『AC単機で全てを片付けたというのか』
ウォルターの言葉に、しかし応じている余裕がない。
交錯、すかさずターンして射撃戦闘に持ち込んでいく。垂直ミサイル起動。全弾発射。まずは様子を見る。この相手、妙なプレッシャーを感じるのだ。違和感とでもいうべきものがビリビリと伝わってくる。
ナイトフォールはそれをあっさりアサルトブーストで回避すれば、アサルトライフルを向ける。主兵装の射程はほぼ一緒。レーザースライサーか、パイルバンカーかの差はあれど、近接の間合いもほぼ一緒。
高熱源反応。緊急回避。ステップを踏んだ途端に飛んでくるグレネード。硬直の隙を狙い、一発アサルトライフルを叩きこむ。有効打にはなったが致命傷ではなく、装甲で防がれてしまっている。
『なるほど、ハウンズですね』
何がなるほどなのか、何か納得したような、相手のオペレーター。
『お前のライセンスの本来の持ち主か。621、言葉に耳を貸すな。集中しろ』
「うん、ううっ!?」
アサルトライフルのリロードタイムを縫うように、ファーロン・ダイナミクス製のデュアルミサイルが速射される。挟み込むような軌道は、対AC戦闘を考慮した装備であることを意味している。
アサルトブースト。推力を横に偏向しつつ、その場でターンしてミサイルをやり過ごす。
移動先を狙って、ナイトフォールが二連装グレネードランチャーを、上空から発射。
レイヴンは、アサルトブーストを短く吹かした。榴弾が地面にクレーターを穿つ。
『強化人間C4-621………“レイヴン”の名を返せとは言いません』
「………?」
『ただ、あなたにその資格があるか見極めさせてもらいます』
ナイトフォール、グレネードが当たらないと踏んだか、パージ。速力が向上し、その向上した結果として機体がブレる。事前に放っておいた垂直ミサイルが命中せずに終わる。
『考えてください、なんのために戦うのか』
「なんの、ために……?」
問いかけられ、かすかに動揺する、621。ウォルターのためだろうか。エアのためだろうか。戦いが楽しいからだろうか? ラスティに喜んで欲しいからだろうか。
空っぽの伽藍洞。過去も、記憶もなかった彼女に残されたのがたった一つだけ、戦いであった。その為に改造を受けた。その為に……。
戦いの為に生きている。戦う為だけに生きている。では、何の為に戦っているのか。
被弾。言葉によって動揺したせいか、アサルトライフルが脚部を擦り、スラスタが潰れる。
『存外そんなものですか。あるいは……』
「ううううっ!」
湧き上がってきた感情、それは闘争心であった。
「……自分のため……自分のため、戦っている……自分のため………自分のため……?」
『621……』
人生を、取り戻す。全てを清算する為だ。その為に戦う。しかし、口に出した途端に不安に襲われる。
……本当にそうか?
「!」
全く同じタイミングで近接攻撃に移行。
レーザースライサー起動、振り回しつつ接近すれば、相手もパイルバンカーを振りかぶっている。やられる。射程はともかく威力はパイルバンカーの方が高い。直撃を貰えば損傷では済まない。
【アサルトアーマー、起動します】
しかしそれも同じタイミングであった。パルスの炸裂が、打ち消し合ってしまう。
真っ白に染め上げられた視界の中、突き出されるパイルバンカーを、右腕を突き出すことで庇った。
衝撃。バスンという轟音と共にパイルが炸裂し、ネームレスの右腕が関節部から消し飛ぶ。
次の瞬間、フルチャージのレーザースライサーが振りかぶられるや、ナイトフォールのコア、頭部を溶解させ、衝撃でノックバックさせた。
『企業の走狗か、ハンドラーの猟犬か―――“レイヴン”とは意志の表象。相応しいのは、選び戦う者だけです』
『戦いに集中しろ、621』
息を吸い、吐き出す。
右腕が潰れた。レーザースライサーは冷却中だ。攻撃手段の一つを喪失した状態で、この強敵に勝てるか。
『ええ、レイヴン。私も感じてるわ。この傭兵には、可能性がある』
右腕はどうせ使えない。盾代わりに残った根元を突き出しつつ、アサルトブースト。飛び蹴りを見舞い、ナイトフォールを追撃する。
『選び戦う……意志……』
エアの声が聞こえる。なにか、思うところがあるようだ。
ナイトフォール、ミサイルを起動。挟み込むような軌道で敵機に迫る、ミサイル弾頭。
【パージします】
垂直ミサイルをパージ、熱源に惹かれたミサイルが、垂直ミサイルポッドへと殺到し、爆発する。軽くなった機体を疾駆させれば、冷却の完了したレーザースライサーに青白い光を灯す。
接近戦。突き出されるパイル持ちの腕を、脚部踏み込みからの回し蹴りで弾き飛ばす。
「終わらせる」
ナイトフォールのがら空きになったコア目掛け、青い刃が回転しながらその装甲を削り取る。くるりと身をひるがえしながら、ラスティがそうするように、刃を走らせた。
『………………』
無言で、ナイトフォールが倒れ込む。ジェネレータが破壊されたか、内部からコーラル物質が噴出すると、頭部がはじけ飛び、そして、紅蓮の火炎に包まれた。
『レイヴン、反撃を……! ………そう、見届けようと言うのね』
敵のオペレーターが、撃破されたことが信じられないと言った様子を一瞬みせるも、すぐに口調を改めた。
『この翼が……彼らをどこに運ぶのかを』
通信が途切れた。
後に残されたのは、炎上するAC一機だけだった。
『あなたを襲撃した独立傭兵……“レイヴン”について調査しました』
「うん」
『どうやら、レイヴンとは特定個人ではなく―――彼らの定義する“自由意志”の象徴として傭兵たちが受け継いできた称号のようです』
「……自由意志」
『戦う理由を自ら選び、そのために強く羽ばたくこと……それがレイヴンの証明だと言うなら』
『私は、変わらずあなたをそう呼びたいと思います』
『……レイヴン』