異世界に転生したのでポイント交換でゆる〜く生きてく 作:レイサン
タイマン勝負だと意外と負けが多いユリカ、はたして勝てるのか。
ジリス帝国北東地域
ウロボロ温泉
「温泉……人々の疲れた心と体を癒す娯楽施設……。以前までの私からすれば、シャワーを浴びるだけで済むものをわざわざ湧き出たお湯に浸かる意味が分からなかった……。」
ミレニアは温泉を堪能しながら独り言を言っているようだ。
「でも、心に余裕が出来た今なら分かる。心地よい温泉の温かさだけでなく、この露天風呂から眺める景色もまた美しい。確かコーヒー牛乳や温泉卵といった温泉の定番メニューもあるらしいし、やはりこうして仕事をサボって羽根を伸ばすべきだったのね。」
そう言って天を仰ぐミレニア。
そしてそのタイミングで現れた者がいた。
「へ〜ここがウロボロ温泉かぁ〜、ニッポンで暮らしてた時の事を思い出すなぁ。さぁてと!目覚め切ってない体を労わって、疲労成分をデトックスするぞ〜。」
「……誰?貸し切りにしてもらったはずなのだけれど。」
「君に話があって来たんだよね、ミレニアさん。」
「心配しなくても半年後には復帰するつもりだから帰ってちょうだい。」
「まだ何も言ってないのに……。いやまぁ連れ戻すよう言われたのは事実なんだけど、別に文句を言うために来たんじゃないんだよ。」
「なら何の用かしら?」
「温泉を堪能しに来た。」
「……何か企んでるわね?」
「残念ながら何も企んでないんですよね〜、生憎知略を巡らせるようなタイプじゃないから。まぁ強いて言うなら、君が何故帝国軍の仕事を放棄したのか聞きたいくらいかな。」
「聞きたいなら別に隠す気も無いわ。どっちにしても、しばらくは帝国軍に戻るつもりは無いけど。」
「そういうことならお言葉に甘えて……ユリカちゃんナチュラルモード!私がニッポンで学んだ裸の付き合いってやつを試す時が来た!」
「……ち、躊躇無く脱ぐのね?入っていいとは言ってないのだけれど。」
「同性相手に気にする事でも無いでしょ!ここ温泉だし!」
「我ながらこんな面倒くさそうなのに目をつけられる人間になってしまったのね……。それで、何を聞きたいの?」
「まずは何故戻りたくないのかだね。過重労働とか?」
「……正直身体的には微塵も疲れていないわ。寝不足で目の下にクマができることはあっても、私の体は決して疲労しないから。」
「なるほど?それってなんで疲れないの?」
「生まれた時から特殊なスキルを持っててね。基本的に肉体が疲労を感じることもないし、傷ついてもすぐに治るのよ。」
「へ〜、他にはどんな効果があるの?」
「最も顕著なのは身体能力向上ね。素手で建物の壁を破るくらいなら造作もないわ。」
「そこだけ聞くと魔物とかに比べれば大したこと無さそうだけど。」
「あなたほどの人間がそういうのならそうなのでしょうね。私だって自分がどの程度の力を発揮できるかは知らないわ。何せ私の全力に対抗できる人物には出会った事が無いから。」
「なるほどねぇ。そういえば、温泉巡りが終わったどうするつもり?何か予定とかあるの?」
「……とにかくゆっくりしたいわ。何をするでもなくのんびりとした日々に興味が湧いてきたの。」
「なら私の作った集落に住むのはどう?あそこはゆったりしてるし、お偉いさんに文句言われたり残業させられたりしなくて気楽だと思うよ?」
「悪くない提案ね。でもお断りするわ。」
「それはまた何故?」
「もし私がその場所を気に入ってしまったら、その場所をより良い場所にするために、今まで通りの労働を始めてしまうかもしれないもの。」
「あ〜そういう…。なら心配無いと思うよ?小難しい事はエルフの皆さんがやってくれるし、治安維持は私と私のパートナーが何とかするし。」
「パートナー?既婚者なの?」
「ああ、パートナーってのはそういう意味では無いけど、まぁある意味では一生一緒にいそうだとは思ってるね。てそんな事はどうでも良くて!是非ウチに来ませんかって話!」
「良いわよ。」
「ホント!?」
「ただし条件はある。この温泉を出たあと、私とやり合いなさい。」
「やり合うって言うと?」
「喧嘩するのよ。殴り合いの喧嘩をね。」
「……やっぱりそうなるのか。事前に覚醒しといて正解だった。」
