鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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“ある日理解した”
“表舞台に立とうとして、道半ばで小さい花を見つけたんだ”

“道半ばでね”


―――『Day After Day』意訳


44、The Man Who Passed The Torch 聖火を渡した男

 

 

 

「ウォルター!」

『621……!』

 

 交差する、黒い閃光と、赤い輝き。

 それは瞬間的に接近しては遠ざかり、時にジグザグに動き、複雑に乱交していた。

 コーラルレーザーが放たれるも、それを姿勢制御を完全にマニュアルにしたレイヴンはバレルロールで回避しつつ、逆にアサルトライフルを撃ち込んでいく。

 火力の差は圧倒的であるが、コーラル兵器は大抵がそうであるように、チャージを要する。チャージ無しに発砲できるレイヴンの方が手数は多い。

 ネームレス、高追尾性を誇るコーラルミサイルをアサルトライフルの単射で迎撃。タクティカルリロード。ブレードというよりかは、ビームを放っているとでも称するべきコーラルブレードの執拗な振り回しを空中でくるりと回転し、紙一重で回避。

 垂直ミサイル、サルヴォー。全てパルスアーマーに防がれるが、アーマーが消失した。

 

『企業の命令を……いや……友人たちの使命を……障害を……排除する』

「ウォルター! もういいの! ほかに、方法を見つけたから!」

 

 戦いながら、説得する。621、レイヴン。彼女の攻撃はいずれも手足や武装を狙い、コアなどのバイタルパートを狙っていない。手加減する彼女と、手加減をしないウォルター。不利なのは、彼女であった。

 

「コーラルを燃やし続ける方法があるの、だから! そうすれば、そうすれば、コーラルの、ルビコニアンと一緒に生きていけるから!」

 

 喋るのは好きだが、得意ではなかった。声を張り上げて、必死に説得しようとする。

 

『レイヴン! もう一人を倒したら、すぐ向かいます!』

「うん! 急いで!」

 

『声が見える………お前と………話しているのは………そうか……火種だ……』

 

 ウォルター、自機を命じてブーストを小刻みに噴射。短発のコーラルレーザーを先読み偏差射撃。

 それを、ひらりひらり、風に乗る鴉のように躱す、レイヴン。

 

『火種から排除しなくては……』

 

 おかしい。ウォルターはこんな人間ではなかった。まるで別人だ。

 レイヴンは交信でエアに声を飛ばす。

 

『エア! ウォルターの様子がおかしいの!』

『洗脳………されている可能性が高いと思います。声をかけ続けてください! このぉ! 邪魔、しないでください!』

 

 エアもまた、戦っている。イグアスの機体とドッグファイトを繰り広げていて。

 

『なんだ、何が違う!?』

 

 G5イグアスは、眼前のエアという女に翻弄されていた。機体は、アーキバスの新型だ。強化手術も最新世代のものを受けた。というのにもかかわらず、目の前の女はそれの上を行く。ミサイルはことごとく躱され、ライフルは当たらず、ブレードで斬りかかれば紙一重で避けられる。

 

『レイヴンの元には行かせない!』

『邪魔だ、どけぇ!!』

 

 発砲。レーザーライフルを撃つが、当たらない。逆に光波が襲い掛かってくると、ライフルごと腕を持っていく。

 

『ハンドラーのおっさん! 指示をくれよぉ!!』

 

 ハンドラー。それは、擦り込まれた意識であった。既に己の考えで動いてなどいなかった。あくまで、ウォルターの護衛で出撃させられた捨て駒になっているなど、考えてすらいない。

 未踏領域でレイヴンに敗北を喫した彼は、アーキバスに拾われ改造を受けた。レイヴンを殺害するためならばと処置を受けた。それが洗脳であるなどとは考えもせず。

 

 かつて彼は、レイヴンを野良犬と罵った。猟犬だと蔑んだ。

 ところがどうだろう。今や猟犬になり果てたのは彼の方だ。

 レイヴンはもはや猟犬ではなかった。自由に大空を舞い飛ぶ一羽の鴉だ。

 

 また、片腕が持っていかれる。両腕をもがれてもなお、彼は諦めない。諦めることをインプットされていないから。プラズマミサイルをばら撒き、突撃する。

 エアの機体が動いた。ブレードを振りかぶり、フルチャージ。無謀な突撃をかけるイグアス機目掛け、エメラルドグリーン色の大威力光波を放った。

 

『私たちは、先に行きます! だから……邪魔しないでください!』

 

 ぴしゃりとした物言い。

 

