鴉は舞い降りた   作:キサラギ職員

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7、Ⅳ ラスティ

 

 

『重装機動砲台ジャガーノート。正面から攻めるのは得策じゃない』

 

 既に、スティールヘイズはひらりと身をひるがえして、飛び上がっていた。

 

 神経接続装置、ブレインマシンインターフェース(BMI)、L.I.N.K.Sを通じて命じる。前に進め。

 臆すれば死ぬ。あるいは、臆する感情さえ死んでいるのか。

 砲弾に近接信管がついていないことは、壁の下方にいた時に理解していたことだ。ならば進んでかわすほうが利口だ。重装機動砲台の異名を取るジャガーノート相手に撃ち合いをして勝てるはずがないのだ。

 牽制を込めてガトリングを正面から撃ってみるが、重厚な装甲に弾かれる。

 

『正面は危険だ、621。背後に回れ』

 

 ジャガーノートが突進するも、それを紙一重でかわして、背面にガトリングを叩きこむ。背面はバーニアや砲座を構成する弾薬庫などが添えられており、比較的脆い。

 爆発。弾薬庫を狙われていることを察知したか、すぐに振り返って来る。

 ならばと垂直ミサイルを起動。どんな兵器も、大抵、上部は脆いものだ。連続発射しつつ、ガトリングで足回りを執拗に撃ってみるが、履帯は巨体を支えられるだけの強度があるらしく、弾かれるばかりだ。

 垂直ミサイルが着弾。上部を焼かれたジャガーノートのカメラアイがギラギラと殺意に燃える。

 

『スティールヘイズのスピードで、ちっ! 避けろ!』

 

 突進に対し、全く身じろぎもせず、その場に留まる。焦りの声が聞こえてきた。

 ブースト点火。まさに紙一重の距離。ブレードを作動すると、砲身を撫で切って、そのまま背面を斬り付ける。

 ジャガーノートの背面で盛大な爆発があがった。推進剤に引火したのか、火が見える。

 そのまま621はネームレスに命じた。

 接近し、ガトリングを傷口にねじ込み、あろうことかしがみついて撃ちまくる。ブースト全開。ノズルが一度偏向し、推力の方向を絞り込み、巨大な火炎を噴出した。

 苦痛に悶える巨体に、頭部パーツをぶつけながらも食らいついていく。まるで猛犬のように。

 ガトリングをパージ。冷却が終わったブレードをぶち込み、最大出力へ。さらに薙ぎ払い、一度離れ、ブーストを吹かして蹴っ飛ばす。オイルがびちゃりと飛び散り、機体を汚す。

 壮絶な、血なまぐさい戦い方に、戦士としての心得を知っているラスティも唖然とせざるを得ない。まるで猛犬、猟犬のそれだ。レイヴン。ハウンズ。どう呼ぶべきだろうか。

 

『任せろ』

 

 ジャガーノートが前方に向けて突進して距離を離す、その先にラスティ機が滑り込むと、VCPL製のレーザースライサーをチャージ、強力な連続斬りを見舞い、手間賃とでも言わんばかりにハンドガンを速射して離脱。

 それがトドメになったのか、ジャガーノートは後方の砲弾が炸裂、炎上し、真っ黒い煤を被った異形のオブジェになり果ててしまった。

 

『……こちらウォルター。ジャガーノートの撃破を確認。“壁越え”は成功だ、621』

「……」

 

 鎧袖一触。一分足らずの戦闘に、しかし621は興奮すらせず、静かであった。

 燃え盛るオブジェを前に二機が相対した。

 

『“猟犬”の戦い、見せてもらった』

 

 

 

『できれば、顔を見たい。できるだろうか?』

『621、従う必要はない。帰還しろ』

 

 

「……ハッチ、開放するから、こっちに、きて」

 

 

 

 ラスティからすれば半ば冗談だったのかもしれないが、それを真に受けた621は、周囲の敵反応を一度スキャンしてから、ハッチを開放し始めた。

 

『621、何をしている』

 

 これに慌てたのはウォルターだ。顔を見たいなどと、無茶苦茶な要件だ。

 

『了解した。ヴェスパー隊の誇りにかけても手出しはしない。握手させてくれ、戦友』

 

 実際冗談だったのだろう。苦笑半分にラスティ機がやってくると、ハッチを覗き込む形で、同じくハッチを開放した。

 

『621。あとで話がある』

「わかった」

 

 ウォルターのいら立ち隠せずといった声に、621は静かに返答をした。

 自力で起き上がれない彼女にとって、生身の体では何をされてもおかしくはない。

 何が彼女を突き動かしたか。好奇心だ。ウォルターが外界について知識を吹き込み、結果として好奇心が育ってしまったのだ。人間性の面においては子供以下の621に、人の機微について感じ取れというのは酷なものだ。

 コアを伝い、一人の青年がやってくる。短髪の、精悍な顔立ちの美丈夫であった。体格がよく、鍛え抜かれていることがスーツ越しにもわかる。ヘルメットを脱ぎ、肩に担いだまま、コックピットを覗き込む。

 コードが接続された、大きなヘルメット。まるで眼球のようなカメラアイのついたそれを、赤と黒と黄色のスーツを着込んだ少女が被っている。

 ラスティは半信半疑で声をかけた。

 

「私はV.Ⅳ、ラスティだ………君が……君がレイヴンなのか? まだ子供、それも女の子じゃないか……あの戦いぶりが本当に君なのか……」

「………う、うまく、しゃべれない、ゆるして」

「いいんだ、戦友。世代で言うと……いや詮索はやめておこう。握手は、わかるかな?」

 

 ヘルメットを脱ぐこともできない。それを察知したラスティが脱がせてやる。

 若いを通り越して幼い容姿。猛犬のような戦い方と、相反する優美な戦闘機動をしていた機体の主とは思えなかった。

 ラスティは彼女の壊れてしまいそうな細い手を取ると、そっと握りしめた。

 その手は冷たく、蜘蛛の足のように硬かった。

 対するラスティの手は温かく、肉厚であった。

 

「手と手を握ることを握手というんだ。こうだ………ラスティ、了解。済まない戦友。時間を取らせた。あとの残敵の始末が残っている。スネイルの指示を聞かないわけにもいかないからな……被せるぞ」

 

 言うとラスティは621の頬を軽く撫で、ヘルメットを被せると、コアを伝って大急ぎで戻って行ってしまった。

 621はコアを閉塞すると、ラスティ機が壁の下に飛翔していくのをカメラアイで追いかけた。

 

『621。最も基本的なことを教えていなかったな。知らない人が来た時、ドアを開くなだ』

 

 ウォルターからの通信。声量が大きめであった。

 まるで子供にするような説教だったが、事実そうだった。

 

 壁は落ちた。壁をほとんど単機で落とした傭兵の名前はさらに広く知られるようになった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 あんなに大声をあげなくても聞こえているのにと、自分がなにどう悪いことをしたのか理解しきれていない621は、帰還後かなりの時間をウォルターから食らった説教について考えていたのであった。




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