警告。すかさず回避するとさしずめコーラルビームとでもいうべき高熱線が機体側面を掠めた。
『これまで遭遇したC兵器とは違う………動力がコーラルというだけではありません! 恐らく制御導体も……!』
「それは、どういう、こと、なの」
ビームを回避する為にひっきりなしに機体を振っているせいで、そのGで思考が乱れる。言葉を発している余力もほとんどなく、反撃としてプラズマミサイルを放った。
しかしアイビスは脅威的な運動性を発揮。中に人が乗っていれば口から内臓がはみ出るであろう速力で切り返し、あっさり躱して見せる。
アイビス、オービット展開。ビームを連続発射。
警告音。緊急回避。ブーストを点火し、偏差射撃を回避していく。
「くっ……」
余裕などない。掠めただけで装甲を大部分持っていかれるであろう熱量である。レイヴンの端正な顔が歪む。
「このっ……」
プラズマミサイルは牽制にしかならない。ならばとライフルを連射するが、当たらないわけではない、わけではないが。
「硬い……!」
恐ろしく硬い装甲だ。これも技研の産物か。弾が装甲に食いこんではいるが、決定打にならない。少しづつ削るか、プラズマミサイルを直撃させるか。
火力面では圧倒されている。接近せねばならない。
アイビス、跳躍。空中でブレードを展開した刹那、赤い閃光を斬撃として放つ、放つ!
アサルトブースト。右に躱し、すかさず切り返すと見せかけて飛ぶ。足元を斬撃が掠めた。
「当たって!」
ミサイルロック、ファイア。サルヴォー。
『よく聞け621。アイビスシリーズは通常の防衛兵器ではない。コーラルに関わる危機を未然に防ぐための……ルビコンの安全装置とも言える機体だ。そして、その制御を握る主はもういない』
「倒さないと……」
『やらなければ、お前がやられるぞ!』
わかっている、わかってはいるが、異常なまでの運動性で躱しまくる敵に対し攻撃が当たる気がしない。しかし、どんな兵器にも隙がある。
「ここ!」
敵が大ぶりの斬撃を放たんと飛び込んでくる。一発目を屈んで避け、二発目の袈裟懸けをブーストでほとんど紙一重で躱す。
「行くよッ……ネームレス!」
名のない機体。その都度組み替えられるそれは、しかし、確かに彼女の体に他ならない。
レーザースライサーを一瞬だけ点灯する。敵が反応した。回避にかかろうとする、その回避先目掛けプラズマミサイルをノーロックでリリース。炸裂に巻き込まれ、アイビスがよろめいた。
アサルトブースト。蹴りをぶち込んだ刹那、レーザースライサー、フルチャージ。そのまま連続斬りを見舞い、トドメの一撃を叩きこまんとしたが、既に離脱されている。
姿勢の立て直しも異様に早い。等と思考がそれたところで、ビームが脚部を掠めスラスタが爆発した。
「くっ、うううっ!?」
オービット展開。四方八方から襲い掛かるビームを、損傷した脚部を庇いながら回避する。本人は必死であるが、その様子は舞踏のように優雅で。
レイヴンは、興奮の為か知らず鼻から血が伝っているのも気が付かずに、口から涎まで伝わせつつ戦闘機動にあろうことか適合し始めた。人外の動きだ。急激な加減速は、機体の設計限界を試していると言った趣さえある。
アサルトライフルを発射。オービットを、見ずに銃身だけ方向を変え、次々落としていく。
それは意味不明な動きであろう。カメラさえ向けずにオービットだけを落としているのだから。
『こ、この動きは……』
『いいぞ! 621!』
エアとウォルターの声に返事をしている余裕はない。
焦ったか、アイビスが接近戦に持ち込んだところで、相手より一拍速く、ライフルでその腕を叩いて逸らし、レーザースライサー、フルチャージ。
「これで!」
ラスティがそうするように、舞うように、踊るように、回転しながらアイビスを空中で切り刻んで、腰だめの蹴りをぶち込んで湖面へと叩き落した。
「…………死んで?」
そして、倒れ込んだ機体に伸し掛かると、アサルトライフルを撃ちまくる。死んでいない。そう悟っての追撃であった。生きていたのだろう、コーラル反応が増大するも、構わず撃ちまくる。
『■■■■■■■!!!!』
アイビスは絶叫を上げると、藻掻いた。
ネームレスが、アイビスを、弾が切れ銃身が過熱し使えなくなったアサルトライフルを捨て、拳で首根っこ掴んで地面に叩きつける。何度も、何度も、何度も。何度も、何度でも。その息絶えるまで、まるで猟犬が獲物の首を噛みしめるが如く。
やがてアイビスは動かなくなった。
『 』
何か最後に機械音を発していたが、それも消えた。
静寂。
『コーラルの共振が……弱まっていく』
エアの声。
息も絶え絶えのレイヴンは、ヘルメットの奥で、かすかに笑みを浮かべていた。勝ったのだ。これで、あとは……。思考を巡らせる。
『この機体と、作った人の意思………過去から続く、全ての声たちが……』
レイヴンにも、見えていた。コーラルデバイスを脳に埋め込んでいるせいだろうか。あるいは……。
あらゆる声が見える。それは怨嗟であり、懇願であり、希望であり、絶望でもある。
『!?』
次の瞬間、機体のすぐ横に砲弾が突き刺さったかと思えば、膨大な、特殊な力場を発生させた。黄金色の閃光が走り抜けたかと思えば、機体の制御を司る機器がダウン。
「あ、あ―――――……」
急に神経接続L.I.N.K.Sからの通信が切れたことで、レイヴンは、目から大粒の涙を流し、肢体を痙攣させるしかなかった。口から泡が噴き出し、液体と混じって伝っていく。
いやいやと頭を振り、ヘルメットを強く被り直すも、機体は反応してくれない。
その、接続を急に切られたことで生じるフィードバックに、ついには意識を手放した。
『くそっ、一手遅かっ………』
ウォルターからの通信が、不自然に途切れた。
『目標を無力化』
遠方、ビルの上。戦場を監視していたその機体は、右肩に装着されたスタンニードルランチャーの排熱を実行していた。砲身を折りたたむと、カメラアイを光らせる。
『ええ、指示通り生かしてありますよ……まったく、企業を出し抜こうなど……』
V.Ⅱ、スネイルの機体。オープンフェイスがそこに佇んでいた。
彼は通信を切ると、顔をにやりと歪めた。
『身の程を弁えない駄犬には教育が必要です……! 手駒として使ってやりましょう……それから……』
『その飼い主にも』
チャプター4終了
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