鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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4、Stray Dog 野良犬

 

『これよりベイラムグループ専属AC部隊レッドガンによる作戦行動を開始する』

 

 ルビコン解放戦線が保有するダムへの襲撃。そのミッションを帯びた621は現地で合流した二名のAC乗りと共に、ダムへと突入をかけようとしていた。

 G1ミシガンが何かをいうよりも前に、既に621はアサルトブーストに点火して吶喊していた。

 

『突入しろ! 役立たずども!』

 

 ミッションをこなし、資金を得た彼女は機体のパーツを購入して何点かは切り替えていた。と言ってもジェネレータとブースターを中古の戦闘に適さないものから切り替え、武装は初期に積んでいたミサイルをもう一つ増やしただけであるが、火力は大幅に上がっている。

 マルチロックオン。戦車型のMTの群れと、人型MT目掛け弾頭を見舞いつつ、ひらりひらりと射線を掻い潜って行く。左右というよりも前進してかわす。それは敵の射線を見切っているからこそ取れる動きであった。

 接近。盾持ちをブレードで一刀両断。返す刃でダムの発電施設を叩き斬る。

 

『独立傭兵かよ』

 

 G5イグアスが言う。彼は、一目散に突撃をかけた621が作り上げた残骸をよそに、中量二脚型の機体を動かす。

 

『野良犬の世話をしろってのか、レッドガンも舐められたもんだ』

「………」

『おい、何とか言ったらどうだよ、犬』

『犬呼ばわりはやめてもらおうか。強化人間にも尊厳はある。無駄口を叩いている暇があるならば仕事をしろ』

 

 言葉を発することができない621の代わりにウォルターが割って入った。

 イグアスは兵装で、襲い掛かって来る戦闘ヘリを処理しつつひねくれた返答をした。

 

『けっ。ハンドラー・ウォルターね。犬を犬と罵って、何が悪い』

『とっとと仕事をしろ!』

 

 G1ミシガンの激でようやくイグアスと、タンク脚部のG4ヴォルタが攻撃を開始する。開けた地点に要塞のように設置された砲台たちに向かい、グレネードを叩きこみ、ライフルで殲滅していく。

 この程度、造作もない。ACならば。

 

『おいてめぇ! 雑魚処理は俺たちにやらせようってのか!』

 

 無駄を嫌ったか、621はMTと砲台の処理は最低限に、発電施設に突撃して、それをブーストチャージすなわち蹴りで叩き壊していた。

 

『野良犬! お前のような木っ端は知らんだろうがな、俺達レッドガンは“壁越え”にアサインされている。この仕事は慣らしだ。終わったら土着どもの要塞を落としにかかるのよ』

『G5! おまけとの交流に余念がないようだな! ついでに仲良く刺繍でもして、そのよく回る舌を縫い付けておけ!』

 

 ルートは二つ。左か、右か。右に重装砲台。G4が右折、左折はG5イグアス、を追い越してアサルトブーストで621が駆け抜ける。

 機体名、ネームレス。単純すぎるそれはしかし、ダムに取りつくと壁面の凹凸を蹴っ飛ばす機動を実施してかけあがっていき、見えてきた三機のMTを一瞬で撃ち倒す。

 さらに駆け抜ける。高台に設置された電源設備を射撃で射貫くと、先を目指す。

 

『残りは一つだ、621』

『やるじゃねぇか。ズブの素人って訳でもねえな』

 

 G4の称賛の声を聞いているのか、いないのか、とにかく突っ込んでいく。無言で。いくら罵っても返事が返ってこないので、イグアスも無線で罵るのをやめてしまっていた。

 

『おっさんこいつ耳が壊れてやがんのか?』

『事情がある。詳細は明かせない』

『野良犬がよ……』

 

 仕方がないのでウォルターに無線を繋いで話すも、答えを拒否されてはもはやだまるしかない。

 二機が手こずるもとい通常通りに進軍していくのに対し、621は目標のみを最低限の攻撃で破壊していく。排除するべき対象以外にはあろうことか背中を向け、そして被弾しない。

 踊るように、踊るように飛び、蜂のように刺す。

 アサルトライフル、リロード。マガジンが落下した。

 

『準備運動は終わりだ! 続けるぞ役立たずども!』

 

 ダム最上部に到達。低気温のため、ダムはその機能を停止してしまっているが、要塞としての役割は十分果たすことができていた。すなわち、目標を遮ることだ。

 

『聞こえるか! 強欲な略奪者ども!』

 

 不明ACが立ちふさがった。上方建造物からグレネードが降り注ぎ、凍結した水面を叩き壊していく。

 

『我々ルビコニアンが屈することはない! 鉄の棺桶で……くそっ! 見失った!?』

 

『素人め』

 

 ウォルターが毒づいたのも無理はない。既に垂直カタパルトを使い防衛線を突破。ついでの駄賃に戦闘ヘリ数機を撃ち抜きつつ、ダム上部構造物へと接近し、ミサイルの一斉射撃を見舞ったかと思えば、既に離脱している。

 

『我々の……ガリアの……ダムが! 略奪者どもめ……!』

 

 すべての発電装置を破壊されたダムは、実質的にはただの構造物に過ぎなくなった。あとは敵を掃討するだけであったが、遅れてやってきた二機によって、ほとんど戦線は崩壊しきっている。

 

『全目標の撃破を確認。ミッションは終了だ。621、敵は残りわずかだ。始末しろ』

 

 ウォルターの言葉に従い、不明ACに肉薄する。不明ACはイグアスとヴォルタに囲まれて、既に風前の灯火であった。

 

『誇りはないのか! 戦士としての………!?』

 

 機体が高級なわけでもなく、卓越した腕前があるわけでもない。そして数的不利であることも合わさって、あっという間にコアが穴だらけになっていく。

 そしてその背後から621の赤いカメラライトが一陣の線を描きつつ接近したかと思えば、プラズマブレードを叩きつけ、溶断してしまった。

 

『全敵の撃破を確認。帰還しろ、621』

『役立たずも役立たずなりに役立つことが証明された! 遠足はここまでだ! G13。レイヴンとか言ったな、G13。貴様のナンバーは空けてやろう!』

 

 

 

 

「よくやったな、621」

 

 また、同じように、ウォルターはコックピットから621の体を引っ張り上げると、抱え込んだ。

 

「……のらいぬ……?」

「犬を……そうか、知らないか。ようやく、口が利けるようになったか、621」

 

 621が初めて言葉を発した。囁き声以下の小さな言葉であったが、ウォルターの耳は確かに音を拾っていた。

 

「犬というのは……いや、今は少し休め、621」

「………」

 

 ウォルターの方を見てはいるが、明らかにピントがあっておらず、顎のあたりを凝視している風になっている。目はいまだに見えていないらしかった。

 医療室に入ると、早速調整に入る。調整槽へと漬けるための処置を施すと、また入れる。

 培養液の中に付け込まれた621は、またいつかと同じように、目を閉じて眠りにつこうとした。

 だが開いた。

 音声が鳴り響く。神経接続を使った電子音声である。

 

『のらいぬ しらない おしえて』

 

「わかった、621。野良犬というのはだな、いや、まずは犬という生き物について………」

 

 二人の話は暫く続き、621が眠りにつくまで続いた。




『タブレット端末に表示された絵本』

子供向けに生物の生態についてつづった絵本が、タブレット端末に表示されている。
既に野生の犬は絶滅したとされる。
人類が宇宙に版図を拡大したのち、宇宙環境にも犬は持ち込まれた。

ウォルターが記したのだろうか、絵本の画像データには、落書きのような文字が走っている箇所がある。
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