『これだけの勢力が一堂に会する作戦はそうそうない。行ってこい、621』
拠点型ヘリ内部。スタンニードルランチャーを右肩に備えた機体が、今まさに投下されようとしていた。バズーカ、パイルバンカー、グレネードランチャー。それらを安定的に運用する為に、四脚型。
彼女ほど機体構成を大きく変える傭兵はいない。初めての装備を、まるで熟練しているかのように扱う。それはまさに天が与えた才能であろう。
『時間だ、621。準備はいいか』
『作戦の要はあなたです、レイヴン。行きましょう、私もできる限りサポートをします』
「行ってくるね」
いつものように、レイヴンは赤と黒と黄色のスーツを着込んで搭乗していた。ヘルメットを自力で被り、BMI、L.I.N.K.Sを通して機体と繋がる。
機体が投下される。モード変更。氷原に漆黒の機体が降り立った。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
『ミッション開始だ。本作戦の総指揮はミシガンが執る』
『これよりベイラムとアーキバスの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始する! 始めるぞ! 命知らずども!』
既にV.Ⅱスネイル、G5イグアス、チャティ・スティック機は展開している。各機ほとんど並んでアサルトブーストを点火すると、氷原を暴れまわるアイスワームに距離を詰めて各々攻撃を開始する。
『硬いな。やはり効果的ではない。ビジター、俺達が気を引く。頭部を狙ってくれ』
チャティ・スティックがミサイルを叩きこむも、ことごとく弾かれている。
「うん、チャティ!」
『それからビジター。うちのボスから伝言を預かっている。滅多にない作戦、楽しんできな……だそうだ』
「うん!」
『なぁ野良犬ゥ………お前いくつなんだぁ……?』
戦闘中というのに全く精彩を欠いた動きをしているのはイグアス機である。ライフルでアイスワームを撃っているが、動きは極めて緩慢である。
「ねんれい? 覚えてない」
『ちっ……あぁ胸糞わりぃや………こんなガキが大陸で一番有名な傭兵だと? じゃあ俺はなんなんだ……』
『おしゃべりに余念がないようだな、G5! 帰ったらトレーニングメニューを倍にしてやろう!』
『寄せ集め各位、統率を欠かないように』
苛立ち隠せないスネイルからの通信。
既に欠いているがというツッコミができる者はいない。
『まずは厄介な防壁を引き剝がす。G13! アーキバスが大金を注ぎ込んだ贅沢な専用兵装をお見舞いしてやれ!』
「わかった、ミシガン」
『いい子だな! 雇われじゃなければ当の昔に採用しているが!』
アイスワームは、攻撃しているのかしていないのか、意図が読めない動きをしている。蛇行したかと思えば地中に戻り、体当たりを仕掛けたかと思えば、引っ込める。各機、遠巻きに火器をぶつけているだけで、可能な限り距離を取っている。
『こちらV.Ⅳ、ラスティ。レールキャノンの準備はできている。戦友、出番なしで終わらせてくれるなよ』
通信。ラスティだ。ある程度距離を離した地点でこちらを狙っている。距離が近すぎればアイスワームに感づかれ、遠すぎると今度は狙えない。そのギリギリの地点にいる。
アイスワームが頭部をさらけ出し、標的を探そうと蠢かした。
「そこ」
スタンニードルランチャーを発射。雷を纏った高速弾がコーラルを相殺し、プライマリシールドを貫徹、停止せしめた。
ラスティ、狙撃姿勢。チャージ開始。
『シールド消失を確認。レールキャノン発射シーケンスに入る。EMLモジュール接続、エネルギータービン開放、出力80%……』
遠方で、鈍く輝く光がある。膨大な出力を帯びた砲身が輝き、その光が氷原に差し込んできていた。
『照準補正よし、90……95……』
アイスワーム、沈下。再浮上。氷のかかった岩盤を押しのけて、顔を出す。
「がんばって、ラスティ」
刹那、