「バトルフィールドはこの街全体、街の外へ出るのはナシよ。それと建物は壊さないように。」
「なるほど、それで勝ち負けの条件は?」
「相手に負けを認めさせる事。」
「そっちは私に勝った場合何を求める?」
「私の家で私の帰りを待っていてもらおうかしら。」
「何かプロポーズみたいだ。コンちゃんのためにも負けられないね。」
「あなたもそれなりに自身はあるみたいだし、どうか私に全力を出させてちょうだい。」
ジリス帝国北東地域
ウロボロ温泉旅館前
「さてと、戦闘開始のタイミングはどうすればいいかな?」
「そちらのタイミングで来てくれて構わないわ。」
「なるほど、ならじっくりと時間をかけて攻撃のタイミングを測ろうかな。」
そう言うとユリカは、まるで尺不足で引き伸ばされたアニメのようにただひたすら睨み合いの時間を過ごした。
そうして一分ほどタイミングを測った後、ユリカが攻撃を仕掛けた。
凄まじい勢いで飛び出したユリカの攻撃を受けたミレニアは、その攻撃を片腕で受け切ったものの、反動で後ろに吹き飛ばされた。
ウロボロ温泉旅館は高い山の山頂付近にある旅館であり、周囲は崖になっている。
ミレニアはその崖から勢いよく落ちていった。
「さてと、こんな程度の攻撃でダメージを与えられるならジリス帝国も困らないだろうけど。」
ユリカが独り言を言うと、崖の下から赤い光が放たれた。
そのすぐ後、ミレニアが飛行魔法によって飛び上がってきた。
その体には悪魔のような角、翼、尻尾の幻影が浮かび上がり、その赤黒い幻影と同じ色をした魔力を放出している。
「魔力解放?いや違うな、魔力解放であんな幻影は出てこない。」
「あら、知らないのね。これは『称号』を持つ者が扱えるアルティメットスキルの一種よ。」
「しょ、『称号』!?何それ!?」
コンちゃんがいない時に限って知らない単語が出てくる。
アルティメットスキルについてはここに来る直前にコンちゃんから説明を受けていた。
簡単に言ってしまえばスキルの上位版であり、ユリカは覚醒と同時に一部のスキルをアルティメットスキルに昇華させている。
実際、封印術の使い手というスキルを封印術の達人というスキルに覚醒させている。
それによって数ヶ月一緒に過ごしたコンちゃんの封印を解除し、今はお互いに数ヶ月ぶりの一人行動を満喫している所だった。
「『称号』はごく一部の生命が生まれつき持っている特別な力よ。数百万人に一人生まれるかどうかの力で、私が持つ『称号』はアークデーモン。さっき話した疲労を防ぎ治癒能力を強化するスキルはこれの事よ。」
「全く、コンちゃんがいない時に限って知らない事が起こる。これは本格的に力を解放しないとヤバいかもね!」
そう言うとユリカは魔力を解放した。
「全身強化!魔力解放率25%!」
その言葉の通り、基本的な戦闘能力の最大値の四分の一程度の力を解き放った。
覚醒の影響で「食事攻撃力」「トレーニングモード」「カロリー保存」による能力増加はリセットされていたが、覚醒による身体能力の増強はそれらを遥かに上回っていた。
実力の半分も出していない現在のユリカのパワーからして、既に覚醒前のフルパワーを容易に超えている。
「さあ、始めようか!!」
「かかって来なさい。」
ユリカが一気に距離を詰めた。
ドガガガガガッ
ユリカの猛烈な連打攻撃を、ミレニアは顔色一つ変えずに防ぎ続ける。
打撃を防いだ衝撃で背後に吹き飛ばされては、それを追いかけてユリカが追い討ちの連打を繰り出す。
常人の目から見れば、ついさっきまで右側で戦っていたのが、いつの間にか左側に移動していたと感じるほど、あまりにも素早く場所が入れ替わる。
「反撃しなくて良いのかな?このままこっちが打ち続けていれば、最終的には君の方が先にバテると思うよ?」
「……どうやらその通りみたいね。貴方ほど力強く素早い攻撃を打ち続ける相手と戦うのは初めてよ。」
ガッ
ミレニアはユリカの拳を手で受け止めた。
そしてそのまま両腕を掴んで離さない。
ドゴォッ
そして強烈な膝蹴りをユリカの腹部に直撃させた。
「失礼、ボディがガラ空きだったからつい膝蹴りを食らわせてしまったわ。」
「ゴフッ…。」
たった一撃で口から血が出た。
ユリカは正直、覚醒によるパワーアップで浮かれていた。
