鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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43、Walter ウォルター

 

『チャティ、見てな笑える展開を見せてやるからさ!』

 

 VOBが発揮する速力は優に音速を超えている。その速度のまま左右前後上下に機動するのだ、襲い掛かるGは凄まじいものがあったが、シンダー・カーラの肉体は耐えた。

 二つの放たれた鏃は、艦隊を翻弄していた。

 

『笑えませんってボスうううう!!』

『いいから手を動かしな! 五つ目ェ!』

 

 軽量タンク型AC、サーカス。ミサイルを一斉発射。戦闘艦に浴びせかけ、一撃離脱。爆散する艦をよそに次の目標に狙いを定め、ミサイルロックオン。襲い掛かって来る迎撃用艦対空ミサイルを、ブースト噴射で回避。代わりにミサイルのシャワーを浴びせかける。

 

『くっそこんなの動かすだけで精一杯だってのによぉ! クソォ! 志願しなきゃよかった!』

 

 などと大声で叫びつつも、ラミーはあろうことかきちんと重量二脚型ACフルコースを制御していた。レイヴンとの特訓も無駄ではなかったというわけだ。

 ミサイルロック。発射。一隻撃沈。破片を回避しつつ、音速で駆け抜ける。

 ラミーはきょとんとした顔で振り返る。爆散する敵艦が見えたではないか。誰がやったのか。自分だ。雑魚だコーラル中毒者だなんだと言われてきた己が、やったのだ。敵艦を撃沈してみせたのだ。

 

『あ、あれ? 俺もしかしてやった………?』

『やるじゃないか! その調子だよ、ラミー!』

 

 褒められ、ぽかんとする、ラミー。口元を緩めると、続いて二隻目を撃沈する。

 

『や、やっぱぁ……俺ってば無敵のラ………』

 

 赤いコーラルの光が差し込んだ。刹那、爆発。ラミーの意識はほとんど一瞬で消滅した。

 カーラが続いて六隻目を撃沈。離脱し、振り返る。ラミー機が今まさに砲撃を食らい、肢体をばら撒くさまが見えた。

 さらにもう一機、エスコートする機体がある。それが何かを確認する余力など、ない。

 

『!? あの機体は技研の……HAL826……完成していたってのかい!? くそ、くそ、ラミー! 応答を!』

 

 返事はない。ラミーが乗っているはずの機体は空中で炸裂し、スクラップとなり遥か眼下に消えていく。

 それを為した攻撃者は、赤いコーラルのパルスアーマーを纏ったまま、高速でカーラを無視して進んでいく。

 殺到するミサイルの群れ。企業の、アーキバス本隊が到着した。膨大な数の艦艇が次々と降下してくると、必死で逃げ惑うカーラ機にミサイルを放ち、弾幕を形成する。熟達したAC乗りでもあるカーラをしても、艦隊の防空圏に入らぬように距離を取りつつ、ミサイルで削ることしかできない。

 艦隊が向かう先には、現在戦闘中のザイレムがいる。遠距離から攻撃を食らい続ければ、ザイレムは持たない。ザイレムがなければ、臨界点を迎えるか、あるいは、惑星外へと持ち出されようとしているコーラルを焼くことは難しくなってしまう。ステーションに到達しなければならないからだ。

 レイヴンがいる。確かにレイヴンは強いが、無尽蔵とも言える物量を誇る企業艦隊相手にザイレムを守り切るのは難しいだろうことは想像するに難しくはない。レイヴンは生き残るだろうが、レイヴンが生き残ることと、コーラルの破綻の回避はイコールではない。

 万事休す。

 カーラは、

 

 

 

『聞こえるか? こちら惑星封鎖機構』

 

 

 

 遠距離から殺到するミサイルの群れ。それは企業艦隊に突き刺さり、次々と撃墜していく。困惑する企業艦隊に対し、強襲艦の戦列が今まさに雲を引き裂き現れた。

 入って来た無線は聞き覚えのない声であった。

 惑星封鎖機構の残存艦隊が、戦闘領域へと突入して来ていた。圧倒的に劣勢なのはわかっている。というのにも関わらずだ。

 

 

 

『貴軍の目的は理解している。これより、惑星封鎖機構は企業艦隊に対し戦闘行動を開始。これを撃滅する! 総員戦闘配置!』

 

 

 

 遥か彼方、遠距離。上空から降り注ぐ強力なプラズマレーザー砲が大気を引き裂き、企業艦隊の空母に突き刺さる。貫通。炎上。空母艦載機が穴から零れ落ち、操舵能力を失った空母は雲海に落ちていく。

 封鎖衛星が、企業艦隊に対し砲撃をしかけているらしい。砲撃は一定間隔で続き、次々と艦を仕留める。

 

『遅かったじゃないか……文句は山ほどあるけど、今は……! ビジター、あいつが向かった! ウォルターだ! 間違いない!』

 

 カーラは言うと、連携の乱れた敵陣の真っただ中に機体を突っ込ませていくのであった。

 

 

 

 

『レイヴン、来ます!』

「!」

 

 遠方が光った。緊急回避。プラズマ化したコーラルがザイレム甲板を焼き、回避が遅れたRaDのMTを消し飛ばす。

 ヴェイパーを曳きつつやってきたそれは、異形のACであった。角ばった頭部。虫のような、複数のカメラアイ。レーザー照射装置。コーラルブレード。高機動ミサイル。パルスシールド装置。ACと言えばACであるが、到底そうは見えぬ。それが着地すると、ゆっくりと姿勢を起こした。

 青い空。むしろ青というより、群青に近く、黒いそれは、果てしなく続く宇宙と、大気の境界線上に船がいることを示している。

 ルビコンを照らす地球で言う太陽は、地平線に隠れて見えない。

 その異形の機体はバスキュラープラントを守るが如く、立ちふさがった。

 

『621………お前なのか……? 621……俺は、お前を………消さなければならない』

 

 

 聞き覚えのある声がした。

 

 

「………ウォルター!」

 

 

 

 

 

『よう、ガキ。いい気分だ。清々しい。音も消えた。あの壁越えでお前に先越されてから、俺のツキってやつは落ちたみたいでな。お前を殺せばきっと、俺はもっといい気分になれるだろうよ!!』

 

 

 ウォルター機をエスコートしながら現れた、もう一機。

 G5イグアス。アーキバスのエンブレムを付けた機体に乗って、ザイレムにただいま降り立った。

 

 

 ………夜明け前が、一番暗い。

 レイヴンは、その一説を、エアと共に読んだ本から、思い出した。

 

 太陽は、いまだ見えなかった。

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