『―――――外しはしない!』
一陣の閃光。
極超音速で放たれる高速弾が、アイスワームのセカンダリシールドに過剰負荷をかけ停止させる。負荷の余りどうと倒れ込んだアイスワームに各機が一斉に火力をぶつけていく。
『あの野郎決めやがった……』
『当然です。この程度は、やってもらわねば』
果たしてこれはどちらに対する称賛だったか。あるいは両方か。
アイスワーム、再起動。シールドを再び纏い、距離を離す。こちらを明白に敵と判断したか、子機を展開し、弾幕を形成する。
『ビジター、目標が子機を展開した。対処する』
各機、一斉に子機へ対応していく。単体では大したことのない子機でも、群れると別だ。現に動きの鈍かったイグアス機が被弾した。
『ちいっ……こんなことで、俺が……離脱する……クソが!!』
何せ、ここはアイスワームが暴れまわっている地点だ。機体を捨てて逃げたところで踏みつぶされるのがオチ。機体が動くうちに離脱しなければ命が危ない。
『ベイラムも大したことがないですね、プランB、いわゆる計算通りです』
スネイルの嫌味を尻目に、レイヴンは持ってきた武器の内、スタンニードルランチャーにのみ神経を張っていた。とにかくシールドを剥がさない限りは火器が通用しないからだ。
『V.Ⅳ、次弾装填準備!』
『今終わったところだ、ミシガン総長』
言われる前にやっている。ラスティは手際のいい男だった。
『抜かりはないようだな! ナンバーに空きがあれば勧誘しているところだ!』
『ベイラムの“歩く地獄”にそう言われるとはな。光栄だが、遠慮しておこう』
「ここ?」
二発目。文字通り、現在のところ百発百中。頭部を出すタイミングを見切った上で砲撃を実施。バスンという轟音を発して放たれたニードル弾が、プライマリシールドをダウンさせた。
『プライマリシールドの消失を確認しました!』
エアが言う。
直後、ドリルを唸らせ突進してくるアイスワームを、跳躍で躱す。四本足を広げると、そのまま空中浮遊を開始。敵の動きに合わせ、空中でふわふわと移動しつつ、時折ブーストを吹かして踊る。
『シールド消失確認。レールキャノン発射準備……エネルギータービン出力80%……出力95、100………』
動きが見えた。
ネームレスが着地して、アイスワームの出現を待つ。
「ラスティ、いまだよ」
『―――巻き込まれるなよ!』
発砲。着弾。プラズマ化した大気が空中に電流を迸らせている。
セカンダリシールドダウン。レイヴン、接近すると、そのドリルがむき出しになった頭部目掛け、バズーカ、グレネードをぶち込んでやり、トドメと言わんばかりにパイルバンカーをぶつける。重苦しい音と共に、ドリルのいくつかが弾け飛んだ。
チャティとスネイル機も、同じように火力をぶつける。ミサイルを撃ち込み、レーザーガンの射撃を流し込む。
爆発。急に嫌な予感が脳裏に走る。
『レイヴン!』
「うん!」
エアの警告に従い、アサルトブーストを起動。アイスワームの各所からコーラル物質が漏れ始めたかと思えば、周囲に電流を放つ。
さらに頭を空高く掲げた刹那、全方位に高濃度のコーラルを放った。
『ぐっ……機体が持たないか。撤退する』
被弾したのか、スネイル機が離脱していく。残る友軍はチャティだ。
『待て、様子がおかしい。621、離れろ!』
ウォルターの警告に従い、遠巻きから様子を観察する。ジェネレータが暴走でもおこしているのか、七転八倒、暴れまわっている。余りの激しさに照準どころの騒ぎではない。
『コーラルが……暴走している?』
『これは……悠長にやっている余裕はなさそうだな』
ラスティの声。
アイスワームの動きはますます激しくなっており、地中と地上を激しく行き来している。かろうじて、高度を取り維持することが得意な四脚型だからいいものの、タンク型のチャティには辛すぎた。体当たりを食らい、武装の大半を喪失してしまった。
『ここまでだ。ビジター。済まないが撤退する』
