『ミッション開始だ。解放戦線の拠点、通称壁を攻略する』
ヘリから投下、機体を戦闘モードに移行する。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
621は今回のミッションを見越し、装備をまた切り替えていた。閉所での戦闘を考慮し、スキャン性能を引き上げた頭部パーツ、ベイラム開発の『HD-012 MELANDER C3』、腕部はガトリングガン『DF-GA-08 HU-BEN』、あとは両肩に垂直発射ミサイル『BML-G1/P03VTC-08』を二門と、重武装になった。ブレードは初期使っているものをそのまま搭載している。
長期戦、対多数戦闘を想定した装備。軽快さはないものの、火力で押しつぶせる。
『まずは友軍アーキバス部隊の露払いを行う。目標となるのは偵察の結果判明しているガトリング砲台二門と、重MT一機だ。他のMTや兵器に関しても報酬が出る。狙っていくのも悪くはない』
「………」
621は、無駄を嫌う性質があることはウォルターも承知している。目標に襲い掛かり一気に火力を叩きつけ一撃離脱する様は鴉というよりも猛禽類を髣髴とさせた。
ヘリを落とす。ガトリングの回転数を維持したまま、指切りで発射を制御しつつ次々と撃墜していくと、一気に森林地帯を突破。壁と称されるかつての遺構を望める丘に出た。
既に戦闘が始まっている。アーキバス部隊のMTが展開してはいるものの、壁の上方から撃ち落とされる圧倒的な威力のグレネードランチャーがそれを許さない。
【照準レーザー検知】
照準波を検出。狙われている。その場でターン、横にかわした途端に上から巨大な弾頭が降ってくると、火柱をあげた。
そのままコンテナが乱立するエリアへと侵入。二足歩行MTをガトリングで薙ぎ払う。ガトリングと侮るなかれ。その威力は折り紙付きである。
『街区への侵攻を阻むガトリング砲台と、その先のBAWS四脚MTを排除しろ』
砲台の数が多い。砲台と侮ってはいけない。機動性を捨てた代わりに他のすべてを得たと言ってもいい存在で、そのコストパフォーマンスはACの比ではない。
垂直ミサイル起動。ガトリング砲台それぞれに、8連装ごと、発射。矢継ぎ早に放たれるそれはロケットモーターをホットローンチすると、敵上空へと舞い上がり、一気に落下する。砲身を回しながらアーキバス部隊を耕していた砲台は、かわすことも迎撃も叶わず、爆散する。
先に進む。アサルトブーストに点火。真正面から、壁に設置された大型スナイパー砲台の吐き出すAPFSDSを、前進ですり抜ける。
『正面突破するか。それもいいが』
アドバイスをしようとしたはずだったが、既に敵の中央を突破している。
ウォルターの言葉をよそに、こちらに気が付いた重武装MTが機関部を唸らせ接近してきていた。四脚型。火力に優れ、その耐久性は製造コストを考えると比較的高いものだ。
垂直ミサイル、再度発射。
『灰かぶりて、我らあり! 死ね! 独立傭兵!』
かわされる、そのかわした先にあらかじめ弾を置いておく。すなわちガトリングの速射を脚部関節に集中させる。装甲がはじけ飛び、火花と共に機体がかしぐ。
アサルトブースト。半ば強引に、敵のコア背面へ回り込みつつ蹴りを見舞うや、取り付こうとしている周囲のMTをマルチロック。垂直ミサイルを速射。
瞬く間に死をばらまくと、続いて動揺を見せる四脚MTのコアを足掛かりに跳躍し、頭部パーツにガトリングを速射して目つぶし。衝撃力に、脚部が大きく沈み、コアが傾いだ。
「………」
ガトリングがオーバーヒート。着地と同時に脚部を薙ぎ払い姿勢を崩すと、返す刃でコアに大穴を穿った。爆発。ブレードを消し、跳躍。
流れるように死を描き出すそれは、まさにレイヴンの名前にふさわしい。
『企業の……狗め……』
怨嗟の声も何のその。そよ風程度であり、621は表情一つ変えていなかった。
続いて示されるガイドに従い、垂直カタパルトに到達。跳躍する。
『BAWS四脚MTの排除を確認。街区における脅威は大きく減少した。次は隔壁にアクセスしろ。壁内部に侵入する』
既に、やっていた。
壁の砲台がこちらを狙おうと、必死に旋回しているのを尻目に、隔壁前に着地。アクセス。事前に工作員が仕掛けた情報戦によってキーは割れている。すんなりと開き、内部への侵入に成功した。
『内部への侵入を確認した。閉所での戦闘に備えておけ』
「………」
言われるまでも無く、である。しかし、ミサイルは使いにくいであろう。天井があるのだ、垂直発射型は使いにくい。
扉を潜るや否やMT部隊のお出ましだ。群がってくるそれらは、何せ閉所なのだ、機動性を活かせぬAC等と高をくくっていたかもしれないが、その為にブレードを持ってきているのであった。
接近、ブースタを吹かし、右、左、と射線を掻い潜って、一閃。プラズマに飲まれる逆間接型MTを乗り越えて、さらに隔壁を潜っていく。
『聞こえるか。こちらV.Ⅳラスティ。速いな。どうやら、話に聞くよりできるらしい』
涼し気な、優し気な、そのような第一印象の声が無線から流れてくる。
『こちらもスピードを上げていく』
「………??」
誰だろうという疑問が浮かんだのだろう。戦闘では眉一つ動かさない621の表情に、わずかながら疑問符が張り付いていた。
『ヴェスパー部隊の番号付きか……だが、ここはベイラム部隊も退けた“壁”だ。あてにはするな。周囲にリフトがあるはずだ。目標は近い』
ヴェスパー部隊。聞いたことはあったが、記憶がぼんやりとしていて、戦闘のこと以外の機能が著しく低い彼女には、思い出すという作業は大変にしんどいものであった。
リフトに到達。上昇していく。
『621、補給シェルパを……いや必要ないようだな。流石だ』
被弾せず、無駄弾使わずここまでやってきたネームレスに補給の必要はなかった。
感嘆の声を漏らすウォルターと、ほんのかすかに首を傾げる仕草をする621。
さらに隔壁を潜ると、全身をシュナイダー製で固めた軽量二脚ACが、何かをかわすかのような動きをしつつ出現した。敵味方識別装置が作動している。友軍だ。
『君がレイヴンか』
まるでこちらを知っているかのような口ぶりであった。
その機体―――スティールヘイズは、ハンドガンとブレードを構え、油断なく、カメラアイを光らせた。
外は吹雪いていた。遠方に見えるはずの空は、何も見えなかった。
『“あの”ハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな』
「………」
何かを言おうとしたが、頑張り切れなかった。息が切れてしまい、ぜえぜえと呼吸をする。
爆発。障害物を轢き倒しながら、巨体が姿を見せた。解放戦線の切り札的存在。通称ジャガーノート。その正面装甲は“壁”そのものであり、左右に生えた大口径砲からは煙が上がっていた。
『これも巡り合わせだ』
ラスティ機の横に、ネームレスがつけた。
621は一瞬敵意を覗かせたが、すぐに引っ込めた。共闘を申し込んでいるのだなということはすぐに理解ができたからだ。
『共に壁越えと行こうじゃないか』
ジャガーノートが、敵を見つけたと言わんばかりに砲撃を放った。