAC一機だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたを襲撃した独立傭兵……“レイヴン”について調査しました』

「うん」

『どうやら、レイヴンとは特定個人ではなく―――彼らの定義する“自由意志”の象徴として傭兵たちが受け継いできた称号のようです』

「……自由意志」

『戦う理由を自ら選び、そのために強く羽ばたくこと……それがレイヴンの証明だと言うなら』

 

『私は、変わらずあなたをそう呼びたいと思います』

 

 

 

 

『……レイヴン』

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