「ビジター。あんたもザイレムには行ったことがあるだろう。技研の作った洋上都市だ。さて前置きはさておいて結論から言うとアレは洋上都市なんかじゃない。コーラルの破綻を防ぐために、コーラルに一度に、急激に火を点けるための火薬庫。浮上・浮遊可能な艦なのさ。あんたにはあれを掌握してもらうと言いたいところなんだけど」
車椅子ではなく、自力で歩けるようにとカーラから貰った杖を突きつつ練習している最中であった。カーラがやってくると、少し工房にこないかと言い、工房に着くと、作業をしつつ話をし始めた。
ここはRaDのアジト。一時的にレイヴンは避難して来ていたのだ。治療の甲斐もあり、体は治った。もっとも皮膚に痕跡が残ってしまったが。
少しだけ時間を遡る。
『レイヴン!』
「えあ? それって………ACなの?」
『ええ、茶柱さん……チャティさんのハッキングで、アーキバスから機体を奪取して乗っ取ったのです。いまは、この“エフェメラ”が私の体です』
アジトにやってきて驚いたのが、エアが体を手に入れていたことだ。もっともそれは技研の産物だったので余り“笑え”なかったが。
『でも、残念です。レイヴン』
「なにが?」
『できれば、あなたのように、人間くらいの大きさのコーラル動力で稼働する義体にでも入りたかった。そうすれば、あなたと触れ合えたのですが、この体は大きすぎて自由が効きませんので』
「おおきいもんね」
というわけで、エアは寂しく格納庫でお留守番である。何せACサイズだ、人の居住区まで入り込める訳もない。もっとも離脱してレイヴンの視点で物事を見ることもできるらしいので、余り言うほど不自由はしていないようだが。
さて、話を戻そう。怪我を治したレイヴンに対し、カーラはこういったのだ。
工房で巨大なブーストを備えたナニカやばそうな代物を弄りながら。
“決戦”で使うからと。
「今はあんたに可能な限り消耗してほしくない。あんたはシルバーバレットなのさ」
「銀の弾丸?」
「放てば敵を倒す、魔法の弾丸のことさ。だから代わりを用意した」
「………!」
「気が付いたようだね。そう、アーキバスの………」
『レイヴン、そこを左です』
「うん」
とある部屋までやってくると、手探りでドアノブを探す。まずはノック。とんとんと叩いてみると、どうぞという声。
「ラスティ!」
室内に入ると、なんとなくだが体がふわふわとした感覚に包まれる。気がした。
「戦友。無事、生き延びたようだな。元気そうでなによりだっ、おっと!」
声のする方角目掛けて、杖を大切そうに握ったまま飛び込んでいくと、分厚い胸板が受け入れてくれた。すーっと匂いを嗅いでみる。まったくわからないが、きっと良い匂いがするに違いなかった。
V.Ⅳ、ラスティ。再教育センターから救出してくれた王子様その人が、自室のベッドでタブレットを見つつくつろいでいたのだ。
ラスティは胸元に寄り掛かって来る戦友その人を抱きしめつつ、タブレットをよそにやった。
「少し身辺の………ちょっとした野暮用があって、到着が遅れた。済まない。……次の洋上都市の制圧は、私と君の友人、あとカーラでやる。私は前衛を、エアとカーラでシステムの掌握をやってもらう手はずだ………」
「?」
言って、沈黙してしまったラスティに対し、レイヴンは銀色の頭をこすり付けるのを止めて、顔があるであろう位置を覗き込んだ。
ラスティは顔に影を落としていた。うつむき加減に、レイヴンの髪の毛を梳きつつ言う。
「正直に言おう。君を戦友と呼んだのは打算があったからだ。君が戦友足りえるかどうか、ルビコンを解放してくれる同志になりえるかを試そうとしたんだ。私は薄情な人間だ。計画の為であれば、例え同志であれ構わず撃てる人間だ。それがアーキバスでさえ、解放戦線だったとしても」
それは独白に近かった。
淡々と喋るラスティに、その胸元から伝わる鼓動を聞きつつ返事をする。
「………うん」
「だけど君は予想を超えた。
「……戦友」
どくん、どくん。伝わってくる音は酷く緊張していて、嘘を言っている気配は微塵もない。
『レイヴン。しばらく、交信を切ります。また少ししたら、お話しましょう』
急にエアが交信を切り始める。
ふっと顔を上げると、すぐ至近距離、前髪が触れ合うような距離に顔があって。
「あのね、ラスティ。再教育センターで言えなかったことを言うね」
「ああ」
「……
ちゅ。
顔を近寄せると、そのまま唇を付ける。そして、暫しのち、
「あうっ」
ちゅぽんと音を立てて、レイヴンの端正な顔が、ラスティの手で強制的に遠ざけられる。舌が引っこ抜かれる音の、艶めかしいこと。かすかにラスティは顔を赤らめている。
「舌を入れてくるのは……誰に習ったんだ? ……戦友」
「カーラにね、あのね、好きな男の子の喜ぶことを教えてって言ったらね、その、えっちな本教えてくれてね」
などと割と真顔でそんなことを言い始めるので、ラスティは長い長い溜息を漏らした。
「はー………シンダー・カーラ。彼女には灸をすえないとだめか……なんでも素直に吸収しすぎるのは君の悪いところだ、戦友」
妙な沈黙があった。ラスティはレイヴンのことを抱き上げると、丁度背後から抱きしめるような形を取らせる。
金色の髪、短髪。銀色の髪、長髪。丁度正反対とも言える二人が触れ合っている。
「それに応えてあげることはできない。君はまだ若い。もっといろいろな経験を積んで、それから……」
「わたしのこと、ラスティは、きらい?」
「好きだよ。けど応えてあげられないこともある。わかってくれないか? 君は若すぎる」
「じゃあ」
じゃあ、じゃあと、強請る。追及する。子供そのものだが実際に子供である。
「何年経ったら、応えてくれるの?」
明日のこともわからない傭兵家業だ。何年先を語ること程難しいことはないはずだが、当然の如く言ってのける。一種の傲慢さは強者の余裕とも言える。
「五年位かなぁ…………でもまずは、目前のことに集中しなくては」
「ラスティは大きい方が好き? 五年で大きくなるかな、おっぱい」
「ノーコメント」