でもエアは小さいんですよね(その瞳は輝いていた)
『強化人間C4-621 生体反応を確認』
各所から火の手が上がる、ウォッチポイントにて。
『オートパイロットを解除 ハンドラーへの通信を……』
中量二脚AC、ネームレスが巡航モードにてブースタを吹かしつつハッチから飛び出してくると、ゆっくりと着地した。
『レイヴン』
「………」
ここではないどこか。あるいは、ここか。
まるで、幻聴そのもののような独特な音響を帯びた声が語り掛けてくる。レイヴン。それは識別名を除けば、自分を意味する数少ない単語だ。
『敵性機体の接近を確認しました』
火炎を噴出しつつ高速で接近する機体が一機。雨の降るウォッチポイント施設の屋上へとやってくると、通常形態へと変形する。フラフープを腰に、カバンでも背負っているような風変わりな二足歩行兵器はしかし、雨粒をはじく不可思議な障壁を纏っていた。
『あなたの脳波と同期し―――“交信”でサポートします』
砲身らしき機構が展開。見れば見る程に首を傾げる構造であったが、肌に伝わってくる敵意は本物であった。
『メインシステム、戦闘モード、再起動。敵性機体、バルテウスを撃破してください』
エアと名乗る声に導かれるまま、アサルトブーストを点火し、全方位に放たれるミサイルの群れに自ら飛び込んでいく。
ショットガンを発射。垂直ミサイル起動、サルヴォー。
【アサルトアーマー、起動します】
障壁の正体はなんとなくわかる。パルスシールドであろう。ならば剥がしてしまえばいい。ミサイルと、ショットガン、そしてアサルトアーマーによって、パルス障壁がダウン、一太刀浴びせかける。
『今です、レイヴン』
しかし、相手がバックステップを踏んだこともあり、浅い。ブレード冷却が必要だ。
敵が距離を取る。ふわふわと空中に浮かんでいる姿はいっそ羨ましくもある。今のネームレスでは、機体重量と出力の関係上、常に浮いていられるわけではない。
不明機体がミサイル水平発射。ミサイルに紛れて放たれる大口径バズーカをステップでかわしつつ、アサルトブーストに点火。脚部が地面を擦り火花を上げた。
『通信回線は一時的に切断しています』
ミサイルをかわそうと身を捩る、その何とも不可思議な兵器。バルテウス。機関砲を放ってくるタイミングのいやらしさ故に数発が装甲を擦る。
「うっ」
久しく味わっていない直撃の感覚に機体が震えあがった。機体に許容される衝撃以上を貰えば、待っているのは転倒か、棒立ちである。
再度放たれるミサイルの群れ。餌を食らわんとする魚群よろしく殺到するそれを、前進でいなす。旋回半径の内側に入り込む、その巧みな動き。近接信管が作動し破片が装甲を傷つける。
火力で圧倒されている。撃ち合ったら負ける。とにかく、前へ、前へ!
『あなたは致死量に近いコーラルを浴びた直後……今は戦うことだけに集中してください』
感情がそぎ落とされていくのがわかる。いまは、エアの声しか聞こえてこない。
再度出現するパルスシールド。空中にふわり浮かび上がるバルテウスに必死で食らいついていく。
こんなことならばパルスガンを持ってくるべきだったが、未来予知ができない限りは不可能だ。
垂直ミサイルリロード完了。斉射。
バルテウスが空中でブースタを吹かし回避に入ったのを見るや、アサルトブーストで先回りしてショットガンをぶち込む。散弾が弾かれる。まだ、アサルトアーマーは冷却が済んでいない。ならばと、背面に回り込む。急激に襲い掛かるGに口から内臓がはみ出そうな感覚に襲われる。
再度発射。ショット・シェルが硝煙を帯びて地面に落ちる。
「……ッ!!」
こうなればブレードだ。チャージ。袈裟懸けに斬り付け、ステップを踏んで敵の放つ機関砲の追尾を振り切った。
消失するパルスシールド。ブースト点火。跳躍。脚部を振り上げると、姿勢制御を一時的にカット。かかと落とし。金属がねじ切れるような悲鳴を上げて、バルテウスの頭部が大きく破損する。
「ふううううっ!」
口から涎を引きながらも、衝撃とGに耐える。
機能を再起動。ショットガンを突き付け、ミサイルポッドらしき物体を撃ち抜く。爆発。慌てて逃げるバルテウスに追撃のミサイル速射。次々被弾し、動きに精彩を欠き始めた敵を逃しはしない。
バルテウスが再び距離を取りミサイルを放つ。数十発はくだらないそれ。同じように、追尾を振り切るべく距離を詰めていく。
バルテウスが逆に距離を詰めてきた。
『レイヴン、アサルトアーマーを使おうとしています』
舌打ちという概念を知っていればしていたであろう。彼女は知らなかったので、機体に後進をかけるだけであった。
炸裂するパルスの奔流。エメラルドグリーンの閃光が爆発する間隙を縫い、パルスシールドに対し、アサルトアーマーを叩きつけて相殺する。
頭部、その破損した個所からコアを抉り取るような刺突。浅い。
二発目を叩きこまんと腕を振り上げて、そこで勘に従って後方に飛び下がる。刹那、敵が超高温の火炎放射をブレードに見立てた斬撃を放ち、地面を溶解させていた。
高温がかすり、結果として右肩側の垂直ミサイルが自動でパージされる。直後、爆発する。
臆すれば死ぬ。迷えば敗れる。
ショットガン、再度発射。至近距離から放ったそれはほとんど拡散することなく敵の片腕を吹き飛ばしていた。ブレードが使えないならば下がればと距離を離そうと必死になる敵に対し、いつの間にか放っていた垂直ミサイルが襲い掛かり、大きく姿勢が揺らいだ。がら空きになった胴体目掛け、左腕部のブレードが空気を揺らめかせつつ薙ぎ払われる。
『………』
「………」
バルテウス、再度上昇。しかし様子がおかしい。肢体を痙攣させ、天を仰ぐようにして――爆発した。ミサイルが次々誘爆していくと、鉄という鉄が千切れ、内側から自壊していき、ついに飛べなくなり重力の魔の手に掴まって大地に引きずりおろされた。
『敵機システムダウン、完全停止です』
ようやく、死んだ。
ネームレスは念のため炎上して動かなくなったバルテウスのコアにショットガンを突き付けると、トドメの一発を放った。
『レイヴン、あなたには休息が必要です』
『それから』
地平線から差し込んでくる、日光。と錯覚させる光量の、コーラル光。ピンクとも赤とも付かぬ色の光に、漆黒の機体が照らされる。
その方角を機体越しに見遣った彼女は、光の灯っていない目をかすかに伏せた。
『あなたが巻き込まれたコーラルの逆流。あれは、予兆に過ぎません』
空を仰ぐ。コーラルのオーロラが広がっていた。
まるで、すべてを焼き尽くさんとするかのように、不気味に瞬いて、胎動している。
『ルビコンを焼き払う……この炎と嵐の……』
「………」
意識が遠のいていく。けだるさと、吐き気。戦闘後、ここまで消耗したことは今までなかった。
致死量のコーラル。それが原因なのだろうか。
そして621、あるいはレイヴンと呼ばれた少女は、操縦席の中で意識を手放した。
チャプター1クリア
→Next チャプタ―2
『Ocean Crossing』
プレイしますか?