 

『あぁ、俺ァ…………』

 

 

 

 あの鴉に憧れていたのかもしれない。

 

 

 

 彼は最期に正気を取り戻すと、激しい後悔の中、犬のように死んだ。

 

 

 

 

 

 

 コーラルミサイル、発射。

 レイヴンは機体に緊急回避を命じた。分裂しながら迫るそれを、旋回半径のさらに内側に入り込む異常な急減速でいなす。

 

『621………一度生まれたものは……そう簡単には死なない………火種から消さなければ……!』

「目を、覚まして……!」

 

 黒と赤が交差。振りかぶられるコーラル色のブレードをのけぞって回避すれば、レーザースライサーを起動する、ネームレス。そのまま袈裟懸けに斬りかかろうとして、手を止めてしまう。

 

「………できない!」

 

 斬れない。斬ることなど、できない。

 

 

『コーラルを焼けば、俺たちの仕事は終わる………お前が稼いだ金だ………再手術して、普通の、普通の女の子として……生きて、くれ………』

 

 光を灯さぬ役立たずの目から、涙が落ちる。それは機体の急加速に伴い、操縦席壁面へと飛ばされる。

 最初からウォルターはそうするつもりだったのだろう。

 621という人間を、まっとうな人生を歩めるようにと考えていたのだろう。

 誰かに、重ね合わせていたのかもしれない。かつて得て、失った。

 

 今は亡き、己の娘に。

 

 

 

 

『………お前の…………姿を……見られないのは…………残念だ…………』

 

 

 

 

「お父さんっ!!」

 

 

 

 無意識的に、そう声を上げた。

 もう耐えられない。このまま、死んでしまうべきだろうか。

 

 振りかぶられる、コーラルブレード。直撃すれば死は免れぬそれを、レイヴンは躱せない。

 

 

 

 

 

『レイヴン、危ない!』

 

 

 横合いから、アサルトブーストで駆け抜けて来たエアの機体が、ネームレスにタックルした。刹那、エアはコーラルブレードの奔流に焼かれ、ザイレム甲板へと、ビルの壁面に衝突しつつ落ちていく。

 ぎらりと、HAL826のカメラアイが光る。

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 そしてレイヴンは、突撃した。

 ラスティがそうするように、レーザースライサーを起動。同時にライフルを乱射して、逃げようと機動する“敵”の足を止める。

 刹那、フルチャージのレーザースライサーがウォルターの肉体にも等しい機体を滅多切りにしていた。蹴り。さらに、至近距離からアサルトライフルを動力部目掛け、撃ちまくる。リロード。

 

「やだぁ………やだよぉ……!」

 

 ああでも。

 それでも、それでも、やらなければならない。

 

 レイヴンは、再度レーザースライサーを起動。硬直している機体を切り刻み、蹴っ飛ばした。

 動力をやられ、全身を切り刻まれ満身創痍のHAL826は、しかしコーラル発射装置を変形させ、突き付ける。しかし、すぐに銃を下げる。機体各所からは火花が上がっていた。

 

 

 

『………そうか……621……お前にも、友人が……できた………』

 

 

 

 がくりと項垂れ、停止するウォルター機。

 加熱した銃身のライフルを投げ捨て、レイヴンは駆け寄った。倒れ掛かる機体を支えると、強引に、コアの隙間にマニュピレータを差し込む。既に大穴が開いている。コアの開放は難しくなくて。

 コア、開放。ネームレスのコアハッチが開くと、レイヴンがはい出て来た。手探りで、操縦席へと入る。ヘルメットを被ったウォルターがいた。口からは出血し、下半身はレーザースライサーの熱の為か焦げている。

 

『………レイヴン』

「エア! だ、大丈夫なの!?」

 

 エアが死んだ。そう思っていたレイヴンに一筋の光が差し込んでくる。

 エアの声は弱弱しかった。

 

『私は無事です。機体が頑丈でなければ、あれで死んでいました。医療班を手配しています。すぐ、ウォルターを……緊急搬送してください………………』

 

 通信をしなくては。

 いやそもそも。

 ウォルターは、生きているのだろうか。

 胸に耳を押し当てると、ほとんど死にかけているものの弱い脈拍が聞こえた。

 

『こちら医療班! あと一分で到着する!』

「急いで!」

 

 通信。

 レイヴンは涙をぼろぼろ零しながら、通信と、声で助けを呼んだ。

 

「早く! 死んじゃう!!」

 

 

 

 

 戦いは、いまだ終局せず。

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