アーキバス系列企業シュナイダーからの依頼。
テスターACを撃破せよという依頼に対し、621は上空から仕掛けほとんど有無を言わさずに機体の負荷限界を突破させた。容易い任務であった。
『ああ、俺も……コールサインが欲しかったな……』
炎上する機体を前に、断末魔を上げるパイロットの無線を聞く。
『終わったな。帰還しろ』
穴だらけになった機体を前に、回収に現れたハンドラー・ウォルターの所有する大型ヘリの元に急行する。
大概の依頼は、こうして完了する。
だが一筋縄ではいかない依頼もある。
ルビコン解放戦線が所有する機体というべきか、船というべきか、本来採掘用に作られたものを戦闘用に改造したものを破壊せよという任務を請け負った。
ストライダーの位置は企業からの情報で既に分かっていた。ヘリで急行し、現場近くで降ろす。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
広大な砂地。かつて街があった地点。砂漠とも称するべきそこに、不気味な、足を生やした巨体が歩き回っている。ビルと比較しても、その全高は数百mはくだらない。ストライダー。ルビコン解放戦線が所有する武装採掘艦。
『ミッション開始。ルビコン解放戦線が所有するストライダーを撃破する。まずは近づいていけ』
装備も、今回のミッションの為に切り替えた。と言ってもアサルトライフルを大豊核心工業集団の開発したバズーカ「玄戈」、『DF-BA-06 XUAN-GE』に切り替えただけであるが。
ネームレスは、早速アサルトブーストを起動すると、低空を舐めるようにして接近していく。砂煙を見たのか、レーダーか、無線が流れてくる。
『所属不明ACだと……企業の狗か! アイボール起動、焼き払え!』
『了解! コーラルよ、ルビコンと共にあれ!』
【危険 高熱源反応】
「………!」
警告と勘に従い緊急回避。スラスタ点火。推力偏向。左にドッジした瞬間青白いレーザーが大気をプラズマ化させつつ薙ぎ払われる。
『火器管制システムが恐らく何か別のものを流用しているのだろう、小回りが利かないと見えたが。事前の偵察では脚部の一本が弱い。取り付いて破壊していけ』
ネームレスが疾駆する。再び薙ぎ払われるレーザーを、岩場の影に滑り込んでいなす。
『お前の動きに追従しきれていない。懐に飛び込んだか、足を狙え』
「………」
脚部、後ろ右足にネームレスが岩場を利用して取り付いた。バズーカ、ミサイルを一斉射撃。装甲版がはじけ、内部機構がさらけ出される。まるでジャンクそのものの耐久性であったが、事実そうなのだろう。採掘艦をジャンクで補強した代物に過ぎない。
再度飛び上がると、攻撃を叩きこんでいく。小爆発を起こしたかと思えば、ぐらりと巨体が傾いた。
『ストライダーの脚部破損を確認した。倒れるぞ』
ストライダーの脚部で爆発が伝播していき、ついに折れた。姿勢を維持できずに、倒れ込む。ただし後ろ半分だけがねじ切れるという形で。アイボールと呼ばれる砲台がある前方はあろうことか無事であった。
砂煙を縫い、命令を待つ前に既に動き出している。脚部を伝ってたちまちのうちに飛び上がっていくと、こちらに機関砲を射かけてくる砲台にバズーカを叩きこんで沈黙させる。
『登っていけ。弱点は恐らくあの砲台だ。まずはサブジェネレータを破壊しろ。シールドを剥がさなければ攻撃は通らない』
「………」
跳躍、跳躍。とにかく登っていく。各所に設けられた砲台は、ネームレスを追従しきれない。もとより死角の多い設計なのだ、戦闘を考えられた船ではないだけあって、一瞬捉えても次の瞬間にはもう別の死角に入っている。
一基目。船体下部に飛行していくとバズーカをぶち込んで破壊。
二基目。船体側面。これも、難なく破壊。
『ACが護衛についていれば話は変わったかもしれんな』
とにかく死角が多く、アイボールは敵がいるであろう地点を適当に焼いているだけであった。
『このストライダーこそ、反攻の要! 失うわけにはいかん! 死守だ!』
「………」
最後のジェネレーターは、船体上部、アイボールの前という理想的な配置であったが―――発射までのラグが長すぎた。そもそもACに取りつかれることを考えていないのであろう。砲台もなければ、MTの配置も無い。アイボールの火力全てに注ぎ込んだ、異形。その表現がふさわしい。
バズーカを一発叩き込み沈黙させると、アイボール(眼球)の名前にぴったりな、一ツ目に相対する。
『焼き払え!』
右に緊急回避しつつ、一気に懐に飛び込んでいく。バズーカを発射。ミサイル起動、一斉発射。
【危険 高熱源反応】
コンピュータの警告は一切無視。とにかく距離を詰めれば、それで照準は難しくなる。アイボールが必死に捉えんとするが、小回りが利かず、不規則に空中を舞い飛ぶ鴉を捉えるのは至難の業であった。
着弾。装甲が破壊され、電子機器がむき出しになる。再度エネルギーが充填されるのを見るや、全く今度はかわそうとすらせずに甲板に着地し、まっすぐ正面からバズーカを撃ち込んだ。
爆発。アイボールを支持していた部分がへし折れると、青白い火炎と爆発が次々と伝播していく。
『馬鹿な……なんだというのだこのACは……』
想定外のことが多すぎたのか、艦長らしき男が唖然として呟いた。
想定していた状況とは全く異なった。アイボールの火力と、その巨体。いかなる戦力がやってきても対応できるはずだったのだ。
だがそれは夢物語に終わろうとしていた。
火があっという間に各所に回っていき、破綻が指数関数的に加速していく。
『やはりな。行き場を失ったエネルギーが暴走している。距離を取れ、621』
「………」
ネームレスが空中を飛翔して離脱。高くなっている岩場に着陸すると、くるりと振り返った。
暴走するエネルギーに身を焼かれながら、断末魔の悲鳴を上げて倒壊もとい自壊していく巨人の姿を見つつ、回収用のヘリを待つ。
「………」
ひたすらに、無言で。
単機によるジャイアントキリング。
解放戦線の主力兵器の撃破によって、傭兵は自らの有用性を世界に知らしめた。
傭兵の元へは、さらに危険な任務が舞い込むようになる。