チャティ機、離脱。片腕がもげてしまっていた。
アサルトブーストを使い、アイスワームの突進を回避。側面を通り抜けながらバズーカを撃ちこむが、やはり弾かれる。
『レールキャノンの出力を限界まで引き上げよう。被害が拡大する前に決着を付ける。次が最後の一発だと思ってくれ!』
「わかった、ラスティ。私に、合わせて」
『了解した! タイミングは戦友、君に任せる!』
「ここ! ……!?」
頭をこちらに向けるタイミングを見計らい、直撃させる。しかし、シールドは健在であった。
突進してくるそれを、ブーストを吹かして上昇して躱す。四脚展開。空中浮遊しつつ様子を見る。
『……まだです、プライマリシールドも耐久が上がっている!』
「ラスティ! チャージして!」
『しかし、まだ剥がれて……いやわかった。信じるぞ、戦友! EML全点接続。エネルギータービン全開、出力80、90……』
ブースト点火。敵のミサイルハッチから放たれるコーラル色のミサイルを緊急回避する。
手数の面でも明らかに強化されており、手負いの獣程危ないものはないという警句を体現しているかのようだ。
アイスワームが水平に滑走しつつ迫った、次の瞬間、電撃を纏ったニードル弾が直撃していた。
『緊急弁全閉鎖! リミッター解除!』
アイスワームが再び上昇。全身からミサイルの雨あられを放つ。
アサルトブーストを使い、旋回半径の内側に入り込んでいく。迎撃できる武装がない。躱す以外の選択肢は存在しない。数発被弾。装甲が溶解し、操縦席が揺さぶられる。
『100………110………115……レールキャノン最大出力!』
通信が乱れる。
遠方に輝く光が、頂点に達した。
『――――……これで決める』
砲撃。閃光が砲身と着弾地点を一点に結んだ。
遅れて、炸裂音。大気を攪拌し、閃光がアイスワームを起点に分岐し、消えていく。
コーラル色の粒子をまき散らしながら、アイスワームが不気味に空中でのたうった。
どうと倒れ込んだアイスワームに対し、既にやることは決まっている。
「倒れて」
パイルバンカー、最大出力。
振りかぶった腕を叩きつけ、そして作動。轟音を上げて、ドリルがへし折れた。爆発。
『やったか……!?』
ラスティは、もはやできることがなかった。ただ、遠方からその様子を見ることしかできない。レールキャノンの砲身は焼け付き、使い物にならないからだ。
『爆発するぞ! 離れろ!』
ミシガンの警告に従うまでもなく、既に距離を取っていた。
アイスワームは何度も何度も内側からコーラル色の爆発を起こしながら痙攣すると、最期の断末魔として、最大級のコーラル物質の爆発を起こし、そして力を失い、氷原に倒れ込んだ。
静寂。
遠くでそれを見ていたG5が思わず呟いた。
『マジかよ……あのガキ、やりやがったか……』
ウォルターからの通信。
『爆発の余波は汚染を伴う。作戦領域から……』
燃える、残骸。コーラル物質が大気に散逸していく。それは高エネルギーを伴い、うねり、しかし、徐々に消滅していくのであった。
エアの静かな声が伝わってくる。
『コーラルが、また失われていく……』
『レイヴン。あなたに伝えておきたいことがあります』
『コーラルは……彼らは私の同胞なのです』
「………」
『コーラルの織り成す潮流』
『私は、そこに生じたひとつの波形……』
『実体を持たぬ、ルビコニアン』
『これまで長い間、誰にも知覚されることはなかった……』
「……」
「でも……」
レイヴンが口を開く
「エアは、エアだよ?」
レイヴンは、自然にそう言った。
姿かたちなど、彼女にとっては関係がないのだと。
『………ありがとう、レイヴン』
エアは少しだけ沈黙すると、ややあって嬉しそうに呟いた。
『621、戻って休め。これから忙しくなる。よくやった』
迎えのヘリがやってきた。
レイヴンは、自らの機体を扱い、ヘリを見上げたのであった。
チャプター3クリア
Next チャプター4
『Silent line』プレイしますか?