自室。車椅子に乗った621は神経接続で、通信を開始した。ウォルターからの呼び出しがあったからだ。管理システムを、通常モードからブリーフィングモードへと切り替える。
【Main System Mission Briefing】
『よく聞け、621。これはベイラムとアーキバス……両社連名での作戦だ。これからブリーフィングが始まる。お前も同席しろ』
V.Ⅱ、スネイル。最初に発言を始めたその男は、いかにもな尊大な口ぶりであった。
『まず私から前提を説明しましょう。これは両社が合意した一時停戦協定に基づく惑星封鎖機構に対する同時襲撃作戦です』
画面上には、参加者が表示されている。中にはイグアスという名前もあった。ダム襲撃の時、やたらと突っかかって来た男だ。あの作戦から大して日にちも経っていないが、レイヴンにはまるで大昔のことのように感じられた。
中央氷原、敵のいる地点が赤い丸で表示され、反攻部隊つまり我が方が矢印で表示されている。
『目標は敵方が保有する拠点群及び強襲艦隊、そして先般起動した』
『ここからが本題だ!』
食い気味に言葉を遮ったのは、レッドガンのトップ、歩く地獄ことG1ミシガンである。その大きな声はいかにも軍人と言った印象が感じられる。
『要するにルビコン各地で封鎖機構との総力戦が起こる。貴様らは貧乏くじを引いた! ここにいる面々がアサインされたのは、最大の脅威、氷原の化け物退治だ!』
『やってられるかよ。俺は遠巻きに見物させてもらうぜ』
G5イグアスがやれやれと声を上げる。もう一人、タンク型のAC乗りが相方でいたはずだが、参加者リストには入っていなかった。参加していないだけだろうか、あるいは……。
『G5! 前線に出るメンバーがひとり確定したようだな!』
『アイスワームの多重コーラル防壁を無効化する手段について話そうじゃないか』
いよいよ、本題だ。
シンダー・カーラが発言する。アイスワームの図が表示され、シールドの概念図が加わる。
『あれはプライマリシールドとセカンダリシールド二枚からなる鉄壁の守りだよ』
『一枚目を突破する手段はアーキバスが提供しましょう』
スネイルが発言する。
武器の情報が表示されると、それをレイヴンは食い入るように見つめた。折り畳み式の長射程砲のようだが。対AC戦闘でも有用なのだろうか?
『最新兵器、スタンニードルランチャー。これを頭部に当てれば求める結果が得られるはずです』
『二枚目はどうする』
ミシガンが聞けば、カーラが答えた。
『夜なべして作ってた玩具がある。RaD社謹製“オーバードレールキャノン”さ』
概念図が表示された。列車砲とでも称するべき大きさを誇る、長大な砲身。
レールキャノン。要するに、電磁力によって加速される砲弾によって強制的に突破しようということらしい。可能であれば、物事はシンプルな方がやりやすい。
『バートラム旧宇宙港の待機電力を回せば威力は足りる計算だが……問題は命中精度だね』
急造兵器なのだ、当然FCS等あるはずもなく。故にほとんど人力で狙いを付けて当てることになるのは想像するに難しくない。
『そういうことであれば射手は任せてくれ。狙撃には自信がある』
「ラスティ!」
『やあ戦友。一緒に戦えて嬉しく思う』
「うん!」
沈黙。いや、わかっているものもいるが、参加者の面々にはわかっていないものも多かった。
『なあ、今子供の声がしたんだが、ハンドラー・ウォルターのおっさんよお、ガキ連れ込んじゃまずいだろうがよ』
G5イグアスが言うと、ウォルターが低い声で否定する。
『紛れもなく参加者だ。彼女こそがレイヴンだ』
『は……? は!? こんな、こんな声のガキがマジでレイヴンだっていうのかよ!?』
『間違いないね。知らなかったのかい?』
カーラが肯定すれば、ラスティも同じように肯定する。
『会ってみればわかるがほんとうに小さい女の子だぞ、彼女は』
『………そんなガキに俺ァ……じょ、冗談じゃ……』
『わははははは! 子供か! G5! 子供に負けて悔しいならば歯を食いしばって鍛錬することだな!』
ミシガンが大笑いする。
はー、という重いため息が流れて来る。スネイルだ。
『雑談する為に集まったわけではありません。やはり、現場監督が必要なようですね。寄せ集め集団には統率が必要です。私も出ましょう』
『弾幕要員も一枚欲しい。うちからはチャティを出そう』
参加者が決まっていく。
あとは、最大とも言える重大な役割が決まっていない。
『あと決まっていないのは、スタンニードルランチャーを誰が当てに行くか……』
ラスティが言うと、ミシガンが相変わらずの大きな声でハキハキと言う。
『最前線で殴りに行く係なら最初から決まっている。G13! 話は聞いていたな! 愉快な遠足の始まりだ!』
『621』
「うん」
『聞いていた通りだ。お前はスタンニードルランチャーを装備し、最前線でアイスワームの頭部に命中させろ。出撃準備を整えろ。現地に向かう』
「わかった、ウォルター」
かくして、化け物退治の参加者は決まった。
全ては当日決まる。コーラル防壁を突破するには、皆一人一人が懸命に戦わねばならないであろう。
レイヴンは練習を再開することにした。モードを通常モードに切り替えると、車椅子のタイヤをロックした。そして、静かに、静かに、ゆっくりと、立ち上がった。
「……!」
『レイヴン。できましたね!』
レイヴンは、表情に乏しい顔に、うっすらと笑みを浮かべていた。