(私とした事がだいぶ相手をナメてたな。25%じゃ火力も素早さも耐久も足りてない。)
「なら、解放率75%!!」
「なっ、このパワー!!」
25%から75%、数字だけで見ればそのパワーは三倍程度、しかし実際には三倍どころの話では無い。
ユリカを前に戦闘態勢だったミレニアも、少しだけよろめく程の魔力の放出。
この時点で恐らくはコンちゃんのフルパワーに匹敵する。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
「くっ、なんて荒々しい魔力の波なの!こんなの、こんなの楽しくて仕方がないじゃない!」
ミレニアもこれに対抗して魔力を全開放した。
「うおぉぉぉぉぁぁぁっ!!」
凄まじい魔力放出のぶつかり合いだ。
ちなみに魔力放出の際に大声を出す必要は無いのだが、ユリカはアニメなどの影響を受けて自然と声が出ている。
ミレニアも本気を生まれてから一度も出したことが無いので、ユリカの真似をしている。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
お互いに魔力を高め、そしてお互いの手を掴み、押し合い勝負になった。
「アハハハッ!これ知ってるぞ!ニッポンの国技のスモウってやつだ!相手を場外に押し出したら勝ちの力勝負!」
「そのスモウとやらは知らないけれど、その勝負受けて立つわ!建物の壁に背中を押し当てられた方が負けとしましょう!」
大きな街のど真ん中、幅10mはある人い道の真ん中で傍迷惑な力比べが始まった。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「くっ、くうぅぅぅぅっ、うぁぁっ!!」
ユリカがミレニアを押し出そうと、力強く踏み込み前へ進む。
ミレニアは必死に抵抗し、土煙が巻き上がった。
「私の、全力は、こんなものでは無いわ!」
そう言うとミレニアはユリカを押し返しはじめた。
ユリカも抵抗するが、少しづつ後退し始める。
「ぐぅぅぅぅぅぅ……魔力解放率……100%だぁぁぁ!!」
ゴゴゴゴゴォ
「ば、馬鹿な!私が、押されている!?」
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
「わ、私は、私は負けるの!?生まれて初めて!?」
ユリカが再びミレニアを押し返し始めた。
しかし、ミレニア自身も想定していない底力が、再びミレニアの背中を押した。
「私は負けない!私は私自身の力で幸福を勝ち取ってみせる!」
再び優勢になったミレニアがユリカを押し返し、必死に踏ん張るユリカの足が地面をえぐるように後ろへ下がっていく。
そして、壁はその背中のすぐ後ろまで迫っていた。
「私のぉぉぉ!勝ちだぁぁぁぁぁ!!」
「まだだ!!スモウという競技は!!土俵際の駆け引きこそが勝敗を分けるんだ!!」
押し返す姿勢だったユリカは一転して、ミレニアがユリカを押し返す力をそのまま利用して、ミレニアを壁に投げ飛ばした。
押し込むことだけを考えていたミレニアは止まることができず、そのまま背中から壁にぶち当たった。
あまりにも勢いよく吹っ飛んだので、建物の壁を八つほどぶち抜いて吹っ飛んで行った。
「ミレニア、君の負けだ。背中が壁に着いた方が負け、君が自分でそう決めていたからね。」
「……まさか壁際で投げ技に切り替えるなんて、私とした事が冷静さを失って、相手を押し出す事に固執していたわね。私の負けよ。……これが悔しいってやつなのかしらね。」
「勝ちたいという気持ちが強すぎたからこそ冷静さを失った。感情に任せるのは良くないって事だね。さてと、約束通り私と一緒に来てもらおうか。」
「ええ、約束は守るわ。ただ、この壊してしまった建物の壁、直してから行かないとね。」
「え?……アァァッ!!」
「フフ、アハハハ!私も手伝うからさっさと直してしまいましょう!」
こうしてユリカはミレニアに勝利を収めたものの、建物の壁を治す羽目になったのだった。
ミレニアさんは大将なのに有り得んほど多忙です。
過激派組織の鎮圧もありとあらゆる書類仕事も全て任されているので基本的に徹夜です。
休日も人助けしてます。
もう治安維持は他に任せてミレニアさんはマジでゆっくり休んでください。