鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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46、C4-621 レイヴン

 

 

 パルスガンとは名ばかりの強力なエネルギー弾を、ゆらりゆらりと最小限の動きで回避しつつ、敵の偏差射撃をいなしていく。

 ネームレスは、最終決戦を想定していたが、その装備はオーソドックスなものだ。アサルトライフル。ウォルターから貰った、ブレード。ミサイル。アサルトアーマー。以上だ。機体構成もシンプルそのもの。というよりも、他の選択肢がなかった。度重なる出撃で持ち前のパーツは摩耗しきっており、整備も間に合わない。そのため、拠点型ヘリで埃をかぶっていた―――要するに、ルビコンに降り立った時と、同じ機体構成にて、出撃していた。

 

『そんな機体で勝負する気ですか、なめられたものです』

「それはどうかな?」

 

 言えば、アサルトライフルであろうことかパルスガンを相殺していく。ことごとく相殺し、敵のパルスガンが過熱するタイミングを見計らい、ミサイルを連続発射。

 敵機、“セラフ”が変形。戦闘機を髣髴とさせる形態になると、ミサイルの追尾をかわしつつ、背面部バインダーからミサイルを垂直発射。

 アサルトブースト。ミサイルの旋回半径の内側に入り込みつつ、アサルトライフルで、超音速で機動する敵機に命中打を叩きだしていく。

 硬直する相手に、ブレードで斬りかかる。胴体ごとねじ切ると、墜落した敵機を足で踏みにじりながら着地する。

 

『ばかな……こんなことが……とでも、言うと思いましたか? この程度は想定の範囲内です』

 

 オールマインドが、ノイズのかかった声が一瞬だけ驚愕を滲ませ、すぐに悦楽さえ感じさせる声に変貌した。

 

 撃墜されたセラフ。それと同型が、二機、三機と次々降り立つ。

 ネームレスは油断なくアサルトライフルを構え、対峙する。

 通信。

 

『ビジター! オールマインド………こいつは……ビジター! 少し時間を貰うよ。エア!』

『はい!』

『………以前………これを使えば……』

『いつ、仕込んだのですか?』

『ビジターがアリーナの仮想戦闘で私と戦った時にちょっとね……こいつは要するに分散型だ。単体を潰しても意味はないが――――ビジター! 5分持たせな。ケリはこちらでつける』

 

 五分。セラフは強力な兵器だ。彼女の腕前が異常故瞬殺こそしているが、まだまだ数量がある気配さえある。センサーの情報が正しいならば、まだどこかに潜んでいる可能性が高い。

 ネームレスの一ツ目が赤く輝いた。

 オールマインドが興奮を隠せない口調で言う。

 

『やはり、人は狂っている。全てにおいて。人は人だけで生きるべきではないのです。管理するものが必要です。レイヴンによって、イレギュラーによって導かれる世界。私はそこまで愚かではありません。コーラルリリースを行い、全てを管理する。全ては計画のため……理想のため。消えなさい、イレギュラー!』

「やれるものなら、やってみて」

 

 見え透いた挑発を吐く、レイヴン。同時に機器を操作。オペレーションシステムを弄ると、リミッターを解除する。

 オールマインド、三機のセラフを同時に攻撃にかからせようとしたが、マルチロックで発射されるミサイルが先制でぶつけられていた。肉薄。人外のGのかかる、ブースト噴射間隔。レイヴンの鼻から血が伝う。

 一分。セラフの一機をブレードで両断、返す刃で二機目の腕を叩き斬る。トドメにアサルトライフルを連続射撃。崩れ落ちるセラフを尻目に、三機目に向かっていく。

 

『では、おかわりはどうです?』

 

 四機目。五機目。六機目。遠距離からミサイルを発射しつつ、形態変更。周囲を周回しつつ、様子をうかがう。

 

「くっ……」

 

 被弾を許す。装甲が弾け、内部構造をさらけ出す。

 

 三分経過。

 

 圧倒的に不利であった。機体性能は低く、というのに敵は無尽蔵に湧いてくる。倒しても倒してもキリがない。敵はこのために、自分を抹殺する為に、セラフを無数に用意していたのだろう。

 パルスガンの直撃。コアが破壊され、コックピットから外が垣間見える。セラフの無機質なカメラアイと目が合った。宇宙空間にも対応できるスーツとヘルメットを被っていて、なおかつ操縦が神経接続でなければ、もう終わっていた。

 カーラが檄を飛ばす。

 

『ビジター! 死ぬんじゃないよ! エア、進捗は!』

『あと一分下さい!』

 

 通信に答える余裕はない。

 もはや何体倒したかもわからない右腕が機能不全を起こしている。パルスガンとは到底思えぬ出力のそれを関節に食らったせいだ。

 

 三十秒。何体目になるかもわからぬ敵を切り刻み、そして緊急回避。メインブースタが過熱を起こし、今にも爆発しそうであった。

 

 十秒。

 ブレード、冷却中。ミサイルは既に喪失していた。

 ならばと、蹴りをねじ込んで距離を取れば、弾がほとんど残っていないアサルトライフルを撃ちまくって撃墜する。これで、ライフルはただの棍棒だ。

 

『これは…………………?』

 

 オールマインドの困惑した声。

 

『たかが人間如きに……………』

 

 時間だ。

 

『以前アリーナでオールマインド、あんたに入り込んだことがあったね』

 

 カーラの静かな声が響く。

 

『バックドアを仕込ませてもらっていたのさ。気が付かないなんて、あんたもなかなか人間臭いところがあるじゃないか。でもね、心がない。笑えないよ』

 

 カーラの声と共に、セラフが次々と機能停止していく。

 オールマインドの声のノイズがどんどんと酷くなっていき、乱れが激しくなる。

 

『消える……バックアップ…………それすらも……』

 

 

 

『こんなことは、あってはならないというのに……………計画が………コーラルの………い、い、い、い………』

 

 

 

 カーラの仕込んだバックドアは有効に機能した。無数の分散型サーバーから構成されるオールマインドは、カーラとエアという一人の人間とルビコニアンによってウィルスを流し込まれ、自分自身を次々と消去していく。

 徐々に機能が失われて行き、言語機能に支障を来し始めたか、ほとんどカタコトでレイヴンに語り掛ける。

 

『……もし、あなたが、れいがいというのであれば。生き延びるがいい。あなたには、その……』

 

 

 

『権利と、義務が、ある』

 

 

 

 

 

 

「ああ、生き延びてみせるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「私たちが、戦い続ける限り」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レイヴン。システムにアクセスを………』

「うん」

『アクセス完了、ステーションの起動を確認。バスキュラープラントと合体します』

『ビジター。あとはこちらでやる。少し、休んでくれ』

 

 

 

 

 

『戦友。見ろ』

 

 

 ラスティの言葉。ふと視線を上げると、ヘルメット越しに、ルビコンの朝日が見えた。

 

 

 

 

『ルビコンの夜明けだ』

 

 

 




明けない夜はない。
―――マクベス





最終チャプター終了

Next『future』




 次回、最終話。

『Day After Day』
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