交錯。180度ターン、ワンテンポ遅れる、ネームレス。
『レイヴン! レイヴン!』
「!」
言われて、茫然自失に入りながらも“敵”に対して銃を向けている自分に気づく。
敵か? いや、あれは……。
「できない!」
『踊らされるつもりはないが、いずれ避けては通れない道だ。行くぞ、戦友!』
プラズマミサイル、起動。ロックオン。発射。三連続で発射されるそれを、今回の探査ではショットガンを持ってきていた中量二脚型のネームレスが叩き落す。
あなたは、何の為に戦っているのですか?
コーラルのため?
金のため?
戦いのため?
企業のため?
解放戦線のため?
ラスティのため?
私は、何の為に戦っているのか………。
口火は切られた。賽は投げられた。幕が開けた。
ラスティは、レイヴンと戦うことを決めた。
ではレイヴンは? 流されるまま、ここまで来たのではないか?
スティールヘイズ、レイヴンの戦闘機動を真似た、相手にぴったりと張り付きつつ、随所にブラフを入れた動きをする。小刻みにブースタを使い、その凄まじいGに対ししかし強靭な精神と鍛え抜かれた体は耐えた。
一方のレイヴンは明らかに精彩を欠いていた。“敵”に銃を向けることを躊躇している。
ラスティはそんな相手にも容赦はしない。ハンドガンを速射。発射よりも前に既に回避に入っている相手は流石だが、反撃してこなければ無意味だ。リロードタイム。一息に接近すれば、レーザースライサーを最小の出力で一瞬起動だけしてみせた。
「!?」
『反応が良すぎるのも、悪い癖だ戦友!』
ネームレスが距離を取らんとしたところで、スティールヘイズのハンドガンのリロードが完了。ダンダンダン。小刻みに銃身をぶれさせながら矢継ぎ早に弾を撃ち込めば、しかしネームレスが右腕で庇ったため致命傷にはならなかった。
だが硬直さえさせれば、あとは好きに料理できる。
アサルトブースト。レーザースライサーの青い刃が迸るや、回転しながら振りぬかれる。
「ああっ!?」
レイヴンが悲鳴を上げた。
機体が損傷し、各所が溶ける。幸い重大な機能不全はないが、損傷は確かだ。センサーがいくつか。スラスタが数本無くなった。だが、まだ機動に支障はない。
「私は………」
瞬間、どこかで見た風景が眼前に広がった。
兵士がいる。子供の。その兵士は、両親の為に戦った。
『おまえは稼がねばならない。わかるね?』
両親は体が弱く、特に父親は既に死にかけていた。
子供は、父親を助けたかった。
金、とにかく金だ。しかし、稼ごうにも小さい少女が兵士になったところで成果など出せるはずがなく。
全てを失った彼女はついには実験材料にまで落ちぶれた。
『これが今度の実験体かね?』
『元兵士だったとか』
『なるほど、例のルートからか』
『負債は相当の額だったそうですよ』
『夢破れたりか…………ふっ、だがこの実験で生まれ変わるさ』
『生きていれば、ですが』
『ま、そういうことだな。では始めよう』
処置の甘さ故か、“実験”が失敗したのか、当初予定されていたスペックを発揮できなかったそれは、凍結されることになった。状態は酷いものであった。記憶を失い、肢体を含め指すら動かせず、物を食うことも、見ることも、嗅ぐこともできない。ただ命令を聞くだけの脳と神経そして耳だけが、最低限機能した。
しかも、脳内に埋め込まれたコーラルデバイスは、欠陥品であった。故にスペックが低かった。そのはずだった。
それは中途半端なまま眠りにつくことになった。いつの日か、再び目覚めることを信じて。
そうして、すべてが始まった。
ウォルターの言葉がした。
『お互いが抹殺対象と言うわけか……621、まずは生き残れ。それがお前の、今すべき仕事だ』
「………生きる……」
『変わらないな、君は。死ぬことも、殺すことも恐れていないようだ』
「怖いよ。ラスティ、私はとても怖い………」
『そうか、それもよし。ここで斃れてくれ、戦友』
「私は、いい子なんかじゃない。変わったの。いい子じゃなくて、とてもわがままな子だから……いい子なんかじゃないから……全て、欲しい」
ネームレス、カメラアイを発光させ、戦闘機動を開始。円を描くように動くスティールヘイズのさらに内側、強烈なGに耐えながら動く。ショットガンを照準。ものの一発でその片腕を吹き飛ばす。
『やるな、敵に回すと実感するよ! その強さと、危うさを!』
レイヴンは光のない目を見開いた。
スティールヘイズ、片腕を喪失したためか、戦法を近接格闘に変更。プラズマミサイルを発射。後を追いかけるように、追撃をかけた。
照準をしようとしたが、腕の損傷の為か間に合わない。右腕に握っていたショットガンを振り回し、プラズマミサイルに当てる。右腕が溶解し、けれどスライサーを起動。
『おおおおっ!』
「ああああっ!」
全く同じ武器が、お互いを切り刻んだ。
勝敗は、ほんの一瞬動きが早かった側、すなわちレイヴンにあった。もともと軽量級の機体であるスティールヘイズは耐えきれず、各所が寸断、さらに繰り出される蹴りによって後方に大きく押し出された。
機体各所から火花を上げつつ膝を付いたスティールヘイズは、しかし、鋭くカメラアイを光らせる。
『流石だな……だが、終わるわけにはいかない』
スティールヘイズ、コア背面部開放。パルス共振板露出。
『戦友……理由なき強さ程、危ういものはないぞ!!』
アサルトアーマー、最大出力で起動。
瞬間、反射的に回避に入ったレイヴンは、ラスティを見失った。
『スティールヘイズ、機体反応消失……撤退したようです』
「エア」
『なんでしょう、レイヴン』
「私は、ラスティが欲しい。エアも欲しい。ウォルターも欲しい。みんな、欲しい」
それは、何が欲しいかについて、口にしてこなかった“いい子”の、最初のわがままだった。
子供は欲しがりだ。例え手に入らないとわかっていても、欲しがるものだ。
それが人であろうとも。
レイヴンは荒くなった呼吸を整えると、小さく言った。
「手伝ってくれる?」
『………わがまま、ですね。レイヴンは』
エアは知っている。レイヴンは、聞き分けのいい、いい子であると。
そんな子の発した初めてのわがまま。かなえてあげるのが、“友人”としての務めではないか。
『……はい、レイヴン。先に、進みましょう』
レイヴンは無言で機体を先に進めた。少し降下していくと、視界が大きく開けた崖に出た。
広大な地下空間が広がっている。霧のかかったそこは、かつて建造され、そして放棄された大都市であった。中央には、途方もなく大きな円柱状の物体が鎮座している。空は、見えない。作り物の空は、ぼんやりと光を帯びていた。
『これは……!? アイビスの火以前の……』
驚愕するエアの言葉に続くようにウォルターが口を開く。
『“ルビコン技研都市”………やはりか。探しても見つからなかったわけだ』
ウォルターは、何かを隠している。もはや確定だ。聞いても答えてはくれないだろうことくらい、レイヴンにもわかった。
コーラルを探し報酬を手に入れるだけであれば、もう目的は達成されたも同然だ。つまりウォルターにとってコーラルは目的ではない。コーラルを、何か違う目的のために、“何か”しようとしているのだ。
『企業が動き出す前に手を打つ必要がある。戻って、休め』
「…………うん」
レイヴンは、その墓標が如く乱立するビル群を前に、機体を反転させた。
フラグ:
ラスティがレイヴンと“遊ぶ”ことで強化されていること
エアの情緒が人を学んで成長していること